魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第47話 上級貴族の政治

 ヘルツォーク公爵領、公都であり城の名称にもなっているローゼンベルク城に足音と声が響き渡る。


 「ランビエール子爵! 本日、貴公が城に来ていると聞いてなぁ、ちょうど良かった! 」


 「これは、ヘルツォーク公爵。申し付けてくださればわたくしのほうから出向かせて頂いたものを…… 」


 声を掛けた方は、ヘルツォーク公爵領を納める、エーリッヒ・ローゼンベルク・ヘルツォーク公爵その人であり、未だ36歳と壮年で若々しく、活力に溢れた様相を見せる美丈夫である。
 かたや呼ばれた方は、ヴェルナー・メルダース・ランビエール子爵という、齢67になる高齢の貴族である。
 跡取りとなりそうな直系や親族を、病や魔物行進モンスターパレードで亡くしているという経緯を持った不幸な御仁でもあった。


 「よいよい、ちょうど内密に貴公に話したいことがあったのだ。この後時間取れるか? 」


 「閣下にそう仰られて断る貴族もおりますまい。もちろん構いませんよ。」


 好々爺然とした、誰もがあたり良く感じる雰囲気で公爵へ対応するのだった。


 「以前から貴公にも頼まれていた件に関係することだ。このまま私の執務室に行こう。」


 「おぉ! 半ば諦めておりましたし、このままでも良かったのですが…… 見つかりましたか!? 」


 「うむ、とびきりの奴がな!! 」


 ヘルツォーク公爵はランビエール子爵の問いに朗らかに答え、自らの執務室に伴うのであった。


 このランビエール子爵は、ローゼンベルク公都の東に位置する、人口20,000人程を抱える領土を納めている。古くからヘルツォーク公爵家に仕えており、武勇に優れた子爵家である。
 元々はティファニア王家より拝領及び拝爵を賜っているが、ヘルツォーク公爵領の強大さ及び広大さから、ナーダ伯爵領のようにヘルツォーク公爵に世襲等の決定が王家より一任されている。ヘルツォーク公爵は、自領にて管理している貴族に、世代交代や子息の増減が出た場合は、王家に事後報告という形式で了承を得ている。
 だからといって、ランビエール子爵やナーダ伯爵のようにヘルツォーク公爵領内に領地を持つ貴族とはいえ、王家の他の貴族達よりも扱いが低いということはない。むしろ、ナーダ伯爵は他の伯爵よりも武勇、それに領土的にも立場が強い状況でもある。


 ランビエール子爵領は、近年跡取りを次々に亡くしており、ヘルツォーク公爵に後継を頼んでいた。自領を公爵領に返還しても構わないとまで言っており、もちろん王家もヘルツォーク公爵に一任していた。血筋の者ではなく、養子などの適任の者が現れたら、ヘルツォークの印があれば、王家もその者に拝爵の手続きを取るとの状況にまでなっていた。


 ヘルツォーク公爵はアルラオネとの通信後、ロサリオをここの子爵に封じようと考えた。跡取りとしてではなくそのまま子爵位にである。
 異例中も異例であるが、跡取りとして後日となるとどこから横槍がくるかわからない。今でも他の貴族の次男以下が売り込みにきている。
 ナーダ伯爵から今朝方、魔物大狂乱パンデモニウムの報告も届き、それが無事に鎮圧されたとの知らせもアルラオネからの通信で知った。彼の活躍ということも一緒にである。これらを以てすれば、デカラビア討伐と今回の件で爵位を一つ上げ、伯爵に封ずる手筈を王家に行える。そこまで考えての行動であり、本日ランビエール子爵が城に居合わせたのは僥倖であると思い、自らの足で捜していたのだ。
 日付も作為的に操作して、アメリアの国境会談前日に子爵として叙爵、会談にも同行したとの流れでの今回の手柄とする予定である。
 まずはそれを行うためにランビエール子爵に了解を得る。その次に問題となるのが、結局はロサリオの経歴であるが、外堀を埋めさえすれば、後はどうとでもなるとヘルツォーク公爵は考えていた。事実、作り込むための宛てもある。


 宛てというのは、ヘルツォーク公爵領内に領土を持つ貴族達の、公にできない子息達を保護し、教育を施す施設が公都ローゼンベルク内に設置されているのである。愛人や平民、高級娼婦との遊びでできた子供たちで、公に貴族として届けだすことが出来なかった子供たちである。
 放っておくと跡目争いに繋がる可能性もでてくるのと、ある程度出自も判別できるので、養子として欲しがる者たちの需要もある。
 成人後はヘルツォーク公爵領の武官や文官になるものも多い。
 王家も存在を把握しており、王国側に人材を出すこともある。王国側のメリットもあるので運営費の4分の1程度を拠出しているが、運営はすべてヘルツォーク側で行っており、細かい在籍人数などは把握していない。稀にではあるが、ヘルツォーク公爵領と親しい間柄等の伝手を使い、他領の貴族が預けに来ることもある。先々代の王の子供を預かったことはヘルツォーク公爵家との他言できない密議である。
 その子供は、王国近衛騎士団の武官として活躍しナーダ伯爵領へ婿入りしていった。あのナーダ伯爵の父君にあたる。
 ある意味慈善事業でもあるし、貴族達からの寄付金でも賄えている。ヘルツォーク公爵としては、正直そこまで大人数でもないためにわざわざ王国側から予算をもらう必要はないと考えているが、上述した理由もあるので、身も蓋もない話をすれば王国側としては、「毎年少しは金を出すから内密にしててくれ。」ということである。
 成績優秀な子供は王国の学院に編入若しくは留学できることもあり、学習意欲は皆高いし優秀である。そのことも高い評判を呼ぶ所以でもある。


 執務室に入り、人払いをさせた後にランビエール子爵に対して話を切り出すのであった。


 「まぁ、先ずは座ってくれ…… 体調はどうだ? 近年あまり優れないと聞いているが…… 」


 「歳ですからな、致し方ありますまい。して、閣下がいう人物とはどのような者ですかな? 」


 「出自は問題ないが、公に出来ないのが問題だ…… こちらで作り込んでやる必要がある。」


 無から作るか、領内から適当に見繕うか、自らの宛てを使うかと思案しながら、紅茶に口を浸ける公爵を訝しげに見ながら、ランビエール子爵も紅茶を口に含むのだった。


 「公爵が出自に対して考えるなど、余程の人物か、訳を抱えているとお見受けしますが…… 」


 「こちらも内容が内容だけに願いでる立場でもあるからな。その者については正直に話す。貴公が聞けば驚くかもしれんが、世が世なら、私よりも立場が上になるかもしれなかった男だ。」


 「はっ……? 」


 ヘルツォーク公爵より上の立場など、この国ではティファニア王しかいない。しかし、ヘルツォーク公爵の表情は真剣であり、冗談を含んでいるようには見えないことから、余計にランビエール子爵は混乱してしまう。


 「さて、これを聞いて貴公は誰を思い浮かべるかな? かつては武勇を誇ったランビエール子爵家としては。12歳という少年の身で貴族級の魔族を討ち取れる者の名を。」


 そこで言葉を区切り、ランビエール子爵を見る。子爵はそもそもそんな人間がいるのかと思いはしたが、公爵からの問いではあるので一応考察はする。
 一人思い当たる人物はいた。冒険者ギルド経由で1月近く前に死んだ者の名前としてだが、ヘルツォーク公爵より上という部分に疑問は覚える。


 「ランサローテのバルトロメ公爵の弟がそのぐらいの年で武勇に優れておりましたな…… しかし、それでも貴族級の魔族を一人でなどとは…… 1,000年前の勇者達となんら遜色のない偉業ですな。」


 ヘルツォーク公爵の様子を伺い見るように述べると、隠す気はもちろん無い公爵は頷きつつ答える。


 「信じられないかも知れぬが、正にそのロサリオ公爵弟なのだよ。公式には死んだことになってるがな。」


 「なんと!? 俄には信じ難いことですぞ! それは…… 地理的にも…… 」


 ランビエール子爵とて高齢の身ではあるが、引退しているわけではない。冒険者ギルドの情報や貴族間での情報のやり取りも、未だ現役で行っている。


 「あのアルラオネからの情報だ! まず間違いないのと、直接その者とアルラオネ達の会話を私自身が確認した。到底本人かフェメス公爵、そしてランサローテ皇国皇帝しか知りえんだろう情報もな。正直極秘すぎて使えん情報でもあるがな…… 」


 公爵は自身の左耳に装着されているイヤリングを指差しながらランビエール子爵に真実であると、魔道具での確認も含めて答える。


 「アメリアが、帝国との国境会談の帰路についている時に、魔族達と遭遇して戦闘になったのだ。そこに件のロサリオ公爵弟がアメリアの窮地を救ったとのことだ。その後、魔族達と交戦になり、貴族級の魔族をロサリオ公爵弟が討ち果たした。ヴァルターとアルラオネが証人だ。」


 先ずはここまでを一気に捲し立てたので、一息入れるために言葉を切り、ソファーに身を深く沈めるのだった。ランビエール子爵は、証人に上がった名前も尋常ではなく、その二人は貴族云々ではなくある意味、証人としてこれほど適格な人物もいないだろうと。


 「まさか250年を生きる大魔法師に、ヘルツォークひいてはティファニアが誇る、Sランクのヴァルター近衛騎士団長の二人が証人とは…… いやはや恐れいります。」


 ティファニア王国の軍事面に於ける2大巨頭と言って差し支えない。王国近衛騎士団団長もSランクであるが、そもそもヴァルターに師事していたこともあり、純粋な強さでは、老境に差し掛かったヴァルターよりも、壮年でありヘルツォーク公爵と同年の王国近衛騎士団長のほうが、今では上ではあろうがことはそう単純ではなく、今でもヴァルターに頭は上がらない。


 「正直このロサリオ公爵弟は訳有りだが、昨今の魔族領や帝国の動き、魔物も活発化してきている。そこへ以てこの度の魔族遭遇、しかもつい先程まで、ナーダでは1,500という数の魔物と交戦中であった! 」


 「1,500!? 大陸の歴史でもここまでの魔物の攻勢は聞いたことがありません…… もしかして彼が既に…… 」


 「察しがいいな! その通り、彼の奇策をもってこの騒動は終結したし、もはや類を見ない活躍もした。彼はどうしてもこのティファニア…… いや、ヘルツォークに繋ぎ止めておきたいのだ!! それもあって貴公に隠居を願い出たい…… 日付はアメリアが国境会談に赴く前日にしてもらってだな…… 」


 そうして、先程からヘルツォーク公爵が構想していた一連の流れをランビエール子爵へ話すのであった。

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