私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません

ブラックベリィ

060★女性の髪を整えるのは、男の嗜みなんです


 異世界から《召喚》された、目の前を歩く小柄なエリカに、アルファードはソレを求めた。
 だから、ただそこに居てくれるだけで、心穏やかになれた。

 〔俺は、エリカを見た瞬間に
  生涯唯1人の伴侶だって判ったけど

  ドラゴニアンじゃないエリカには
  たぶん、そういうの判らないよな

  だいたい、生涯唯1人の伴侶を
  見付けることが出来る者は………

  今は、稀有になってしまったようだからな
  過去には、もう少し多かったようだが……

  やはり、ドラゴニアンの中に眠る
  飛竜の特性が薄れたからかな?

  エリカは、俺の全てを本当の意味で
  受け入れてくれるだろうか?〕

 そんなことを考えながら、エリカが目の前に現われる前まで、漠然と考えていた理想を思い返す。

 アルファードの望む皇妃とは、自分と《魔力》がつりあい。
 なおかつ、人を思いやれる心を持ち。
 心から愛し合える女でなければならないと思っていた。

 それは、歴代の賢帝と呼ばれた皇帝に嫁いだ、聖女しかいないと思っていたのだ。
 だから、アルファードは、別に聖女候補の《召喚》に本当の意味で反対をしていなかった。

 ただ、自分の居ない時に、聖女候補の《召喚》をするなと言っていただけなのだ。
 それを、アルファードは聖女候補の《召喚》に反対していると、周りの人間達は勝手に思い込でいた。

 いや、ワザとそんな噂を皇妃が流していたとアルファード達は思っている。
 今までの法律では、皇妃の産んだ皇子を皇太子にしていた。
 が、歴代の皇帝には、残念ながら、金茶の髪と茶眼の者はいないのだ。

 そう、今までの皇帝は、銀髪紫紺の瞳の者しかいなかったのだ。
 だから、その色は、皇帝の色と呼ばれていたのだ。

 現皇帝・アルフレッド・ウォルター・ドラゴニアには10人の皇子がいるが。
 その皇子の中で、銀髪紫紺の瞳を持つ者は。
 魔法騎士団の団長で第1皇子のアルファード・ファイエス・ドラゴニアだけだった。

 そう、皇帝の色を受け継いだのは、アルファードのみだった。
 先代皇帝・アレクシス・エアリアス・ドラゴニアの皇子は2人、皇女は1人だった。

 その中で、皇帝の色を持って生まれたのは、アルフレッドだけだった。
 弟のアスラン・フィリアス・ドラゴニアは、銀髪碧眼だった。

 皇帝の皇子は、何人生まれても、皇帝の色を2つとも纏うのは、皇太子になる者のみだった。

 だから、側妃の皇子が、皇太子と成るときは、皇妃の養子としていた。
 そう必ず皇妃の皇子が、皇太子と成るという形式を代々守っていたのだ。

 アルファードは、皇帝に成るということを最大の《魔力》を内在する皇子として生まれた義務として諦めてはいた。

 が、自分を何度も暗殺しようとした(現在進行形)皇妃の養子に成るのはゴメンだと思っていたのだ。

 皇妃の養子に成らなくても、皇太子になる方法は一つあった。
 それは、聖女と婚姻すること。

 聖女は、ドラゴニア帝国を助ける為に、異世界より《召喚》された存在なので、皇族法の外にいる存在として扱われる。

 それと、聖女は、ドラゴニア帝国で1番身分の高い女性となるのだ。
 だから、聖女と婚姻するコトは、皇帝に成るコトなのだ。

 現在のドラゴニア帝国で、1番身分が高い女は、皇帝の皇妃だったから…………。
 アルファードに野心は無いが、自分とともにある女性が聖女であることを密かに望んでいた。

 そこに、アルファードの好み?理想?に、ドストライクなエリカが現われたら一目惚れして、夢中になってしまうのはしかたがない。

 そんなアルファードの重い愛情を知らないエリカは、のほほんとアルファードの行為好意を受け入れてしまう。

 覗きをされないようにと、警護してくれるアルファードが側にいるので、エリカはゆっくりと朝風呂を堪能出来た。
 勿論、その間に、現状に対処出来るように意識を引き締めたのは言うまでもない。

 アルファードは、お風呂上りのエリカの髪を丁寧にすいて、馬に乗るときに邪魔にならないように、みつあみを頭に巻き付けるような髪型に結い上げる。

 ソレが出来るのは、見習い騎士の時代に、警護している姫達に散々我が儘を言われて、編み込みの髪型やハーフアップ、アップなどの複雑な髪型を結わせられたお陰だった。

 見習い騎士時代のアルファードは、姿変えの魔法を付与されたピアスを着けて、金髪碧眼の少年に化けていたのだった。

 その為に、一般の見習い騎士と同じように、姫達の我が儘に振り回されていたのだった。

 アルファードは、イヤでイヤで仕方が無かった経験が、エリカの世話が出来るスキルになっていたので、アレもイイ経験だったと思えるようになっていた。 そんなアルファードのスキルだが、エリカの兄もパパも出来たのだ。

 だから、エリカは、アルファードにありがとうとお礼を言うが、さほど感動していないという残念な状況になっていた。
 そのことに気が付いて、エリカに質問したオスカーは、鋭い観察眼を持っていると言えるだろう。

 「姫君、姫君は、もしかして
  兄君や父君に髪を結い上げて
  もらっていたのですか?」

 オスカーの質問に、エリカは何でそんなことを聞くのかな?と、ちょっときょとんとしてから、素直に答える。

 「うん、パパもお兄ちゃんも
  私の髪をとても気に入っていて………

 『エリカは、長い髪が似合うから
  絶対に切らないで欲しい

  もし、長い髪の手入れが面倒なら
  お兄ちゃん(又はパパ)が全部するから……

  それに…長くて邪魔なら
  結い上げたりするから…ねっ…』

  って、言われていたから………
  お兄ちゃんやパパが居る時は
  何時も結ってもらっていたの………

  居ない時は…美容院に行くようにって……
  お小遣いを渡されていたの………

  でも、いちいち行くのが面倒で
  自分でやっていたけど」

 エリカの言葉に、オスカーはとても優しい表情で言う。

 「そうだったんですね
  では…今日からは…団長か、私か
  ギデオン様やレギオン様………

  が、髪を結いますから……
  姫君が、自分でする必要はありませんよ」

 面倒だなぁ~と内心思っていたエリカは、小首を傾げつつ言う。

 「そんなコト言って良いんですか?
  毎日、頼むかもしれませんけど?」

 そんなエリカに、愛する者のことは全部自分がやりたいアルファードが言う。

 「大丈夫、俺が毎日、髪を洗うのも
  手入れも、結い上げるのもやるよ」

 さらりとそう言うあるファードに、エリカはきょとんとする。

 「アルって、皇子様なのに
  そんなコト言ってイイの?」

 エリカのもっともな質問にも、オスカーが微笑みを浮かべて答える。

 「この国の騎士達は
  誰でもそのぐらい出来ますし
  慣れているので大丈夫ですよ」

 なんでもないことのように言うオスカーに、エリカは困惑の色を浮かべて言う。

 「でも、アルってば、皇子様なんですよ」

 立場があるでしょう?と言うエリカに、なぜかイイ笑顔を浮かべたオスカーは言う。

 「好きな女の髪を整えるのは
  男の嗜みですよ」








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