魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第9話 馬上で私を掴まえて

 結局マルティーナが報告に向かうということで副官を説得した。馬も戦闘で傷ついたものも数頭おり、アメリアの回復魔法で正常な状態に戻っていたが、余分には連れてきていないので、マルティーナが乗っていた馬にアンディーも乗ることになった。


 「行くわよ! あっっ…… へ、変なところ触るんじゃないわよ!! 切り落とすわよ!!!! 」


 「何をですか!? 何を!! わざとじゃないですよ…… 」


 たまたま飛び乗る時に女性的な柔らかさをもった箇所に触れてしまい、マルティーナは激高した。その様子を見ていたアメリアは氷点下の視線を二人に向けていたが、幸か不幸か両者は気づかずに走り去っていった。


 「ナニに決まっているじゃない。」


 穏やかに微笑みながら言った最後のセリフは、男を竦みあげさせるのに十分な威力であった。


 両者落ち着いたところで、マルティーナは腰に手をやり、納まりが悪そうにしているロサリオへ質問してきた。


 「ねえ、あんた年はいくつよ? 」


 「ん、年ですか!? 12歳ですよ。今年の夏の終わりで13歳です。そういえば、マルティーナさんとアメリア様はおいくつなんですか? 」


 「12!! てっきり15くらいかと思ってたわよ…… 私も姫様も12歳よ! まさか同い年とは…… ていうか、何、しれっと女性に年を聞いてんのよ!! 」


 「いやいや、いいじゃないですかその年齢で年を聞かれるくらい…… って僕のほうがびっくりですよ!? お二人は絶対10代半ばだと思ってましたから、普通12の女の子ってもっと子供子供してません!? 」


 「あんた自分のこと棚に上げて何言ってるの? アメリア様はあんたのこと年上だと思ってるわよ。それよりも、あんたがレッサーデビルに使った魔法…… あれって何? 」


 マルティーナは、かねてより気になっていたレッサーデビルを地に叩きつけ地面に縫わせた魔法を問いだたした。


 「あぁ、あれは風の魔術ですよ…………。」


 「ってそれで終わりなわけ!! もっとこうほかにあんでしょ…… てか魔術って…… こっちの大陸ではめったに見ないわよ。」


 アンディーことロサリオからしてみれば、特にどうこういうレベルの魔術ではないのだが、イグレシアス大陸では魔術は珍しく、体系化された魔法を学ぶものがほとんであった。


 「魔法のほうが速射性に優れてますし、平野部での戦ではたしかに主流ですよね。ただ実は、ランサローテでは割と魔術がポピュラーなんですよ。ゲリラ戦も多いのと、魔法をしっかりと覚える前に戦に駆り出されることも多いですし…… 魔族も少数ですが集落もあり、交流があるので、傭兵をする魔族も少ないですがいるんですよ。彼らから魔力運用をだいぶ昔に教わったっていうのもありますので。」


 魔族との交流があることにマルティーナは驚いた。こちらでは、魔族は1,000年前の勇者の話や200年前の魔族戦役、後は神話でしか聞かない。いわゆるおとぎ話の世界だ。


 「そう聞くと正直悪いと思うけど、人外魔境に思えるわ。」


 「ははは…… しょうがないと思います。この大陸は平和みたいですからね。」


 感慨深くそのセリフを吐いてしまった。あの島での憧憬がこの大陸にはあったのだから。


 「元貴族とはいえ、ランサローテ島では12歳であそこまで戦えるのが普通なの? こっちじゃまず考えられないわよ…… 」


 「マルティーナさんも12歳じゃないですか!? 」


 「うるさい!! 私は、たまたま魔法師団長に孤児になりそうな時に拾われたからスパルタで鍛えられたの!!! いいからあんたのこと話しなさいよ!!!! 」


 年齢の件についてマルティーナ自身も例外の範疇なのだが、そこを突っ込まれて話があやふやにならないように半ば逆ギレ状態でアンディーを怒鳴りつけた。


 「まぁ隠すようなことでもないし、調べればあの島のことなんてわかると思いますから言いますよ。っていうかあたりめちゃくちゃきつくないで――」


 肩越しに思い切り睨まれてしまい一旦口を閉ざし、質問されたことに答えだした。


 「あの島では、戦乱がもうずっと何百年も続いていますので、8歳くらいから各村落や街でも魔力の使い方を習うんですよ。
 まずは、身体強化を学んで武器を一端に振るえるようになるのが10歳くらいです。でも、村や街で体系化された魔法なんかは基本学べないですから、そいうのは各貴族家や皇都の学院に通わなければまず無理ですね。
 でも、昔、魔族に魔力の運用を教わった人たちが結構いたみたいで、連綿と各村や街では受け継がれているので、初級レベルくらいの魔法は生まれ育つところで使えるようになります。あとは魔力運用で個々人の魔術へと戦いながら変化していくんですよ。まぁ魔術自体も教わりはしますが……
 戦乱から生き延びて故郷へ帰りたいという願望からの発展ですね…… 強ければそれだけ生き延びられますから。
 他にも理由はありますが、貴族家が群雄割拠していますからね。12~3歳で初陣なんてざらですよ!?しかも配属が最前線だったりすることもあるんですから。
 実際に僕は、初陣が約1年前の11歳でしたから・・・。まぁ初陣で敗れてその後、一族郎党死亡扱いになり、戻るところも無くなったので気ままに旅をしていたんですけどね。」


 一応、最後にアンドラス・ティアスとしての足跡を軽く付け加えておいた。


 「まさに戦鬼乱舞する島といったところね…… じゃあさ…… 」


 ランサローテ島の年端もない子供たちの環境に驚愕の念を露にしながら、マルティーナは問いかけてきた。それこそ、よく知っていることであり、知りたかったことを。


 「ランサローテに魔王が出現したことをあなたは知っているかしら?…… 」








 (やはり大陸でも知られているのか!? 昨日の6月10日に国境で会合があったと言っていたから、やっぱりこちらに飛ばされてからまだ1日しか経っていない。ギルド経由の情報だろうが、どこまで伝わっているか確認したいな。)


 「3週間前に立ち寄った街で聞いたくらいですね。僕は、冒険者ギルドに登録しているわけでもないんで詳しいことは知らなくて、半分眉唾物ではないかと思っていたんですが…… 」


 「あなた冒険者じゃないの!? てっきり登録ぐらいしているものだと思っていたけれど。」


 「ランサローテは戦乱さなかでしたからね、冒険者として活動するよりも戦に出ることのほうが多いから、あまり冒険者の数は多くなかったみたいですよ。それよりも…… 」


 人手は、大体が戦に取られるので、村や街の若者が冒険者になることは少ないのと、自警や貴族領軍での行動で得た魔物の素材などは、領内にある商業ギルドに納入したりするし臨時的な給金もでるので、そもそも冒険者になるものも少ない。
 大陸から腕自慢や無謀な冒険者が渡ってきても大陸よりも強い魔物や戦に巻き込まれて消息を絶つものも多かった。
 ただし、慢性的な人手不足ではあるが、ランサローテにも数か所冒険者ギルドは存在するので、島の状況などは、大陸の各支部や本部に伝達されているのである。
 しかも、本部や支部には、水晶球を使用した長距離伝達の魔道具が設置されているので情報速度は速くかつ、各所での現場からの情報なので精度も高い。
 情報伝達の速度や網羅性ではギルドに勝るものはなく、王国や帝国等各国も提供を受けているので皆ギルドへ便宜を図るのである。もっとも、提供を受けるのは表の情報であるので、子飼いの諜報機関の確立やギルド支部長クラスへの懇意的な渡りが必要にはなるが。


 ロサリオは先が気になるのでマルティーナを促した。


 「ギルドから情報は逐一きているからヘルツォークでも軍や政務に携わる人間には有名よ。
 10万の軍勢にたった1体で渡り合っているそうよ。しかもその10万の軍勢のクラスが普通じゃない!!。Cランク50,000、Bランク30,000、Aランク10,000にSクラス100人・・・後方支援に10,000なんて、1体の魔族に対してそれこそ神話でさえ聞いたこともない!!。
 知ってるかしら!? この大陸中でもSランクに相当する人間なんて20人いないのよ!! しかも、CランクはまだしもBランクレベルの騎士を30,000人も揃えられる国なんて四大大国でも怪しいわね。数は揃えられても質までは問えないわよ…… 」


 実は、此度の魔王討伐のために布陣された軍勢の強力さに大陸全土は圧倒されていた。大陸屈強とされている軍事大国であるグランクルス帝国の最大可能動員兵力数は300,000~400,000、国土豊かで広大なティファニア王国でさえ500,000である。


 「そんな大規模な戦闘になっていたのですか!? では無事に討伐されたのですか? そもそもギルドが魔王認定なんて普通じゃないですよね!! 」


 誰よりも状況は解ってはいるが、アンドラスと名乗っている身としては聞くより他は無かった。こう聞くことで、大陸の把握状況を知りたいというのもあった。


 「討伐戦が始まってからもう一月以上たつけど、未だに魔王討伐の伝達はないみたい…… ただし、5日前に冒険者ギルドのヘルツォーク支部に入ってきた情報によると、討伐軍80,000以上が戦死との報告よ。
 今回の会合のための移動でそれ以降はまだ聞けていないけれど、最終的には戦死者は90,000を超えるのではないかといわれているわ…… 惨敗の様相を呈しているけど、まだ戦闘は終わっていないみたいよ。
 2週間前に戦死者数が50,000を超えたところでギルドも魔王認定したそうよ。この状況だと1,000年前の魔王と同等か超えるランクがつけられるかもね。
 1体でこの惨劇ですからね、見た目は黒髪で人間に酷似しているそうよ…… そういえば面白いうわさ話を聞いたわ。」


 (黒髪!? ……今は白髪だけど、当時は少し赤みがかった金髪だったはずなのに、どうしてそんな報告が…… ギルドも毎日かほぼそれに近い頻度で情報を送っていたはずだし…… )


 「うわさ話ですか?…… 」


 不穏なものを感じ取り、前のめりになりながら聞いてしまった。馬上でそんなことをすれば非常に密着する体制となり―――


 「ぐほぉぉっ!!!! 」


 「近いわよ!! この変態!!!! 」


 マルティーナの後頭部の頭突きを食らってしまい、反動で馬から落ちかける状況となった、何とか落ちるまいと両手を伸ばしてマルティーナの身体へ必死に掴まったが、そこは女性特有の―――


 「きゃぁぁぁぁあああああああああ!!!!! どこ鷲摑みにしてんのよこの変態! 変態!! 変態!!! 」


 「ごめんなさい! ごめんなさい!! でも不可抗力だよ!!! 痛い痛い痛い痛い!!!! 」


 涙目になりながらマルティーナは肘打ちを繰り出すのだった。






 

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