魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第16話 とある神官の位階を超えて

 「アルラオネ様! ……1体捕らえたのですが、それがどうやら魔族ではなく獣人族の女でした。我々も魔族は初めてであったので、そういう似た種族かと思ったのですが、戦闘にも積極的に参加してなかったので、捕らえて確認してみたところ、……どうやらイグレシアス山脈の魔族領側に里を持つ狐人族だと言っております。」


 アルラオネはオリビアの報告を聞き、本人を直接確認するべく馬からおり、場合によっては眼を使用することも考慮に入れて狐人族の女性の元へ行き気づいた。
 首におそらく奴隷の首輪が付けられており、魔力経路を確認すると、デカラビアに繋がっていた。


 「狐人族の娘ということだが、あの魔族の奴隷なのか? 」


 「はい…… 実は、狩りや修練に励んでいたところにあちらの魔族が率いる部隊と鉢合わせてしまって、そのまま捕らえられてこの首輪を填められました。私は人族の領内への道案内としてここまで連れてこられました…… 獣人族が使用する山脈の通り道をしってましたので…… 」


 「なるほどの…… それであやつらがヘルツォーク領内に突如として現れたのじゃな。各獣人族の里は秘匿とされておるが、まさか魔族領側にあったとはな…… それでいて元々ヘルツォーク領との関りも持っておるんじゃから、我々の知らん通り道があったというわけか。」


 苦せずして、この娘の協力を得れば魔族の侵攻経路の特定ができることになるので安堵はしたが、人族で流通している奴隷の首輪とは異なる魔力の波動に嫌な予感を覚えた。


 「あの!? 私を助けてくれませんか!! この首輪を外してください!!! この首輪には、主人を攻撃したり、騙したりすると死の呪いが引き起こされるって言われました。反意を持つだけで死にはしませんが、雷撃が発生して全身を貫かれるんです!! ……助けて下さぃぃ ……うぅぅ。」


 「魔族領側での仕様というやつか…… 中々えぐい効果じゃのぅ。主の意思で魔力を流すだけで即座に死の呪いが発生させることもできるようじゃわい。」


 「っひぅ!?!? 」


 そのアルラウネの言葉に狐人族の女性は、声にならない悲鳴を上げ慄いた。外してほしい、助けてほしい、という願望が反意のうちに入らなかったのは幸いであった。それすらを反意と捉えては奴隷としては使い物にならなくなるので道理ではある。しかし、使い捨てにするつもりがなければ、ここまで凶悪な首輪を使用したりはしないだろう。


 「今すぐこの場でどうこうは出来ぬが、戻れたら解呪してやる。何! 奴隷の首輪の魔術理論の根本はどれも変わらんからの。
 なんせ今の人族で主流となっておる奴隷の首輪は、儂が200年以上前に魔術を構築し魔法化して製作したものだからの!! 造作もないわい。」


 アルラオネが製作する前のものは、使用者と製作者側で意図した強制力を持つものであったので、中には非人道的すぎるタイプのものもあり、奴隷の摩耗、生産力の低下、無気力無感動になり、結果としてコストに見合うものでなくなり、200年前の戦争の勃発に伴い、戦争のためではあるが、アルラオネが有用な奴隷運用を行うために奴隷の首輪を一新した。


 まず、死の強制をさせるようなものはできなくなり、主と離れ離れになった際は独自の行動を許すようにした。基本的に主の命令には逆らえないが、死に直面するような内容や奴隷契約時における契約以外の内容の命令は拒否できるようになっている。
 時の王にも掛け合い、法律の政策も行った。奴隷の責任の所在は主に帰依するようにしたので、衣食住及び行動に関する管理責任が問われるようになった。
 契約以外の無茶な奴隷の使われ方がしなくなったため、奴隷の生産力の向上及び価値の増加につながり、奴隷を磨り潰すように運用するものは相当数減ることとなった。


 「ぁぁ…… ありがとうございますっ!! ……もうダメかと…… 」


 「ただまぁ、まだ安心はできんがのぉ…… 何しろ凶悪すぎる仕様じゃ。奴めが今にでも魔力を流せば殺されるからの…… 」


 その言葉に狐人族の女性は再び青ざめ絶句した。今、この場で狐人族の女性に対してできることなどアルラオネにはそうない。策がないこともないが無謀でしかなく自らの領域の範囲外なので何とも判断がつかないでいた。


 アルラオネが逡巡していたところに、200年前に嗅いだ臓腑が捻じり切れるような魔力の波動をデカラビアから発せられてきた。


 「これ…… は!?…… もしや……」


 アルラオネの表情は狐人族の女性よりも青ざめもはや蒼白となっている。200年前にも一度しか味わったことのない魔族の禁忌の魔力波だと感じ取った。


 こちらからでも魔族とヴァルター達が膠着状態に入ったことは視界に入ってはいたが、デカラビアが自らの目を抉り取り、その目に魔術を掛けたのを見て自らの目が捉えた映像を記録し送り飛ばす魔術であることは瞬時に見抜いたが、直後にデカラビアの身体が胸部の中心に目がある禍々しい五芒星が浮かび上がり神話に記される人族を殺すためだけに存在したというペリュドンへと姿を変えていくのが目に映った。


 「あやつめ!! ……魔族の忌むべき禁呪っ…… 悪魔堕ちをしよった!!! もはや一刻の猶予もない、今までと桁が変わる…… あの小僧がどう出るかが皆の明暗をわけるじゃろうな…… 」


 まずは、アルラオネは狐人族の女性の状況を打開させるべく、1人最後まで奮闘していた10代半ばぐらいの神官の女性を呼びつけてその策を強制させるべく強要した。


 「今の今までご苦労じゃったの! そこな神官よ。最後に一つ頼みがある……」


 「はっ! はい!! 何でしょうか!? 私にできることであれば…… 」


 フリーンは神官になってまだ半年と経たない成人前の14という年齢ではあるが、同年代はまだ見習いであるのに対し、冒険者に同行したりなど己を高めるために精力的に神官として活動していた。
 騎士に守られてはいたが、魔族という未知の驚異の中回復魔法を唱え続けていたことによって疲労困憊であるが、魔法師と神官という垣根など超えて、歴史に名を残しているアルラオネに声をかけられたことに対する嬉しさと緊張、驚きが綯い交ぜとなり疲労を一時なこととはいえ忘れさせた。


 「神官になって間もなかろうが聖域魔法は知っておるよな? 」


 「はい! 使ったことはありませんが、もちろん知ってます。……あの、それが何か……? 」


 教会に関係するものであれば、たとえ見習いであろうが知っている魔法である。怨念のたまった場所の浄化であったり、アンデットに直接作用する魔法。大規模な光属性による陣地構築など用途は多岐に渡るものである。司祭級にであれば何かしらは使用できるが、なりたての神官では下級の浄化や傷の回復、下級の状態異常回復辺りが関の山である。


 「あの狐っ娘の範囲だけでいい、神殿構築をしてほしいんじゃが…… できるな!? 」


 「はっ…… い、いやいや…… あれは最低でも司教クラスじゃないと…… 」


 フリーンは首を左右に振り回しながらできないと否定したが―――


 「あの狐っ娘にはの、あの魔族が離れたところからでも魔力を流せば即座に死ぬ呪いが掛かっておる…… もはや神聖魔法の神殿構築で一時とはいえ呪いを遮断させねば防ぎようがない…… おんしがやらねば死ぬことになる。」


 教会の神官位に就くものに対して半ば脅しの物言いではあるが、事実であり神聖魔法に身を置く者たちにしかできない行為のためアルラオネは脅しを辞さない。


 「使用したことも修練したこともないんですよ!! ぶっつけ本番だなんて…… いくら人一人分を覆うだけの小さい規模だからって…… たかだか神官位に…… 」


 「疑念を持つな! ……信じろ!! ……信仰とはそんなもんじゃろぉ、昔の司教だかが言っとたわい。今やらずにいつやるっ!! ……祈りで魔族の呪いから少女を救うなど、これほど神官冥利に尽きるシチュエーションはないじゃろが!!!
 狐っ娘が死んで魔族の侵攻を今後許したら、ことはヘルツォーク領だけでは済まん話になるぞ!? 」


 その言葉にハッと気づかされた。そもそも教会に従事し神官となろうとするものは最初は、人々に安らぎを与えたい、怪我、病気の苦難を救ってあげたいという気持ちから入るものがほとんどでありフーリンとて例外ではない。むしろ他よりも強いからこその齢14での神官位である。事は大陸の平穏がどうなるかの瀬戸際になるかもしれないことに気づき、フリーンは吹っ切れた表情で今の言葉の出所を質問した。


 「アルラオネ様…… 今の言葉は170年前のグレゴリオ教皇の御言葉ですか? 」


 「あの小童の最終的な位階なんぞ覚えておらんわいっ!! ……でどうするんじゃ? 」


 「私は神官ですよ!! やるに決まっているじゃないですかっ!!! 聖職者の位階なんかどうでもいいです…… ただ私は…… みんなが安寧に暮らすのを手助けしたいだけなんですから!!! 」


 (さっきマルティーナさんに魔力ポーションはもらった!! 後はただ祈るだけ…… )


 「神聖魔法は位階じゃない!! どれだけ深く祈れるかだけ!!!…… エリ・エリ・フヨ・ドゥケィッシュァ!!! 神よ、神よ、お願いします、我々の苦難を終わらせ救済を!!!! 」


 光り輝く光玉が狐人族の女性を包み覆い隠すように周回をし始めた。その光景にアルラオネは笑みを浮かべながら―――


 「マルティーナといいおんしといい最近の小娘どもはどうなっとんじゃっっ!! ハハハッ―――そのまま完成させてしまえ!!! 」


 『ベネディクション・デラ・イグレシア』


 狐人族の女性のみを包囲する小さくはあるが六芒星の神殿構築が完成した。自分から嗾けておいて何ではあるが、250年生きるアルラオネとて神官位が神殿構築を発動させたのは聞いたことがない。あらゆる悪意から身を守る聖域魔法、呪い、魔法、物理攻撃を無効化し神殿内ではいかなる悪意も発動させない上位の司教クラスで初めて使用できるような魔法である。


 「神聖魔法は属性としては光であるが、我々が使う魔法とは体系も理論も異なる…… 昔から興味深いのぉ…… 脅威に立ち向かってこその成長か、……どれ、小娘どもが限界を超えて頑張ってきたんじゃ…… 年寄りとておんぶにだっこじゃカッコがつかんわな。」


 悪魔堕ちした魔族に対するべく、本来の姿へ戻るのであった。

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