魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第46話 死者の腕に抱かれて

 そこに郷愁と深い悲哀を呼び起こす立ち姿をロサリオに見せる存在がいた。


 「何故…… ここに君が……? 死んだ、僕が殺したはず……? 」


 「ロサリオ殿下がやっとエルザバトを抜いてくれましたから…… 」


 突如として現れたバレッタはロサリオの疑問に答えながら、Cランクの魔物達へ魔術にて攻撃を加える。


 「―― 踊れ、喰らい、焼き千切れ、劫火の蛇の咢が舞う ―― 」


 『エリゴォンスラング激昂の炎蛇


 バレッタが存命時に得意だった火系統範囲魔術であり上級魔法に相当するが、闇属性も帯びた火魔法は黒い炎の蛇となり、残っていたDランクのオークジェネラル50体に襲い掛かった。
 もうこの場に残っているのは、オークロード10体とそれに引きずられてマルティーナの魔法に掛からなかったオークジェネラル50体だけであった。
 バレッタは、死神部隊クラインデァトート隊長の時から火系統の魔術が得意であったが、ロサリオは威力の桁が違うことに気づいた。この威力に耐えることが出来ずに黒い炎蛇に纏わり付かれた総勢50体のオークジェネラルは消し炭となり絶命するのであった。


 「私はあの時、想いをその禍津玉に、そして魂をエルザバトに吸われましたから…… 」


 出られたことに対する歓喜なのか、それともロサリオの役に、死してなお立てることのできる嬉しさからかは不明であるが、いや、あるいは両方なのかもしれない。慈しみを湛えた微笑を表情に張り付けながら、火系統中級魔法のファイアーボムを、さながら黒い散弾の様にCランクの魔物のオークロード10体に向けて攻撃している。


 ドゴンドゴンッ!! ドゴゴゴゴゴゴゴォォォォォオオオオオオオオオン!! 


 魔物達からはさぞ、死を湛えた女神のような存在に思えただろう。50近い爆発音が鳴り響き、戦場を震撼させた。10体のオークロードは跡形もなく吹き飛び、広範囲に砂埃が巻き起こり、ロサリオ達の姿を周囲から隠すように展開していた。


 「殿下がエルザバトを抜いてくれたおかげで、禍津玉に封じられていた想いと魂が形となって召喚されました…… 今の私は、闇系統も備えているので、魔物というか…… 殿下の使い魔のような存在です。」


 「 ……君は恨んでいないの…… 君が、突出してきたSランク6人から僕を庇うときに、僕は勢いを殺せずにエルザバトで君を貫いてしまった…… 君を殺したのは僕なんだっ! ……僕なんだよ…… 」


 ロサリオは俯き、自身が心に抱いていた、拭いきれない悔恨と罪悪感に押し潰されそうになりながら、呻き声ともつかない言葉を吐き出す。もう力など幾ばくも残っていないのに、握る手からはエルザバトが離れない。まるで呪いの様に。
 バレッタはそんなロサリオを抱きしめながら、幼子をあやす様に言い聞かせる。


 「恨むわけないじゃないですか…… 私は昔も、そして今も殿下をお慕いしておりますよ…… その禍津玉には、あの戦場で散っていった何万という者達の想いや恨みも封じられましたが、殿下に対しては恨みなどありませんよ…… その中にも私がいたのでわかります。皆、派閥や家を越えて、12の少年にあそこまでの業を背負わせてしまった自らの無力さと、あの島自体に対する呪いだけです。」


 そもそも今の彼女がどういった存在であるのか、ロサリオには全くわかっていないが、昔日のぬくもりと、今感じているぬくもりが同じであるということに気づき、懐かしさと嬉しさ、幾ばくか心に残る申し訳無さを胸に抱きながら、彼女の身体に身を埋めつつ眠るように気を失うのであった。


 「また会えます殿下…… あなたがエルザバトを振るう限り、私はエルザバトの鞘として、いつまでもあなたのお傍に…… 」


 戦場に喧騒が戻ってくる。ヴァルター達のほうも方が付いたのであろう。あちらこちらから勝鬨の声が上がっているのが聞こえてくる。バレッタはロサリオの身体を、魔物達の死体で散乱しているこの場を少し避け、未だ晴れない砂埃の中、彼の身体を横たえてエルザバトを鞘に戻し、自身はエルザバトと賢者の石の両方に、別たれて吸われるようにその場から消え去るのであった。


 フリーンがロサリオが戦っていた戦場にかけてきた。ヴァルター達と共に戦いながらも神職に就いている彼女には、ロサリオ側の戦場で発生した大きな闇属性の魔力を感じ取っていた。


 (あの大きな闇の魔力はいったい……? あれは、デカラビアと共にいた準貴族級の魔族に匹敵するような闇の濃さを感じましたが、今は消えていますね…… )


 「ロサリオ様は一体どこに? うっ!? 」


 魔物達の夥しい死体の数を発見して驚きと、酷い血臭によって顔を顰めてしまう。必死に探すが、この屍山血河の様相を呈している戦場跡には姿が見つからない。
 フリーンが辺りを見渡し駆けながら探していた時、風の魔法で砂埃が取り払われていった。


 「あなた達は? 」


 「俺たちは、Aランク冒険者パーティーの氷炎の牙だよ。あの頭のイカれた白髪を探しに来たんだが…… 」


 氷炎の牙に所属している魔法師が風の魔法を使用して砂埃を払っていった。彼らは夥しい数のCランクの魔物達の死体に戦慄している。あの白髪が一人でやったのだと慄いていた。
 砂埃が取り払われたことによって、ようやくフリーンは、少し離れた場所に倒れているロサリオを発見することができた。発見した喜びとすぐにでも状態を確認したいという思いに囚われて、気をまわす余裕はなかったのであろう。
 叫び声を上げて駆け寄るのであった。


 「ロサリオ様ぁっ!? 」


 フリーンは駆けつけロサリオの身体を抱き起す。胸に抱くように持っているエルザバトは納刀されているが、全身総毛立つような怖気を催す黒い魔力を染み出させている。


 「この剣は!? いや…… 今はそれよりも…… 」


 全身が冷たく脈も呼吸も弱い状態を見て取り、フリーンは剣のことよりも自身も疲労困憊なのにも拘わらず、今のフリーンが使用できる回復魔法に状態異常回復魔法を掛け続けるのであった。


 「彼を早く都市内へ!! 氷炎の牙の方々っ、運ぶのを手伝って貰えませんか!? 」


 フリーンの必死の呼びかけに、元々彼らは戦闘を手伝おうと思っていたのもあるので快く了承する。


 「いいぜ、神官の嬢ちゃん! 俺が担いでいってやるよ…… おいおい、まだ成人前のガキじゃねえのか!? こいつはよぉ? 」


 フリーンは運んでもらうのに剣は邪魔になるであろうと考え、自身の神官の法衣に半ば隠す様に抱え込んだ。ヴォルガは愛用の剣をパーティメンバーの魔法師に預け、ロサリオを担ごうと近づき顔を覗き込み想像以上の若さに驚き声を上げてしまった。他のパーティーメンバーもやはりその寝顔の若さに驚いてしまっていた。


 「この若さで、これだけのCランクの数を…… 」


 「神官の嬢ちゃんよぉ、あんたさっきこいつのことを、ロサリオって呼んだよなぁ? 」


 咄嗟のことであったので、ついつ他の人間がいるところで叫んでしまったことを失敗したと思ったが、既に時遅しという状況である。フリーンは黙って渋面を作ってしまった。その表情が正解であると物語ってはいたが、普段冷静で少々腹黒いところもある彼女にしては、戦闘直後ということに加えて疲労も蓄積し、ロサリオの状態が気がかりということもあり、そこまで気が回らなかった。


 「おいっ、マーロン! この数のCランクを一人で殺ろうとしたら、どのぐらいのレベルっつうかランクが必要だ? 」


 ヴォルガは、よいしょとおっさん臭い声を上げながら、ロサリオを背に担いで運びつつも、マーロンと呼んだパーティー内の魔法師に問いかけた。マーロンは熟考しながらその問いに答えた。


 「うぅぅむ…… おそらく最低でもSSランクは必要になるのではないか……? 」


 ヴォルガ以外のパーティーは絶句してしまい、ロサリオの顔を覗き込む。その問いを確認したヴォルガは、恐らく予想は立てていたのであろう、悪意は全く感じはしないが、好戦的であり、且つ獰猛な笑みを浮かべた。


 「なぁおい、嬢ちゃんよぉ…… さっきの名前といい、こいつが言ったことを勘案すると一人だけ心当たりがあるんだがなぁ? 」


 そう言いつつもロサリオを背に担ぎながら、フリーンの顔を覗き込むという器用なことをするヴォルガに対して、無理やり精神を落ち着かせたフリーンは、得意のアルカイックスマイルで釘を指すのだった。


 「Aランクだからと余り詮索はお勧めしませんよ。その方の身柄は、アルラオネ様やヘルツォーク公爵預かりになる筈ですので、下手なことを申されますと…… 」


 全く笑っていない目をすぼめながら、笑みはどんどんと深味を増していくフリーンにヴォルガは寒気を覚えてしまう。


 「おぉ怖っ!? おっかない笑みだし、度胸も十分じゃねえか…… 安心しな、ここにいる全員が結局この坊主に命を救われてるんだからよ! 下手なことは言わねえよ…… なんだ!? もしかして嬢ちゃんのこれか? 」


 下品な笑みを浮かべながらフリーンに小指を1本立てながら、場を和まそうという意味合いもあるのだろう、下卑た質問をするのだった。


 「なっ!? ……そうなる予定です…… 」


 修行のために何度か冒険者と行動を共にしたことはあるが、ほとんどが女性パーティーであったのと、ギルド内でもここまで不躾な質問はされたことがなかったので、虚を突かれて驚きの声を上げてしまう。
 その後少し考えるそぶりを見せて、つい魔が差したのと思うところがあったのか、あのように答えてしまった。
 そのような可憐な少女の心の機微を感じ取っているのかどうかは分からないが、にやにやと笑いながら南門城壁を見上げてヴォルガは言うのであった。


 「嬢ちゃんも大変だなぁ…… えらい美人が3人もこの坊主を見てるぜ。」


 その言葉にフリーンも釣られて見上げると、心配そうな表情をしたアメリアとマルティーナ、それにサーラブがこちらを覗いているのであった。
 それを見据えて、少々の罪悪感と、してやったりというような感情が生まれ、俯いて舌をぺろりと出して微笑むのであった。

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