私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません

ブラックベリィ

080★アルファードの母、西の妃登場

 ジャスティーが別室へと下がってさほど経たずに、軽いノックの音がする。
 オスカーが黙っていると、扉の向こうからフェリックスの声がする。

 「団長、西の妃様を…………」

 フェリックスの言葉をさえぎってアルファードが答える。

 「母上、さっさと入って下さい」

 アルファードの形式を無視した言葉に、西の妃キャロラインは苦笑する。

 「アルファード、相変わらずね」

 言い募られては面倒だと、アルファードはあざとく言う。

 「形式は面倒くさいんだ
  母上、親子なんですからイイですよね」

 アルファードの答えに、西の妃キャロラインは、言っても無駄と諦めて無意識に人差し指と中指をこめかみにあてて言う。

 「そうね、入らせてもらうわ」

 西の妃キャロラインの答えに、あっさりと返すアルファードだった。

 「どうぞ」

 アルファードの言葉に、団長室付きの従僕2名が、普段は閉じている二枚扉を大きく開ける。

 そこを迎えに行ったフェリックスを先頭に、守護騎士2名と侍女1名の後に、西の妃キャロラインが部屋に入って来た。

 勿論、西の妃キャロラインの両脇にも守護騎士が2名付いていた。
 その後に、侍女2名と守護騎士2名が付いていた。
 更にその後ろに、魔法騎士団の騎士が2名付いていたりする。

 〔ふわぁ~…まさしく…お妃様って感じ……
  綺麗なひとだなぁ~………
  流石、アルのお母様…いや、姉で通るわ

  それに、やっぱり御付きが多いんだ
  そうだよねぇ~…なんと言っても

  皇帝の色を纏った子アルファードを産んだから…
  きっとねたまれている

  なんか、言葉の端々に語られる皇妃様って
  私のママ並みに問題ありそうだし………

  ここは、声を掛けられるまで、全力で
  空気になっていよう〕

 入室してきた人数とかを見て、気後れしたエリカは、無意識に自分を抱き込むアルファードの衣装の一部をきゅっと握ってしまう。

 そんな愛らしいエリカに、アルファードは、零れるように微笑みを浮かべる。
 そう、ごちそうさまぁ~と言いたくなるようなほど………。

 ちなみに、西の妃キャロライン一行の人数は、通常なら大げさである。
 まあ、大げさなくらいが皇族の証しいえば、それはそれなのだが………。
 今回の状態には、理由があるのだ。

 それは、聖女《召喚》の時に、異世界へと繋ぐ為に開けられた穴の為に《結界》の一部に穴が開いてしまった為である。
 そのお陰で、王城内の神聖なる神殿に魔物が出現した為、警備がいっそう厳重になっているのだ。

 母親である西の妃キャロラインが室内に入ってきても、アルファードは立たなかった。
 それは、膝にエリカを乗せていた為だったりする。

 また、母親が来たからと立ち上がって迎える気が、元から無かったセイでもある。
 原因は、西の妃キャロラインが、アルファードを幼少期より皇帝の次に位の高い皇太子として扱っていた為だった。

 故に、西の妃キャロラインは、アルファードが無作法と言っても良いようなマネをしても、決して怒ったことはなかった。
 アルファードに躾けをしていたのは、皇太后と皇帝だった。

 実は、野心家である父バルディア侯爵に命じられて、あえてアルファードに躾けをあまり入れないようにしていたのだった。

 バルディア侯爵は、躾けをおろそかにすれば、皇帝や皇后がアルファードの躾けをするだろうと考えていただ。
 そして、確かに西の妃キャロラインも、父と同じことを思ったのだ。

 それは、自分の離宮に皇帝アルフレッドが、毎日アルファードの躾けの為に訪問することになるから…………。

 最愛の皇帝に毎日会えると思ったから、西の妃キャロラインはアルファードの躾けをほとんどしなかった……。
 西の妃キャロラインも、母親より女を優先する人間だった。

 ただアルファードの助けになるようにと、第6皇子アルバードの躾けは、父バルディア侯爵に頼んで守役として、叔母夫婦ラデーア伯爵夫婦をあてて育ててもらったのだ。

 お陰でアルバードは、西の妃キャロラインの離宮より帝都内にあるラデーア伯爵の屋敷のほうが自宅のよう感じるほどに、離宮から離れて育ったのだった。

 その為アルバードは、アルファードを兄上と呼ぶのが、ちょっといやかなり苦手な弟に育ってしまった。

 そんな微妙な弟が物足りなくて、アルファードは弟としてギデオンとレギオンを、手に入れていたりする。

 なお、西の妃キャロラインは、唯一の皇女キャスリーンを乳母として育ててみたいと言い出した腹違いの妹夫婦マルヴーラ伯爵夫婦に丸投げしてしまった。

 その為、アルファードやアルバード、ギデオンやレギオンも嫌う極普通の姫君になってしまった。

 西の妃キャロラインは、息子達と娘が嫌いあっていても気にもしなかった。
 いずれ、降嫁して、タダの貴族となる娘と皇太子とその側近の皇族として生きる息子と係わらない存在になるからと…………。

 むしろ、何か有った時に斬り捨て易いから、娘と仲が悪くてかえって良かったと思っていたりする。
 閑話休題。

 様々な事情はさておき、魔法騎士団・団長室に入った西の妃キャロラインは、アルファードがエリカを膝にのせている姿を目の当たりにしたが…………。
 それを見ても、何も言わずに、優雅な微笑みを浮かべてアルファードを見詰める。

 視線を受けても照れたりしないアルファードに、西の妃キャロラインは口元に手を持っていき、くすくすと小さな声で笑ってしまう。
 それに軽く眉を上げるだけで、アルファードは無言を貫いた。

 ひとしきり笑った西の妃キャロラインは、アルァードに話し掛ける。

 「アルファード、貴方の姫君を
  紹介して欲しいと言ったら
  紹介してくれるかしら?」






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