魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第18話 例えこの身を堕としてでも

 ヴァルターが後方へ部隊をまとめに退いた所を確認し、気になっていたこともあるのでロサリオはアルラオネに問いかけを行うのであった。


 「ヴァルターさんがあなたの名前を呼んでいたのでやっと解りましたよ…… あなたはランサローテでも有名です。250年以上を生きている夜の魔女さん! でよかったですよね?
 正直こうしてみるまでは眉唾物の類かと思ってはいたのですが…… できればあなたも退いて頂いてよかったんですよ。」


 「ほう! ならば何故、儂には先ほどそうせよと言わなかったのかの? 」


 ロサリオは肩を竦め苦笑を浮かべたが、その目はアルラオネを射貫きながらさらに確認をする。


 「先ほど、僕らが到着したときに見ていたあの眼がね…… 一瞬ではありましたが僕自身を見透かされるようなあの眼…… 害意は感じませんでしたが気になってしまって…… 何とはなくですが、僕のこと…… どこまでかは存じませんが知られたのでしょう。」


 アルラオネは申し訳ない表情を浮かべながらその問いに答えるのであった。


 「偶然なんじゃよ…… 偶々そこな魔族を視とる時におんしらが来たのでの…… 魔眼を発動させたままお主を視てしまったんじゃ。
 なので、年と属性の種類、レベルはカウント中の途中までしかは視えなんだが…… 」


 「魔眼ですか!? 正直そちらも眉唾物だとは思ってましたが…… ランサローテには魔眼持ちはいませんので。」


 「だろうの。こちらでも大陸全土を探しても数名しかおらんじゃろ! まぁそういうことでの、お主が250年生きて初めて見る5属性持ちだとかレベルは途中までじゃったが、カウントが80を超えたところまでは視えたのじゃよ…… レベルをカウントするときは視始めてから0からカウントしていくのじゃが、あの勢いは…… はてさて、どこまで行くのか…… 」


 ロサリオは脱力してしまった。まさかいきなりここまでばれてしまうことになるとは昨日までは全く予想もできていなかったので、今後の見通し、自らの行動が立てられなくなってしまった。
 かの大魔法師にある程度の強さが明らかにされてしまう以上、隠れて生きるしかないのかもしれない。ロサリオが不安を感じ黙っていると―――


 「まぁ安心せい! 言いふらすつもりはないからの。じゃからちゃんと説明せいよ!! この場を切り抜けてからでよいからの。」


 「えっ!? 僕は助かりますけど、いいんですか?」


 疑問におもい、驚き聞き返してしまった。


 「ただまぁ…… ある程度はヘルツォーク領に留まっておけ!! 便宜は図ってやるからの…… 正直今度は200年前以上の戦争が始まるような気がしてならんわい…… 開戦を前に悪魔堕ちなんぞを見ることになるとはの……
 儂もあれは、200年前に一度しか見たことがないからの。 」


 「なんかアメリア様とマルティーナさんに目を付けられたみたいなんでもうそれはいいです…… はははぁ…… 
 あれが悪魔堕ちですか、今日は眉唾物のバーゲンセールか何かですかね…… 」


 溜息とげんなりした表情をアルラオネに向けてしまった。


 「だあぁぁ!? 一緒にするでないわい!! ほれっ向こうもそろそろ動き出すぞ…… 大丈夫なんじゃろな? 言っとくがありゃ大陸中のSランクを集めるか、ヴァルターに十分な魔法師隊を編成させた5,000以上の兵を指揮させんと手に負えん怪物クラスじゃぞ!? 」


 ここで顕現を終えたデカラビアがロサリオ達に告げた。


 「こうなってしまうと徐々に理性が本能に蝕まれていってしまう…… 最後はどうなるかわからんが、いずれにせよ魔族としては終わりである。
 ならばこそ!! 我が宿願、憤懣と殺人衝動を持って魔族と人族の開戦の狼煙としてくれようぞ!!! 
 さあ!! この堕ちた身が討滅させられるまで、人族を街を国を…… 徹底的に破壊、蹂躙し魔族の恐怖を植え付けてくれようぞ!!! 」


 (なるほど…… 先ほども想いを発露させていたが純粋にすぎるほどの想いの強さを感じてしまう…… まだ幾日も経っていないというのに、何と懐かしく感じることか…… )










 「提案しておいてなんだが……」


 フェメスは一度言葉を区切り、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて再び言葉を発した。


 「お前はそれでいいのか!? この島の悪意をすべて押し付けるというのだぞ! ……これはお前には救いはない。この島を渦巻く脅威と怨嗟を一人抱え込み死んでいくというのだぞ…… 」


 決意のほどはとうに済んでいると言わんばかりに達観した表情に微笑を浮かべて懊悩するフェメスへ応える。


 「兄さん、救いがないことはないよ。もう何百年と続く戦乱で多くが犠牲になった…… これからも犠牲が出ようとしている。過去は、戦乱とはいっても各貴族家の争いが主立っていて、統合、編成されるには至らず泥沼化している終わりのない小競り合いだったけど、統一に王手を掛けつつある僕たちのせいで自領を守るだけだった伯爵以上の上級貴族たちも連合軍を編成し対抗するようになってきた。」


 フェメスとて諸侯から【謀略の黒賢者】とまで揶揄されながら平和を勝ち取るために邁進してきたのだ。ただ、自らの快進撃がかつてない大軍団同士での合戦にまで発展していようとしている。
 過去のランサローテ島の各貴族家の戦いは双方合わせても50,000を超えてはいない。それが既に超えており、多数の戦死者が出てきている。規模が大きくなればなるほど、戦場の近隣への影響、各従軍貴族家の領内の政治、経済、治安、人口に打撃を与えてしまう。


 もはやランサローテ皇国直轄軍など10,000にも満たずバルトロメ公爵軍への編入も済んでいる。皇家の御旗を掲げているのだ。消耗戦に突入してしまえば、中堅どころの兵力を温存している貴族の台頭を許し、戦乱は振り出しに戻る、もしくはそれ以下にまでなってしまう可能性が高い。
 バルトロメ公爵の躍進がランサローテ島全体の戦乱の規模を拡大してしまったといえる。


 統一における最終決戦がティマンファヤ高原にて行う策略はとうに済んでいるが、自軍の膿を吐き出し勢力を温存、敵対勢力をいかに摩耗させるかの算段において悪魔の所業のような秘策を弟に強要する。
 魔王と呼ばれるのは自分のほうが相応しいのではと自嘲的な笑みを思わず浮かべてしまった。


 「ランサローテ皇国はもう国の体を為していない…… 各貴族家が群雄割拠しているのこの国、この島を統一して、平和に作り上げるのは兄さんの仕事だよ…… 僕の願いはこの島から戦乱の世を無くし、平和にすることだけだったから。
 それの一助になるのであれば何も問題ないよ…… 僕の命とそれに巻き込む大多数の命で平和の礎を築いてみせるっ!!」


 大陸にある大国はランサローテの豊富な資源を狙っている。大陸自体は平和であるが、この統一戦で疲弊の度合いが過ぎれば付け込まれる可能性がある。それをそもそもフェメスは恐れていた。
 大国の介入を許さずにおくには、バルトロメ公爵軍をある程度保持しておかなければならない。武力を背景に残った貴族家を併呑、服従させて島の防衛網も維持していかなければならない。


 「……アリアのことは任せたよ。兄さん…… 本当なら戦場に出てくるのは反対なんだけど。」


 「あの娘も不憫であるな…… 我々が今までのように自領を維持するだけの大貴族家として存在していくのであったなら、夢見る少女のまま、皇族の女性には珍しい好きな男の元に嫁ぐ未来もあったというのに……。」


 「謀略を企てた兄さんが言っても嫌味にしかならないよ。」


 アリアに対し第三者的な意見を述べたフェメスに苦言を呈したが――


 「その謀略の加担者で中核のお前が許嫁なのだから、益々あの娘にも救いはないな…… 」


 そう、もはやこの謀略を行い成功すれば、婚約破棄どころか事実上の死別である。内緒にしたとしても戦場に連れてくるので感づくであろう。皇族の立ち会いのもとに行い、すべてが万事うまく事が運べばそこで統一宣言もできる算段であるので、巫女としても名高く、かつ戦場でも役立つ能力を持つ彼女を連れていかない選択はない。


 「今生の未練はすべて置いていくよ。僕は1,000年の平和のために1,000年以上続く恐怖をこの島に植え付ける!! 大陸にも届けと僕の断末魔で覆い尽くしてみせる!!」


 そこには悲壮感はなくただただ己が望んだ未来のために殉ずる覚悟を決めた少年の痛々しくも晴れやかな姿があった……。










 過去を少々振り返ったロサリオには、願いの質や種類はどうであれ、このデカラビアの意気込みに深く共感してしまっていた。想いは違えども、自らの身を破滅させようとも成し遂げたい願いがあったのだから。
 否、煉獄の炎に何度くべられようとも叶えたい願いであるのだから。


 「アルラオネさんは万が一誰かが戻ってきて巻き込まれたりしないように周囲の確認と守備に専念していてください。
 噂に伝え聞くあなたなら、誰が相手でも造作もなくできるでしょう!! 」


 アルラオネはもちろん共同戦線にあたるつもりであったが、まさかあのレベルの怪物に対し自らや周囲の守勢のみに頼られるとは思わず驚愕してしまった。


 「おいおい、まさか一人であれと対峙するつもりかの!? 無茶が過ぎるぞ…… お主の強さの一端ぐらいは魔眼で感じたが、悪魔族と人族ではそもそも種族間でのレベルが違いすぎるぞい!! 仮に同じSでも20は離れとると心得いっ!!! 」


 ロサリオは年相応な、それでいて達観した人ならざるようなものの微笑をアルラオネに向けた。


 「こうして居合わせたのも縁なのでしょうね…… 本当に異なものです。味なものとなるかはまだわかりませんが……
 あの状態の魔族を相手にするなら見せるしかないでしょう…… 双方の疑問に答えますよ…… 身の程を知らない後輩に、先達として、星の深淵にまで堕とされた真の怪物の力を!! 」


 身体強化の魔法であろうか、どす黒い闇よりも濃く深い魔力がロサリオの身体より溢れ包み込んでいく。その圧倒的な魔力密度に大気は震撼し、地震と見紛うように断続的に地が揺れ始めている。
 アルラオネは息をするのも忘れてしまい身体が竦み、固まっていく。


 「それが、貴様の正体か!? 我が一瞬とはいえ感じ全身を総毛だたせたこの魔力!! およそ人とも魔族とも呼べん領域だぞ…… この化け物めが!!! 」


 デカラビアは悪魔に堕ちた自分よりも強大な魔力に恐れ戦きながら、身を竦められ満足に動くこともできず吠えるのであった。


 「我を誰何するか…… 悪魔よ…… では応えよう! 我こそがランサローテの魔王アザゼルである!! 堕ちた身というのであればその深淵の先にて我が待ち構えているというのは必然というものである。」


 白髪を闇色に染め上げながら、我より深き場所に居るものなしと地獄の巷はここに存在せりと宣言するのであった。

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