魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第29話 ご主人様とお呼びします

 アルラオネからの余りの発言に驚愕の声を表した後は絶句してしまい、ナーダ冒険者ギルドの来賓用応接室の中を沈黙が支配している。ロサリオはその狐人族の女性自身をまともに目にしていなかったので、一先ず観察するのであった。


 頭部から生えた狐耳と臀部から生えているのであろう狐の尻尾は、たしかに彼女が獣人族の狐人族ということをよく表現している。
 腰まである長いカールがかった金髪は、平野部を覆いつくす麦穂の黄金の穂波のようで鮮やかに輝きを放っている。スラリと伸びた手足は長く健康的に引き締まっており縊れた腰からホットパンツにかけてのラインも相俟って非常に良いプロポーションを誇っている。
 そして、アンバランスに実った胸部はタイトな狩人用の冒険者服を苦しそうに押し上げており、切れ長の少々垂れた金の瞳に泣き黒子が年齢よりも大人びて見え妖艶である。
 そのような女性が怯えた表情で瞳に涙を溜めこんでいる姿は嗜虐心を大いにくすぐられてしまう。


 「ホントですか…… こんなスタイル良く色っぽい女性が僕の奴隷…… ハっ……!?!? 」


 自らが無意識に呟いてしまったことに気づき、ロサリオは慌てて周囲を確認する。すると――


 アルラオネはにやにやしている。
 (もうお前は俺で遊んでんだろっ!)


 オリビアはよくわからずに未だにロサリオの頭を撫でている。
 (正直くすぐったい!)


 マルティーナはもう汚物を見るような目つきで睨んでいる
 (ひどいと思います!!)


 フリーンは自身の淡いピンクに輝く髪を指先でいじりながらアルカイックスマイルを浮かべている。
 (正直あなたが一番何を考えているかわからないです……)


 アメリアは周囲の温度を5℃ほど下げながら背筋を震わすどころか凍り付かせるような微笑を浮かべている。
 (あぁ氷属性まで持ってるんだなぁ…… 凍らされるのかぁ……)


 サーラブはやはり男の嗜虐心を煽る涙目でこちらを窺っている。
 (もうあなたに癒しを求めていいですか?)


 ロサリオが益もない感想を思い浮かべながら場が凍り付いてしまったところをヴァルターがアルラオネに疑問を呈した。


 「それで、アンディー君がこの狐人族の女性の所有者というのはどういう経緯ですかな? 」


 皆が食い入るようにアルラオネのほうへ鋭い眼光を叩きつける。


 「ぴょっ!? 何じゃ何じゃ!? おぉ、小僧が狐っ娘の主になっとる件じゃったかの? 」


 先程までニヤニヤとロサリオをねめつけていたアルラオネであるが、さも今気づいたかのように説明しだすのであった。


 「おいっ! くそ幼女…… さっさと話せ!! さっきからお前のせいで酷いことになってるんだぞ。」


 「まぁそう急くない…… これはその狐っ娘にとっても悪い話ではないと思うからの。」


 「どういうことですかアルラオネ様? 」


 さすがに今のアルラオネの発言を聞いてアメリアが説明を求めた。他の面々も同様にか、しきりに首を捻っている。


 「この小僧があの魔族を葬ったのは変えようがない事実じゃ。恐らくその時じゃろ…… 理由は推測が付くが、魔族との魔力経路が途切れて、その途切れた魔力経路が小僧の魔力に反応し、吸い寄せられて結合してしまったということじゃ! 本来であれば奴隷用の魔法で主には印を刻み込み、そこに首輪から発せられる魔力経路を繋ぐものなのじゃがの…… かなりのイレギュラーであることは間違いないわい…… 」


 今は衣服の下に隠されてはいるが、アルラオネはロサリオの首から下げられているネックレスに嵌った変色した賢者の石を盗み見るように視線を投げかけた。


 「魔族が死んだことによって、その首輪に掛けられていた主に逆らうと即死するような呪いとも呼べるような命令は、綺麗さっぱり無くなっとるから安心せい。通常の契約を交わしてからの奴隷魔法じゃないから狐っ娘の行動制限などは特になさそうじゃわい…… よかったのぉ。
 ただし、主に逆らったり危害を加えようとしたら、ビリッとくるやつは残っとるから注意せぇよ…… これはその奴隷の首輪自体に最初から術式が組み込まれているものじゃな…… まぁだいぶ弱い電流みたいじゃが、あの魔族が強めていたみたいじゃの。死んだから解除されて本来の弱いものになっとるわい。」


 即死の呪いが解除されており、あの強力な電流もだいぶ弱くなっているとも聞くことができ、ようやくサーラブは安堵の念を心底抱くことが出来たのだった。


 「そして、この狐っ娘が此度の魔族の侵攻経路を知っとるというか手引きしたのも事実じゃし、これはもうヘルツォーク公爵領並びにティファニア王国の最重要機密事項として扱われるじゃろう。
 のう狐っ娘…… そんな機密を知った者を普通どうすると思う。」


 アルラオネは何か言いたげなアメリアを視線で制するとサーラブへ問いかけた。


 「えっ……? えっと尋問はされるとして…… その後私はどうなってしまうんですか……? 」


 サーラブは怯えて震えながらアルラオネの答えを待つしかできない。


 「身柄を拘束後、お主の持っとる情報を絞れるだけ絞った後には、人知れず処分!! という可能性もある。よしんば殺さなくても一生牢獄か良くて幽閉じゃ。」


 「いやっ!? そっ…… そんなの酷いですっ!! ううぅぅ…… 」


 アルラオネから聞かされたあまりの処遇に泣き出してしまい、流石に周囲の者たちも、あまりにもそれは、と感じるのであった。


 「じゃがのう! 実はこの小僧はこの国の所属ではなくてなぁ…… 小僧が魔族を討伐した件でヘルツォーク公爵領及びティファニア王国は多大な恩を受けたのじゃ!! 」


 「えっ、それは…… どういう……? 」


 悪い顔をしながらアルラオネは、詐欺師もかくやというように言葉を続ける。


 「であるのう、アメリア嬢よ。」


 そして、アメリアに近づき周囲に聞こえないように囁きかける。


 ひそひそ―「こやつを小僧の所有物にしてしまえば、小僧をこのヘルツォークへ縛り付ける材料になるぞい! しかも最重要機密を握っている娘をヘルツォークがむざむざ他へやらせることはできないと言えば、このお人好しの小僧はしぶしぶかもしれんが、ヘルツォークやティファニアから離れられんくなるじゃろ!! この小僧の戦力も取り込めることが出来るし、お主らも一緒にいれる!!! 一石二鳥どころか三鳥じゃわいな!!!! 」―ひそひそ


 ひそひそ―「素晴らしい案です! アルラオネ様!! 採用です!!! 是非にでもそうしましょう!!!! 」―ひそひそ


 「ええ、私アメリアもヘルツォーク公爵令嬢としてそのように受け止めております。」


 アメリアは厳かに告げるのであった。


 (な~んか怪しいやり取りをしてたよなぁ…… )


 その姿に、今までのアルラオネの言動などを鑑みて、むしろロサリオは不信の念を抱くのであった。そのようなことを露知らずにサーラブはアメリアの身分に驚いていた。


 「ヘルツォーク公爵殿下でございましたか!? 今まで無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません!! 」


 「いいのですよ。知らなかったことですし、我が恩人であるアンディー様の奴隷の方ですから。ほほほっ。」


 「ほほほって!? 姫様いいんですか? 」


 マルティーナは驚いてしまったが、フリーンは何となくではあるがアルラオネの思惑を察していた。


 「なるほど…… アルラオネ様も考えましたわね…… 」


 あれよあれよとサーラブが、ロサリオの奴隷としての立場が固まっていってしまうのを一堂唖然としているところ、アルラオネはサーラブに対して言葉を続ける。


 「お主が小僧の所有物であれば、こちらとしても無碍には扱えんということじゃよ。なにせ大恩ある人物の所有物じゃからのぅ。もちろん此度の魔族達の侵攻経路などの情報は喋ってもらうことになるじゃろが、それ以外は小僧預かりの元、お主は自由ということじゃ…… 状況はわかったかの!! 」


 そしてアルラオネはアメリアにしたようにサーラブにも近づき周囲に聞こえないように囁くのであった。


 ひそひそ―「ええか、もしお主が小僧に嫌われたり、奴隷の立場を放棄もしくは自由の身となったら先程告げたように速やかに処分されても仕方ないという立場なんじゃ。」―ひそひそ


 ひそひそ―「は、はい…… わかりました…… たしかに魔族に捕らえられ奴隷の首輪を嵌められた時点で死を覚悟してましたから、それが助かるのであれば従います…… 」―ひそひそ


 獣人族は人族よりも強さを重きに置くところがあるので、あの魔族を倒したという時点で、サーラブ自身は元より、里の誰よりも強いということである。
 ロサリオの端正な顔つきも相俟ってサーラブは憧憬と感謝を湛えて見つめた。


 ひそひそ―「じゃからの、幸いお主は見目麗しく色々と器量もよさそうじゃ。せいぜい小僧に好かれるようにせいよ! 本当に小僧に放逐されでもしたら庇いきれんし、そうなったらアメリア嬢たちはまだしも公爵や国自体は甘くないぞい。」―ひそひそ


ひそひそ―「わかりました。幸いあの方も悪い方ではなさそうですし、強さもあり見た目も可愛い?格好いいですし贅沢はいってられません! 誠心誠意尽くさせて頂きます!!」―ひそひそ


 二人の話がまとまると、サーラブはロサリオへ向き直り衣服及び髪などの身だしなみを手早く整え恭しく宣言するのであった。


 「私は狐人族のサーラブと申します。もう直ぐ15歳になる身です。魔族の奴隷となりましたが汚されているわけではございませんのでご安心ください。
 是非! あなたをご主人様と呼ばせてください!! 今後は末永くお仕えいたします!!! 」


 先程の怯えて震えていた娘とは思えないほどの、清々しい奴隷宣言をしたのであった。  

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