魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第19話 戦場へ花束という名のポーションを

 「私たちだけ退くなど納得できません!! 」


 マルティーナは憤りと怒りを覚え、立場も忘れてヴァルターへ食って掛かっていた。ヴァルターがアンディーことロサリオとアルラオネを置いて戻ってきたと思ったら、兵をまとめ始めてナーダへ後退を宣言したからであった。
 そんなマルティーナを言い聞かせるようにヴァルターは告げた。


 「いいかマルティーナ、我々は死者は出していないが皆疲弊しポーション類の手持ちもすでにない掻き集めても数個ほどであろう…… お前も感じるだろう、あの魔族はもうここにいる兵だけでは手に負えん! 」


 「でも!! ヴァルター様が退いてアルラオネ様だけでは…… しかもあいつなんか私たちとは関係ない部外者なんですよ!!! 恩人と言っていいあいつを死地に置き去りにするんですか!!!! 」


 普段冷静沈着であり、魔法練度も含めて年不相応なマルティーナの取り乱す姿にヴァルターは逆に冷静になることができていた。
 ヴァルター自身己の不甲斐なさとそれを押し付ける形になってしまった少年に対し、憤懣やるかたない思いを抱いている。ただし、ヘルツォーク公爵領の騎士すべてを預かり、守護する立場としては何より冷静で最善に近い判断をしなければならない。


 「あのレベルはもうすでに災害クラスだ…… ナーダ守備隊をまとめてまずは防備と足止めをせねばならん。儂は、公都で軍を編成してあれを討伐せねばならん!! 一時の感情に流されてここで全滅してしまえば、もうあれがどこまで侵攻し暴力の嵐を振りまくかは想像できん…… もはや犠牲は必定!! であればそれを最小限にするために心を鬼にせねばならん!!! 」


 ヴァルターが拳を血が滲み滴り始めるほど握りしめている。マルティーナは苦渋の決断に必死の形相で耐えているヴァルターを見て言葉の続きを発せられないでいた。


 「オリビア! お前はナーダで守備隊を編成し街の防備とメルダの町からの避難民の受け入れを行え!! 討伐軍が到着するまで決死の覚悟で持ち堪えて見せよ!!! 」


 「了解しました。最速で討伐軍編成などお爺様しかできませんからね…… ではメルダに先ぶれをだしナーダに退くとしましょう。」


 メルダはここから程近いところにあり、規模も小さいので兵も数百レベルでしか詰めていない。先ぶれの兵に町への報告と守備兵の指揮、民衆の避難を任せて一路ナーダへと退きはじめるのであった。


 マルティーナが、自身が持っていた予備の魔力回復ポーションを握りしめ決死の覚悟を湛えた表情をしていると神官のフリーンが傍によってきた。


 「行くのですか。マルティーナさん…… 」


 「止めても無駄よ。半分しかないけど、せめてこの魔力回復ポーションをアルラオネ様に渡せれば、その分攻撃魔法であの魔族を倒す可能性が高まる!! 」


 「あら、じゃぁ私が神官たちから掻き集めた体力回復ポーションと怪我回復ポーションも役に立ちますね! ただ両方とも容量の半分くらいしかないですけどね…… 」


 「あなた……!? 」


 ペロッと舌を出してウインクをしながら言ってきたフリーンにマルティーナは、魔族との戦闘場所について来る気なのを察して驚いてしまった。


 「結界維持は他の神官たちに任せてきました。街までは持たせてくれるでしょう…… どちらにせよアルラオネ様が敗れれば街も討伐軍が到着するまで耐えられるとは思いません。
 賭けましょう…… このなけなしのポーションと私たちの命をあそこに残ったお二方に!! 」


 フリーンも決死の覚悟が固まっていることに何故か嬉しくなる気持ちを抑えることができず、勝気な笑みを浮かべた。


 「いい度胸じゃない…… 女は度胸! 行くわよ!! 」


 その時、大気が振動し、暗雲が魔族たちがいる元へ集まり始め、断続的な地震のように大地が揺れ始めた。馬たちが怯え、騎士たちが宥めるために注意が向いた隙を突いて二人は魔族たちとの戦闘場所へ走り駆けだすのであった。


 ヴァルターはその二人の動きをいち早く気づいたが、決死の表情を浮かべた両者を呼び戻すことなく部隊を落ち着かせ改めて退きはじめる。感情の赴くまま行動できる若さに羨ましさを覚えながら、もし幸運にも生きて戻れることができたなら、烈火のごとく叱りつけてやろうと死地に赴く二人を心の中で見送った。

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