私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません

ブラックベリィ

046★野営地でも身繕いは必須です



 眠っているエリカ達の為に、オスカーは疲労回復に役立つ食事を作るようにアルベルト達に頼んだ。
 神聖魔法(治癒を含む)を使える神官達は、一般的な治療(病人に薬など)を与える仕事をしていた。

 その中には、味はちょっと…イヤ、かなり微妙だか、確かに滋養強壮なる食事を作って病人に与えていた。
 その料理を、オスカーはエリカ達に与えようとしていた。

  エリカを思って、気遣っていたとしても、所詮、オスカーも大雑把な騎士なのだ。
 元気になるなら、味はにの次で、食べれば栄養と言う予定だった。
 妙薬口に苦しといって、食べさせれば良いと思っていたりする。

 そして、騎士達の食事の前に、エリカ達に食べさせる予定にしていた。
 眠る前のエリカを、お風呂に入れてやりたかったから…………。

 なんであれアルファードは団長で、皇位継承権を持つ皇子だったし、キデオンとレギオンは、継承権が無くても皇族だったので、色々と快適に過ごせるようになっていた。

 その快適の中には、入浴も入っていた。
 だから、猫脚の浴槽も持ち込まれていたのだ。

 オスカーの指示によって、アルファード達が何時も入浴している場所に、それ(猫脚の浴槽)を設置した。
 お風呂のお湯は、魔法で溜める予定のオスカーであった。

 オスカーは、何だかんだ言ってもアルファードに甘いのだった。
 全ての準備が終わると、オスカーは、自らエリカ達のテントに向かった。
 ちなみに、猫脚の浴槽には、軽減魔法がかかっていた。

 入浴の準備と食事の準備が整ったのでオスカーは、天幕に入りアルファードに話しかける。

 「団長、起きて下さい
  入浴の用意が整いましたよ」

 その声で、アルファードはパチッと目を覚ますした。
 腕の中のエリカを起こさないように気遣いながら、アルファードは上半身をゆっくりと起こす。

 完全な正気になっているアルファードは、自分の腕の中で、安心しきった表情でスヤスヤと寝ているエリカを見て、優しい表情を浮かべる。

 〔エリカが腕の中にいるというだけで
  心癒され、とても幸せになれる

  お兄ちゃんは、ちょっとキツイけど
  それでも、エリカが安心していられるなら
  今は、ソレで良い〕

 エリカから視線を外し、アルファードは、もはや眠気のカケラもない瞳で、オスカーを見て聞く。

 「俺は、どのくらい寝ていた」

 アルファードの問い掛けに、オスカーは淡々と答える。

 「2刻ほどです」

 「そうか……んで、皆は
  食事を取ったのか?」

 頷いてそう聞いたアルファードに、オスカーは現在の状況を報告する。

 「まだですね
  今は、戦闘の後処理をしてます

  剣や甲冑などの装備品の手入れに
  馬の世話もありますからね

  ああ、団長の馬達も
  世話しておきました」

 自分の馬の世話をする余裕すらなかった自分に、少しだけ自嘲しつつも、何時も自分を気遣ってくれるオスカーに礼を口にする。

 「そうか、ありがとう、オスカー……っと
  ギデオンとレギオン
  マクルーファの馬は?」

 その問いにも、淡々とオスカーは答える。

 「フェリックスに
  世話を手配させました」

 「助かる」

 ちょっとほっとした表情のアルファードに、オスカーが問い掛ける。

 「ところで、団長
  入浴は、どのような
  順番でしますか?」

 魔物を倒したので、身繕いしたいでしょというニュアンスのオスカーに、ちょっと考えてから聞く。

 〔見たところ…オスカーも
  まだのようだが

  ……エリカから目が
  離せないからなぁ……〕

 「オスカー…お前は…入ったのか……」

 「まだですよ
  団長達の後に入る予定です」

 〔あっ……やっぱり……じゃない
  ここは、男ばかりなんだから………

  女はエリカしか居ないんだから
  気を付けた方がイイな

  戦闘後の興奮で
  不埒な行動に出ないとは

  流石に言えないからな……はぁ~………

  でも、俺の為に
  駆けつけてくれたエリカには
  ゆっくりと入浴させてやりたいし………〕

 オスカーの答えに頷いたアルファードは、腕の中のエリカを見下ろして言う。

 「そうか、エリカを最後にしようと思う
  ゆっくり入れるようにしてやりたい」

 そのアルファードの気遣いに、良く出来ましたという表情でオスカーは言う。

 「では、団長はさっさと
  入ってくださいね

  その間は、ギデオンとレギオンを
  天幕に置きます

  どんなに警戒しても
  馬鹿はいますからね」

 いくら魔法騎士団が精鋭と言っても、神官も居れば魔法使いもいるので、皇妃の息の掛かった者を完全に排除できているわけではないことを暗に示唆するオスカーに、アルファードはソコに含まれたモノ込みで頷く。

 「わかった」

 オスカーにそう答えた後、アルファードは、エリカを抱き込んでいた腕を静かに外した。
 それから、エリカを起こさないように、そっと羽布団から出る。
 立ち上がったアルファードは、オスカーに話し掛ける。

 「オスカー…マクルーファの
  浴槽を使って
  お前もさっさと入れ………

  とりあえず、この天幕に
  ギデオンとレギオンが
  居れば大丈夫だろう

  俺達が入浴するのを待ってからだと
  食事を取る時間がなくなるぞ」

 今回の召喚で呼ばれた聖女候補の1人である、エリカが討伐に来た者達に狙われる可能性は低いと言っても、無ではないのだ。
 本音を言えば、自分やオスカーが側に居ないなら、マクルーファを置きたいと思うほど、エリカを愛しいと思っているのだ。
 アルファードの杞憂を感じたオスカーは、さっさと身繕いする為に頷く。

 「そうですね…では…失礼します…団長」

 そう言って天幕を出るオスカーの背中を見送ったアルファードは、キデオンとレギオンを起こした。

 「ギデオン、レギオン、起きろ
  マクルーファ…お前も起きろ………」

 そう言って、寝ていたマクルーファも起こし、オスカーがそっち(マクルーファの浴槽)で風呂に入る準備をしているから、その後にさっさと入ってこいと言って天幕から出した。

 ちょっと、エリカがユキヒョウマクルーファの尻尾に絡んだコトを、無自覚で根に持っていたことによる行動だった。
 が、この天幕には弟のギデオンとレギオンがいるので、眠るエリカを起こさないように言い含めて、アルファードはオスカーが用意した風呂に入りに向かった。

 ギデオンとレギオンは、仮眠のお陰でわりとすっきりした頭だったので、風呂に向かったアルファードを見送った後、今日の討伐に関する書類を手にしていた。

 そして、何事も無く、アルファードが風呂を済ませて戻って来たので、ギデオンとレギオンも風呂へと向かう。
 過去の聖女による助言で、討伐時はなるべく衛生的にするようにしているのだ。

 そうして、アルファード達は入浴をさっさとすませた。
 その後に、エリカを起こして、アルファード、ギデオン、レギオン、マクルーファの警護する中で、入浴させたのだった。

 勿論、エリカはアルファードの思いやりをしっかり受け取って、ゆっくりとお風呂を堪能したのは確かな事実だった。

 その時、オスカーは騎士や神官、魔法使い達が怪しい動きをしていないか、野営地を見て廻っていたのは言うまでも無い。

 「あ~あ……聖女候補の入浴………」

 覗きたかったという妄想を持っていた者は、確かにいたが…………。

 巡回するオスカーの姿を見て、不埒な行動に出れる者など1人も居なかったことは言うまでも無い。




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