魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第25話 魔王アザゼル討伐の報告

 アルラオネの采配で来賓用応接室の入室は以下のメンバーに制限された。
 まずは2対の3人掛けのソファーに入口から向かって左側にアルラオネ、アメリア、ギルド長のヘルナーゼが入り口の扉手前から奥に向かって腰掛け、ローテーブルを間に挟んで向かいのソファーに、入り口手前からフリーン、ロサリオ、マルティーナが座った。
 メイドのアンナはアメリアの後ろに立って控えている。


 当初、ヘルナーゼは秘書若しくは信頼のおける冒険者受付嬢を同席させようとしたが、ロサリオことアンディーの大枠を察しているアルラオネに阻まれてしまった。
 ヘルナーゼとアメリアはアンディーの不振な点、主に報告書にあった目の部分に疑問を感じているだけなので、アルラオネの厳重な対応に少々訝しむこととなった。マルティーナはまだしも所属の異なる神官のフリーンに対しては、ギルド前でのアンディーとのやり取りを目撃してるので、アメリアとしては尚更その親密であった両者に疑問を感じていた。
 アルラオネは魔族討伐の現場に居合わせた件を以てフリーンを同席させたが、個人的には別の思惑もあるのでこの席に同席させたのである。


 ロサリオとしては両隣をマルティーナとフリーンに挟まれ正面からはアメリアの視線を受けなければならないという逃げられない状況にあれよあれよという間に追い込まれてしまった。
 狩人に包囲された獲物の気分を味わっていると、アルラオネからこの打ち合わせという名のロサリオにとっては取り調べともいえる開始の合図が放たれた。


 「まあ、各々確認したいことも多々あるであろうが、まずはアメリア嬢とヘルナーゼから聞こうかの。」


 二人からの報告は、魔族が討伐されたことを踏まえるとそう伝えることは多くは持っていない。
 以上のことから、ランサローテの魔王討伐の情報を伝えようとアメリアはギルド長に目配せをし、アルラオネ達をまずは労うことにした。


 「ではまずは、改めて魔族の討伐、真にご苦労様でした。ヘルツォーク領を預かる公爵家のものとして感謝の念が絶えません。後程、相応の恩賞を以て応じさせて頂く次第でございます。」


 アメリアは公爵家子女としての優雅かつ静謐な振る舞いをもってアルラオネ達に感謝を伝えた。


 「次に、ランサローテに出現した魔王が討伐されたとの情報がギルドからもたらされました。詳細はギルド長からお願いします。」


 アルラオネは眉間に少し皺を寄せただけで他からは内面を悟らせない表情を保っていた。一番に知りたかった情報である。これで魔族との戦闘時のアンディーの言葉の裏が取れたも同然であった。


 「壊滅して討伐断念じゃなかったの!? 」


 「遂にやりきったのですね!! 多くの犠牲者もこれで多少は報われるでしょうか…… 」


 マルティーナはあれだけの戦死者を出してなお、討伐しきったことに対して驚き、フリーンはその戦死者たちに哀悼の意を示す聖職者らしい反応をした。


 「うむ…… 昨日にランサローテ支部のギルドに対し、フェメス公爵からの報告があり、ギルドより各国へ伝達する旨の了承も得ている。しかも討伐後すぐに統一宣言を島全体にしランサローテ皇帝より首相に任命されるに至ったと…… 正直根回しが早すぎて各ギルド及び各国首脳陣も驚いている…… 」


 「流石に謀略の黒賢者とまで言われているフェメス公爵…… もう敵対勢力からも抗議が出ていないんでしょう? というよりもフェメス公爵を相手取って戦を継続できるほどのところがもはや無い…… といったところですか…… 」


 まだまだこれからであるだろうが、あの悪魔の所業のような策略が成功したことを第三者より聞くことができ、ただ哀悼の意を示したフリーンには申し訳ないが、成し遂げたという感慨深いものがロサリオの胸に去来するのであった。


 「アンディー君は流石にランサローテのティアス家出身ということもあってフェメス公爵の通り名まで知っておるか。まさに状況はその通りであるとギルド側も見ている。500年続いた戦乱が本当に終結したのかはまだ大陸側としては様子見であるが、平和になってほしいものだよ。」


 そこでヘルナーゼは言葉を区切り紅茶で喉を潤し周囲の様子を窺うが、まだ肝心の魔王に関して報告してなかったことを思い出し言葉を続けた。


 「その魔王のことであるが、ギルドでも魔王認定されてから2週間ほど経ってはいたのだが、名称が決定していなかったのだが、この度フェメス公爵より公表された…… アザゼルと…… 」


 「やはりの…… 」


 アルラオネは皆に気取られないようにアンディーへ視線を流し確認した。アンディーはその視線を流し俯き加減で場をやり過ごすことに終始した。


 「アザゼルですか…… 」


 フリーンは何かが引っかかるような気がした。どこかで聞いたか、あるいは見たことがあったというような頭に靄がかかり思い出せないといった表情を浮かべながらその名を呟いた。


 「その魔王アザゼル討伐にあたっての人的被害がまだざっくりとではあるがフェメス公爵より報告された。」


 ギルド長は沈痛な面持ちになり言葉を発するのを躊躇ってしまった。そのことが、歴史上類を見ないほどのものであるということをこの場にいたもの全員が察するに充分であった。


 「ここまできて勿体付けるな! はよ話さんかい!! 」


 「推定戦死者は約120,000人にも上るとの達しだ!! 」


 「120,000!! 元々100,000の布陣で、5日前までは被害数80,000人だったじゃない!? 何故いきなりそこまで増えたの!!!!」


 「およそ戦のこととは思えません…… 歴史に残る天災ですら桁が1つ少ないというのに…… 」


 マルティーナはあまりの数に声を張り上げ驚愕し、フリーンは天災以上の犠牲者にただただ唖然とするのであった。


 「布陣した軍勢では95,000の被害であった、各ギルドへ開戦報告前の犠牲者であるロサリオ公爵弟の軍勢25,000がいたが、あれが足されることとなった。
 1体でこれだけの被害がでた戦など、1,000年前でもなかった…… 神話ですら聞いたことがない。まさに大魔王という言葉をこれほど体現したものはないだろう。
 後日正式にギルドより発表されるであろうが、ティファニア王国王都のギルド本部とグランクルス帝国帝都のギルド本部からは魔王アザゼルのランクをSSSランクの上、EXを設けてはどうかとの案も出ている…… まあすでに討伐後であるのでランクなぞ、という意見もあるみたいじゃが、犠牲者の数が膨大なものになってしまったからな…… せめて、神話を超える大魔王討伐に殉じた、という花を添えさせてやりたいという気持ちもあるみたいだがな。」


 互いの情報交換の場だというのに始まって早々、最初の報告でまさかここまでの沈痛な場が出来ることになるとは誰しもが思わなかったであろう。ロサリオは場の雰囲気を変えるために柏手を一つ叩いた。


 「何湿っぽくなっているんですか!? 犠牲者の数は膨大ですが、魔王が討伐されたことは喜ばしいことのはずです。それにヘルツォークではまた別で魔族絡みの問題が発生しています。まだこの場の情報共有は終わりじゃないですよね。」


 「たしかに、アンディー様のおっしゃる通りです。では次にアルラオネ様から魔族の件について報告をお願いします。非常に重要で秘匿事項扱いしたいとの申し出もありますので。」


 アメリアはアルラオネを促した。こと魔族が関わる事項とは、今後のヘルツォークひいてはティファニア王国を巻き込むことになる恐れもあるので、ヘルナーゼ共々非常に関心を高く持っている。


 「まあ儂は魔王討伐の件が知りたかったから取り敢えずはええじゃろ。では今回の魔族どもの動向の推察からいくとしようかの。大事にはなったが退治の件はそのあとじゃな。」


 「読めますか? 今回の件で魔族の動きが……? 」


 ヘルナーゼが疑問を投げかけた。


 「うむ! 帝国側の情報と擦り合わせれば確実じゃが、やつらの今回の目的は帝国側とは別に人族の領内への侵攻経路の確認じゃな。加えて国境会談のことも知っておったじゃろ…… あの場所は魔族領側からも非常に近い場所じゃしの…… 帝国側では普段より激しい魔族との戦闘が行われているはずじゃ! 遭遇当初こちらに殺意がなく、レッサーデビルを馬車へ嗾けたのも人族の身分あるものを捕えようと動いてたはずじゃ。」


 「たしかにあの時は、慌ててアメリア様を助けるために殺してしまいましたが、言われると殺気らしいものは感じませんでしたね…… 」


 ロサリオも改めて当時のことを思い返すとアルラオネの意見に同意できる節があった。アメリアはただ恐怖しかあの場では感じることができなかったので二人のいう殺気云々は理解できなかった。


 「お二方がそう言うのであればそうなのでしょう…… では魔族側には開戦の意思が高いということでしょうか? 」


 「魔属領側も昔から勢力争いが絶えなかったみたいじゃが、貴族級の魔族にサキュバス族の娘がいたからの大きな動きがあったのじゃろうて…… 」


 「貴族級の魔族ですと!? 少なくともAクラスの魔物と同等以上!! そんなのをアルラオネ殿がいるとはいえ残りの3人はまだ成人前ではないですか…… 話してくれるのでしょうな!! 」


 貴族級の魔族は、1,000年前の大魔王ルツィフェルの時の記録と200年前の魔族戦役の時の記録しかない。200年前の記録の編纂には当のアルラオネも参加している。
 そのことをナーダ冒険者ギルド長としてもちろん知っているのでアルラオネが嘘を言っているとは思ってはいない。


 「儂がこの眼で確認したから間違いないわい!! 子爵級の魔族じゃったよ…… これだけでも大事なんじゃがな。1,000年前の記録でもそうじゃが、200年前も魔族領内でしか目にかかれる代物じゃないわいな…… なので事は200年前を凌駕する可能性があるのではと睨んでおる。」


 そう言って自身が脇に抱えていた書物をテーブルに放る。


 「勇者物語に魔族辞典、神話からの魔族の考察…… これらが一体…… 」


 ヘルナーゼとアメリアはまさか講義が始まるわけではないだろうが、意図が読めずに首を捻る。そこにフリーンが書物を出してきた意図を察した。


 「なるほど、それらに今回の魔族に起きた事象が書かれているんですね! たしかに勇者物語は暈かしていたりしますし、神話からの魔族の考察は抽象的なのと教戒が含まれているので判りにくいですが。」


 「あれを見れば神官なら気づきやすいかの…… これがここにいる面子を最小限にした理由じゃが、貴族級の魔族、名をデカラビアといったかの、魔族辞典にも載っておる…… おそらく襲名、血筋なんじゃろうが神話の時代より存在している名じゃよ!! 」


 「そんな古い魔族の系譜だったんですか…… たしかにあの姿とそこから発せられた種族特性の魔術ですか…… 凄かったですもんね。」


 ロサリオが溜息を付きながら軽く感想をいうと―――


 「アンディーあんたねぇ、あれはそんな生易しい感想で済むもんじゃなかったわよ…… ネジ飛んでんじゃないの!? 」


 ロサリオの感覚がおかしいのではないかと残念な子を見る目でついつい突っ込むマルティーナに


 「当たりがキツイ!! けっこう頑張ったしマルティーナさんも助けたはずなのに…… あの時の笑顔は夢だったのかも…… 」


 「きつくない!! あんたが馬鹿な事ばっか言うからでしょう!! 凄かったって何よ!? 子供の感想か!!! 」


 「いやいやいや、僕たちまだ子供ですよ!? 」


 確かに子供なのは道理であるが、二人とも大人っぽく見えるのでその言い合いは周囲から見ると多少滑稽であるが、まだ話の途中といわんばかりにアメリアの咳払いで二人は言い争いを止めるのであった。


 「お主らは…… さっきから懲りん奴らじゃの。まあその本らに何が書かれているかというと…… 魔族の本当の姿やそれを示唆した描写じゃな…… 」


 その物言いに今回の魔族にどのようなことが起きたかを察することができたヘルナーゼが声を上擦らせながら確認を取ってきた。


 「正直、聞きたくもないし頭も痛くなってきたんですが…… もしや…… 」


 「うむ、恐らく主の想像通りじゃわい! 悪魔堕ちをしてきおった。」





「魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く