魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第2話 龍脈転移

 魔王討伐戦が始まって既に1ヶ月以上たっていた。ティマンファヤ大森林に下手に踏み込むとティマンファヤ山にいる古代竜が出てくる可能性があり、そうなるともう収拾がつかなくなるのでうかつに攻め込めない領域である。
  魔王自身もそのことを加味してか大森林まで後退せず、よって大森林手前にある高原の地形が戦闘の余波で荒野と化していた。
 もはや戦死者も90,000に届き、局面は最終へと近づいていた。


 「総員、所定の位置に近づいたら詠唱を始めよ!! 呪術式作動魔方陣の準備はどうか! 」


 魔術、これから使用する術は大禁呪とよばれているものであり、既存の魔法及び魔術とは正に一線を画するものである。そのために後方に控えていたSランク冒険者30名とそれに相当する宮廷魔術師12名が準備していた。


 「魔方陣準備は完了しております!! 」


 後方支援部隊が戦闘の中、その身を犠牲にしながら作成していた。その魔方陣に使用される材料は人の血肉である。推定数万人の人骨に臓物、血肉で描き上げた魔方陣のこの世のものとは思えない産物に司令本陣にいる姫巫女であるアリアは呻き慄いていた。


 「イグレシア正教会が秘匿する大禁呪…… 神話の時代にいた魔王が使用したとされるものではないですか!! このようなものまで用意していたのですか!! フェメス公爵閣下!! 」


 「この戦いはこちらが最低でも四分の三は死ななければ後の統治に悪影響が出る試算となっている。そして魔王は確実に討滅せねばならない。あれも解っているのだよ。ランサローテだけではなく、大陸にも恐怖を植えさせねばならんということを!!
 ならばそれにふさわしい術式でもって滅さなければならない!!後の1,000年の平和のために1,000年以上続く恐怖をな!!」


 バルトロメ兄弟は覚悟を終えてこの戦いを引き起こし戦後のことまで考えているのだろう。ただ、この戦いで散っていった者たちはそこまでの覚悟はなかったであろう。総勢100,000強の軍勢において90,000も戦死者が出るなど戦として破綻している。
 アリアは死者たちの無念と怨嗟の声でランサローテにこれ以上の災禍が訪れぬよう祈ることしかできなかった。


 「魔王が所定の位置に入りました」


 斥候より報告を指令本陣で受けたフェメスは本陣を飛び出し、自らの目に焼き付けるため戦場を見下ろせる丘まで駆けながら指示をだした。


 「魔呪妬まじゅつ式起動せよ!! 現世において理の異なる神話の魔術、ここに再現せよ!! 」


 『ファーレンヴェルト』


 まさに無数の怨念と怨嗟が魔王を縛る楔となりあまねく三千世界を覆うほどの呪詛が蝕んでいく。


 「グォォオオオオオ…… 我が指一本も動かせぬほどの大呪術…… これが神話より伝えられし大禁呪、魔呪妬まじゅつであるか!!」


 魔方陣が円柱となり空へ昇っていく。雲を突き破り成層圏を超えていき、円柱となった魔方陣の中を星が悲鳴をあげたかのような絶響を響かせながら灼熱の隕石が落ちてきた。
 魔王は最後のあがきか防御魔方陣を組み上げながらこの世界へ響けと轟音に負けずに絶叫した。


 「例えこの身が100憶万度の業火に焼かれ地獄に落ちようとも、この島の人心が乱れ腐敗するときはこの星の深淵より蘇り、再び恐怖と怨嗟を撒き散らすことを宣言しよう!! 」


 術式の関係上円柱の外に被害は出ないようになっているが、熱波や魔力の余波で魔方陣を作成していた後方支援部隊の1,000人弱が一瞬で影すら残せずに消滅していった。その後には、どこまでの深さがあるのかわからないほどの直径1kmにもなる大穴が残されていた。






 地の底を隕石とともに掘削されながら魔王ことロサリオは、自らの役割が終えたことに対する安堵と、平和になっていく故郷をもう見られないことへの寂寞感を感じていた。


 「これでもう僕のすることは無くなった。防御魔方陣ももうもたない……。
 たくさん殺してしまったよ…… バレッタさんまで…… あの戦場にはいないはずだったのに、僕を心配してまで…… 」


 その時、首に下げていたネックレス中央部にある禍津玉、イグレシアスでは賢者の石と呼ばれるものが蒼から赤黒い闇と血を同化させたような色に変化していた。そして、ティマンファヤ山にいる古代竜から以前もらっていた古代竜の加護と龍脈が共鳴した。


 「なんだこれは、隕石による灼熱とは違うエネルギーの光に包まれる!! 体が、いや魂そのものが引き寄せられる!! 」


 これも神話でしか語られていない古代竜や神に等しい者しか扱えない龍脈上を移動する大転移が引き起こされた。






  (がぼぼぼぼぼっ…… なになに!! なんだ…… 水の中……)


  ロサリオは混乱の極みに突き落とされていた。精神的にも肉体的にも。


  (とにかく水面へあがらないと。)


  お世辞にも冷静沈着とはいえない状態で四肢を動かし何とか水面へ浮上し、辺りを見回した。


  「え~と…… 湖に周りは森…… ただ、ティマンファヤ大森林みたいに木々が畝ってオドロオドロしいわけでもないいたって普通というか神々しい森だよなぁ…… ははは……。」


  魔物の驚異も考えず、ただひたすらに心の内を吐き出すしかなかった。


  「ここはどこなんだぁぁぁぁあああ」

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