魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第30話 宵闇の揣摩臆測

 サーラブの奴隷宣言を各々が受け止めることとなった。
 ロサリオはいい、思春期の男の子である。ただし、だからといってどのように扱っていいのか全くもってわからない。
 いや、それには語弊があるといえる。貴族の男子が奴隷をどのように扱っているかなど、話には伝え聞いているので想像は出来る。それと同じことが出来るかというと性格的に出来はしないということだ。
 マルティーナとフリーンは、相も変わらずに厳しい視線をロサリオに対し投げかけている。


 「まぁ、そういうことじゃ…… 公爵にも儂から話をつけてやるでの。小僧も優しく扱ってやれよ! お主も思春期の頃合いじゃ…… 人に言えないようなことは二人で相談して行えよ…… くくくっ。」


 人の悪い笑みを浮かべながら、最後にいらないことを相変わらず付け加えてくる幼女の発言に、サーラブは頬を染めてアタフタしながらロサリオを見てくる。


 「しねぇよっ!! もういい加減にしろっ!!! ぜったいお前俺で遊んで楽しんでるだけだろ!!! 
 マルティーナさんもそんなムスッとした虫を見るような目は勘弁して下さいよ…… 」


 「フンっ!! 知らないわよ!! ……さっきはあんなに私に甘えてきたくせに…… 」


 マルティーナは最後は周囲には聞き取りづらい小さな声ではあるが、自身でも持て余し気味な感情のせいで終始ロサリオを納得のいかない表情で睨みつけるのだった。
 アメリアは今後の段取りをつけるためにアルラオネと提案する。


 「アルラオネ様、サーラブさんの報告の件は如何いたしましょう? やはり改めて領主会談の折に時間を取り、そこで場を設けるようにしましょうか? 」


 「そうだの、重ねて言うが皆も疲労が溜まっとる…… そこの狐っ娘もな。明日のほうが要領も得やすいじゃろうて。
 ではまだまだ問いだたしたいこと等あるじゃろうが本日はこの場で解散じゃ! 」


 アルラオネの解散宣言を受けて、ヴァルターは兼ねてより行軍予定どおりの兵の宿舎の手配場所へ向かい、アメリアはメイドのアンナと護衛役のオリビア及びアルラオネ、マルティーナと共に領主館へ向かうことが決定している。フリーンはイレギュラーであるが、アメリアの計らいで領主館に泊まることとなった。
 ロサリオは当初、ヴァルターに付いていこうと思い行動しようとしたが、今回の一番大きな戦功功労者であり直接的な恩人であるので、サーラブ共々領主館へ招かれることとなった。


 領主館へ向かう馬車は6人乗りであったため、アメリア、オリビア、マルティーナ、フリーン、アンナ、サーラブが馬車内に乗り込んだ。
 アルラオネとロサリオは、馬車室外後方に設けられている索敵後方警戒用の腰掛に共に並んで座りながら流れる景色をぼんやりと眺めていた。
 屋根もあり背面のちょうど後頭部辺りに取り付けられたガラス張りの窓により、馬車内ともやり取りが出来るような作りになっている。
 サーラブが奴隷の身で主人を置いて馬車内に座るなど申し訳ないとロサリオを中へ入れようとしたが、アルラオネが話があるからとロサリオを強引に引っ張りだして今に至っている。


 「何じゃい小僧? そう警戒するな…… 儂とお主の仲ではないか。」


 「どんな仲だよ…… 散々いじられた記憶しかねぇぞ…… 別に警戒はしてませんよ…… もう疲れただけです。」


 「お主の容姿は中々異質じゃ、髪と目の色がの…… おそらくじゃが、ギルドとアメリア嬢はアンドラス・ティアスという人物の為人ひととなりを取り敢えずは裏を取るぐらいはしてるじゃろ! 特に冒険者ギルドは無条件にお主の申した経歴を信用するほど平和ボケはしとらんわい…… 」


 「まさか!? いや…… 逆に経歴が貴族である以上調べることが出来るからそのぐらいはするのか…… ティアス家はランサローテの中でも有名な部類の貴族だし…… 」


 実はロサリオは裏を取られるとは全く考えてなかった。突然で時間がなく準備が出来ていなかったのもあるが、ロサリオにとって都合よく家も断絶していて同年の貴族がおり、その諸々の原因に自分が関わっている家などティアス家しか思い浮かばなかった。
 公爵家でなくとも貴族家や商人であれば相手の言葉を鵜呑みにせずに確実に取れる範囲で裏を取るのは当り前の話である。怪しさ満点ではあるが、ランサローテの戦乱から逃げてきた旅人のほうがそのまま押し切れるものである。
 ただし、一般人には無いバルトロメ公爵家としての教養もあるので、早晩怪しまれ問い詰められることにはなるだろうが。


 「まぁ、お主が仮に12歳という年でなければまだ誤魔化し様があったというものじゃ…… のう、ロサリオ殿…… 」


 「えぇ、まぁ、中々適当な人物がいな…… えっ……!? 」


 このような話をしているという時点で相手方は凡そ察しているか、ある程度予想を立てて会話を組み立てていることにまだロサリオは気づいておらず、先ほどのギルド内での馬鹿げたやり取りも引きずっていることも重なり油断をしていた。
 アルラオネから自然に差し込まれたロサリオという名にそのまま反応してしまうのも、名を偽ってからまだ当日であるのと蓄積した疲れ、その間隙を縫うようなアルラオネの年の功の前には12歳という少年の偽証など、容易く瓦解するのであった。


 「い、いや…… あぁ…… 」


 「そう慌てるでない! 何にせよお主は恩人なのじゃ。恩人に後足で砂をかけるような恥知らずな真似はせんから安心せい。
 ただの、古今東西歴史を鑑みても12歳であれだけやれる人物というのは噂に伝え聞くバルトロメの麒麟児しかおらんのじゃよ…… そういう意味ではお主の正義感と人が良い部分が徒となったの…… まぁ好ましい部分なので徒と表現するのは憚れるがの…… 」


 「そうですか…… じゃぁ少なくともアメリア様とギルド長は気づいてるんですね。」


 「ロサリオとは気づいておらんじゃろう…… アンドラス・ティアスではないということぐらいじゃなかろうかの? 
 ただし、儂にも何故お主がここにおるかはわからんがの…… あの力…… お主が魔王そのものであるというなら尚更ここにきた方法がわからんの…… 魔王ではないというのであれば、開戦前から40日は経っとるので何とか来れなくもないというところかの…… おそらく新記録じゃが…… 」


 従来の道のりと移動速度であれば、ランサローテからイグレシアス大陸に上陸してから3ヶ月はかかるのが一般的であろう。


 西のイグレシアス山脈に太陽が沈み始め辺りを赤く染め上げていく、日常の中に訪れるふとした瞬間の幻想的な風景に心を惹かれながら、歴史的な大魔女にならもう話しても構わないのではないかという誘惑にかられながら、自らも不明な点があるので言葉を選びながら語りだした。


 「デカラビアとの戦いで見た通りですよ。魔王として確かに討たれたはずでしたが…… 僕は1年前にティマンファヤ山にいる古代竜と偶々面識が出来て加護をもらったんです。
 たしか…… イグレシアス山脈にも古代竜が生息していましたよね…… 」


 「それは…… ということは、神話で記述された竜があちらこちらに時を置かずに現れる描写は…… 物語特有のものか、伝聞を張り合わせて時系列が滅茶苦茶になっとるものだと思っていたが…… 」


 神話や物語というのは独特の解釈がなされていたり、編纂者や製作者の意図が表面化したりするのでそのまま事実としては扱えず、読み解いていく必要がある。だからこその研究職というのであろう。
 その研究者たちの埃の被った仮説に龍脈転移というものがあったのをアルラオネは知識を総動員して思い出すのであった。


 「僕も定かではないですが、あの時相当地の奥深くまで削られ突き落とされましたから…… 龍脈なのかなんなのかわからぬままにエネルギーの奔流に引き込まれて気づいたら…… というわけなんですよ…… 」


 研究者たちが聞いたら歓喜の涙を流す実体験をどこか他人事のように話すロサリオも死に際の出来事であり、昨日のことであるので実感を伴うのは未だ難しいことであった。


 「まぁ何にせよ、そろそろ領主館へ到着する。どこまで話すのかはよく考えておけ…… アメリア嬢あたりはそう間を置かずに気づきよるかもしれんしの。しかも儂よりも深くじゃ…… 」


 「アメリア様が? 何故です……? 」


 アルラオネのその物言いの理由に全く心当たりが持てず聞いてしまった。ロサリオからしたらアメリアは、年不相応に色々と大人びて見えるが、聡明で綺麗な貴族の子女としか映っていない。


 「儂が長らくヘルツォークに留まっている理由でもある。儂の魔眼はもう知っておるじゃろ? 」


 「えぇ、その対象を見通す魔眼、アナリザの眼でしたよね…… まさかアメリア様も!? 」


 「恐らくじゃがな…… まだはっきりと発動を確認したわけではないんじゃが、その時のことを公爵自身に聞いての。あの娘の眼の研究も含めて儂は留まっておるんじゃよ……。
 何、なんかあったら儂がお主の味方になってやるわい! 一緒に戦った仲だしの。お主のキメ顔まで見てしまったらそう無碍には扱えんわいな…… くくくっ! ほれ、儂に惚れても受け止めてやるぞい!! 」


 「うっせーよ、この駄幼女…… 」


 真面目なのかふざけているのかわからない物言いに、あまり気負わせないように申しているのだろうとの推測がつきはしたが、万事このような調子であるのでロサリオも気負わずに軽く返すのであった。

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