私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません
068★皇妃リリアーナの焦燥1
アルファード達(エリカや神官達や魔法使い達を含む)魔法騎士団と中央騎士団が、珍しく一緒に帝都に到着した、その頃。
王城の奥では、皇帝の妃達が、それぞれの皇子について、自分の侍女や側近達と会話していた。
その中で、室内をイライラと歩き回ったり、目に付くモノを掴んでは投げつけるという暴挙にでている者がいた。
それは、誰あろう、このドラゴニア帝国の皇妃リリアーナであった。
何度も何度も、アルファードを暗殺しようとしては、失敗している皇妃リリアーナは、第1皇子にして、皇帝の色を纏うアルファードを憎んでいた。
だから、これ以上、アルファードに有利なモノがひとカケラなりとも付くことが許せなかった。
それ故に、皇妃リリアーナは、アルファードが不在の時を狙って、聖女候補の《召喚》を行うように、神官達に圧力を掛けていたのだ。
そして、予定通りアルファードが、湧き出た魔物の討伐で不在だった為…………。
自分の産んだ皇太子アンジェロが、1番《魔力》を内在している聖女候補を手に入れるようにと仕向けたのだ。
勿論、内在している《魔力量》を正確に測る為に、故国サラディール王国より、魔術師の塔で1番《魔力》検知が得意な魔術師エルダール・ユースフ・オルデァンを呼んでおいたのだ。
元々は、サラディール王国より嫁ぐ時に、付き従った魔術師だったのだが、その優秀さ故に、国王に帰還命令を受けて、帰国していた男だった。
が、聖女候補の《召喚》は、アンジェロの皇太子としての立場を、ひっくり返される可能性のある事態を招くモノだったから、魔術師エルダールは皇妃リリアーナの元へと再度、派遣されたのだった。
そんな皇妃リリアーナの信頼厚い魔術師を、信頼するほど帝国の神官は馬鹿ではなかったので、もっともらしい理由を付けた。
そうドラゴニア帝国の《召喚》術は秘術ゆえに、他国の魔術師など見せるわけにはいかないと、別室で待機させられてしまったのだ。
その場で待つことは、それでも、高待遇なんですからねと、クギを刺すのを忘れなかった神官達と魔術師達だった。
実際に、聖女候補の《召喚》を行えば、場合によっては、遺体すら残らず塵と消えてしまうことだとてある秘術なのだ。
聖女候補の《召喚》とは、将来有望な魔術師や神官の人生を《魔力》枯渇によって、使い潰してしまう両刃の術なのだ。
そう、聖女候補の《召喚》は、帝国の根幹を揺るがすほど、財力と能力ある者達を消費してしまうのだ。
その上で、ハズレを引けば、魔女と呼ばれる者や性女を呼んでしまうのだ。
その後始末にかかる、多大なる代償を考えれば、おいそれと聖女候補の《召喚》など出来ないのだ。
が、皇妃という立場を利用し、皇妃リリアーナは《召喚》をしろと、強固にごり押ししたのだ。
『聖女候補の《召喚》は、全て陛下の為
それをごねるなど…不忠者しかおらぬのか』
何度も呼び付けては、そう言い放って、聖女候補の《召喚》をさせただけに、皇妃リリアーナに対して、神官や魔術師は良い感情など持っていなかった。
その代償を払うのは自分達なのだから………。
そう《召喚》の術式に込める《魔力》は膨大なのだ。
神官として、あるいは、魔術師としての根幹である《魔力》を注ぎ過ぎ、枯渇をしてしまって、能力を全て失ってしまうかもしれない恐怖と戦いながらの《召喚》なのだから…………。
それを、皇妃の故国の魔術師に、何の代償も無しになど見せるなど論外だった。
だから、エルダールが《召喚》の間に入室を許可された時には、7人いた聖女候補は、1人減り6人になっていたのだ。
それは、1番《魔力》を内在している聖女候補を、魔法騎士団副団長のオスカーが、第1皇子であり魔法騎士団の団長の元へと連れ去っていたからだった。
が、その時、聖女候補達に説明していた神官ワルターは、わざと聖女候補の人数を魔術師エルダールに言わなかったのは確かな事実である。
ワルターにとって、皇妃リリアーナは、皇家に仇なす存在として認識されていたから………。
そう、皇帝の色を纏う、正統なる皇太子のアルファードを、横槍でないがしろにするどころか、亡き者にしようとしている、悪でしか無かった。
神官ワルターが、自分の信頼する魔術師エルダールを巧妙に排除し、1番《魔力》のある聖女候補を、第1皇子のアルファードに送ったことを、先ほどの報告で知ったのだ。
その事実を知った皇妃リリアーナは、怒りのあまりその辺中のモノに当り散らしていた。
「おのれ、ワルターめ
陛下の甥という立場を利用して
ようも私の邪魔をしてくれたものよ
いずれ、それに相応しい罰を
かならずや与えてやるわ」
瀟洒な手に持つ羽根扇をミシリと握り、わなわなと震えながらそう言う皇妃リリアーナの言葉に、魔術師エルダールは内心で深く溜め息を吐く。
〔ここは、これ以上激高をさせないよう
リリアーナ様に、ただ謝るのみ………
例え、悪意ある排斥を疑ったとして
私が《召喚》の場に入れる可能性は
皆無に等しい
秘術をおいそれと流出することなど
ありえないのだから………
それが理解らないのは
甘やかされて我が儘に育った姫だから
神官や魔術師ではない身には、秘術の
重要さなど理解らないのは
仕方が無いこと………
そして、私や王が思っていた以上に
皇妃リリアーナ様への嫌悪が強いこと
これでは、アンジェロ様の皇太子としての
座はあやういですね…王に報告せねば……〕
内心を隠し、魔術師エルダールは静かに謝罪する。
「申し訳ございませぬ
あの神官に、誑かされました」
その謝罪に、皇妃リリアーナは、口惜しさに唇を噛みながら言う。
「良い、エルダール、そなたに、非は無い
それよりも、不甲斐ないのはアンジェロじゃ
あの子供から、聖女候補の
1人も取り返すことが出来ぬとは…………」
そのセリフに、魔術師エルダールも苦いものを含ませた口調で言う。
〔どうして、一際我が儘でお気が強い姫と
あの気高き皇帝のお子で……ああも……
気が弱いのか……はぁ~……〕
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