魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第20話 堕ちた悪魔の咆哮

 「まさかここまで圧倒的であるとは…… 」


 アルラオネは周囲に冒険者や街道を利用するものが来ぬように注視し結界を張っていた。自らの魔力を流し、人に不快感を起こさせるように調整したオリジナル魔術、通称人払いの魔法である。
 あまり有用なものとは言えないのと悪用の恐れがあるため世には出していないものである。一部弟子や魔法師部隊のものが知っているに留まる。


 本来の姿に戻る時に魔力は全快するので広域にこの魔法を発動してもなんら問題はない。ただし、昼間に戻ったので、効果が切れた後は1ヶ月は元の姿になれなくはなるのが欠点ではある。もはやどちらにしろここで魔族を仕留めなければ、アルラオネはヴァルターが編成する魔族討伐には参加できない。
 そのアルラオネはデカラビアとロサリオの戦いをただ、眺めているだけであった。


 デカラビアは翼から発生させる鎌鼬の刃を無数にロサリオを襲わせていたが、すべて魔力障壁で弾かれてしまうことに苛立ちを隠せなかった。
 抉り取られた丘や切り払われてしまった木々の断面が威力を物語っている。デカラビアは胸に描かれている五芒星の中心にある目より石化する呪いを放っているが全く効くそぶりすら見せない。


 「そのようなもの…… レベル差があればどうというものではない。」


 人族であればレベル差の大きい相手に対しては、状態異常を起こさせようとするのであれば、対象の魔法防御を下げる、または削る。そして耐性を下げるという工程を踏むもしくは術式にそれらを組み込んでくるので防ぐほうも相当に気を遣う。よしんば防げても攻撃を受けるたびにともにデバフを掛けられ続けたりするので始末に負えない。


 デカラビアより格段に弱くとも、己の武力を研ぎ澄まし、智謀をもって蛮勇を数の暴力で振るってくる人間たちのなんと恐ろしかったことか。それらを昼夜問わず寝る暇もなくさらされ続けてきた身としては、1対1のこの戦いはなんと余裕のあることであろうとロサリオは感じていた。


 「ちょろちょろ飛び回られるのは鬱陶しいな…… それ!! 」


 『グラキエスレーゲン』


 鋭利な氷の雨が広範囲に絶え間なく降ることとなり、デカラビアは散弾のような無数の避ける間もないアイスランスに打たれ続けることになった。
 一つ一つは所詮中級魔法のアイスランスなのでデカラビアの魔法障壁を突破することはできないが、文字通りの雨として襲ってくるので数が膨大であり重く重圧も圧し掛かってくる。
 徐々に障壁が削り取られていくことにも恐怖を覚える。


 「ぐぅぅぅ…… こうも範囲が広く物量が圧倒的だと満足に飛ぶこともできんっ…… なっ!? 足が凍り付く!! 」


 上空からの圧倒的な量のアイスランスに地に落とされてしまった。それだけに留まらず徐々に足から凍り付き地に縫わされてしまったのだった。


 「そろそろしまいか…… まだ理性が残り喋れるうちにいくつか質問をしようか…… 」


 魔術を解除しながらデカラビアに近づいていく。
 ロサリオも遊んでいたわけではなく、可能であれば情報を引き出せるようにするために拘束する方法を考えていた。デカラビアも高速で飛び回り、絶えず風の刃と自身が持っている凶悪的な爪と角の攻撃で簡単には取り押さえることができなかった。そこでわざわざここまで広範囲な魔術攻撃を嗾けることとなった。決して殺してしまわぬよう気を使いながらである。


 そこにマルティーナと神官のフリーンが戻ってきてしまったのである。


 「アルラオネ様! アンディー!! ポーションを届けに来たわ…… 無事!? っ!!! 」


 マルティーナたちは絶句してしまった。丘を越え見下ろしたその光景は、氷で覆われた銀世界にどこか違う世界に迷いこんでしまったかのような現実感が希薄化し、自らがどこにいるのか判らなくなってしまうかのように感じられた。


 「このバカ者どもが!? 何故戻ってきたのじゃ!! 」


 アルラウネが一括し、ロサリオも意識がマルティーナたちに持っていかれてしまった。デカラビアはその隙を逃さず、


 「これが最後の好機か!? ハハハッ!! どうする? 凌ぐことが出来ねばあそこの娘たちが死ぬこととなるぞ!!! ―私はこの国を全く荒す。人族の誇る力は失せ、イグレシアスの山々は荒れて通る者もなくなるであろう!!― 」


 『ダムドラディウス』


 人族への呪いのような呪文を吐き、マルティーナたちへ向かって五芒星の瞳から触れたもの全てを破壊しつくす極光が放たれた。
 デカラビアは、ロサリオがこれを防ぐであろうと敢えてマルティーナたちへ向けて放つのであった。ただ撃っただけでは避けられるであろうことを予想し最高の好機が訪れたことに感謝した。自身の持つ最強の種族特有の魔術である。


 マルティーナとフリーンは視界を覆いつくす光に声を発することもできずに固まり、恐怖心よりも先に死そのものを感じてしまった。


 「くそがっ!! 」


 何とかマルティーナたちとデカラビアの射線上に躍り出ることに成功し、魔力障壁に魔力を注ぎ込こみ防ぐ体制をとることができた。


 (障壁が分解されて掻き消されていく!? 対物耐魔力消滅魔術か!! 厄介な…… )


 マルティーナが目を開けるとそこには自分を庇うために魔力障壁を何重にも展開している黒髪のアンディーの姿があった。慌てて状況に気づき―――


 「黒髪? アンディー…… ごめんなさい!! どうしてもアルラオネ様やあなたにポーションを持っていこうと…… 」


 「いいから!! とにかく動かずに俺の後ろに隠れていろ!!! 」


 先ほどまでと違う強い口調にドギマギとしながら二人とも素直に言葉に従うのであった。


 「無駄だ!! 極光の消滅魔法!! 触れるもの全てを消滅しつくした神話の光である…… 貴様のその余裕もろとも消し去ってくれるわ!!! 」


 「甘いんだよ!! 俺を消滅させたくば、最低でも教会秘匿の大禁呪を持ってこい!!! ―わたしは生きている。あなたが彼らを憎んで、彼らに示した怒りと、妬みにしたがって、わたしはあなたを扱う。わたしがあなたをさばく時、わたし自身をあなたに示す― っっっお前が掻き消えろっ!!! 」


 『レフレクスィオーンラディウス』


 「あれはっ! 教会秘匿のあらゆる悪魔からの悪意を撥ね返す光魔法っ!! 1,000年前の聖女様が使用し、グレゴリオ教皇が部分的にだけ再現することができた大祈祷ではないですかっ!!! 」


 「たしかに、グレゴリオの小童が200年前に使用したが、魔族どもが発していた状態異常魔術を撥ね返すために発動させていたが…… 規模も威力も別物じゃぞっ!! 」


 フリーンが呪文から察し、ヒステリック気味に叫んだが、元来儀式魔術であり個人で発動させることができる類のものではない。
 アルラオネは事実、200年前の対魔族戦役で時のグレゴリオ司教が十代後半の時にパーティーを組んでいたが、神殿構築として発動させていたのは経験したことがあるが、攻撃魔法を撥ね返せるようなものではなかった。しかもそれが神話級の攻撃魔法を撥ね返すなど、文字通りの神話の中でのおとぎ話である。


 フリーンの驚愕は至極当然ではあるが、この大祈祷魔術もフェメス公爵が教会との交渉により取得していたものであり、呪われた魔呪妬と共に得ていたものである。
 フェメスの討伐プランの内の一つとしてロサリオも術式は知ってはいたが、個人で発動できるのは単にロサリオ旗下自軍を含めて100,000以上を殺戮し、人の領域を超えて身につけたレベルのなせる業だった。


 「ばっ…… バカな…… 撥ね返されるだとぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!! 」


 デカラビアは、自身の放った極光消滅魔術に呑み込まれ存在そのもの全てが掻き消えてしまった。ただし、彼の抉り取った目がすべての映像を納め本国に伝えることに成功していたのは、唯一のそして最大の戦果ではあったかもしれない。

「魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く