魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第28話 ご主人様と呼ばないで

 マルティーナとフリーン、そしてアンナがさすがにふざけることはなく、アメリアの身づくろいをしっかりと行っている中、ロサリオは申し訳なさでソファーで小さくなっている。
 すると、扉をノックする音が室内に響き渡り、ヘルナーゼとアルラオネが入室を許可するとナーダギルド支部長秘書からヴァルター旗下護衛部隊帰還の報告を受けた。


 「戻ったか、もう時期に日も沈みだす頃合いじゃな。当面の危機は去っておることじゃし、このまま兵たちは当初の予定通りこの都市に駐留、アメリア嬢たちは領主館へそろそろ赴かねばならんじゃろう。
 改めて明日にでも場を設けることとするかの。」


 「そうですな…… せめて明後日の貴殿たちの出発前にギルドの立場としてはアルラオネ殿とヴァルター殿からは詳細をお聞かせ願いたいものです。」


 明日は主に国境警備に関する領主との打ち合わせが控えている。特に此度の魔族遭遇戦もあったこともあり、今後は公都とナーダの関係は密となってくるであろう。兵たちもかなり疲弊しているので明後日までここに留まれるのはアメリア達首脳陣も体力を回復したい兵たちも幸いであった。
 そこにギルド長秘書から、護衛部隊に関する報告の続きがなされた。


 「すみません、ギルド長それにアルラオネ様、ヴァルター様とオリビア殿がこちらに向かっているとのことです。何でも、狐人族の女性の件でこちらに連れて来るとのことで、もうそろそろ到着するそうです。」


 すっかり頭から抜け落ちていたのだろう、アルラオネは瞳を大きく見開き素っ頓狂な声を上げその件に今更ながら気づくのだった。


 「おお! おお!! いたのいたのそのような娘っ子が!!! ある意味今回の件で重要な情報を持つ狐娘じゃわい!? もう来るというのであれば多少聞くのは吝かではないかの。」


 「それとアルラオネ様、彼女の奴隷の首輪の件もどうにかしませんと…… 」


 まだ思い出してないかどうか不安だったフリーンが嘆息しながらアルラオネに対し付け加えるように言った。


 「まぁそうじゃな…… すでに魔族は滅しているためそっちの件は完璧に忘れておったわい…… 緊急性もないしの…… 」


 当の奴隷の首輪をつけられている狐人族の女性にとっては身も蓋もないことをいうアルラオネに対し、自らが神殿構築まで執り行って守った女性が不憫でならなかった。
 ヘルナーゼはそもそもその狐人族の女性の件を知らなかったのと、ヘルツォーク公爵領軍トップのヴァルターが直に対応を行っているという件だけでも異常なので、概要だけでも聞こうと質問をした。


 「アルラオネ殿、その狐人族の女性の件とは? ヴァルター殿が直に連れて来るなど尋常ではないことだと感じますが…… 」


 「うむ、今回の魔族に奴隷の首輪を嵌められ、魔族領側のイグレシアス山脈からこちらまで抜けるための道案内をさせられていた狐人族の娘じゃな…… 」


 ヘルナーゼとアメリアは本日何度驚かされることになったことか、その狐人族の娘は今回の魔族の動向及び侵攻経路を知るための生き証人ではないかと絶句する。たしかに今回の件は大事ではある、今後も予断を許さず対応に十分な人的資材を投入すことになるだろうが、そもそもの侵攻経路さえ事前に知ることが出来れば、知らずに対応策を練るのとは労力が桁違いに変わってくる。
 どおりで、アルラオネが事の重大さにかかわらず、取り敢えずは平然としているということにようやくヘルナーゼ及びアメリアは納得するに至った。


 「なるほど、獣人族の里の所在は今まで明らかにはなっていなかったが、まさか山脈の奥地であったとは、もしかして魔族領側か…… 盲点であったな、冒険者にも獣人族はいるが、彼らは頑なに里の所在を喋ることはなかったからな…… 魔族側の奴隷の首輪が如何様なものかは存じぬが、色々と強制はされていたであろうに…… よく無事に保護することが出来ましたな? 」


 「ああ、このフリーンに無理強いさせたでの! 規模は小さいが見事な神殿構築を狐人族の娘に掛けることに成功したのじゃ!! 」


 フリーンは恐縮してアルラオネの賛辞を受けるが、ヘルナーゼ及びアメリアとロサリオは驚きを隠せず彼女に注目が集まった。


 「君の年は14になって間もないとのことだが、通常であればまだ侍祭が精々であり、神官位つまり助祭か…… それだけでも驚きなのだが、中々どうして…… 君も大したものだ。」


 「今回の会談に同行して頂いた教会からの方たちは、まだ実戦経験も乏しい神官になって間もないとのことでしたが、その身で神殿構築を執り行えたのですか!? 」


 「まさかフリーンさん一人でとは思いませんでしたよ!! 後方から神聖な魔力を感じていましたが神官の方々全員で何か行っていたのだとすっかり思ってました。」


 神殿構築は特に教会秘匿ではなく光属性の魔法である。ただし、神聖魔法という教会が確立した体系の魔法であるために、教会に所属するものしか基本的には扱えない。アメリアも光属性と水属性に精通し各種補助魔法の類を使えるので、神殿構築は知っているが、儀式魔法に属する類のもので、主に上位の司教クラスではないと使用できないのは常識として知っている。


 そもそも大まかに教会での位階は、一番上から教皇 、枢機卿、 総大司教、大司教、司教、司祭、助祭、侍祭となっており、一般的な神官は助祭となっている。ナーダのような大きな都市には司教クラスが派遣されていたりするが通常、村や町の教会を任されるのは司祭クラスからなる。
 助祭になるのが、務めた年数や神聖魔法の習熟度にもよるが、早くても15か16歳ぐらいであるのでそこからでもフリーンの優秀さが窺えることにヘルナーゼやアメリア、アルラオネなどは気づいている。
 今回の一件で司祭に任じられてもおかしくない功績も残している。


 「情けないことに私も無理だと思ったのですが、アルラオネ様に諭されて…… 無我夢中で祈りを捧げた結果として上手くいっただけのことなのです。」


 自らを誇っても何ら可笑しくはない功績ではあるのだが、自らの功績として誇示することもなく、ただありのままの結果として受け止めているフリーンにアメリアとロサリオは、神に仕える物としての姿勢を感じるのだった。
 アルラオネとヘルナーゼなどは、教会上層部の権力闘争及び陰謀渦巻く内情を経験若しくは大人として知っているので、黒い部分に染まっていないまだ聖職者としての純粋さに、今後も上層部の思惑なんぞに染まらずに邁進してほしいと願うのだった。


 そこに当の狐人族の女性をサーラブを連れてヴァルターとオリビアが入出してきた。ヴァルターはまずアメリアに帰還の報告を済ますのであった。


 「アメリア様、ヴァルター旗下護衛隊欠けることなく戻りましてございます。」


 「ご苦労様でした。犠牲がなくて何よりです。よく兵を休ませるように取り計らってください。」


 「はっ、ご配慮のほど、謹んで承りました。」


 幾分形式ばってはいるが、一通りの挨拶が終わった後に、ロサリオに向き直り礼を述べるのであった。


 「あの時は、慌ただしかったおかげでまともな礼を述べることが出来なかったがありがとうアンディー君。君のおかげで誰一人兵を失うことなく帰還することが出来たと言える。」


 「本当に! 正直もっと君の戦いを見たかったのだけど、状況がそうもいっていられなかったのが残念でしかたなかった…… 」


 オリビアはロサリオの前まで行き、楚々とした微笑を浮かべながらロサリオを改めて全身くまなく見つめながら、年下のまだ成人になっていない少年であったと思うのであり、ロサリオはソファーに座っていたためにちょうどよい位置に頭があったのだろう、自然と年下の少年を労うように頭をやさしく撫でるのであった。
 ロサリオはオリビアの突然の所作に反応できずに為されるがままとなっている。


 「マルティーナさん…… なんか僕が見たオリビアさんと全然違うんですけど! 夜叉のように目を吊り上げ、口を三日月のように広げて嘲笑しながら剣を振り回して敵を切り刻んでいた人だった気がするんですが…… 」


 あまりの変わりように隣にいたマルティーナに小声で呟いてしまっていた。その声が聞こえたのだろうオリビア本人がそれに答えを返すのだった。


 「恥ずかしいのだが、剣を握ってしまうと少々荒っぽくなってしまって…… 」


 烏の濡れ羽色の髪をサイドテールシニョンに纏め、細く引き締まった身体に端麗な美しさを恥ずかし気に頬を染めている姿についついロサリオは見とれてしまっているが、戦闘時とのギャップの激しさに呆れともとれる表情を浮かべて反応に困ってしまっていた。


 そこに、連れられてきた狐人族の女性であるサーラブの奴隷の首輪を見ていたアルラオネから爆弾ともとれる発言が発せられた。


 「うんっ!? この娘の首輪の魔力経路が小僧に繋がっとるの…… 小僧、お主この娘の所有者になっとるぞ!! 」


 「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!! 」」」」」


 ロサリオにアメリア、マルティーナ、フリーン、当の本人であるサーラブは天にも届くのではと言わんばかりに大声で驚きを表すのであった。
 

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