私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません

ブラックベリィ

011★恵里花が聞きそこねた、神官による守護獣と魔物のお話し2

 聖女候補達の反応に、鬱屈した気分が浮上したワルター神官は、うっすらと無意識に笑っていた。
 が、ここには彼を諌めてくれる、両親も、第1皇子も居ないので、他の神官や騎士達はただ見ていることしか出来なかった。
 そんな雰囲気など意に介さず、ワルター神官は、更に淡々と魔物の説明をする。
 既に、話しがよれていることに気付かない、やはりかなり残念なワルター神官である。

 「試練の森に生息している
  鳥類ですが

  小型の鳥達は
  普通の森にいる鳥と
  同じ種類が多いですね

  まれに、小型の鳥類に
  化けている幻獣がいます」

 ほっとする内容に、聖女候補達は反応する。

 「鳥は安全なんですね?」

 1人が確認のように聞くと、ワルター神官はなんでもないことのように言う。

 「鷹より大きい鳥になると
  魔物の可能性が限りなく
  上がりますので

  見かけたらそっと姿を
  隠すコトをお勧めします」

 それを聞いて、先ほどの忌避剤のようなモノはあるのか確認する為に、ワルター神官に聞く。
 だって、説明してくれるのが、ワルター神官、彼1人しかいなかったから……。

 「鳥型の魔物を
  忌避するモノは
  無いんですか?」

 「ありません」

 取り付く島も、にべもない答えに、聖女候補達は嘆く。
 その声は、心情そのままにハモッていた。

 「「「「「「うわぁぁぁ~…
  それって…マジィ………
  かんべんしてよぉ」」」」」」

 ワルター神官は、いじめっ子の表情をチラリッと覗かせつつも、そ知らぬフリで説明を続ける。

 「次に、犬や猫の
  姿の動物ですが……」

 もう、こうなったらと、聖女候補の1人が、ワルター神官の説明を途中でぶった切って言う。
 その声は悲鳴がやや混じっていた。

 「忌避用の匂い袋とか
  忌避剤とか
  あるんですか?」

 ぶった切られたことを気にせず、ワルター神官はハフッとこれ見よがしに嘆息して、肩を竦めながら言う。

 「あると言えばありますが」

 どこか言葉を濁すワルター神官の様子に、聖女候補達は、無意識に全員がほぼ同じ角度で、コテンと小首を傾げる。

 「「「「「……?
  ……?」」」」」」

 そのイイ反応に、ワルター神官はあまり忌避珠に意味は無いんですけどねぇ~的なニュアンスを含めた声で言う。

 「獣型用に開発された
  忌避用の匂い珠が
  ありますが…………」

 再び、説明が途中で止まったので、聖女候補の1人が思い切って聞く。

 「何か問題があるんですか?」

 その問いに、ワルター神官は、それはもう、大きく頷きながら言う。

 「彼らは総じて
  鼻が良いんです」

 元の世界での犬や猫を思い浮かべつつ、別の聖女候補が重ねるように言う。

 「犬は鼻がききますよね」

 確認するような言葉に、ワルター神官は再び遠くへと視線を向けながら、少しなげやりに言う。

 「ええ、それを
  逆手に取ったモノなので

  匂い珠を投げて
  それが弾けると

  辺り一面に強烈な
  匂いが放たれます

  鼻が良いので
  あっという間に
  逃げてしまいます

  ただ、それをすると
  守護獣になるはずの

  神獣や聖獣や幻獣も
  寄ってきません

  投げた人間にも
  強烈な匂いが纏わり
  付いてしまいますので

  馬も乗れなくなります

  ですから、使わない方が
  良いでしょう」

 そう、彼、ワルター神官は、過去にやむにやまれず、緊急時ということで、使ってしまったことがあったのだ。
 その後、必死に自分自身に《清浄》や《消臭》などの魔法をかけたが、1週間ばっちり消えず、愛馬にもしばらく拒絶された経験があるのだ。

 そんな彼、ワルター神官の過去を知らない、聖女候補達は、切なげな溜め息を吐いたあと、気を取り直して聞く。

 「もふもふの魔物と
  それ以外の見分け方は
  あるんですか?」

 1番聞きたかった問いの答えは、ワルター神官の無残な言葉だった。

 「聖女である皆様の
  感覚にて判断して
  頂きます」

 ガッツリと立ち上がって、頑張って色々と聞いていた聖女候補達は叫ぶ。

 「「「「「「えぇっ……
  うっそー……」」」」」」

 そして、がっくりと座り込んでしまうのだった。
 その哀れを誘う姿を、なぜか優しげに微笑みながら見詰めるワルター神官の姿に、回りにいた者達は、我が可愛さに何も言わなかった。

 その場に、ワルター神官の両親(良心とも言う)や第1皇子(ストッパー?)が居たのなら、いたいけな少女達を苛めるんじゃないと怒ってくれたのだが…………。
 あいにく、その場には、誰も居なかった。

 その為、落ち込んだ聖女候補を宥める苦労をするのは…………。
 という状態になってしまうのだった。

 苦労を約束された彼らは、いずれワルター神官をシバキ倒せる第1皇子に、一部始終をチクルのはたしかな未来と…………。








コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品