魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第42話 ロサリオの奇策

 城壁や門に取り付いた魔物達は、投石や熱した油を落とされて悲惨な末路を辿っている。
 さすがにCランクの魔物達、オーガやニードルベア、オークロード辺りに取り付かれては今までのように簡単には行かないだろう。
 城門に取り付こうとすると上空からの攻撃に曝されるので、ゴブリンにオーク、ホブゴブリンやゴブリンロード、オークジェネラルなどのF、E、Dランクの魔物達はヴァルター達の軍勢に向かうようになっていった。
 A、Bランクの冒険者パーティーは手薄になった後方のCランクの魔物に突撃できるようになっていた。


 この状況を俯瞰しながら、ここまで善戦できているのは、アメリアの魔法とフリーンのヴァルターへの部隊の支援魔法の効果だと即座に見抜いた。


 (Cランクはほぼ健在、その他は1,000といったところか…… )


 「アメリア、後、どのくらい持たせられる? 」


 「あなたがお望みならいくらでも…… と言いたいところですが、魔力ポーションを定期的に飲んでも、2時間が限界だと思います。」


 魔法の維持は単純に魔力があればできるというものではない。運用に伴い多大な精神力を使用する。
 初めて使用する魔法、大魔法と言っても過言ではない。それを2時間持たせるだけでも十分過ぎる戦果だ。例え30分でも誰にも文句は言われない偉業である。


 アルラオネはアメリアの返答に驚きはしたが、さりとて今の状況だと2時間では方が付くわけでもない。今後の展開をロサリオの身体の状態も含め、問い質すのであった。 


 「ポーション漬けで不眠不休の魔術師達の末路はサーラブから聞いたな…… 一度緊張の糸が切れたお主は満身創痍じゃろ? 何が…… いや、どれだけ今の状態でできるんじゃ? 」


 この期に及んで、この場に立った人間を使わないという考えはないアルラオネに対し、自分でも何故ここまで絶不調か、いまいちわかっていないのを見透かされていることに苦笑しながら、考え付いた策を伝えることにした。


 「正直、すぐにでも倒れ混みそうな具合です…… ですが、このアメリアさんの頑張りを活かせば、勝算はあります。たしか、アルラオネさんはしばらくは魔法はほとんど使えないんですよね? であれば鍵はマルティーナさんになります。」


 「わ、わたし!? 」


 いきなり名指しされたため驚いて自分を指で示す。


 「たしかに情けない話じゃが、儂は使いもんにならん…… こやつに何をさせようというのじゃ? 」


 「確認をしたいのですが、デカラビアと戦っている時にアルラオネさんが使用した人払いの魔術、あれって魔物にも効力ありますか? 」


 「うぅ~む…… 元々あの魔法はそのような用途も含まれておる。Eランク上位やDランクの魔物には全く効かんのと、悪用されんように世には出しておらんがの…… 今のあ奴らはおそらく操られておってな、ただ前に、前に進んできておるだけじゃ。言ってしまえばの…… 闘争本能を刺激されておるんじゃと仮定すると…… 普通の状態であればまず戦闘中は無理じゃろうが、多分効くと思うぞ。あれはちょっとした生物の忌避感を催させるものであって進む方向性を変えるだけじゃし、そこに闘争本能を満たすものがあれば…… 後は、引きつける部隊の運用と合わせれば…… 」


 考えながらロサリオの問いに答えるアルラオネは、まだロサリオの意図を読み切れていない。疑問を表情に張り付かせながらロサリオを覗き込む。


 「作戦はこうです。
 まず、魔物の中央及び後方から西門のほう、我々から向かって右側ですね。そちらに先の人払いの魔法を掛けてください。ヴァルターさんたちは今の部隊の展開を維持しつつ、魔法によって魔物たちが西寄りに動きはじめたら、ヴァルターさんは、彼らの意識を自分たちに食いつかせるように攻撃をしながら部隊を退くようにしてください。
 人払いの魔法の効かない魔物たちはバリスタ、魔法で南門からやや東側に引き付けて進攻させます。分断出来たら、城壁や内部に残った兵たちを南門からオリビアさんが率いてその間を縫うようにヴァルターさんたちと挟撃。冒険者たちも後方に迂回させて全てのパーティーを突撃させてください。
 できれば…… Dランクまでは動かしてくれると助かります。このアメリアさんが発動させた魔法の効力が効いてるうちに、2,000強の全兵力で引き寄せられる魔物達、約1,000を倒して欲しいんです。2時間あれば行けると思うんですよ。」


 ロサリオの発案した奇策も奇策に一同驚きと考え込むしぐさを見せるが、一点見過ごせない部分を見つけてしまう。


 「正直、分断さえできれば全兵をもって挟撃、そして致命傷以外は回復するという驚異的な戦場だ。おそらく1,000は倒せるだろう。しかし、魔法の効かない南門に引き付けられる魔物はどうするのだ? 君の策だと残るのはCランクの魔物達300だろう? 」


 自身も部隊を率い、Bランクであるオリビアが状況からD以下の魔物達であれば行けるだろうと判断する。
 守備隊だけであれば、指揮官の力量にもよるが、3,000は最低欲しい所だが、ヴァルター旗下護衛部隊とAランクパーティー2組、Bランクパーティー3組を含む冒険者たちもいるので問題ないと判断したが、残るCランクの魔物達の対処案が出ていない。


 「あ、あんたまさか!? 」


 「ロサリオ様!? そんな…… 」


 マルティーナとアメリアはロサリオの意図に気付いて半ば悲鳴のような声を挙げてしまう。
 アルラオネは、現状は我々優位に進んではいるが、Cランクの魔物達が本格的に戦線へ加わってくれば、一部の冒険者達とヴァルター達以外は徐々に崩されていくのが目に見えてしまっている。


 「僕がまとめて引き受けます…… やるしかないでしょう…… ただし、この策の正否はマルティーナさんに掛かってます。大丈夫ですか? 」


 「人払いの魔法なら師匠から教わってるから大丈夫よ…… ただそれを強力にすればいいだけなんだから! でもあんたの方は…… たぶん全快のあんたなら余裕なんでしょうけど、顔面蒼白でふらついているじゃない!? 」


 「ロサリオ様、死地に赴くのをわかってて行かせるほど、私は大人しい女じゃないつもりです。それでも行くんですか? 」


 万全であれば、問題ないと自信を持って言える。
 普通のSランクにとっては、四方をCランクに囲まれれば体力も削られていくので、死地と言えるだろう。人族のように連携はとれないだろうが、数の暴力はもちろん魔物にも当てはまる。
 この程度でこうまで心配されるのかと苦笑を浮かべてしまうが、たしかにサーラブから聞かされた、アルラオネの言うように自らの状態の悪さは深刻である。
 身体を取り巻く非常に重い倦怠感に熱からくる頭痛、他人から見ても一目瞭然な姿に強がりは言えなかった。


 「ハハハッ、まぁお察しの通りなんですが、ここはやらなければいけない場面でしょう…… 身体が駄目な分は武器の威力でなんとかします…… あっ、オリビアさん! 折れた剣の代わりにこれを使ってください。」


 ロサリオは帯剣している剣を外してオリビアに渡した。


 「私は非常に助かるし嬉しいが、いいのか? 私のランクでは不相応な相当な業物だぞこれは!? 」


 オリビアの言は正鵠を射ていると言えよう。騎士であれば国王から下肢されるか、冒険者であれば大枚はたいてのオークションか遺跡等の出土で手に入れるレベルの物だ。おいそれと貸し与える物の範疇を越えている。
 Aランククラスのものが一世一代の大勝負で購入を決意するような代物である。


 「僕にはこれがありますから、少々目立つ代物なのでここに来てからは使ってなかったんですが…… 」


 マジックポーチから妖刀エルザバトを取り出す。未だ鞘に納まっている状態でありながら、異様な黒い魔力のようなものが湧きだしている。


 「それが、かの有名なランサローテの妖刀エルザバトか…… フリーンのやつなら何か知っとるかも知れんが、2,000以上前の文献にも記された曰く付きの一品…… 正に魔王の剣じゃな…… 生半可な者が抜こうとしたら、それだけで命を吸われる…… 」


 「相性が良かったんだと思いますよ。初めて抜いたのが母と妹の首を落とす時でしたから…… 僕のどす黒い感情にこの剣は嬉々として答えたんじゃないでしょうかね…… 」


 今は、感傷に浸る場面ではないが、言葉に詰まってしまう。アメリアはその時のことを自身の眼で見ている。あまりに強烈であったために気を失ってしまった。他の者達は直接ロサリオから聞いている。
 アメリアは意識的に切り替えて指示をだす。


 「終わってからにしましょう…… 色々と…… ナーダ伯爵とヴァルター殿に指示を出します。拡声器をここへ! 」


 「はっ! 」


 「アルラオネ様は先程のロサリオ様の作戦概要を、ナーダ伯爵及びヴァルター殿へ通達するよう伝令兵に指示をお願いします。」


 「ここを勝負どころにするわけかの…… 」


 魔物達が相手とはいえ、拡声器でこれからの指揮を伝えるのは聊かなものかとも考えたが、士気高揚と此処からが正念場であると全軍に伝えるために、アメリア自身も魔法の制御で大変ではあるが、自らが拡声器を取るのであった。


 「全将兵、並びに冒険者達に通達します。これより魔物達が西寄りに移動を始めたら、行動を開始してください。作戦概要は伝令から伝え受けたら各々準備をお願いします。
 さあ、万感の勇気をもって神の雷霆となり敵を討ち果たしなさい!! 」


 「「「「「「「「おお!! 」」」」」」」」


 アメリアの声が戦場、そして場内にも響き渡り戦意が満ちていくのを皆が感じ取りだした。


 「オリビアさんは西門とここにいる兵たちを纏めて出撃準備を整えてください。加えて城壁内に残っているE以下の冒険者たちをこの南門上部歩廊に集めてください。Cランクの魔物達を引き付ける役をサーラブと共に担ってもらいます。
 サーラブ、弓は問題ないだろうけど他には何ができる? 」


 ロサリオはサーラブの装備に弓矢があるのを見てそれ自体は問題ないだろうと判断したが、その他の手段を確認したいため質問した。


 「炎の魔法ならできます。後は、まだ未熟ですが狐人族として多少は幻術を…… 」


 「幻術!? 少しでも策の精度を高めたいから、中央と後方にいるCランクの魔物達に南門から東寄りに引き付けるように仕掛けてくれないか? 」


 「わかりました! どこまで効くかわかりませんがやってみます。」


 アルラオネは伝令がヴァルター及びナーダ伯爵に伝わったことを確認し、マルティーナへ指示を出した。


 「準備は出来たかマルティーナ! アメリア嬢がここまでやったんじゃ、おぬしも根性を見せてみよ!! 」


 「わかってますよ!! やるときはきっちりやるんですから!! ― 射干玉の・夜の更けぬれば・霞いて・近づく者の・影さえ見えず ― 」


 『ラビュリントネーベル迷宮の霧


 魔物達を覆いつくすような魔力の霧が発生し、中央部に停滞して西門よりに遅々として広がっていく様子が感じられていく。ヴァルターたちは魔力と本能的な忌避感を感じ取り、作戦の魔法が発動したことを悟ることとなった。
 経験に裏打ちされた用兵を発揮して、戦線を少しづつ西門寄りに提げつつ引き付けるように攻撃の手を加えていく。D以下の魔物達が引き寄せられるようにヴァルターたちのほうへ向かっていった。
 城壁では弓矢にバリスタ、ロサリオも魔法攻撃を行いCランクの魔物達を南門側に引き付ける。


 「もう少しだ! 冒険者の方たちはこのまま弓でも魔法でも投石でも何でもいいですから、あの目立つオーガ達周辺に攻撃を加え続けてください。サーラブ!! そろそろ幻術を!! 」


 「了解です!? ― 貪狼廉貞 ― 」


 城壁からの攻撃の余波などで数が定かではないが、半透明の人の集団がCランクの魔物達に対して南門から東寄りに集り、注意を引き付けだして徐々に魔物達が動いていった。


 「何だあれ!? すごいねサーラブ!! 上空からの攻撃と相まって魔物達があの幻影に攻撃しだしたよ…… あんまり期待してなかったから正直驚いたよ。」


 「術の対象の欲を引き出して幻惑する術です…… ご主人様は私に対してちょいちょい酷いです!? ドレスの時とか! 」


 DランクのオークジェネラルがCランクのオークロードに引っ張られて50体ほどが南門側に残ってしまったが、それ以外は概ね作戦通りの様相を呈していった。


 「南門開門! 突撃じゃ!! 後は小僧、お主にかかっておるぞ…… 」


 オリビアが南門より出陣し、その勢いのまま分断された魔物達の間を駆け抜けていった。冒険者達もナーダ伯爵指揮下の元、ヴァルター達の背後を迂回して突撃、ここにDランク以下約1,000体の魔物の包囲陣が完成した。


 「たしかに雷のような速度と軌跡で出撃していったね。神の雷霆、ラミエルか…… 皮肉が効いているねアメリア…… 」


 「あなた様の異名から関連付くものを採らせていただきました。私が聞いたことのあるアザゼルという名前は、古い物語で堕ちた神様の名前でしたから…… 」


 後半は独り言のようなロサリオの呟きを、耳ざとく拾ったアメリアが、微笑みを湛えた表情で受け取るように答えるのだった。


 「それと、今や先程のように「さん」付けはせずにアメリアと呼んでください。見送る女の我が儘ですが…… 」


 「あっ!? 私もなんだからね!! くたばるんじゃないわよ!! 」


 戦局はまだ困難な様相を見せてはいるが、希望を含んだ明るい表情の二人につい苦笑してしまうが、不安にさせないようにロサリオも笑顔で返すのだった。


 「わかったよ! では行ってくる…… アメリア! マルティーナ! 」


 「ご武運を…… 祈っております。」


 「何でもいいから、生きて帰ってらっしゃい! 」


 南門城壁上部歩廊から勢いよくCランクの魔物達集団へ飛び降りるのであった。

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