魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第1話 累々たる屍の向こう側



 ティマンファヤ大森林の手前にある高原にて布陣し、魔王討伐に臨んだ総勢10万の軍勢は壊滅したと言っていい状況であった。
 冒険者ランクで表すと、Sランク100名、Aランク10,000名、Bランク30,000名、Cランク50,000名、その他後方支援等で10,000名、Sランク42名及び後方支援部隊4,000名以外はほぼ全滅した状況である。


 ランサローテ島は魔境。これは、イグレシアス大陸の住人であれば皆共通して認識していることである。500年間、各貴族家が島の覇権を争い群雄割拠犇めく様相を呈していたからであることが大きいのと、魔物のレベルが大陸に比べ高かいことが要因し、古代竜を始めドラゴンの巣が多いことにも起因していた。
 事実、大陸ではSランク級の冒険者及びその強さに比例する騎士などは、20名にも満たないぐらいである。その各冒険者や騎士の屈強さ、それらが争い続けているからこその魔境といえるだろう。


 「魔王討伐は完遂した、ランサローテ全体は兵力が摩耗し、もう各貴族家で相争うのは不可能といえる状況だろう。」


 魔王討伐の総指揮を行ったバルトロメ公爵家当主、フェメス・サン・バルトロメはこの大惨劇をも謀の一部とし、統一に向けて邁進することを一人静かに誓うのであった。


 「さあ姫、皇族に連なる随一の姫巫女よ。死者への哀悼と生き残った戦士たちへの祝辞をお願いします。これをもってこの戦いは終わりを告げましょう。」


 フェメス公爵に声をかけられたのは、齢12歳になるまだ戦場にいるのに違和感を覚えるような少女であった。
 貴族家は金髪が多いが皇族の血が濃いものは赤金髪が多く、アリア・アレシフェ・ランサローテも鮮やかで香るようなストロベリーブロンドを腰まで優雅に伸ばし神々しさに拍車をかけていた。


 「よくも涼しげな顔でそのようなことが言えるものですわね。ロサリオ様、弟を魔王として仕立てあげ、これほどの死者をだしてまで。」


 もはや怒りを通り越し顔面が蒼白になるほどの形相でフェメスを睨みつけていた。
 ランサローテにおいて皇族家に力はなく、時の有力貴族家の旗頭として利用されるのみとなっており、バルトロメ家としても例外ではなく、また、公爵家と皇族家であるので古くより交流があり、魔王として討伐されたロサリオとアリアも同い年であることから幼少の頃よりの付き合いであった。
 バルトロメ公爵家は、事実ランサローテ統一に向けての最有力家であり、齢12歳でバルトロメ公爵家軍総指揮官を担っていたロサリオとは婚約の話も上がっており、アリア自身望んでいたことである。


 「何故こうまでなってしまったのですか? 政治と軍事に優れた兄であるあなたと武力と軍事に優れた弟であるロサリオ様がいて何故!!」


 戦闘開始から今まで、アリアからはとめどなく流れでる涙をもうぬぐう気力もなくただ、何故と問うことしかできないでいた。
 諦念を湛えた目で戦場を睥睨しながらフェメスは力なくアリアの問いに答えた。


 「ロサリオは優秀すぎた。個人の武の才は歴史上比類ない、1,000年前にイグレシアで召喚され魔王を討伐した勇者たちよりも優れていたのではないかと兄ながら、そして従属貴族家たちも思ったはずだ。
 私には、武才はないが政治力は他の追随を許さなかった。我ら二人がいたから島統一にあと一歩までこれたのだが……」


 政治、交渉における鬼才とまでよばれたバルトロメの賢者の顔はそこにはなく、ただ後悔の念を湛えた22歳という年相応の青年の姿がそこにあった。


 「ロサリオは未だ12歳だった…… 周りはこう考えた。
 政治力は後からでも付けられる。我ら従属貴族家で補佐をすればいい、フェメスではなくロサリオが統一王としてなれば、その後の影響力は補佐した我々が握ることができる。
 バルトロメ公爵家が二つに割れるのは秒読みだったのだよ。」


 「何という愚かなことでしょう、この島は呪われている。あの方は私におっしゃいました。
 何故大陸は平和なのにこの島は皆が争っているのだろう?覇権やどこの家が憎いなんかより明日食べるご飯やどうやって遊ぼうか考えるほうがずっと楽しいのに…… と。
 8歳から冒険者登録をし、戦場を駆け抜けながら平和を模索してたロサリオ様が魔王として討たれるなどと、およそ人の世界の出来事とは思えません。」


 滂沱の涙を流し慟哭を訴えるその姿はこの島を呪わんとするものであった。


 「だからだよ姫、わが公爵家が二つに割れんとする中でも平和を切に願っていたからこそ魔王となり皆の意識を一つにまとめ上げなければならなかったのだ。」


 事実、この疲弊したランサローテをまとめ上げ国力を回復させる政治手腕はフェメスをおいて他にはないであろう。だからこそ才あふれる兄弟は互いに共謀した。
 例え、不倶戴天の敵になろうとも、幾万の人々犠牲にしようとも、ランサローテに平和あれと。500年に渡る戦乱により鬱積としている人々に1,000年の祝福を願って……。
 少年は魔王として討たれたのであった…… が…… 。
 

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