魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第27話 ハニーミルクを拭かないで

 ロサリオは疲れていた。1月以上も平原、森林と見渡す限りの兵に囲まれてながら不眠不休で戦い、走り、這いずり回りと凡そ尋常でなければ、疲労だけで命を落としても仕方のない状況であった。
 しかも、それらの緊張の糸が切れた所に今回の騒動に巻き込まれたのである。


 長らく戦地を駆け抜け、馬上に夜営と戦地にて軍義用の硬い簡易椅子、ソファーに座ったのはどのくらいぶりのことであろうか。
 ギルド長の秘書が、ヘルナーゼ以外の年齢を考慮(アルラオネは見た目的に)して疲れているだろうとハニーミルクを蜂蜜多めに用意したのにも、確かな気遣いがはっきりと見て取れるので、皆文句などあろうはずがない。


 この応接室での会談も戦場とはまた一風変わった緊張感を持っていた。特にロサリオにはまだ会議の場での独特な緊張には慣れていない。
 いつ槍玉にあげられるのではと戦々恐々としていたぐらいである。そこに同年代の女性達との身体的接触からの解放、甘く身体に染み込んでいく温かいハニーミルク。
 一息つき緊張の糸を切ってしまっても仕方のないことであろう。ややもすればこのままソファーに沈み込み寝てしまったとしても文句など誰にも言わせないほど疲れていたのである。
 まさにアルラオネの放り込んだ一言によって虚を突かれてしまっても仕方のないことなのである。


 ロサリオの目の前には誰がソファーに座っていたのであったか、それすらも彼は一瞬ではあるが忘れてしまっていた。長々とこの状況説明において何が言いたいかと云うと――


 目の前にはほんの少し黄ばみばしった白いものを顔、頭、胸元にこれでもかと自らの偉業を誇るかのようにアメリアにぶちまけられていた。
 アメリアが眉を寄せ、若干怯えたような表情でロサリオを見上げている。


 「くふっっ!? ……うぅ、アンディー様…… あまりに御無体でございます…… 」


 アメリアの口にも少し飛び込んだのであろう。ロサリオから吐き出されたものが。
 若干嘔吐きながら、ロサリオに文句というには可愛いらしく艶かしい言葉を白い物と一緒に吐き出すアメリアに――


 (エロいっ!! なんというエロさ!!! じゃない、早く拭いて謝らないと…… )


 こういう状況でいち早く動かなければならないメイドのアンナはというと、口元を若干ヒクつかせてはいたが何とか無表情を保ちながら、二人を見比べていた。


 (ダメだ!? 笑いを堪えてやがる! アンナさん使えねぇ…… )


 「すっ、すいません…… アメリアさん!! すぐに拭きますので…… 」


 ロサリオは完全に慌てふためき動転しながら身をのりだし、顎を掴み少し上を向かせて拭こうとすると――


 「あんっ、だめ…… 」


 ゴクッ……!?  


 まだ口の中に残っていたものが喉の奥へ流れてきたので、アメリアは飲み込んでしまった。


 「んふっ…… はぁん…… 濃くて、うふっ…… 少し甘いですぅ。」


 艶っぽい吐息を吐きながら脳髄を蕩けさせるような物言いに、ロサリオは固まり頭が沸騰しかけていた。


 「あっ…… あんたね!? 姫様に何白いのぶっかけて、しかも飲ませたりしてんのよ!!! 」


 「ふぁっ!? 言い方っ!! ハニーミルクだよ!? 」


 「何が僕のハニーミルクよ!? ふざけてんのは顔だけにしときなさいこの馬鹿っ!! 変態!!! 」


 マルティーナが顔を真っ赤にしながら激昂すると――


 「ぶふぅっ…… 」


 沈黙していたアンナが遂に吹き出し顔を後ろに背けた。首すじから耳にかけて真っ赤に染まっている。


 「おいっ!? だから言い方っ!! もうお前絶対わざと言ってんだろっ!!! ふざけてねぇよ、割りとまともな顔してんだろがっ!!!! 」


 「むしろ私はアメリア様が天然か狙っているのではないかと…… くぅぅ、うまいことを…… 」


 フリーンは、子供の情操教育上、大変宜しくない姿を晒してロサリオをうっとりするような表情で見上げているアメリアに驚愕の念を抱いた。


 「ギャハハハハハッ!!…… ワァハハハハ…… やるのう小僧!! 助けたお姫様に白いのぶっかけて飲ませるなど、男のロマンを一気に満たすようなシチュエーションじゃなぁ!! あはははハハハハハハ…… 」


 「てめぇが一番たちが悪いぞっ!! くそ幼女!! 」


 もはやいつもの口調など気にしていられないロサリオは完全に自が出てしまっている。よく解ってないのかアメリアはこんなことを聞いてくるのであった。


 「そっ、そうなのですか?…… アンディー様は、そのぅ、アメリアでちゃんとご満足頂けましたか?」


 アルラオネの言葉を受けて、キョトンとしながら小首を傾げて頓珍漢なことを聞いてくる。
 顔にまだロサリオのハニーミルクをかけられたまま、年不相応な程に実っている開いた胸元の谷間に溜まったハニーミルクが、ロサリオをこれでもかと誘惑しているようだ。


 (ゴクリッ! エロぃ…… いやいやそうじゃない、この娘はたぶんまだ知らないんだ…… いや、狙ってる!? 12なのにマルティーナさんもそうだけどアメリアさんも胸が大きいよなぁ、ゴクリッ! じゃない早く拭かなきゃ)


 「さすがに疲れましたから…… もう休みたいですよ。ほら、お顔を拭きますので少しじっとしてて下さい。」


 ロサリオもアメリアの言葉を受けて、ずれた回答になってしまう。


 「くはははっ! そりゃあれだけ吐き出せば疲れもするわいなっ!? のぅヘルナーゼ。」


 一番見た目的に状況にそぐわない幼女が一番卑猥な意見を投げ掛けている。話を振られたヘルナーゼはアルラオネを睨み付ける。


 「ここで何故私に話を振るんです。ここで私が何を言ってもセクハラ扱いされそうですよ。」


 下手なことを差し込まず黙して場の推移を傍観するのも大人の対応だと雰囲気で語っている。


 「何故でしょう? 私、アメリア様が無性に羨ましくてしかたないのですが…… 」


 もはやマルティーナに話かけるフリーンも場の空気に呑まれおかしくなりつつある。


 「あんた聖職者のくせに何いってんの!? 」


 「ほら、アメリアさんの胸元はアンナさんが拭いてあげて下さいよ! 」


 もはや周囲は放っておいて事態を収集するためにアンナを促すのであったが――


 「いえ、ここまで淑女を汚したのです…… 殿方が責任を取ってしかるべきかと…… 」


 悪ノリなのか真剣なのか分からない無表情で無情にもロサリオに告げる。よく見ると目の奥が笑っている。


 「あんたもアルラオネさんに乗っかってんじゃねぇっ!!! 公爵令嬢にそれだと切腹もんじゃねぇかっ!?!? 
 ほら、アメリアさんも恥ずかしいなら腕で谷間を寄せて突きだしてこない!! 狙ってるんですか!? 」


 「はぅっ…… アンディー様が意地悪します。ベタベタしてきたので早くぅ…… お願いしますぅ。」


 ロサリオにはもうアメリアが天然か、わかってて狙っているのか解らなくなってしまっている。


 「ほらっ、もういい加減にしなさい! ハンカチ貸して!! 私が拭いてあげるから。」


 「ああ…… ありがとう! マルティーナさん。」


 見かねたマルティーナの申し出に、ロサリオは、最初に勘違いされそうな物言いをしてこのような場を作った張本人であることを忘れて感謝の念を表すのであった。
 マルティーナに胸元と簡易ドレスのような衣服を拭いてもらっている最中に、アメリアが呟くのを微かにだが確実にマルティーナは耳にするのだった。


 「これで一つ弱みを握れましたかね…… ふふふ…… 」


 マルティーナはアメリアの女の情念に戦慄したのは言うまでもないことだった。


 

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