魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第22話 男の褒章とは

 マルティーナ達がいた丘の中腹から吹き降ろすような形でデカラビアの放った極光消滅魔術を撥ね返してしまったため、着弾地点から楕円形の窪地、というよりもクレーターと言っていいような規模のものが出来てしまっていた。長さ1km、幅300m、高さが30mにもなるであろう。デカラビアが消し飛んだ時点で魔術も消失したが着弾と衝撃の余波だけでこれだけのものが出来上がってしまっていた。


 「まさかこうまで地形が変わるような戦いになるとは思わなんだ…… まぁ周囲と今後に特には影響がない場所であるのが幸いかの…… 」


 戦いが終わった緊張感も解けてきたのか、アルラオネがため息とともに吐き出した。ロサリオのほうへ振り返り、戦が終了した直後とは思えぬほどの、現状の容姿に見合った優雅な所作で近づいてきた。


 「大変じゃったが、お主がいてくれて助かったわい…… おぉ!? 白髪に戻っておるではないか! まあ色々と聞きたいこともあるが、何にせよ礼を言わせてくれ。」


 アルラオネの言葉にマルティーナは、アンディーことロサリオの髪が魔族の魔術から庇ってくれた時に黒かったことをふと思い出した。


 「ねぇあんた……どういうことよ! なんで髪が黒くてそれが今は元に戻ってるのよ…… きゃっ!? なに!! どうしたの…… 」


 ロサリオは戦闘が終わり、ようやく場の慌ただしさが落ち着いたことに緊張の糸が切れてしまい、真後ろに来ていたマルティーナによろめき凭れ掛かってしまった。
 咄嗟のことであったのでマルティーナはアンディを後ろから受け止め腰を下ろすのであった。


 「すいません…… 実は僕、一月以上全く寝てなかったんですよ…… 昨日は寝たんですがなるべく早く町に出たかったもので、木の虚で休んだだけだったので、全然疲れも眠気も取れずに行動していたものですから…… 流石に張りつめてたものが切れちゃって…… あぁ、マルティーナさん柔らかいし温かくて気持ちいいです…… 」


 「こら…… 脱力して凭れ掛かってくるんじゃないわよ…… もう…… なんでそんな馬鹿みたいな状況になってたのよ……? あんたは…… アルラオネ様、どういうことですか? 」


 マルティーナとフリーンは最後にここに到着したため、デカラビアとアルラオネとロサリオのやり取りを確認してないので何が何やらわからないでいる。
 アルラオネは今までのことからロサリオの状況を察した。


 「あぁ、たしかにこやつはそうであろうの。とにかく戻って合流するかの。ヴァルター辺りはまだそこまで離れてないじゃろうし、戦闘が終わったことは感じ取って部隊を止め確認の兵を送ってくるじゃろう。」


 完全に脱力しきってマルティーナに埋もれているロサリオに神官のフリーンが持ってきた体力回復ポーションを飲ませつつ自己紹介をしていた。


 「はい♪ アンディー様。体力回復ポーションです! 身体が楽になりますよ。」


 「ありがとう。君は最後まで回復に努めていた神官さんだよね! 他の神官が消耗しきっている中で必死に回復魔法を掛け続けていたから覚えてるよ。」


 フリーンはほとんど一瞬しかあの場では顔を合わせていなかったのに、覚えてくれていたことに破顔しつつ介添えながらポーションを飲ませた。


 「神官のフリーンです。まだなって間もない新人ですが! アンディー様のあの大祈祷!! 末席とはいえ教会に勤めるものとして感動を超え…… もう何て言ってよいか…… 」


 「大袈裟ですよ、偶々知っていただけですから…… でも、美人の聖職者さんにここまで言ってもらえると気分いいですね! なんか疲れが取れてきました。」


 マルティーナは現金なアンディのフリーンに対する反応に自分でもわからないが苛立ちが募ってしまい、ロサリオの耳を摘み上げながら文句を言ってしまった。


 「いいご身分ね! 色男さん!! 誰に寄りかかりながら座っていると思ってるのかしらっ…… いいわねぇ、私に凭れ掛かりながら美人の神官さんに世話してもらっているんだ・か・ら!!」


 「いたたたっ…… ごめんなさい、ちょっと調子に乗りました!! 」


 ロサリオは咄嗟に退こうと身体を起こしかけたが、マルティーナがそれを留めて再度自分に凭れ掛かせるようにし、後ろから包み込むように抱きしめて告げた。


 「ありがとう…… 」


 「えっ!? 何ですか? ていうかこの体制!? めっちゃ柔らかい…… 」


 今までのマルティーナとは異なり、非常にしおらしく労わるような態度と口調にロサリオが混乱をしてしまっていた。


 「ありがとうっていったの!! ごめんなさい…… あなたの邪魔をして迷惑を掛ける気はなかったのに…… 助けてくれて嬉しかったわ。」


 首だけで後ろを振り向くと、頬を赤く染め、母性愛に溢れ慈愛に満ちた表情で笑いかけてくれていた。


 「アルラオネさん!! やばいです。マルティーナさんが物凄く可愛いです!! めっちゃ嬉しいんですけど…… 後のことを考えるとなんか怖いんですが!!! 」


 「怖いって何よ! 怖いって!! 失礼ね!!! ふんっ!!!! 」


 「あっ…… よく知ってる僕に当たりがきついマルティーナさんだ。」


 「お二人とも仲が宜しくて面白いですね! ふふふ。羨ましいので私もギュッとしていいですか? アンディー様。」


 「聖職者が何言ってんのよ!? あんたも鼻の下伸ばすんじゃない!! 」


 「のっ…… 伸びてないですよ!! 」


 「後で、色々と説明してもらうからね!? いいっ! 」


 「いやぁ…… それに関しましては…… 色々各所と相談をして、吟味し…… 然る後に善処するということで…… ダメですかね? 」


 典型的な悪い見本の官僚や貴族のようなものいいをするロサリオに先ほどの慈母のごとき微笑みはなんであったのかという、視線で魂すら凍り付かせるような極寒の微笑をマルティーナは浮かべた。フリーンのほうは完璧なアルカイックスマイルで何を考えているか全く読めない表情となっていた。


 若い3人のじゃれ合いを楽し気に見ていたところにヴァルターが送ったのであろう馬に乗った騎士が駆け付けてきた。


 「早かったのぉ、ちょうどそちらへ向かおうと思ってたところじゃわい。おぬし等もほれっ! そろそろじゃれ合いは止めて合流に向かうとするぞい!! 」


 騎士に見られるのに恥ずかしさを覚えて、3人はじゃれ合いを止め立ち上がり騎士の元へ向かい合流のための帰路につくのであった。








 ほどなくしてヴァルター率いる部隊と無事に合流を果たすことが出来た。
 戦闘から撤退まで休む暇もなかったので、騎士をアルラオネのほうへ送る時に部隊を休憩も兼ねて停止していたため、さほど時間もかからずにアルラオネたちは追いつくことができ、アルラオネからヴァルターへ事の顛末を説明した。
 詳細は周りの目もあるので省き、魔族を完全に消滅させたということに終始一貫して報告をした。ヴァルターも魔族の気配が完全に消え去っていることには気づいているので、そのことには疑問を挟まず、薄々察しはついているような雰囲気を出してはいたが、詳細な説明はアルラオネから場を改めてということで納得した。


 「おぬし等3人は今回の殊勲賞ということで、儂が特別にナーダへ連れて行ってやろう。まぁ一刻もアメリア嬢への報告やちょいとギルドあたりから情報も欲しいもんでの。なに、ヴァルターからは許可を貰っとるわい。」


 マルティーナはアルラオネが何をするかを察することが出来たが、ロサリオとフリーンは何が何やらわからず首を捻っていた。


 「アルラオネ様の大魔術…… 長距離転移よ!! 」


 「まぁ長距離転移といっても50kmぐらいの距離が限度でさすがにそこまで跳ぶとこの姿は維持できなくなるがの…… 今回は色々あったもんでナーダが限界じゃわい…… 戦闘でなら無詠唱で1~10mぐらいの距離感を跳んで使う分にはいいんだがの。」


 空間魔法の転移魔法は無属性の中でも最難度である。そもそもの使い手も少なく戦闘で何度も使用するなどできず、短い距離、目と鼻の先とはいえ無詠唱で唱えられるものはいなかった。完全な奇策か奥の手か大道芸魔術である。


 「はっ!?…… いやいや…… そんな魔術、ランサローテでも使い手なんていなかったですよ!! 」


 ロサリオは驚愕を露にして感想を吐露してしまった。思えばこの魔女には驚かされてばかりである。主に幼女の姿との乖離に対してではあったが。


 「250年は伊達ではないということじゃ! まぁあんな乱戦やゲリラ戦が日常茶飯事な所ではよう使えんわい!! その分遠距離からぶっ放しておるほうが効率的じゃろ…… ほれ、いいから早うつかまれ。」


 そう言って右手でマルティーナを左手でフリーンを掴まえて―――


 「ほれ!! さっさと正面から抱きしめんかい! がばっと!! 」


 「えぇぇ!?!? だって今は…… 大人の女性の姿じゃないですか…… 」


 ロサリオは顔を真っ赤にしながら抗議した。さすがに12歳の少年には妙齢の色気漂う大人の女性には免疫もなく、気後れする部分もあり戸惑ってしまう。
 アルラオネは悪戯が成功したことに喜ぶような表情で急かしてきた。


 「今回お主が一番頑張っていたからの。このくらいの役得があってもええじゃろ! ほれほれ!! 」


 あまりここで時間をかけるわけにもいかず、ロサリオは遠慮がちにアルラオネの腰に手を回すのであった。すかさず小声でマルティーナがロサリオに諭してきた。


 「調子に乗ってベタベタ色んなところを触ったりしたら姫様にも報告するわよ!! 」


 「やめてくださいよ!! あんな清純そうな淑女に知られて蔑まれでもしたら!! 」


 マルティーナはあくどい表情を浮かべロサリオに囁いた。


 「ご褒美でしょ!! 頑張ったんだもんね…… 」


 「んなわけあるかぁぁぁああ!! そんな性癖持ってねぇぇぇぇええ!!! 」


 「ええ加減にせんかい!! 隙を見てはじゃれつきおって…… なんか忘れとるような気もするが、まぁ大丈夫じゃろ…… 行くぞ…… -繋げ、私とその地、運命を、時を巡らせ渡らせて、その地の扉を開かせて、四方の境に終わりが来る― 」


 『ラングストレックメタスターザ』


 四人の姿が歪みだす。伸ばし捻じれ混ざり合い、そのまま周囲に溶け込むように消えていった。
 アルラオネはすっかり狐人族の女性の奴隷の首輪の件を忘れてしまっていた。デカラビアを消滅させたことによって奴隷の首輪とデカラビアの間の魔力経路は途切れており、生命の安全上は問題が無くなってはいたので致し方ないことではあった。
 ヴァルターとオリビアは初めて見る大魔術にあっけに取られてしまいしばらく呆けていてしまった。しばらくたってから馬の嘶きに我に返り、休憩を切り上げナーダへと進路を取りはじめた。


 「お爺様、あの少年に対する報告には私も立ち会わせてくださいね。あの魔族からアルラオネ殿がいたとはいえ、五体満足で無事に生還するとは…… 正直興味が尽きませんよ、ふふふっ!! 」


 オリビアは、魔族に切り込みに飛び込んでいった時のような獰猛な瞳で願い出るのであった。 

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