私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません

ブラックベリィ

056★戦い(調理&夕食)すんで、夜の帳が下りた頃・前編

 混沌とした夕食の後、天幕に戻ったエリカとアルファード達は、もう一度お風呂に入った。
 それは、エリカが焼肉の匂いが、身体や髪にまとわりついているような気がすると言ったからだった。

 今回は、エリカが1番にお風呂に入った。
 それは、疲れて眠るという事態を考えて、1番体力の無いエリカを優先した為だった。
 エリカが、小さな声でグチを言う。

 「髪を洗うの面倒だなぁ………
  でも、焼肉とかの匂いがついたままで
  眠るのはイヤだし…………

  寝落ちしないように頑張ってあらうかぁ~
  ファイトォ…エリカ」

 自分の長い髪を手のひらで持ち上げ、ちょっと溜め息を付いて言うエリカに、アルファードが提案する。

 「なら、俺が洗ってやろうか?」

 アルファードの申し出に、よく長い髪を兄・大和やパパ・武蔵に洗ってもらっていたエリカは、無意識に嬉しそうな表情になる。
 ちなみに、エリカの髪が長いのは、兄・大和とパパ・武蔵の希望だったりする。

 「えっ…アルが洗ってくれるの?」

 嬉しそうに答えるエリカに、アルファードはにっこりと笑って言う。
 勿論、愛しいエリカに頼られて嬉しいのだが、そこには、満足するご飯を食べたお陰も潜んでいた。

 大きすぎる《魔力》維持(エネルギー不足で倒れないように)の為に、常日頃から、一生懸命に食べなければならない苦痛(量も過ぎれば苦しい、けど必要量がとにかく多い)から解放され、ただどれを食べても美味しいだけだったのは、アルファードの精神を癒していたのだ。

 だから、アルファードはうきうきという言葉があうような口調で言う。

 「さっき、エリカがやっていたように
  水球を作って、ソレで洗ってやるよ

  今、ここで、そのままの格好で大丈夫だぞ」

 アルファードの言葉に、エリカはびっくりする。

 「えっ…そんなコトも出来るの?」

 そんなエリカに、アルファードはにっこりと笑って………。

 「こうやって…………」

 そう言いながら、ふわりと水球を浮かべる。
 その水球の水温が上がると、ほんのり湯気が立ち上る。
 うっすらとした湯気で、入浴に適した温度にしてみせる。

 「ほら、コレ(温水の水球)で
  エリカの長い髪を包んで

  俺がそこに手を入れて
  そっと洗ってやるよ

  手を入れてみてくれ
  温度はこんなものか?」

 言われたエリカは、アルファードが作った温水の水球に手を入れてみる。
 それは、ほんのちょっと熱めで、心地よい温度だった。

 「ふわぁ~……イイ気持ちぃ~……
  うん、これぐらいの温度で良いよ」

 頷いたエリカに、アルファードはにっこりと笑って、スイッと水球を消して言う。

 「それじゃ、髪を洗う為の………」

 「あっ…大丈夫…シャンプーやリンスは
  自分の持って来てるから……」

 そうして、アルファードに提案されたエリカは、さっそくシャンプーやリンス、コンディショナーのセットを数種類用意した。
 今は、使わないが、石鹸などもいそいそと用意した。
 荷物の中にセールで買ったモノがあったから…………。

 〔あぁ…そうだ…なんかお礼と思ったけど
  ここは定番の刺繍入りハンカチかな?

  確かセールで無地の10枚セット買ったし……
  パパとお兄ちゃんに、刺繍したのを上げようと
  思って、色々な糸も買ったのあるし……〕

 そう考え、エリカは天幕にかけられていた紋章を見て、刺繍糸と無地のハンカチを取り出して用意した。
 洗髪してもらっている間、手持ち無沙汰になるので、その間に作ろうと思ったのだ。
 エリカにすれば、時間は有限なのだ。

 色々と持って、エリカがソファーにストッと座ると、アルファードは改めて温水の水球を作り出す。
 それを、エリカの頭にそっとつけて行く。

 ふんわりと入浴に適した温度のお湯に頭部をつつまれた瞬間、エリカはうっとりしながら言う。

 「うっわぁ~気持ちイイ」

 ちょっと細めの瞳を更に細めて、水球に長い髪が取り込まれたことで、その重みから解放され、エリカは柔らかい吐息を零れ落とす。
 ソレにちょと見とれつつ、アルファードはエリカに聞く。

 「シャンプーは、どれにする?」

 エリカは、その問い掛けに、ツイッとシャンプーを差し出す。

 「これ…バラの香り…好きなの…
  でも…どうやるの?」

 不思議そうに聞くエリカに、アルファードはさらりと言う。

 「水球を消して、水分を《結界》で
  この空間に維持して
  シャンプーを使って、泡で髪を洗う

  この方法は…疲れて動けない俺に…
  オスカーが…やってくれたコトなんだ」

 どうしてそんなことが出来るのかなぁ?と思ったエリカの疑問は、アルファードの言葉で、あっさりと解消される。

 「オスカーさんって………
  本当に…アルのお兄ちゃんって感じだね」

 そう言いながら、エリカはハンカチと刺繍糸をひょいと手に取る。

 「そうだなぁ~…オスカーは………
  お祖父様の親友だったって

  父上から聞いているから……
  本当に身内って感じで構ってもらっている」

 さて、どこから刺そうかと思った矢先の、思わぬ言葉に、エリカはきょとんとする。








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