私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません
077★皇帝の後宮は複雑なようです
「では、納得したお2人に、お客様です」
オスカーの声が、その不機嫌さを表していた。
そんな声を出させる相手が思いつかなかったアルファードは、首を傾げる。
「客?」
そんなアルファードに、どこか事務的にオスカーは告げる。
「西の妃様が、団長に会いたいと……」
その名称の妃の存在に、アルファードは首を傾げながら言う。
「珍しいな、あのひとは自分の宮から
滅多に出ない人なのに?」
そんなアルファードの口調に何かを感じたらしいエリカは、聞いても良いかな?的なニュアンスを込めて聞く。
「アル、西の妃って?」
〔西の妃様…って、誰だろう?
妃だから、皇帝の奥さんてことだよね
アルはあまり気にしていない様子だけど
オスカーさんは嫌いなのかな?
なんか、声が冷たいような気が………〕
エリカの真っ直ぐな瞳に、アルファードは心癒されながら、隠す必要を感じていないので、そのまま事実を口にする。
「俺の母親で、バルディア侯爵の長女
キャロライン・エリーズ・バルディア
父上をとことん愛しているから
子供には、あまり興味が無いひとだ
ただし、俺は父上と同じ皇帝の色を纏って
生まれたから………
それなりに、愛してくれているらしいけどな」
ちょっと苦笑いが入るアルファードに、エリカはどこか自分と同じ匂いを持つのは何でだろうと思っていた答えを知った。
「それって……」
〔ある意味で、エリカと…ううん…
恵里花と…同じような痛みを知ってる…
だから、お兄ちゃんのようであり
パパのような包容力がアルにはあるんだ
でもって、オスカーさんはママの姿と行動を
見た時のパパの部下と同じような反応に
なっちゃったんだ……なるほど………〕
「エリカ、そんな顔をするな
母上は、父上を愛し過ぎているだけだ
そして、どんなに邪魔だと思っても
皇妃リリアーナを憎しみの感情のままに
暗殺しようとはしない程には理性がある
それに、俺がギデオンとレギオンを弟として
同じ宮で一緒に住みたいと言った時
俺の我が儘を、あっさりと叶えてくれる程の
愛情がきちんとあるひとだから…………」
嫌いきれないところがあると言うアルファードに、エリカはふんわりと笑いつつも、疑問に思ったことを口にして聞く。
「あれ? ギデオンさんとレギオンさんって
双子じゃなかったよね?」
自己紹介された時に、数日の誕生日の違いで揉めていたことを思い出して言う。
「ああ、ギデオンは青の妾妃の子で
レギオンは紅の妾妃の子だ」
〔さっきは、西で今度は青と紅かぁ……
つーか、改めて思うけど、アルのお父様
皇帝陛下って、なんかすっごく大変そう〕
「それって、西の妃様と地位は同じなの?」
エリカの素朴な質問に、アルファードは首を振る。
「いや、俺の母の方が上だ」
そのセリフに、1番ありそうなパターンを口にしてみる。
「じゃあ……アルの下にいるってことは
権力を笠に、子供を取り上げたの?」
エリカの不審そうな表情と質問に、アルファードが応える前にギデオンが答えた。
「違います、姫君
俺やレギオンが、夏の日差しの中に
そのまま放置されていたのを………
何度も助けてくれた兄上が
母上達に聞いてくれたんだ」
〔えっ…ちょっとまって…皇帝のお子でしょ…
夏の日差しに放置って…えぇ~……それ………
どう考えたった不味いでしょ…いくらなんでも
……じゃなくて、アルは何を聞いたのかな?〕
「何を聞いたの?」
『ギデオンを殺す気か?』
『まぁ陛下の血を引く皇子を
殺したりしませんわ
陛下がお嘆きになりますもの………
ギデオンが生まれた時………
「良い子を産んでくれた」
と、仰せになられましたもの………
陛下の皇子を殺すなんてしませんわ』
『お前の子供だろう』
『陛下の寵愛が、欲しいから
産んだ皇子ですもの………
きちんと、乳母に任せていますわ
陛下の皇子ですもの………』
そのあまりにも酷い言葉に、子供への愛情はどうしたという意味で聞いたアルファードは、この時ほど自分が、かなり無関心な母親に、しっかりと愛されていると実感したと語ったのは、かなり後年の話しである。
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