魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第11話 剣姫は興奮して辺りを窺っている

 「神官たちは最後尾に下がり、負傷した騎士達の治癒だけに専念してくれればいい!! 」


 オリビアは神官たちに指示を出しながら戦場を俯瞰するように見ていた。
 20体ほどの押し寄せてきた魔物たちを中隊歩兵陣形を街道に布陣して押し留めている状況である。街道にて80名ほどの騎士達なので広くは布陣できないが、厚みをもって受け止め、負傷したら下がり後ろの兵と入れ替えている。神官から回復魔法を受けた後、また後方に詰めるのをこの一時間ほど繰り返していた。
 そこに近衛騎士団長であるヴァルターが声をかけてきた。


 「どう見るね? オリビア、あの魔族たちと魔物の動きを…… 」


 ヴァルターは齢50を超えており、騎士としては老境に差し掛かっているが、未だ眼光、体躯共に全く衰えを知らず、大陸きっての猛者として有名を轟かせている数少ないSランククラスの騎士である。戦場をするどく睥睨しながらオリビアに問うてきた。


 「当初我々は、魔族どもが魔物を配下において引き連れてきたと思いましたが、どうも違うようですね。魔族どもの脅威におびえてこちらへただ逃げてきただけのように感じます。
 魔族どもも戦闘に加わらずに後方で待機して状況を探っているだけのようですし…… 我々とかち合わせてこちらが消耗していくのを待っているのでは無いでしょうか?
 向こうもうかつに戦闘に加わり、我々と魔物との混戦になるのを避けているかと思われます。」


 オリビアはヴァルターとは対照的に年齢はまだ16歳と若く、二人親密に並んでいると祖父と孫のように見えるが事実である。
 身体強化の魔法しか使えないが、剣技の冴えはヴァルターに次いでほかに並ぶものはなく、戦闘時はストレートの青みがかった烏の濡れ羽色の髪をサイドテールシニョンに纏め、細く引き締まった身体に端麗な美しさも相まって剣姫と呼ばれている。


 「まあこちらも時間稼ぎが目的ではあるから今の現状は願ったりかなったりといったところではあるが……
 アメリア様達が気にかかるな。レッサーデビルをおめおめと向かわせてしまったことといい、魔法師団長とかいう肩書のくせに探知などに全く役に立たなかったこの8歳くらいにしか見えん、子供なのかババアなのかよくわからん生き物が非常に気にかかるな。」


 若干の怒声を込めて隣の馬上であくびをしている幼女に見える妖女じみた魔法師団長ををねめつけて言った。


 「んあっ!? ババアとはなんじゃババアとは! こんなプリチーな見た目の子供がババアなわけないじゃろが!! この小僧っこめが!!!! 」


 「齢50も過ぎて小僧呼ばわりされるとは思いませんなんだなぁ…… さすが250は生きる妖怪は言うことが違う、儂なんぞ100まで生きても貴殿には小僧呼ばわりされそうだ。」


 「大体のぉ、あんな弱いのは儂の探知には引っかからんわい!! しかも殺気もないときている。大方アメリア嬢を攫うとかそんなレベルのつもりであろ!! 命の危険はそうないわい。」


 さらっとこの軍では大問題どころでは済まない、全員首をくくるレベルのことをこともなげに言い放った。


 「それにの…… 多分あっちは大丈夫じゃわい。250年生きた儂の感がそう告げておる。おぬしも感じておるからそう平静にしておるのじゃろ!?
 場の雰囲気とでもいうものがそう言っておるわい。」


 「感や雰囲気などと漠然といったもので軍は務まりませんが、飛翔型の厄介さが身に沁みましたよ。さすがに魔物とは動きや行動が違う。」


 オリビアもヴァルターの意見には同意する。魔物であれば基本的に本能で行動するので至極読みやすい。目の前に獲物である人間がいて牽制攻撃をかけつつ即、離脱行動をとれる魔物などいないだろう。


 「まぁこの儂も魔族なんぞを目にするのは200年ぶりじゃからのぉ…… 10体中いかにもやばそうなのが2体おるわいな。一当てしてみて反応でもたしかめるかの!! 」


 「おやめください! アルラオネ様!! 街道が破壊されたら困ります。そうなったらお一人で直して頂きますが…… さりとてこのままでは兵たちに休んでいるように思われるのもしゃくなので、ふむ…… 斬ってきてもいいですか? ……ハァ、ハァ!! 」


 オリビアは魔法師団長の幼女を嗜めはしたが、初の魔族に遭遇したことで戦意が高揚し斬り結びに突貫したくてたまらない様子を見せていた。


 「お前んところの娘っ子…… なんだか危ない感じに仕上がっとるがええんかの? 」


 鼻息荒く戦場を食い入るように見つめるオリビアを引き気味に見ながらヴァルターに囁いた。


 その容姿端麗な見た目とは裏腹に、剣を一度握らせれば例え単騎であろうが魔物の群れに襲い掛かり悪鬼羅刹のごとくのように斬り舞う姿を討伐任務で見ている面々は、味方でさえ戦々恐々としてしまう面をオリビアは持っている。


 「オリビア落ち着きなさい!! 何も考えずに魔族に突っ込んでも一捻りにされてしまう……。
 そうでありましょう…… 200年前に帝国側から侵攻してきた魔王を討伐したパーティーの大魔法師殿。はてさて今回の魔族の我々への訪問は何だと思われますかな? 」


 そもそもが魔族たちがどこから領内に入ってきたかが不明であり、この200年間魔族がヘルツォーク領で目撃されたことさえ皆無である。


 「そもそも貴殿は姿でどこまでやれますかな? 」


 「上級魔法ぐらいなら問題なく使えるがあまり長くは持たん…… 本格的にあやつらと対峙しようとしたらちときついのぉ…… ほれ、あらかた魔物どもが片付いてきたぞ。」


 魔物自体はヘルツォーク領内でしばしば見かけるタイプであり、軍事行動の一環でえる討伐任務で慣れている騎士たちは人海戦術で圧倒していた。
 負傷しては下がり、後列と交代し回復してはまた戦線に復帰するのを繰り返しているので身体膂力や爪に牙といった人間にはない武器を持っていたとしても徐々に押し込まれていき討伐されていった。


 「魔族どもも一枚岩ではない。かつてものぉ、魔族どもは4つだかそんぐらいの派閥に分かれて勢力争いをしていた中での侵攻じゃったわい。1,000年前に…… 区別するために大魔王と呼称するが、かの大魔王ルツィフェルが滅ぼされて以来、勢力争いが激しいそうじゃ。200年前は勢力図を拡大させるためにこちらの領域へ侵攻してきたそうじゃったが…… そもそも魔王認定されたのも討伐後じゃったからのぉ。きゃつらめも自身をたちの親玉を魔王とは呼んでおらなんだが…… ひとまず置いておいて、おそらく今回も同様でそのための威力偵察が目的であろ。
 魔族どもも動きを決めかねておるわい。」


 「こちらの第一目的は時間稼ぎですからな。陣形はこのままで様子を見るとして…… 防護は任せて構いませんかね? 」


 「ええじゃろ! こと守ることに対して魔法式を研鑽してきたことにかけては人族に一日の長ありと見せつけてくれよう!! ……ただし後方にいる魔族2名は別格じゃ…… あの2体が動いたら儂特性の防御魔方陣でも長くは持たんかもしれん…… 引くか、本格的に交戦するかよぉ考えとけ。最悪儂も元の姿へ戻って対処に当たるかもしれん…… まだ日も陰らんうちにやると後が相当きついんだが仕方なかろ…… 」


 「それほどの相手ですか!? 」


 相当に強いと自分でも感じてはいた魔族たち2体を大陸最強の中に必ずといっていいほど名前が挙がるアルラオネをしてそう言わしめるほどの相手であると認識を改めることにした。


 尊大な態度で知られるアルラオネの控えめな助言に内心驚きはしたが、助言はしっかりと受け止めヴァルターは、この守備的陣形を維持しつつアルラオネと魔法師5名による陣形全体を包む防御魔方陣構築を指示。
 確認のため、魔族たち各個体の情報をアルラオネから聞き出した。


 「前側におるやつら8体は、魔族領では一般的な部類のやつらじゃな。要は魔物が知恵を持ち人型に変化して固有化した種族ではないかと研究者は言っておったわい。多種多様でいちいち種族はメジャーどころしか思えてはおらんしまあええじゃろ。
 強さの感覚はおんしのほうが騎士の感覚的なよくわからんやつで何となくわかるじゃろ!! 」


 その乱暴でむしろアルラオネの感覚的なもの言いに苦笑し、


 「まぁたしかに、魔法師1名を加えた5~6人の部隊で何とかといったところですか。儂一人でも問題はなさそうですが、あちら2体は勘弁してほしいものですなぁ。」


 「そう謙遜するではないわい。最悪おんし一人に時間稼ぎをしてもらう必要もあるからの…… そこらの騎士では荷が勝ちすぎるわい。
 まぁおんしの読み通り、後の2体はいわゆる純粋な魔族と言われるやつらじゃな! ほれ、1,000年前のおとぎ話の時から言われておるじゃろ…… 貴族級と一般及び従者級というやつじゃな。
 やつらは知識も知恵も人族と変わらんしそれどころか長く生きる分高いが、強さ第一主義じゃからのぉ…… やつらの一番奥にいる奴は間違いなく貴族級じゃ!! 」


 200年前の魔族侵攻戦の時に魔族から直接聞きだした情報を伝えながら、改めてこのふさけた姿をしている魔法師団長に初めて敬意の念を抱いたかもしれなかった。


 「なるほど…… では人族は過去どのように戦い、打倒していったのですかな。」


 アルラオネは昔を、いや、人族のことを思い浮かべながら苦笑しつつもこういうのであった。


 「それはもちろん…… どの種族よりもずる賢いところじゃろ!? 」

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