魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第45話 勝鬨を捧げて

 「なんじゃぁあ? あれはぁぁああ!? 」 


 城壁から全体指揮のために、戦場を俯瞰していたアルラオネには、ロサリオの傍で起きた現象がよく見えていた。


 「お師匠様っ!? 」


 「アルラオネ様っ! どうされたのです!? 」


 マルティーナとアメリアは、尋常ではない様子を見せるアルラオネに驚いてつい声を上げてしまった。二人は魔法の発動に集中しているのと、凸壁の上に立つアルラオネと違い、戦場全体を俯瞰できていないので状況はわからない。時折、アルラオネからロサリオの戦況や、D以下の魔物達と包囲軍の戦いが、胸壁の凹部から覗けるのが精々であった。


 「小僧もヴァルター達も最終局面に移行しておる、安心せい! アメリア孃は最後まで集中! マルティーナはもう魔法を切ってよい。」


 ヴァルター達の包囲陣も大分狭まってきている。D以下の魔物達も残り100を下回っているのが、アルラオネから確認できている。ナーダ守備隊側もさらに200近く数を減らしているのが見てとれた。
 奇行が少々目立つアルラオネとはいえ、あのような驚愕の形相を浮かべて声を張り上げるなど、師として仰ぎ、時間を共にすることも多いマルティーナでも、そう見ることなどなかった。師事しているとはいえ、マルティーナより共に過ごす時間が少ないアメリアは、言うに及ばない。


 マルティーナは迷宮の霧の発動を解除してアルラオネまで駆け寄り、胸壁凹部より戦場を確認した。
 冷や汗が額、背と流れ落ちていくのが止まらない。あれは何だと心奥で魔法師としての警鐘が鳴っている。アメリアも魔法の発動が途切れないように、気を使いゆっくりとこちらに向かってきた。


 (あれは、どう見ても闇属性の魔力を感じるぞ…… どういうことじゃ? 人族に闇属性は使えん…… 絶対的にな。しかも、虚像ではなくどう見ても実像…… 召喚!? いや…… 使い魔か? ……どちらにせよ召喚か…… )


 「あの妖刀と賢者の石が関係しておるのだろう…… くそっ、まだ一日経っとらんから眼が使えん!! 」


 アルラオネのアナリザの眼は、長い年月を掛けて思い通りに使いこなせているが、1日1回という制約がある。昨日街道沿いで魔族達に使用してしまったので、24時間経過しなければ発動できない。


 「砂埃と血煙で詳細に見えないですけど、あれって…… 闇属性じゃないですか!? なんでそんなのが…… お師匠様っ! あれ魔族ですか!? 」


 魔法師として鋭敏な感覚を発揮して、マルティーナはロサリオの傍にいる何者かの気配を察し、驚きをもってアルラオネに質問したが、詳細はアルラオネを以てしてもわからない。首を左右に振って答えるのが精いっぱいであった。


 「いえ…… 何故でしょう? 敵意は感じませんね。それよりも…… 」


 ロサリオとその傍に突如として現れた謎に包まれた存在を目の端に入れながら、伝令かそれとも低位の冒険者か、アメリアは確認せずに命令を発するのであった。


 「拡声器をここへ! 全軍に通達します。」


 アルラオネは未だ己が理解できない現象に釘付けとなっており、戦場全体から意識を切ってしまっていた。そのことをアメリアは感じ取り、また自らの精神的疲労も限界が近づいているのを認識する。自身の発動した魔法の制御に最後の力を込めて、己を含めて全兵を鼓舞する。


 「全将兵、並びに冒険者達よ!! 勝利は目前に迫っています。貴公らの勇猛さをイグレシアス大陸全土に知らしめるのです! ヴァルター、オリビア、ナーダ伯爵、魔物達の集団に攻撃魔法が着弾後、全軍突撃して殲滅しなさい!! マルティーナっ!! 」


 その声に意識が引き戻され、マルティーナはD以下の魔物達のほうを視認する。


 「アメリア様は人使いが荒いですね…… 魔力ポーションもあるし、行きますよ! ファイアーレイン!! 」


 魔物達の上空に魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の範囲が、兵達側にまで及ばないように調整しながら発動させる。
 火系統中級範囲攻撃魔法であるファイアーレインが、残り200体弱の魔物達に降り注ぐ。これは火系統魔法ファイアーボールを、文字通り雨のように降らして攻撃する魔法であり、D以下の魔物達にとっては、例え初級のファイアーボールでさえ、自身に十を超える数が降り注ぐのだ。E以下の魔物達は絶命したものも数多く、Dランクを含めて絶命までは行かなくとも満身創痍である。
 元々、アメリアとマルティーナ及びアルラオネは最終局面の切り札として用意していた。Cランクの魔物達の残数によってはそちらに割かなければならなかったが、Cランクの魔物達の数も残り少なくなっているのを確認し、勝負所と捉えてマルティーナに指示をだした。
 戦場にいる冒険者側の高ランク魔法師には、乱戦の様相を呈して見えるので、この思い切りのいい判断は不可能であるのと、タイミングを掴みかねてしまう。全体を俯瞰できる城壁側からでないと行なえない攻撃手段であった。


 「全軍突撃せよ!! 魔物達を殲滅し、勝利の勝鬨をヘルツォークへ捧げなさいっ!! 」


 このアメリアの声が戦場に響き渡り、士気が一気に爆発した。都市内にも響き渡り、住民たちは安堵に包まれるのであった。アメリアの拡声器の声は、都市の人々に都度聞こえていたために、安心と希望を絶え間なく与えていた。


 「余力を残すな!! 突撃せよ!! 味方に気を付けるのだぞ。」


 「守備隊前進!! 斬って斬って斬りまくるのだっ!! ハハハッ! フフッ!! アハハハハハハ!!! 」


 「ナーダ伯爵さんよぉ、俺らも行くぜ!! オラオラ、咬み殺してやるぜぇぇぇぇええ!! 」


 掃討戦に戦局は移行していき、こちらの戦況はこれで確定したも同然である。あと十数分もすれば片が付くであろう。
 アメリアとマルティーナは一先ず安堵の息を吐きだして、ロサリオ側の戦況へ視線と身体を持っていくのであった。

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