魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第12話 アルラオネの魔眼

 「勇者召喚!? ですか…… それはまた…… できるんですか? 」


 マルティーナから発せられた言葉にロサリオはただただ驚くのであった。勇者召喚は1,000程前に行われたきりであり、200年前の魔族侵攻時にも行われていない。当時、ティファニア王国の第一王女が巫女性に大変優れ、神話の秘術を体現したとの言い伝えぐらいしか一般には知られていない。
 王家最秘匿事項であり、イグレシア正教会ですら詳細なことは解っていないという状況である。そもそも冒険者ギルドも魔王討伐後に魔王軍残党や戦乱にて溢れ出た魔物討伐のため組織化されていった経緯もあるので、今では大陸中、ランサローテにまで支部を伸ばして情報収集力では類をみないが、詳細な情報は持っていない。


 「大陸には各地に当時の魔王軍侵攻の爪痕が残されているとは聞いていますが、ランサローテ出身からすると、おとぎ話や神話の類の認識なんですよね…… 大魔王ルツィフェルでしたっけ!? 」


 「そうよ! ただ、今回は準備も万全にして早めに行うみたいね。1,000年前は戦乱も中盤に差し掛かり、各地で戦闘が激しさを増していった中での召喚だったから、勇者たちが育つのにも時間がかかり、結果として大陸中央部まで魔族が侵攻…… 勇者側にも多大な犠牲が出たという話だから。
 元貴族ということだし、物語としては知ってるんでしょ!? 」


 当時は魔族の進行に慌てて勇者召喚を行った。王女の巫女としての優秀さも相まって36人の勇者達がこちらに召喚されたが、戦乱厳しくなる最中であり、勇者たちを鍛えるための時間が取れなかった。
 というのも召喚された勇者たちは、最初のうちはこちら側の世界の人間からは驚くほど弱かったというのである。神々からの加護や魔力特性などは世界最高クラスのものを持って召喚されたらしいのだが、いかんせん戦う術を持っていなかったという。


 魔力特性は、各種族必ず無属性は扱え、身体強化がそれにあたる。属性には、木、火、土、水、風、氷、雷、光、闇があり、人族が扱えるものには、火、土、水、風、氷、雷、光の7属性である。
 この世界では最高でも4つの属性までしか持ったものは現れてはいなかったが召喚された勇者たちは全ての属性を備えていた。もちろん個々人の才や得意傾向があったためすべてを満遍なく使用する魔術師はでてはいなかった。この時代は体系化された魔法が少なく魔力運用にて現象を発生させることを魔術と呼んでいた。
 しかも神々の加護を皆有しており、攻撃力、防御力、魔力耐性、異常耐性などにこの世界の人々よりも優れていたので人族の士気高揚は高まり、戦争活躍の期待は高まってしまった。
 それもあり戦時下でもあったため、早々に戦争に投入してしまい戦死者が続発。少数ではあるが戦争より離脱したものもおり、この大陸にて終生したものもいる。


 物語としては、召喚人数や勇者自体の戦死者の数などは王国と教会が秘匿しているために暈かされており、一般的には知られていない。ただし、このことを踏まえて今回は入念な準備と召喚後の育成も考えて早期に執り行うことと王国の最上層部では決定した。


 「貴族とはいえ、ランサローテではおとぎ話の勇者物語程度しか知りませんよ。大体、7属性すべてに通ずるというのが眉唾物じゃないですか!? ……僕自身5属性までしか持っていないのに…… ぶつぶつ。」


 最後のほうは、小声でのボヤキであったためマルティーナには聞こえなかった。


 「ん!? ……最後のほう聞こえなかったんだけどまあいいわ、この世界では個人で持つ属性としては4つまでしか報告されていないしね。
 そろそろ到着するわよ!気を引き締めていきなさい!! 」


 ロサリオも戦場の空気を感じてきたことに気づいてはいたが、どのような状況でしかもどのような立場に置かれるのかに不安を覚えてしまっていた。






 「閣下、アルラオネ様、そろそろ神官達に限界がきております! 」


 オリビアが二人に神官たちの現状を伝えに来た。


 「街道沿いということもあって冒険者や街の守備隊達の軍事行動で安全だからな。毎年恒例の帝国側との交渉会談における行軍でも魔物と少々遭遇するレベルであったから、神官達もなりたてであったり実戦経験が少ないものを連れて行くのが教会側との通例であったからな…… 裏目に出たか…… 携行する魔力ポーションも少ない。」


 護衛隊の編成と装備が裏目裏目に出ていることにヴァルターは苦みを噛み締めるように呟いた。ただし、ヴァルターが言ったように街道沿いというのは魔物との遭遇も少ないのと、この編成で毎年問題は起きていないので仕方がないことではあった。
 むしろまだ犠牲を出していないことこそ褒められるべきであろう。


 「言っても仕方あるまいて、一人若いが骨のありそうな神官もおることだし、騎士たちのポーションを回してよかろう。おぬしもそろそろ出るんじゃろ! 防御は任せておくがよい!! そろそろ前面に食い破られるところが出てくるぞ!! 」


 1時間半以上若干の後退をしつつも押しとどめ、負傷しては退がり回復しては入れ替えるのを繰り返していたため、犠牲は出ていないが神官達の魔力もほぼ底をつき精神的にも肉体的にも疲労が限界にきている。魔力ポーションにも余裕がない状況なのでじり貧である。
 後方の2体の魔族のうちの一人の貴族級ではないほうからときおり魔法攻撃が散発されるがアルラオネと魔法師隊の防御でなんとか被害は出ていない。


 「アルラオネ殿に一つお願いしたい。貴殿のそのであやつら二人を見て頂きたい。」


 アルラオネは魔眼持ちである。その能力は対象、主に人物を深く見通す眼である。魔眼には複数の種類があるが、発現したとしても1種である。そもそも魔眼自体を発現させているものなど世界でも数人しかおらず、ランサローテ島には存在していない。研究自体進んでいないこともあり一般にはあまり知られていないことでもある。アルラオネも自身の魔眼を研究対象として国に発表しているに過ぎない。


 「人使いがあらいのぉ。けっこう今儂、頑張っている最中なんじゃが…… 」


 「敵方の探知ミスとレッサーデビルの件をチャラにしますよ。公爵と国王には私が報告しますので、研究費などが削減されては貴殿も困るでしょう。」


 レッサーデビルの件はアルラオネだけではなくヴァルターにも責任問題がかかる内容ではあるが敢えて流してアルラオネにプレッシャーを与えてきた。


 「ぴょっ!? 幼女を脅すおっさんというのは絵面的にまずくないかのぉ…… まぁおんしの立場でそういう頭の柔らかいところは中々好ましいがの! 
 では幼女はおっさんに圧力をかけられ震えながら頑張るとするかの。」


 ヴァルターとしては、アルラオネのような250を超える不可思議な生き物に言われても何と反応していいのか非常に困るところではあるのだが―――


 「ではお爺様! オリビアも前面に出て参ります!! アルラオネ様があの魔族2体を見てお二方で方針を判断したら騎士達へ指示と今からの指揮をお願いします。」


 いうや否や前線に駆けつけていった。今までは大枠の指揮をヴァルターが執り、オリビアが部隊指揮を執っていたが本来の総指揮官であるヴァルターへ移譲した。経験のためにオリビアに指揮を任せてはいたがそつなくこなしヴァルターとしては満足に足るものであった。


 「ではアルラオネ殿お願いします。諸君、オリビアに続き少しづつ押し上げていき鶴翼へ移行せよ! 包囲するなよ!! 魔族どもの退路は確保しておけ!! 」


 「逃していいのかの? 」


 「犠牲も厭わないのであれば殲滅戦に移行もしますがね…… あの後ろの2体だけでも逃げてくれたほうがどこからこの領内へ侵入したかもわかるかもしれませんし、別動隊の有無も探れるでしょう。
 ちなみに眼のほうは? 」


 ヘルツォーク公爵領内への侵入経路は是が非でも知るべきことであるためこの遭遇戦後の調査のためにもあらかたの方角でも知っておきたい事項であった。


 「もう発動しておるわい! もちっと待て!! ……どれどれ、一番後方の紫色の肌をしたやつが子爵級じゃの!? ……おぉぉ300歳を超えておるわい、Aランクといったところじゃ。そやつの前にいる羽の生えた側頭部から巻ヅノの女子の魔族のほうはBランクの男爵級か…… おぉ! 読み違えたわい!! 種族がサキュバスか!? しかもまだ若いな!! 20歳と見えたわい!!! 
 サキュバスがこう前面にでてくるのはちと稀じゃのぉ…… あやつらは一般的な魔族を従え魔獣を操り後ろでふんぞり返っておるような種族であるからな…… たしか200年前は純粋な魔族どもとは派閥が違っておったぞ!? ……どういうことじゃろ? ……ただまぁ、ちとまずいかのぉ…… 」


 最後のほうは言葉を濁したが、ヴァルターにもそれは解る内容であった。Aランクの魔族と対峙するにはAランクのパーティーが2つ欲しいところであり、加えてBランクのサキュバスとは正直厳しい状況である。しかもサキュバスは種族特性として魅了を使うので、男性メインの騎士団ではすこぶる相性が悪い。
 何とか、サキュバスをアルラオネに抑えてもらって、ヴァルターとオリビアではあの子爵級の魔族には正直、あたる枚数としては1枚も2枚も足りない。
 せめて自分と同レベルが1人欲しいと考えてたところに、マルティーナが戻ってきた。その時に何気なくアルラオネは、魔眼を発動させた状態でマルティーナの後ろに跨る少年を見てしまったのであった。
 その対象を見通す魔眼にて……
 

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