魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第43話 亡念の鼓動

 「ナーダ伯爵さんよぉ…… 俺たちは本当にこのままCランクの魔物達を放っておいて、このD以下の集団に突撃を掛けちまっていいのかい? 」


 そう疑問をナーダ伯爵に呈したのは、Aランクパーティーの一つである、氷炎の牙のリーダーである。彼らは今まで、もう一つのAランクパーティーとBランクパーティ3組とCランクの魔物の集団に攻撃を繰り返していた。軍の一部として今回は扱われているので、無理な戦闘は見せず一撃離脱方式で削っていた所に今回の作戦が伝えられた。


 「あのヘルツォークのお姫様のおかげでもう少し私たちも無茶ができるんですが…… 」


 答えたのは、同じくAランクパーティーである、ローゼンベルクの薔薇のリーダーであり、このパーティーは女性のみで構成されている5人である。
 問われたナーダ伯爵は与えられた役割優先と答えるのであった。


 「このD以下の集団も約1,000程もいる。場内に残った守備兵もすべて注ぎ込みオリビア殿も出てきたところだ。伝令によるとアメリア様の魔法の効果も持って2時間弱…… その間にこの1,000を殲滅しなければ、守備隊2,000のレベルでは厳しいのだ。Cランクに関しては足止めでもする秘策があると信じるしかない…… 」


 「秘策ねぇ、まぁあの美人のお姫さんのために頑張りますか! ホントいい女だったよなぁ。」


 「ヴォルガ…… あのお姫様はやめておきなさいな…… 」


 氷炎の牙のリーダーであるヴォルガに対し、ローゼンベルクの薔薇のリーダー、サティアが溜息交じりに忠告をした。


 「なんだぁ、女の嫉妬はよくないぜ! サティア。」


 「違うわよ…… アメリア様はまだ12歳よ。知らなかったの!? 」


 「はぁ!? 城壁内でも見かけたが、ありゃあどう見ても16かそこいらだったぞ!! 」


 まだガキじゃねえかと驚愕の表情で呟くヴォルガに自身の感想を伝える。


 「12歳でこんな魔物の大集団に対して陣頭に立つなんて普通じゃないわよ…… こうやって戦闘にも参加して戦術級の魔法の発動まで…… ティファニアの月なんて呼ばれているから、どんな深窓の令嬢かと思いきや、戦女神もかくやといったところかしら! 」


 恐怖に慄いて仕方のない年齢であるにも関わらず、貴族であれば我先に逃げても仕方がない状況でのあの胆力である。女としても冒険者としても敬意の念を表すのであった。


 Cランクの魔物達を策の通りに一旦後回しにして、ヴォルガ達も突撃を仕掛けようとしたその時に南門城壁上部に立つ人影を見つけた。


 「おいおい、さっき秘策がどうとか言っていたが…… 相当にクレイジーな奴がいるぞ!! ナーダ伯爵さんよぉ、なんだあの白髪はっ!? 」


 ナーダ伯爵に問い詰めている最中にその白髪の人影は、Cランクの魔物の集団の最中へ飛び込んでいくのがナーダ伯爵や冒険者たち、遠目ではあるがヴァルターにも確認が取れるのだった。


 「んなっ!? 頭イカレてやがんのか!! 突っ込んでいきやがった…… Cランク300の集団なんてヴァルターの爺さんでも50から60ぐらいがせいぜいだろ!! おいっ!? ナーダ伯爵!! 」


 あれを一人に突っ込ませてはまずいと、ナーダ伯爵へ掴みかかる勢いでヴォルガは食い掛るが、ナーダ伯爵は渋面を浮かべてはいるが非常にそっけない返答をするのであった。


 「我々は目下このD以下の集団に対して包囲戦を仕掛けなければならない…… 今はそのことに集中するのだ! 」


 「なっ…… 見捨てるってのかっ! 伯爵さんよぉ!? 」


 ナーダ伯爵には、飛び込んだ人間が誰かは分かってしまっている。作戦には伝えられていないが、あの特徴ある白髪はあの12歳の少年だろうと。
 食事もしたし会話もした。好感の持てる少年だと認識もしている。武勇が並ではないこともヴァルターやアルラオネから、街道沿いの魔族との戦いの顛末を聞いたことで理解もしている。
 大人として少年一人に、Cランクの魔物達を相手どらせるのは心苦しいのと、魔族と渡り合える武勇ならばと、領主として最善と判断してしまう自分の中の葛藤が、すさまじい勢いで自身を苛んでしまう。


 「D以下とてこの数だ…… 飲み込まれれば多くが死ぬっ! 油断するな一刻も早く全力を以って殲滅しなければ、こちらとてやられるのだぞっ!! 」


 「ぐっ…… わかったよ! オラッ!! さっさと済ませてあのイカれ野郎を助けに行くぞ!! 」


 「了解だよヴォルガ。身の程知らずの馬鹿なのか…… それとも勝算がありと突撃した勇気ある者なのか、私も興味が出てきたからな。」


 散漫気味であった冒険者たちの動きも、ロサリオが敵集団に飛び込んだところを目視した後、高ランク冒険者達の動きが統一され、一丸となって突撃を開始し包囲陣に加わるのであった。












 Cランクの魔物達の集団に飛び込んだロサリオは、一心不乱に鬼気迫る形相でエルザバトを振っていた。一振りするごとに魔物を数体纏めて両断していくのは見事というほかにない。
 今の深刻な疲労と全身を蝕む倦怠感に、高熱を抱えた身体でここまで魔物を圧倒できているのは偏に妖刀エルザバトの性能に尽きる。
 オリビアに貸し与えた剣でこの場に立っていたら、全快時であれば、今のエルザバトと同じようなことが可能なレベルであるが、今の状態だと物理防御に優れるオーガや硬い毛皮に覆われているニードルベアなどは、返す刀がなければ倒せないだろう。一刀では無理な状態であるほど身体は不調を訴えている。
 しかも深刻なのが、身体強化魔法が全快時より格段に弱い、或いは魔力抵抗力が弱まっているのか原因は不明だが、エルザバトに体力を奪われていくのが感じられる。


 「ここに来て妖刀の弊害か…… うおお!! 何体斬った? はぁ、はぁ…… 」


 ―― 殿下はいつも先行して一人で行っちゃうんですよね ――


 「んっ!? 何だ…… 気のせい!? ちぃっ、わらわらと!! 」


 ロサリオは空耳が聞こえたような気がした、ひどく懐かしくそして罪悪感を刺激する声色で。魔物達が集団で四方から押し迫る中、頭と心に引掛りを覚えるが、気にしてる余裕は無しと余波でも切り裂くといわんばかりに、文字通り生命を削りながら魔物達を斬り裂いていくのであった。
 赤黒く、脈打つように輝く禍津玉、賢者の石に気づかずに。

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