魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第17話 悪魔が来りて……

 フリーンが神殿構築を試みた少し前に遡る。


 デカラビアが沈黙を破り、ロサリオに対し話しかけてきた。


 「人族の少年よ、最初に君が私の視界に入った時に、全身が総毛だつ感覚に襲われた…… 今は上手く隠せているようだが、先程の戦闘での対処といい私を目の前にしての落ち着きようは、やはり普通ではない…… そこの老兵を見てみよ! おそらく人族では最高峰の騎士であるだろうが、私と対峙するというのは人族にとっては未知の領域であろう、疲労と緊張感に悲壮感といったものが漂ってきているのがわかる。……しかし貴様ときたらそういったものを全く読み取ることができず飄々としている。……何故だ! 何故、私という貴族級の魔族の前で泰然としていられるのだ。」


 「そんなことはないですよ。出来ればこのまま退いて頂けるとありがたいのですが…… お互いにこのような場所での争いは無益でしょう? 」


 ロサリオには、もはやこの部隊は死に体に近いのが見て取れていた。補給物資も尽きているのだろう、神官及び魔法師たちが回復している兆しは見えない。騎士たちも傷の回復は済んだが体力に限界がきている模様であることがわかる。
 しかも、この魔族の雰囲気が異様になりつつあるのを感じ取り、しきりに第六感…… 戦場で培ってきた勘が警告を発している。


 「たしかに無意味な戦いであろう。これはお互いに譲れぬものを賭けた種族間の抗争とは全くもって違う…… 私も本国で馬鹿にされるだろう。 ……しかし! ことここに至っては人族から退くなど断じて許せぬ!! 200年前に辛酸を嘗めさせられ、苦渋に満ちた時を過ごしてきたのだ!! サタナキア陛下亡き後は国力を回復させるために同盟を結ぶなどの耐えがたきを耐えてきたのだっ!! 
 人族を前にこれ以上懊悩煩悶するなど、もはや我が胸臆、我が激情、我が宿願が許さぬわっ!!! 」


 デカラビアは自らの左目を抉り取り、映像記録のための魔術媒体として使用し本国へ送る手はずを執った。自ら脅威を感じ取った人族の存在を後の戦争に生かさせるために……。


 「この身に流れる血に身を堕として悪魔と成り果てようとも、200年の末に積もりに積もった我が万斛の怨嗟を持って!! 人族を蹂躙し、凌轢りょうれきし、虐殺し尽くしてやろうっ!!!」


 バギッ……グギャッ、ゴギャギャギャギャギャ……、ゴキゴキゴギギギギギギギ!!


 デカラビアの身体が作り変えられていく…… 魔族が忌み嫌う悪魔としての本来の姿に。


 純粋な魔族とは、悪魔族といい通常は肌や髪の色、ほんの少し部分的に造形が違う個所もあるが、人族とほぼ姿は変わらない。
 高い知性を有し、人族よりも遥かに高い魔力を持っている。その悪魔族なかでも貴族級と言われる高位の悪魔族には、本来の姿である2,000年以上前の神話の時代に描かれる悪魔としての力を引き出すことが出来るものが現れる。
 ただし、悪魔に身を堕とすと強い本能が先行し魔獣と酷似してきてしまう。柔軟で多彩な魔術運用に多様な魔力属性も無属性と闇属性以外は使用できなくなってしまい、悪魔としての特殊能力がメインとなってしまうため、忌避され侮蔑の対象となってしまう。


 「今しがたあの狐人族の呪いを発動させたが結界に防がれてしまったか…… 人族というのは悉く私の邪魔をするものだ!!
 侵攻経路を人族に洩らさせるわけにはいかん! 後方の雑兵どもも皆殺しだっ!!」


 頭部は鹿のように変化し角が生え、鷲のような胴体と翼に作り変えられていき、胸に大きな五芒星と中心部に目が現れた全長3mほどの殺人に特化した神話の怪鳥ペリュドンの悪魔として顕現しようとしていた。


 「ヴァルターさんは兵を率いて街まで退いてください…… 万一のために態勢を整える必要がありますし、あいつが言っている狐人族の女性はどうも重要な情報を持っているようですしね。」


 「なっ!? 自殺するつもりか!! 」


 さすがに自殺するは乱暴であろうと反論しようとしたところに――


 「そこな少年の言うとおりにおし! ヴァルター、……後は儂が引き継いでやろう。」


 本来の妙齢の美女の姿に戻ったアルラオネが傍にやってきた。


 「あっ!? あれっ!! もしかしてその魔力の感じは…… さっきの幼女ぉぉお!!」


 「アルラオネ!! ……戻ったか。だが、しかしお主が加わっても二人であれの相手は無理であろう……」


 ヴァルターは先ほどアルラオネからAランクの魔族と聞いており、異形の姿への変貌も相俟ってもはや部隊全滅を覚悟したところであった。








 少し余談にはなってしまうが――


 ランク8倍の法則というのが人族間では言われている。Cランクを基準とし、BランクにはCランクが8人、Aランクには64人、Sランクには512人、SSランクには4,096人というアバウトであるが単純な目安が存在する。ただし、これは人族同士での話になるので、魔物のランクになってくると対処人数が変わってくる。
 一般的には、パーティー人数は大体4~6名が多いので6名と仮定すると、Cランクの魔物にはCランクパーティが2つ、Bランクの魔物にはBランクパーティが2~4(Cランクが約100~200人)、Aランクの魔物にはAランクパーティが4~8つ(Cランクが約1,500~3,000人)必要であると言われている。
 魔物の単独撃破を試みる場合は、最低でもレベルが10以上、ランクが一つは上でないとできないと言われており、Aランクには竜種が含まれてくるので、Sランクであろうが実質一人での単独撃破は不可能である。
 これには加護や属性、パーティー編成に戦略が加味されていないので参考程度ではある。運用次第では過去には、Sランクが1人、他はC,Bクラスの戦士100人ほどでAランクの魔物2体を討伐した記録もあるので一概には言えない。1,000年前の勇者はAランク最上位のエルダードラゴンを一刀の元に切り伏せた記録もある。








 「どちらにせよ、あのクラスの魔族相手では、疲労のたまった騎士に魔力の枯渇した魔術師や神官たちでは肉の壁にすらなりえん…… もはや邪魔にしかならん…… あやつらをまとめて速やかに撤退させるなどおんし以外にはできんわい!! 」


 「冒険者でも騎士団でも何でもいいですから討伐軍を編成してください。どちらにせよあの魔族はこのヘルツォーク領からはもう離れることはないでしょう…… 絶対に倒さねばならない相手ですからとにかく急いで下さい!! ……指揮を執る人も必要でしょうから。」


 ヴァルターもどちらが合理的かは分かっている。伊達に数十年も騎士をやり戦場を経験してきたわけではない。時間を稼ぐことが現状では最も優先すべき事項であるのだ。ただそれを成人前の少年にさせることに対して納得ができないのであるが、苦渋の決断で彼らの案を呑まざるを得なかった。

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