戦神兄妹
第9話 宇宙海賊!?上等だコラ!!
火星軍による地球圏大統領府侵攻作戦、[オペレーション・ムーンブレイク]は地球軍が見事に守りきり、勝利した。
しかし地球軍、火星軍共にこの戦いで資源を大量に消費してしまい、 しばらくは大規模な侵攻作戦は出来なくなっていた。
だが、いずれは両軍の奪い合いは再び始まるだろう。
この戦いで活躍したイズモ軍のAS特務科の生徒達には一週間の休暇が与えられた。
しばらくは侵攻作戦はないし、休む事もランダーにとっては大事な仕事だ。
タカヤ達兄妹も次の日はさすがにゆっくり休んでいた。
父と母も疲れ果てた三人(特にタカヤ)を見て心配していたが、二日目にはすっかり元気になっていた。
タカヤの部屋にはやっぱりリリとサクヤがいた。
やはり三人一緒に寝ていたのだ。
さすがのタカヤもさすがに慣れたようでぐっすり眠れたようだ。
「お兄ちゃん!はやく着替えて!」
「ど、どうしたの、いきなり?…って、ここで着替えないでよ…。」
リリとサクヤは相変わらずタカヤの部屋で着替えている。
タカヤはとっさに後ろを向いた。
「お兄様、今日はお買い物に行きましょう!」
「え、買い物…?」
「そうだよ。せっかくだからお兄ちゃんも一緒に行こ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!自主練とかは…?」
「お兄ちゃん、せっかくの休日は楽しもうよ!」
「休む事も私達の大切な仕事ですわ。」
「そ、そうかもしれないけど…。」
「ほらほら、お兄ちゃんも着替える!」
「ち、ちょっと、待って…!」
リリとサクヤによってタカヤは強制的に着替えさせられてしまう。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「行きましょう、お兄様!」
「まあ、今日は用事もないしいいかな…。」
着替え終わった三人は買い物へと出発する。
三人はイズモコロニーにある電気街に向かった。
リリとサクヤと出掛けるのはタカヤも慣れつつあり、緊張することはない。
ただ、リリとサクヤがタカヤの腕に組付いているのはやっぱりこの休日の人混みの中では恥ずかしいのだが。
「リリちゃん、サクヤちゃん、そんなにくっつかれると…、そ、その…。」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「お兄様、顔がちょっと赤くなってますわ。」
二人が心配そうにタカヤの顔を見つめる。
「や、やっぱり、恥ずかしいんだけど…。」
「えー、やっぱり駄目かなぁー…。」
「お休みの時ぐらいは…お兄様と…こうしていたいです…。」
リリもサクヤも悲しそうな眼でタカヤを見つめて来る。
こんか顔をされたらやっぱり断れないタカヤだった。
「ご、ごめん…!このままで…いて、欲しい…。」
「ほんと?」
「いいのですか?」
「うん、いいよ。」
すると、二人の顔に笑顔が戻る。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「ありがとうございます、お兄様!」
元気になった二人はタカヤの手をぎゅっと握りしめる。
「ほら、お兄ちゃん!早く行こ!」
「わかったから、そんなにくっつかなくても…。」
けど、三人でいるとやっぱり楽しいの事実だ。
タカヤはこの休日を楽しもうと思うのだった。
タカヤ達は電気街にあるアニメショップにたどり着いた。
リリがどうしても欲しい物があるらしい。
店内に入ると数々の美少女キャラのアニメグッズが並べられていた。
タカヤもアニメや漫画は好きなのだが、ここまで来るとまさに異質の空間だった。
リリは眼を輝かせながらお目当ての物を探している。
「あーー!あったよー!マミィちゃんのフィギュアー!これが欲しかったのー!」
お目当てのフィギュアを見つけてテンションがあがるリリであった。
リリが魔法少女アニメ[サイバーウィッチ・マミィ]が好きで毎週見ているのはわかっていたが、まさかここまでとは…。
「うーん、けど[マジカルナース☆メリリィ]も可愛いなぁ…。迷うなぁ…。」
リリはお目当ての美少女フィギュアをまた見つけてどっちを買うか迷ってしまったようだ。
すると、リリがフィギュアの入った箱を2つ持ってタカヤの元に駆け寄って来た。
「ね、ね、お兄ちゃん!マミィちゃんかメリリィちゃん、どっちがいいかな?」
リリが眼を輝かせながらタカヤに迫って来る。
タカヤにどっちのフィギュアがいいか決めてほしいみたいだ。
「えーと…、どっちも可愛いし…、やっぱりマミィの方…かな…。」
タカヤがマミィのフィギュアの方を指差すと、リリがさらに明るい笑顔になる。
「そうだよね、やっぱりマミィちゃんだよね!ありがと、お兄ちゃん!あたし、他のも色々買って来るね!」
マミィのフィギュアは買う事が決定したようだ。
リリは他のアニメグッズも買いに行ってしまった。
残されたタカヤとサクヤはリリのハイテンションぶりに唖然となっていた。
「リリちゃん、いつも以上に元気いいね…。」
「そうですわ。好きなアニメの話になるとお姉様はいつもああなってしまいますわ。」
サクヤはリリのアニメ好きには慣れているようだ。
リリの元気な姿を見て今日は一緒に買い物に来て良かったと思うタカヤだった。
結局リリはフィギュアだけでなく、袋一杯にアニメグッズを色々買ったようだ。
「ありがとね、お兄ちゃん!サクヤちゃん!今日はいい買い物しちゃった。」
「ううん、僕も色々見れて楽しかったよ。」
「今日もいっぱい買いましたわね。」
「えへへ…。」
買い物を終えた三人はサクヤがお薦めする喫茶店へ向かった。
サクヤはここの紅茶とケーキがお気に入りのようだ。
三人はケーキと飲み物を注文すると、外のテーブル席へ座った。
ここは電気街を見渡せる気持ちのいい場所だ。
「ね、ここのケーキ美味しいでしょ?」
「うん。こんな美味しいケーキは久しぶりだよ。」
「喜んでもらえて良かったですわ。」
紅茶やジュース、ケーキを口にしながら一息つく三人。
タカヤはふとコロニーの空を見上げていた。
今まで戦いや訓練続きでこんなに休めたの久しぶりだった。
このまま何事もなければいいと思いつつ、ぼーっとしてしまっていた。
そこにリリとサクヤが声を掛ける。
「お兄ちゃん、どうしたの?ぼーっとしちゃってるよ?」
「何かあったのですか?」
二人が心配そうにタカヤを見つめる。
「な、何でもないよ。やっぱり平和はやっぱりいいなって思って…。」
「そうだよね、やっぱりこんな日がずっと続くといいよね!」
「今は戦いは続いてますけど、早く終わってほしいですわね。」
リリとサクヤに笑顔が戻ると、二人はタカヤの手をそっと握る。
「お兄ちゃん、早く戦い終わらせる為に頑張ろうね!」
「私達がついてますから大丈夫ですわ、お兄様。」
「うん、ありがとう…。」
これからも激しい戦いは続くだろう。
けど、リリとサクヤがいてくれるなら、戦える。
そしてこんな戦争を終わらせる為に出来る事をしようと誓うタカヤであった。
「ほらお兄ちゃん、買い物まだ終わってないんだから。行くよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!」
「もう、お姉様ったら…。」
まだまだリリ達の買い物は続きそうだ。
このような平穏な日がずっと続いて欲しいと願うタカヤ達だった。
地球圏の宙域に漂う小惑星帯。
そこは隕石だけでなく、廃墟となったコロニーや宇宙ゴミが漂う宙域だ。
コロニーの残骸がぶつかって宇宙船が沈む事故もあり、誰も近寄らない魔の宙域である。
この宙域は反政府組織や宇宙海賊等の隠れ場所にもなっている。
彼等は小惑星や廃棄コロニー等を隠れ家にし、エネルギー確保の為にコロニーへの襲撃や地球圏政府へのテロを行っている。
その小惑星帯に一隻の黒い戦艦が資源の眠っている隕石へと進んでいた。
その黒い戦艦は地球軍が最も恐れている凄腕の宇宙海賊[ブラックスター]の海賊船[ブラック・アルバトロス]だった…。
海賊船[ブラック・アルバトロス]の艦橋はのんびりとした雰囲気だった。
海賊のメンバーがみんな仲良く食事をとっていた。
いつ地球軍が取り締まりに来るかわからないのに、全く緊張感がないようだった。
「ふぅ~、手作りの焼きそばはやっぱりうまいなぁ…。」
艦長席に座って焼きそばをすすっているのは、宇宙海賊[ブラックスター]の首領、リュシオン・ブラック。
まだ若いが、船長としてもランダーとしても優秀な切れ者である。
「うんうん、久しぶりの手作りは最高だね~☆」
リュシオンの隣に立っている少女は[ブラックスター]の戦闘隊長、レナ・ウヅキ。
マイペースでいつもニコニコしているが、ランダーとしての実力はリュシオンにも匹敵する腕の持ち主だ。
「前みたいにゼリーばっかりよりかはいいんですけど…、焼きそばは今日で三日目ですよ…。」
同じくリュシオンの隣にいるメガネをかけた理知的な男性は、[ブラックスター]の参謀役である、リーツ・カーマイン。
普段は作戦立案が担当だが、、リュシオンが出撃している時は船の指揮も担当している。
「だね~、毎日食べるとちょっと飽きる~♪だよね~☆」
レナは焼きそばを食べながら相変わらずニコニコしている。
「確かになぁ。けど、ニュートロンを見つけ出したらもっといいもん食えるぜ!」
リュシオン達が焼きそばを食べながら会話していると、オペレーターから目標の隕石に近づいたとの知らせを受ける。
「いよいよですね、リュシオン船長。」
「ああ。よーし、野郎共!ニュートロン回収してさっさと帰るぜぇ!」
「総員、出撃準備!」
リュシオンとリーツの指示で、部下達がASを装着し、隕石へ向かう。
「みんな、頼んだぜ!」
「おぉ!」
「任しといてください!」
船から出撃したAS部隊は隕石に眠っているニュートロンの回収に向かった。
地球圏、イズモコロニーは今日も平穏な朝を迎えた。
昨日の買い物を楽しんだタカヤ達はそれぞれの部屋で眠りについていた。
しばらくは学校は休みなのだ。
三人はぐっすりと寝ていた。
しかし、タカヤ達の平穏な休日は突如終わりを告げる事になる。
タカヤの机に置いてあるスマートフォンから緊急コールが鳴り響く。
特務中隊への出撃要請が来たと言うことだ。
タカヤはゆっくりと目を覚ます。
「うーん…、せっかくの休みなのにぃ…。」
すると、タカヤの部屋のドアがいきなり開けられた。
「お兄ちゃん!」
「お兄様!」
リリとサクヤが部屋に入って来た。
二人はまだパジャマ姿だった。
二人が部屋に入って来た事でタカヤはすぐにベッドから起き上がる。
「う、うん、わかってる。すぐに学校に行こう!」
「あーあ、せっかくのお休みだったけど、しょうがないよね。」
「お兄様、急ぎましょう!」
リリとサクヤはタカヤの部屋でパジャマを脱ぎ始める。
「ちょ、ちょっと!まさかここで着替えるの…?」
「そうだよ、それがどうしたの?」
二人がタカヤの前で着替えるのは今に始まった事ではないが、やっぱり女の子の着替え姿を直視する事が出来ないタカヤだった。
「お兄様、今はそんな事より早く着替えないと!」
サクヤの言う通り、今は一刻も早く学校へ向かわねばならない。
「う、うん、わかったよ…。」
二人はそのまま急いで制服に着替え始めた。
タカヤも二人が見えないように後ろを向き、急いで制服に着替えた。
制服に着替えて急いで学校へ駆け込んだタカヤ達はそのまま基地へ向かい、第七中達の旗艦である[シラサギ]に乗り込んだ。
シラサギの艦橋にはクリス隊長やメイファ副隊長だけでなく、既にフィリアとジークも来ていた。
だが、そこにはゼルとノエルの姿はなかった。
ゼルとノエルは故郷であるグラナダコロニーにまだ帰省しているようだ。
あの二人がいない状態で大丈夫なのだろうか。
「さて、せっかくのお休みのところ悪いけど、今回の任務について説明するわね。」
クリス隊長が任務の説明を始める。
今回の任務は地球軍ですら手を焼く宇宙海賊の討伐だという。
宇宙海賊[ブラックスター]が軍所有の資源衛星を次々と襲撃しているらしい。
彼らは資源衛星だけでなく、誰も手をつけていない隕石の資源も狙っているようだ。
「正規軍の追撃を何度も振りきる程の相手だしね…。ついに私達に出撃要請が来たってわけね。」
それほどまでに手強い海賊と戦うことになるとは…。
タカヤ達は緊張の色を隠せない。
だが、フィリアだけは顔を強ばらせていた。
[ブラックスター…!」
そんなフィリアにタカヤ達は気付いていなかった。
「相手は数は少ないけど油断はしないでね。それじゃ、出撃準備よ!」
これ以上海賊達に貴重な資源を奪われる訳にはいかない。
ASを装着した第七中隊は星の海へ飛び出した。
隕石から資源を確保したブラックスターのメンバー達。
これから本拠に帰還しようとしたその時、戦艦[ブラック・アルバトロス]の艦橋に警報が鳴り響く。
敵に発見されたようだ。
オペレーターを務める少女、ミカは突然の事態におろおろしてしまっている。
「あわわ、み、見つかっちゃいましたー!」
慌てふためくクルー達をリーツが落ち着かせる。
「全員落ち着くんだ!…で、敵は地球軍ですか?」
「は、はい、地球軍です…。けど、あの特務中隊が来ましたよぉー…。」
「特務中隊だと…!」
ASスクールで選りすぐりの少年少女達で構成された地球軍の精鋭部隊。
しかもこの前の月面大戦[オペレーション・ムーンブレイク]で活躍した奴等が来たというのか。
「へー、次の刺客はあの特務中隊ってか。おもしれぇな!」
強力な敵が現れたのに、リュシオンは嬉しそうだった。
「船長!相手はあの特務中隊ですよ!今までの正規軍とは訳が違います。すぐに逃げるべきです!」
「だーいじょーぶだよ、リーツ。リュウが本気出したらあの子達なんか目じゃないよー。」
リュシオンだけでなくレナまでも楽しそうだった。
「彼等はあの超兵器を使う可能性があります!過小評価は危険です!」
「そんなのわかってるって。あいつらがそう簡単に逃がしてくれる訳ねぇだろ。だったら、戦うしかねぇじゃんか。」
「しかし…!」
「それにあいつらの力を見極める必要もあるしな。」
「それはそうですが…。」
リュシオンが艦長席から立ち上がる。
「よぉーし、そんじゃ俺達は行ってくるぜ。…心配すんなって、適当に戦って撤退するからさ。」
「…わかりました、お気をつけて。」
「ああ、行って来る。艦の指揮は頼んだぜ。レナ、行くぞ!」
「はーい。それじゃ、行って来るねー。」
リュシオンが艦橋を出ると、レナもそれに続いた。
リーツは出撃準備に行く二人を見届けると、艦長席に座った。
艦の格納庫ではリュシオンとレナ、そして配下の戦闘部隊が出撃準備に入っていた。
二人もASを装着する。
[ブラックスター]の隊員達は全員黒いカラーリングのASを装着していた。
リュシオンが装着する専用
AS[レイブン]。
そして、レナが装着する専用AS[シャーマン]。
二人の専用ASも黒く塗られている。
そして全員の出撃準備が終了する。
「野郎共、行くぞ!」
「おおっ!」
リュシオン達戦闘部隊は地球軍を迎撃するべく、出撃した。
第七中隊旗艦[シラサギ]がイズモコロニーを出てから一時間後。
シラサギはついに宇宙海賊の船の捕捉に成功する。
「みんな、ついに宇宙海賊を見つけたわ。出撃よ!」
クリス隊長から出撃命令が出る。
海賊掃討作戦がついに始まるのだ。
「みんな、行くぞ!」
「了解!」
フィリアを筆頭に、ジーク、タカヤ、リリ、サクヤがそれぞれ専用ASを装着し、出撃する。
タカヤ達が宇宙へ飛び出すと、前方に戦艦が見えた。
「あれが宇宙海賊の船…。」
見た目は軍で使われている戦艦のようだが、黒く塗られている。
すると、レーダーに反応。
「来た!ASが3、いや…、5体!
こっちに来るぞ!」
船から海賊のランダー部隊が出撃したのだ。
しかもどのASも黒く塗られている。
これが地球軍を手こずらせた悪名高い[ブラックスター]…。
今まで海賊とはやはり違うようだ。油断は出来ない。
「私と兄さんはリーダー機を叩く!タカヤ達は手下達を頼むよ!」
「わかったよ!」
「こっちは任せてー!」
「気を付けてくださいね。」
フィリアとジークはリーダーと思われる専用ASを叩きに行った。
タカヤ達の前にも黒いASを装着した海賊達が接近して来る。
「こんな時にブレイブウエポンが使えないなんて…。」
「そうだよねー。けど、しょうがないよね。」
「そうですわ。今はノーマル形態で頑張りましょう。」
出撃前、ユミナにブレイブウエポンは使えないと言われていたのだ。
やはり、月面大戦で無理をし過ぎたのか、しばらくの間は調整が必要らしいのだ。
確かに超兵器が使えないのは痛いが、今のままでも充分な戦力になる。やるしかない。
「お兄ちゃん、来るよ!」
「お兄様!」
「うん、行こう!」
海賊達がタカヤ達に攻撃を仕掛けて来た。
三人も攻撃を開始した。
フィリアとジークの前にも海賊の部隊が立ち塞がる。
「来たぜ、妹よ!」
「ああ、わかってるよ!」
黒いAS部隊の中に一人リーダーがいる。
「あいつ…まさか…!」
リーダーASの肩アーマーには3つの星のマーキングが描かれている。
それを見た瞬間、冷静だったフィリアの表情が一変する。
「お前が…お前が…お父さんの仇かあぁぁぁぁ!」
フィリアの顔が怒りの表情に変わり、海賊のリーダーに突っ込んで行く。
「お、おい!いきなり突っ込むな!」
ジークの制止を振り切り、フィリアはリーダーに戦いを挑む。
「来い、シラヌイ!ウンリュウ!」
フィリアはヒートブレードとプラズマブレードを両手に転送する。
「真っ正面から来るとねぇ。受けて立ってやるとするか!」
海賊のリーダー、リュシオンは二本のサーベルを両手に転送する。
フィリアと同じく二刀流で戦うスタイルのようだ。
「海賊共め、絶対に許さない!」
フィリアは二本の刀でリュシオンに斬りかかるが、最小限の動きでかわされる。
まるでフィリアの動きを全て読んでいるかのように。
ジークの周りにも黒いASの部隊が襲いかかる。
「やめろ、フィリア!ったく、あのバカが!」
冷静さを欠いたフィリアはジークの言葉が全く耳に入っていない。
これではジークが遠距離から支援し、フィリアが近距離線で敵を片付ける戦法が台無しだ。
残った黒いAS部隊がジークに襲いかかる。
ジークはプラズマピストルを転送し、敵部隊を狙い撃つ。
しかし、一般兵も動きが良く、なかなか撃ち落とす事が出来ない。
敵部隊もプラズマライフルをジーク目掛けて一斉に撃ちまくる。
このままでは数で押されてしまう。
「フィリア…何やってんだよ…!」
ジークは多数の敵相手に持ちこたえる事しか出来なかった。
一方、タカヤ達も海賊達に苦戦を強いられていた。
今までの海賊とは違う統制のとれた行動にタカヤ達は翻弄されていたのだった。
「こ、こいつら手強いよぉ…!」
「お兄ちゃん、気をつけて!」
タカヤ達は敵の攻撃を避けて反撃するだけでも手一杯の状態だ。
「お兄様、お姉様!新手が来ますわ!」
サクヤの警告通り、新たな敵が接近して来た。
黒い専用AS。しかも右肩に二つの星のマーキング。
海賊の実力者が現れたようだ。
「また来たよぉー!」
「あいつは僕が相手をする!」
「お兄様、援護しますわ!」
タカヤはニュートロンライフルを右手に転送すると、接近して来る海賊のエースに狙いを定める。
リリとサクヤもマシンガンとプラズマランチャーを構え、海賊のエースに狙いを定め撃ちまくる。
タカヤもライフルを撃ちまくる。
しかし、海賊のエースは三人の砲撃を全てかわし、接近して来る。
「なかなかやるねー。あたしも行くよー。」
三人に襲いかかる海賊のエース。それはブラックスターの戦闘隊長、レナだった。
「行け、ソードフィッシュ!」
レナの周りに多数の短剣型ビットが転送される。
ビットは意思を持っているかのように三人に襲いかかる。
「ビット型兵器!全方位に気をつけて!」
リリは火星軍親衛隊のミアが使っていたビット型兵器と戦った経験があるのだ。
あらゆる方向からナイフ型ビットが次々と三人に突撃して来る。
三人はなんとかそれを避け続ける。
リリの警告がなければ、タカヤもサクヤもズタズタに切り刻まれていたかもしれない。
しかし、避け続けてばかりでなかなか敵に反撃出来ない。
そうしている内に、タカヤにレナが接近して来ていた。
レナの右手にはニュートロン兵器か何かわからない輝きを放つロッド型の武器が握られていた。
「うわぁっ!」
タカヤはとっさにニュートロンコーティングが施された小型盾を転送し、攻撃を防ごうとする。
「そんなので防げるかなー?」
レナは光輝くロッドをタカヤに向けて振り下ろす。
タカヤは盾で防ごうとするがロッドの一撃で盾は破壊されてしまう。
明らかにニュートロン兵器とは違う未知の兵器だ。
「くそっ…!来い、グラディウス!」
タカヤはとっさにニュートロンブレード[グラディウス]を転送し、レナに斬りかかる。
レナはタカヤの斬撃も軽々とかわした。
「残念でしたー。」
「くっ…!」
「お兄ちゃん、あきらめちゃ駄目だよ!」
「私達も行きますわ!」
「…うん!」
タカヤ達は再び反撃を開始しようとしていた。
フィリアと海賊のリーダー、リュシオンはほぼ互角の戦いを繰り広げていた。
フィリアは怒りに任せてリュシオンに斬りかかる。
「あんただけは…あんただけは…あたしの手で倒す!」
いつもの冷静さを失っているフィリアは二本の刀で斬りかかるが、リュシオンは軽々とかわす。
「父の…仇か…。」
リュシオンは攻撃をかわしながらつぶやいた。
「これでもくらえ!リミッター30%解除!」
フィリアは必殺技のリミッターを解除する。
「白虎衝波斬!」
フィリアは炎と雷を帯びた衝撃波をリュシオンに向けて放つ。
高速で放たれた衝撃波はリュシオンに命中した。
「やったか!?」
しかし、リュシオンは無傷だった。
リュシオンは左手からニュートロンフィールドを展開し、衝撃波を防いだのだ。
「…やめとけ。今の君じゃ、俺には勝てねぇよ。」
リュシオンの言葉がフィリアをさらに激昂させる事になった。
「ふ、ふざけるなぁ!」
フィリアは怒りに身を任せ、リュシオンに斬りかかろうとする。
「やれやれ…。」
リュシオンは二本のサーベルを構え、フィリアを迎え撃とうとする。
だが、その時!
ASのセンサーが謎の部隊の接近をキャッチする。
「何!?」
フィリアもこれがきっかけでようやくいつもの冷静さを取り戻したようだ。
「来やがったか…。」
一方のリュシオンは謎の部隊の出現にも落ち着いていた。
謎の部隊は特務中隊と宇宙海賊が戦っている宙域に姿を現した。
「何だあのASは…。」
「見た事もねぇな…。」
謎のAS部隊の前にフィリアもジークもあっけに取られていた。
データを照合してもディスプレイに[機体データ無し]と表示されるだけだ。
謎のASはまるで地球に生息している生物、ゴキブリのようなデザインをしている。
謎のASはいきなり眼からビームを放つ。
フィリア達はかろうじてそれを避ける。
「うわっ!」
「問答無用かよ!」
謎のAS部隊は第七中隊、ブラックスター関係なしに無差別にビームを撃って来る。
「おい嬢ちゃん!」
リュシオンから通信が入る。
「ここは一時休戦だ。あいつらは人間を見境なしに襲いかかって来るぞ!」
確かに今は人間同士で争っている場合ではなさそうだ。
あいつらは容赦なしに人間に攻撃を仕掛けている。
「妹よ、今はあいつらの言う通りにした方がよさそうたぜ。」
「…わかった。今回だけだよ!」
ジークとフィリアはリュシオンの申し出を受ける。
「ありがとよ。さ、あいつらを蹴散らすぞ!」
リュシオンは第七中隊の旗艦にも共闘を呼び掛けた。
第七中隊旗艦[シラサギ]の艦橋内ではクリス隊長達が戦況を見守っていた。
苦戦しているようならクリス隊長自らも出撃しなければならない。
やはり海賊達は相当な戦力を持っているようだ。
しかも正体不明のAS部隊まで襲いかかって来たのだ。
クリス隊長は出撃しようと艦長席から立とうとしたその時だった。
「地球軍の艦長、聞こえるか?」
突然、謎の男が通信に割り込んで来た。
「あなたは…!」
「そう、ブラックスターの船長、リュシオンだ。」
「地球軍所属、イズモ軍第七特務中隊の隊長、クリスチーナ・ブレイデスよ。海賊のリーダーが私達に何の用かしら?」
「謎の敵が襲いかかって来たのはわかるだろう?ここは一時休戦して俺達と一緒にあいつらを蹴散らすってのはどうだ。」
確かに今は一緒に謎の敵を倒した方がいいだろう。
特務中隊も海賊も関係なしに攻撃を仕掛けて来るのだから。
「いいわ。今はあなた達の申し出を受けてあげる。だからと言って、あなた達をこのまま放っておくつもりはないからそのつもりでね。」
「ありがとう。協力、感謝するぜ!」
リュシオンとの通信が切れた。
今は人間を襲う謎のASを倒す事が最優先なのだ。
クリス隊長は全隊員に指示を出した。
タカヤ達も謎のASからの襲撃を受けていた。
通信も通じない、データも一切ない。
奴等は特務中隊も宇宙海賊も無差別にビームを放って来る。
「な、何なの、こいつら!?」
「見た目が気持ち悪いよぉー!」
「火星軍や木星軍…ではないですわね…。」
タカヤもリリもサクヤも見た事がないASだ。
すると、クリス隊長から通信が入る。
「タカヤ、リリ、サクヤ、聞こえてる?」
「は、はい!」
「これから宇宙海賊のみんなと協力してアンノウンを叩くのよ!出来るわね?」
「わ、わかりました…。」
「あの海賊と一緒にかぁー…。」
「お姉様、今はそれしかないですわ。」
先程まで戦っていた敵と協力するのには戸惑うが、今は正体不明の敵を共に迎撃するしかない。
「みんな聞いたよねー。一緒にあいつらやっつけるよー。」
レナは謎の敵を前にしてもいつものペースで話しかけて来る。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「気にしなーい!トモダチナラアタリマエー。だよー。」
「あのー…、まだ友達になった覚えないんだけどー…。」
「ま、まあまあ、お姉様、気になさらないで。お兄様も行きましょう!」
「う、うん、そうだね…。」
タカヤもリリもサクヤもレナの緊張感のないマイペースぶりに困惑してしまっていた。
謎のAS部隊は目からビームを放ち、容赦ない攻撃を仕掛けて来る。
レナ達海賊の部隊は臆する事なく、敵に向かって行く。
タカヤ達もそれに続いた。
「みんなー、あたし達にしっかりついて来てねー。」
「は、はい!」
「楽しい戦いになりそう、フフフ…。」
レナは笑みを浮かべると、謎の敵に攻撃を開始する。
「ソードフィッシュ、行くよー。」
レナは無数のナイフ型ビットを謎の敵の大群に向かって放つ。
謎の敵はナイフ型ビットによって次々と切り刻まれ、撃破される。
海賊の戦いぶりにタカヤ達も見とれていた。
「やっぱりあの人、凄い…。」
「お兄ちゃん、あたし達も負けてられないよー!」
「そうですわ。私達の力、見せてあげましょう!」
タカヤ達も謎の敵の大群に攻撃を開始する。
「ニュートロン・ライフル!」
タカヤはライフルからニュートロン粒子を連射し、襲いかかる謎の敵を次々と撃ち落とす。
「あたしも行くよ!リミッター30%解除![天聖戦輪乱舞 エンジェリック・サークルダンス]!」
リリはプラズマサークル[エンジェリック]を転送すると、リミッター解除で無数のサークルを展開し、敵の大群に向けて飛ばす。
無数のプラズマサークルは謎の敵を次々と切り裂いていく。
「一気に行きますわ!リミッター30%解除!」
サクヤは必殺技のリミッターを解放する。
「圧縮粒子雷撃砲[フォトンプラズマブラスター]!」
プラズマランチャーから放たれた極太のプラズマ粒子が多数の謎の敵を一気に葬る。
だが、謎の敵は次々とタカヤ達とブラックスターに襲いかかる。
「数が多い…!けど!」
「うん、強さは大した事ないよ!」
「はい、このまま押しきりましょう!」
こうして、タカヤ達はブラックスターと協力して謎の敵を撃退する事に成功したのだった。
フィリア達の前にも大量の謎のAS軍団が襲いかかって来る。
「来るよ、兄さん!」
「後ろは任せとけ!」
フィリアは敵の大群に斬り込み、ジークは後方からの狙撃でそれを支援する。
「邪魔するな、化け物!」
フィリアは謎の敵が放つビームを次々とかわし、二本の刀で敵を斬り捨てる。
「敵の能力は大した事はないみたいだね。けど…!」
謎の敵の個々の能力は弱いようだが、数が多い。
フィリアの能力がいくら高くてもこのままでは押し切られてしまう。
すると、後方からジークがプラズマライフルで援護してくれた。
謎の敵は次々とプラズマ弾の餌食になる。
だが、倒しても倒しても謎の敵は大群でフィリアの前に表れる。
「兄さん、頼むよ!」
「任せろ!リミッター30%解除!」
ジークは武装のリミッターを少し解除する。
「ボルト・ブラスター!」
プラズマスナイパーライフルから放たれらプラズマレーザーが謎の敵を一気に数体撃破する。
ジークとフィリアの戦いぶりを見たリュシオンも謎の敵の大群に攻撃を開始する。
「あいつらもやるじゃねえか。よし、俺も負けてられねぇな!」
リュシオンは二本のサーベルを振り回し、次々と謎の敵を一刀両断にする。
「よぉし、一気に片付けるぜ!リミッター30%解除!」
リュシオンは武装のリミッターを解除する。
「ブラック・クロス!」
リュシオンがサーベルを十文字に振り回すと、十字型の衝撃波が謎の敵に襲いかかる。
衝撃波は多数の敵を一気に飲み込んで、撃退した。
こうして特務中隊とブラックスターは謎の敵を殲滅する事に成功したのだった。
未確認の謎のASを宇宙海賊と共闘して撃破した特務中隊。
だが、戦いはまだ終わってはいない。
共闘したとはいえ、宇宙での生活に必用な資源を奪い、地球圏の平和を乱す海賊を放置する訳にはいかない。
特にフィリアは宇宙海賊に対して強い憎しみを抱いているようだった。
「一緒に戦ってくれたのは感謝するわ。けど、あなた達をこのまま逃がす事は出来ないわね。」
クリス隊長がリュシオンに通信を入れている。
だが、バイザーから見えるリュシオンの顔は余裕の表情だった。
「悪いが、俺達にもこれからの生活がかかってるんでな。これでおさらばだ。あばよ!」
宇宙海賊達はその場を去ろうとする。
「逃がすか!お前達は…父の仇だ!」
フィリアは怒りを剥き出しにしてリュシオンに突っ込む。
「バカ!一人で突っ込むな!」
ジークの声もフィリアには届かない。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
フィリアはリュシオンの頭上から刀を振りおろす。
しかし、その斬撃はそこに割って入ったレナのビームロッドで受け止められていた。
「リュウはやらせないよー。」
「邪魔をするな!答えろ、父を殺したのはお前達か!?」
「…。」
リュシオンは何も答えない。
「教えてあげないよ、ジャン♪」
レナはフィリアを軽く振り払う。
「お前らがもう少し強くなったら答えてやるぜ。リーツ、そろそろずらかるぜ!準備はいいか?」
リュシオンは艦で指揮をとるリーツに通信を入れる。
「いつでも大丈夫ですよ。退却してください!」
リュシオン達が一斉に退却を始める。
「待て!」
フィリアが追おうとすると、ヘルメットのバイザーが突然真っ暗になり、視界が遮られてしまった。
「何、これ!?」
「ま、前が見えねぇ!」
フィリアやジークだけではなく、タカヤ達やシラサギでも同じような事が起きていた。
しばらくしてバイザーの映像が回復すると、海賊の姿はどこにもなかった。
見事に逃げられてしまったようだ。
「逃げられたか…!」
「今のは一体何だったんだ…?」
フィリアやジークだけでなく、リリやサクヤも見た事がない兵器だった。
「まさか…あれはジャミングフィールド?」
クリス隊長の呟きがタカヤ達にも聞こえていた。
「隊長ー、何ですかそれ?」
「私達も聞いた事がありませんわね…。」
「今では封印されたの技術よ。まさかあいつらがね…。」
封印された技術や乱入した謎の敵は何なのか気になるが今はイズモコロニーに帰還する事が先だ。
「さ、とにかく帰るわよ。あいつらに逃げらたのは残念だったけど、みんな無事で何よりだわ。行くわよ!」
確かに今までの海賊やテロリストとは違う手強い相手だった。
任務は失敗してしまったが、全員無事だっただけでも良しとしなければならない。
特務中隊はすぐにシラサギへ帰艦する。
その途中、タカヤ達は一緒に帰艦するフィリアを見ていた。
いつも冷静で第七中隊を引っ張って来た彼女が何故海賊を前にして取り乱したのか。
心配だが、帰って聞いてみるしかなさそうだった。
こうして、無事にイズモコロニーへと帰って来たタカヤ達。
しかし、タカヤ達にいつもの元気はなかった。
任務に失敗しただけではない。
何故フィリアが海賊に対して憎しみを抱いているのか。
聞きたい事が色々あるからだ。
タカヤ達はすぐには帰宅せず、誰もいない自分達のクラスの教室へと入った。
全員が席に座るが、フィリアにいつもの元気はなく、黙りこんだままだ。
「フィリアさん…。」
「フィリアちゃん、どうしたの?何かあったの?」
「私達だけにでも話してみてください、ね?」
「…。」
タカヤ達が心配して話しかけるが、フィリアはうつむいたまま何も答えない。
「おい、みんな心配してくれてるんだからよ、ちゃんと答えてやれよ。」
ジークの呼び掛けに、フィリアはようやく口を開いた。
「すまない、みんな…。私とした事が…。」
「あの海賊と…何かあったの…かな?」
「良かったら、聞かせてみて?」
「話したくなければ無理はしないでくださいね。」
三人の問いかけにフィリアが口を開こうとすると、いきなり教室のドアが開いた。
全員がびっくりしてドアの方を見ると、入って来たのはクリス隊長だった。
「クリス隊長!」
「あなた達、まだ帰ってなかったの?」
タカヤ達は今回の戦いでのフィリアの行動について説明した。
やはりクリス隊長もシラサギから今回のフィリアの戦いを見ていた。
「確かにいつものフィリアさんらしくなかったわね。アンノウンが表れなかったら全員生きて帰れなかったかもしれなかったわよ?」
「すみません…。」
フィリアと宇宙海賊との間に何があったのか。全員が気になっていた。
「フィリアさん、話しづらいなら私が話すけどいい?」
フィリアが顔をあげて口を開く。
「いえ、私が話します。あの宇宙海賊は私達の父の仇かもしれないんだ。」
全員が真剣な表情でフィリアの話に耳を傾ける。
フィリアとジークの父、グレイ・アルトリートはイズモコロニーと同盟を結ぶゼカニアコロニー軍の司令官だった。
司令官でありながら、前線に出て戦う事でも知られており、部下からの信頼も厚かった。
それは、グレイが部下を連れて輸送船の護衛任務に就いていた時だった。
輸送船には、木星圏から譲り受けたヘリウムや小惑星から少量しか採れないニュートロン等の貴重な資源が詰まられており、何としても無事にコロニーまで届けなくてはならなかった。
しかし、その資源を狙って宇宙海賊が輸送船を襲撃して来たのだ。
しかもその海賊は最近地球圏の資源衛星を荒らしまわってい
る[ブラックスター]だったのだ。
グレイ率いるゼカニア軍は何とか輸送船を守りきる事に成功するが、グレイだけは行方不明になってしまった。
後に生還した部隊長から、父グレイは戦死した事を聞かされた。
しかもその海賊の装着していた黒いASには、三つの星のマーキングが描かれていたと言うのだ。
それを聞いたフィリアとジークはその海賊を倒して父の仇を討つと心に誓うのだった。
「あの海賊が…。」
「お父さんの仇だったなんて…。」
「お気持ちはわかりますけど…。」
フィリアの話を聞いて沈黙が続いた後、タカヤ達が口を開く。
「けど、戦場で冷静さを欠いちゃ駄目よ、自分だけでなく、仲間も危険にさらす事になるわよ。…気持ちは痛い程わかるけどね。」
「はい、気を付けます…。」
クリス隊長の指摘に、フィリアは素直に謝った。
「フィリアちゃん、大丈夫だよ!あたし達も力を貸すから!」
「そうですわ。一人で抱え込まないでくださいね。」
「ぼ、僕達で良かったら一緒に協力するよ…!」
タカヤ達がフィリアを励ます。
「ありがとう、みんな…。チャンスがあれば、あいつが父の仇かどうか聞き出してみせるよ。」
フィリアの顔に笑顔が戻って来た。
「俺だって宇宙海賊が憎いのは同じさ。怒りに任せたら相手の思うつぼだしな。いずれまた戦うかもしれないし、チャンスを待とうぜ。」
いつもは女好きでおちゃらけているジークが真剣な表情でフィリアを励ましている。
「兄さん、みんな、ありがとう。もう私は大丈夫だよ。これからも頑張ろう!」
いつもの冷静で強気なフィリアが戻って来た。
宇宙海賊[ブラックスター]との戦いはまだ始まったばかりなのだ。
打倒[ブラックスター]を誓うタカヤ達だった。
宇宙海賊との戦いから次の日。
長かった連休も終わりが近づいて来た。
休日を家で過ごしていたタカヤに突然メールが届いた。
それはノエルからだった。
ゼルとノエルが故郷であるグラナダコロニーから帰って来たのだ。
メールによると兄であるゼルは寮に一人で帰ったようで、今は一人でモノレールのシノノメ駅にいるらしい。
「…そういえば一緒に映画観に行く約束してたっけ。」
タカヤは早速シノノメエリアまで出掛ける事にした。
やはり、リリとサクヤからどこに行くのか、と聞かれると「友達の所へ行って来るよ。」と言ってなんとか家を抜け出した。
ノエルとデート、なんて言ってしまったら面倒な事になりそうだから言わない事にしたのだった。
しばらくしてシノノメ駅に到着すると、改札前でノエルが待っていた。
「お、お待たせ。」
「今日は…よろしく…お願いします…。」
こうして二人だけで会うのは初めてで、かなりぎこちない状態だった。
「そ、それじゃあ行こうか…。」
「は、はい…。」
お互いぎこちない状態のまま二人は映画館へ向かうのだった。
二人が観たのはASを装着したヒーローが宇宙の平和を守るアクション映画だった。
ノエルがタカヤの好きそうな映画をチョイスしたようだ。
観ている間も二人はガチガチに緊張していたのだった。
そして、映画を観終わった二人は近くの喫茶店へと向かった。
ところが、喫茶店ではタカヤもノエルも全く口を開かなくなってしまった。
「ど、どうしよう…、何か話さないと…。」
タカヤは紅茶を飲みながら、何を話したらいいか考える。
しばらく続いた沈黙の後、ようやくタカヤが口を開く。
「あの…、ノエルさんはグラナダコロニーで…何してたのかな…?」
タカヤはとっさにノエルとゼルの実家のグラナダコロニーで何して過ごしていたのかを聞いてみた。
「えっと…、実家で過ごしたり、久しぶりに友達に会ったり、戦闘訓練してたり…、ですね…。」
ノエルも故郷でも休日を楽しく過ごしていたようだ。
「あの…、タカヤさん達は…私達がいない間…何かありました、か…?」
ノエルとゼルは不在の間に海賊討伐の任務があった事をまだ聞いていないようだった。
タカヤは先日の任務の事を話した。
「その[ブラックスター]って海賊なんですけど…、資源を手に入れてはアステロイドの下層民に分け与えている義賊だって話を聞いたんですけど…。」
「あいつらが…義賊?」
その話が本当なら[ブラックスター]は悪い奴等ではないという事なのか。
「あ、あくまで噂、ですけど…。」
確かにまだその話は噂に過ぎない。
現実に宇宙での生活に欠かせない資源を奪い、地球圏の平和を乱している連中に違いはない。
「ごめん…、任務の話になっちゃった…ね。」
話題を探していたらやっぱり任務の話になってしまう二人だった。
「い、いえ、それでも…楽しかった…です…。」
二人共緊張のあまり顔が真っ赤になっていた。
まだまだぎこちない二人だが、デートは楽しめたようだった。
時間はあっという間に夕方の時間帯になり、タカヤもノエルも家に帰る時が来た。
二人はシノノメ駅で別れる事にした。
「き、今日はありがとう、ございました…。」
「こ、こちらこそ楽しかったよ。ま、また行こう…。」
「は、はい!」
二人が別れようとしたその時、ノエルがいきなりつまづいて、タカヤに倒れかかって来た。
「きゃっ!?」
「あ、危ない!」
タカヤはとっさにノエルを受け止めた。
「ご、ごめんなさい、緊張…しちゃって…。」
「う、ううん、気にしないで。」
すると、タカヤが右手に違和感を感じる。
何か柔らかい物を掴んでいると思ったら、タカヤの右手はノエルの豊満な胸を鷲掴みにしていた。
「きゃっ!?」
「ご、ごめん…!」
タカヤは慌てて右手を胸から離す。
二人はすっかり顔が真っ赤っかになっていた。
「ご、ごめん、ほんとに…。」
「い、いえ、気にしないでください…。た、楽しかったです…。」
そして二人はそれぞれ家に帰る事にした。
「じゃあ、また学校で…。」
「はい、また…。」
こうしてノエルと別れたタカヤは家へと向かっていた。
その途中でリリとサクヤの姿が見えた。
二人もタカヤの姿に気付いたのか、走って近づいて来た。
「お兄ちゃん!」
「お兄様!」
二人は片手に食材が入ったビニール袋を持っていた。
「二人共どうしてここに?」
「ちょうど買い物から帰るところだよね、サクヤちゃん?」
「そうですわ、今日のご飯はお鍋ですよ、お兄様。」
そういえば、袋には野菜や肉がたくさん入っていた。
晩御飯の買い物に行っていたようだった。
「お兄ちゃんも一緒に帰ろ!」
「そうですわ、今から帰るところですのよね?」
「う、うん。帰ろうなか。僕もお腹空いたし。」
こうしてタカヤはリリとサクヤと一緒に家に向かった。
この楽しい生活が長く続く事を願うタカヤだったが、後に新たな戦いに巻き込まれる事になるのだった…。
宇宙海賊[ブラックスター]は、
なんとか地球軍から逃れる事に成功した。
今回はかなりの量の資源、特にニュートロンの大量獲得に成功した為、メンバーはいつも以上に喜んでいた。
「みんな、今日はよくやった!」
「これで焼きそば生活からおさらばだねー。」
「今回の仕事は大成功ですね。特務中隊と奴等が来た事は予想外ですが…。」
リュシオンやレナは勿論、いつも冷静なリーツも喜びの表情を浮かべていた。
謎の敵の乱入もあったが今回も無事に帰る事が出来そうだ。
しかし、リュシオンには気になる事があった。
リュシオンと刃を交えた地球軍の少女は、彼を父の仇だと言った。
「船長、あのランダー、あなたの事を父の仇って言ってましたが、まさか…。」
「リュウ、あの子に話さなかったのー?」
リーツもレナも昔起こった輸送船襲撃事件の事を言っているようだ。
「そうだな…。まだあの子に話すには早いしなぁ。それにあの状態じゃまともに話を聞いてくれなかっただろうしな。」
「そうですね…。また襲って来た時は伝えるのですか?」
「あの子が強くなって俺の前に現れたら、な。」
「そうだねー。またあの子達に会うの楽しみだしー。」
またあの特務中隊との再開を楽しみにしているリュシオンとレナであった。
「さて、湿っぽい話は終わりだ。さっさと帰って今日は宴会にしようぜ!」
何はともあれ無事に仕事を終えたブラックスターの面々を乗せた旗艦[ブラック・アルバトロス]は、本拠地のあるアステロイド帯へと進路を向けた。
火星圏、マーズ・エンパイアコロニー。
地球圏から無事に火星軍艦隊が帰って来た。
しかし、火星軍の被害は大きかった。
特にダイモス軍の艦隊は地球軍の新兵器によって半数以上も失うという有り様だった。
マーズ軍親衛隊は無事に帰還したが、コロニーに戻ると上層部への報告が待っていた。
隊長であるレオと副隊長のミアはコロニー中心部にある火星軍本部へと向かった。
二人は親衛隊の上司であるグライエン大佐の執務室へと呼び出された。
「あれだけの戦力と新兵器を与えてもあのザマか…。[蒼き鷹]の名が泣くぞ。」
「…申し訳ありません。」
「今までの戦果とエネルギー確保の成功がなければ処分を検討してたがな。…まあいい。しばらくは大規模な侵攻は出来ないから、また新兵器開発に必要な人材の確保に専念してくれ。以上だ。」
新兵器とはあのパペットソルジャー、通称[機械少年]の事だ。
上層部はまだあの非人道的な兵器を作り出す気なのか。
だが、大きな任務がない以上はしばらく続けるしかない。
「わかりました。失礼します。」
レオとミアは敬礼をし、執務室を出た。
二人がマーズ軍基地に戻り、訓練室に向かうと、辺りが静まりかえっているのに気付いた。
訓練に励んでいるはずの候補生達が誰もいない。
「隊長、候補生達が…。」
「ああ、どういう事だ…?」
すると、訓練室に一人の少女が入って来る。
その少女は候補生の一人を[機械少年]に改造した天才少女、ユーノだった。
「ユーノ博士…。」
「候補生達はどうした?」
レオの問いに、ユーノは笑顔で答える。
「あの子達は僕が機械少年に改造したよ。今はラボで調整中だけどね。」
「なっ…!」
二人は言葉を失った。
まさか親衛隊が地球圏に行っている間に候補生達が全員改造されてしまっていたとは。
火星軍上層部は非人道的なやり方で作った機械少年を量産化させるつもりのようだ。
「それより次もまたオーディションが開かれるみたいだよ。機械少年になる候補生を決める…ね。」
また同じようなやり方で無関係な人間を改造しようというのか。
レオは怒りを抑えていた。
それはミアも同じだった。
「隊長…。」
「わかっている。だが命令には従わねばならない…。それしか俺達には出来ないからな…。」
こうして、再び新たなランダー候補生を決めるオーディションが始まろうとしていた。
そして次の日。
マーズ軍基地にあるオーディション会場にやって来たレオ、ミア、プレシアの三人。
会場には6人の志望者と、ユーノに加え、もう一人マーズ軍の士官がいた。体つきや鋭い目からして、歴戦の士官のようだ。
「どうも、カーネルです。」
彼はカーネル・タケハイラ少佐。
過去に数々の戦いで戦果を挙げた戦士だ。
現在はランダーを引退し、教官として後進の指導をしているが、相当な鬼教官として恐れらているらしい。
「今回の新人は相当元気な奴等がいるらしいんで。みっちりしごいてやりますよ。」
この男がジョー・リュウモンに変わる新たな特別顧問のようだ。
候補生が非人道的な改造人間のサンプルにされるとも知らずに。
「それじゃ、会場の中へ行ってみましょうか。」
「…そうですね。」
カーネルとユーノ、そしてレオ達は会場内へ向かう。
「次はどんなモルモットが集まってるか楽しみだよ。」
ユーノは飴を舐めながら笑みを浮かべていた。
会場内に入ると、6人の志望者達が席に座っていた。
またしても、志望者は全員不良だった。
志望者全員がレオ達を睨み付けている。
「隊長…、またこんな人達ばっかりなんですか…?」
「上層部に聞いてくれ…。」
ミアはまた不安になって来たようだ。
この前の候補生のようにまた乱闘を起こしかねない雰囲気だからだ。
この前のようなもめ事が起こらなければいいが…。
しかし、レオ達の不安はやはり的中してしまうのだった。
オーディション前に次々と信じられない事態が!
「そ、それじゃあ、私がオーディションの説明をしますね…。」
親衛隊の一員であるアリア・ワイズマン中尉がランダー隊員を決めるオーディションの説明を始める。
「何で私が説明しなきゃいけないの…?」
アリアは心の中で不安を口にした。
集まった不良共はアリアをじっと睨み付けているのだから。
『喧嘩上等!』とでも言わんばかりに。
それから、アリアが説明していると、集まった不良達は話を聞いていないのか、全員だらけているようだった。
『難しい話はどうでもいい…。さっさと戦わせろ!』
そう言わんばかりのだるそうな目つきでアリア達を見ている。
それを見ていたカーネルの目にも怒りの色が。
『こいつらはコロニー戦争をナメているのか!?』
そう言い出しそうなぐらいの不機嫌な表情を見せる。
そしてついに、カーネルの怒りが爆発してしまう!
「お前らのぉ、人が説明してんのにちゃんと聞いとんのかぁ!?」
カーネルはプラズマ斬馬刀を右手に転送すると、二人の不良の前にある机に向けて降り下ろす。
不良の目の前の机が破壊され、二人の不良がびびって小便を漏らす。
それを見たプレシアもびっくりしてミアにしがみつく。
「おねーちゃーん…。」
「大丈夫、大丈夫よ。」
ミアは怖がるプレシアを落ち着かせる。
「帰れ!お前らみたいな奴はいらんのんじゃ。」
カーネルはびびっている二人の不良を無理矢理立たせると、会場から追い出してしまう。
次にリーゼント頭の不良を追い出そうとするカーネル。
「何やお前、はよ立て!」
リーゼント頭はガムを噛みながらカーネルを睨み付けている。
「はよ帰れ言うとろうが!」
カーネルは不良にビンタを食らわす。
「なんじゃコラ!ジョトダコラ!(上等だコラ!)」
リーゼント頭はカーネルに敵意を剥き出しにする。
「さっさと帰れ!」
カーネルはリーゼント頭を無理矢理に席から立たせ、会場から追い出す。
もう一人の不良も追い出そうとするが、その男はカーネルの胸ぐらを掴み、睨み付ける。
「何しよっとかお前!話ちゃんと聞いとったやろ!」
一人の不良がカーネルに突っかかる。
「その態度の事を言っとんのじゃ!それが人の話聞く態度か!」
「態度やろが!」
不良がカーネルに睨み付けながら迫る。
一触即発の緊縛した空気が会場を覆う。
「ワシが殴らんと思うとんとか!?カメラ止めんかー!」
「カメラなんてないけど…。」
アリアが横から突っ込むと、不良はアリアにも迫って来た。
「余計なツッコミはいらんけんの!」
「ちょっと、なんで私までー?」
不良がアリアに襲いかかろうとするが、複数の兵士達がそれを止める。
「やめろ!やめろ!やめろ!」
兵士に押さえつけられた不良は懲りずに制止を振りきり、カーネルに掴みかかり、乱闘が勃発する。
「やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろ!」
カーネルは暴れる不良を強制的に会場から追い出す。
「帰れ!コロニー戦争をナメんなよ!」
それにしても、カーネルは前任のジョー・リュウモンよりも血の気が荒い性格のようだ。
この前以上の波乱がありそうだと、ミアはため息をつく。
「あの人達に関わるとまた疲れるでしょうね…。」
「…。」
レオはいつも通り冷静だった。
しかし、カーネルが不良達を全員追い出した事で、オーディションがうやむやのまま終わってしまった。
これからどうすればいいのか…。
「これで…良かった、のでしょうか…。」
「そうだな…。これで誰も機械少年にならなく済むのだからな…。」
ミアもレオも無関係な人間が機械少年にならなくて済むと思うとホッとするのであった。
しかし、一人の人物が現れる!
「困るなぁ、全員不合格なんて。」
白いツインテールをなびかせたユーノが会場に入って来た。
「ユーノ博士…!」
「やはり…。」
彼女も会場の様子を見ていたのだ。これで簡単に終わるはずがなかったようだ。
「このままじゃ僕の計画が台無しだよ。特別顧問とアリア中尉で彼らを呼び戻してくれないかな?」
「…わかりました。」
「何で私までー…?」
やはりユーノが簡単にサンプルとなる人物を手放すはずがなかった。
ユーノの命令は大統領命令にも相当するので、逆らう事は許されない。
カーネルとアリアはオーディションを受けるはずだった不良達の説得に向かった。
それから翌日。
カーネルとアリアが先日追い出した不良達を連れて会場に戻って来た。
それを聞いたレオ達やユーノが駆けつける。
カーネルが説得すると、不良達を刺激する怖れがあった為、アリアがなんとか説得して連れて来たらしい。
こうして、ランダー隊員候補生を決めるオーディションに挑むメンバーが揃った。
ここでカーネルが不良達にオーディションに挑む覚悟を問いただす。
「お前ら、オーディションに挑む覚悟あんのか?」
「おぅ!」
「やってやんよ!」
「やる言うとろうもん!」
どうやら覚悟はあるようだ。
「もし不満とか言ったら全員辞めさすけぇの!覚悟しとけよ!」
「おぅ!」
不良達から威勢のいい返事が飛ぶ。
これでオーディションが予定通り行われる事が決定した。
「良かった。これで僕のモルモットがまた増えるね。」
ユーノは無邪気な笑みを浮かべていた。
それを見ていたレオはユーノを睨み付けていた。
不良達は知らない。彼らが機械少年と言う名の改造人間にされてしまう事を…。
木星。
前回の木星調査隊に選ばれたメンバー達は、木星に眠っているというニュートロンを求めて、木星へと降下した。
一番ランダーの経験があるランドが副隊長に選ばれ、グラゼル、ブン達選ばれた新メンバーが向かった。
彼らは木星探査用の特殊ASを装着すると、今回与えられた新兵器である、強化外装[アーマードモジュール]をさらに装着し、木星へと向かう。
強化外装は、ASの防御力をさらに強化し、生存率を上げるだけでなく、機動力の強化や武装の拡張等、戦闘力を上昇させる事が出来る。
もしもの時は自由に切り離す事も出来る為、汎用性にも優れている。
この新兵器を装着して、隊員達は木星への突入に成功した。
木星は大気の大半がヘリウムで構成されている為か、視界が極めて悪い。
目的地にたどり着くには、前の調査隊からの地形データだけが頼りだ。
隊員達はOSのナビゲーションに従って移動する。
「いよいよだな…。」
ランドがマップスクリーンを見て呟く。
資源が眠っている目的地が近づいて来たのだ。
「もうすぐか。資源を確保して早く帰ろうや。」
グラゼルも新兵器の扱いにも馴れたのか、余裕の表情だ。
《俺、故郷に彼女がいるんだ。帰ったら木星に行ったって、自慢出来るだろうなぁ。》
ほとんど素人の状態から始めたスーだが、ランダーの腕を磨き、正式に調査隊の一員として選ばれたのだ。
《僕も同じです。故郷で妻子が待ってるんですよ。絶対成功させましょう!》
元軍のランダーであるブンも新兵器の扱いにもすぐに馴れたようだ。
「お前ら、目的地に着いたか?」
隊長であるダイス・サノーから通信が入る。
彼は宇宙船から指揮している。
「ちょっと待ってください…あっ、着きました!」
ランドの視界に、遺跡のような建造物が見えて来た。
ここに宇宙での生活に必要なニュートロンが眠っているというのか。
「みんな、行くぞ!」
ランド達は遺跡へと向かった。
遺跡へとたどり着いたランド達は遺跡内の調査を始めた。
「みんな、慎重に調べろよ。」
ここは人工の建造物のようだ。
何か仕掛け等があるかもしれない。
隊員達はダイスの指示に従う。
すると、スーから他の隊員との連絡がつかないとの連絡が入る。
ランドは詳しい話を聞こうとする。
「何かあったのか?」
「わかりません…。けどいきなり連絡を経って…な、なんだ?」
「どうした、スー?」
「ば、ば、ば、化け物…。うわぁっ!」
スーからの連絡はいきなり途絶えた。
スーからの生命反応もレーダーから消失してしまった。
これは緊急事態だ。
ランドはすぐに全隊員に遺跡から退避するように連絡する。
すると、別の場所で調査していたブンから通信が入る。
「ブンさん、無事ですか?」
「ランドさん、は、早く逃げましょう!ば、化け物が…!し、死にたくな…!」
ブンの通信も途絶え、生命反応も消えた。
すなわち死亡である。
ランドは残りのメンバーを集め、遺跡から離れようとする。
しかし、その前に巨大なゴキブリのような生物が立ち塞がる。
まるでASのようでもある。
「や、やばいぜ!早く逃げよう!」
グラゼルが木星から退避しようとすると、謎の化け物は剣のようなものでグラゼルを一撃で串刺しにする。
「い、やだ…。」
残りのメンバーも次々と化け物に殺され、残されたのはランドだけだ。
謎の化け物はバールのようなものをランドに向けて降り下ろす。
「嫌だ、死にたく…!」
こうして、ダイス率いる調査隊は全滅した。
その後、遺跡の爆発も目撃された。
この事態を重くみた木星圏政府は調査隊を次々と木星へ送り込むが、誰一人として調査隊は帰って来なかった。
その後、政府は木星への調査を全面的に断念し、木星への立ち入りも禁止した。
結果、木星圏でも資源の枯渇の危機にさらされてしまう。
ニュートロンがなくなってしまえば木星圏コロニーに人が住めなくなってしまうだろう。
そして、木星圏政府は、地球圏、火星圏に宣戦布告した。
木星圏も生活を守る為、資源争奪戦争への介入を決定したのだった…。
地球、火星、木星による三つ巴の戦いが始まる…。
第10戦へ続く。
しかし地球軍、火星軍共にこの戦いで資源を大量に消費してしまい、 しばらくは大規模な侵攻作戦は出来なくなっていた。
だが、いずれは両軍の奪い合いは再び始まるだろう。
この戦いで活躍したイズモ軍のAS特務科の生徒達には一週間の休暇が与えられた。
しばらくは侵攻作戦はないし、休む事もランダーにとっては大事な仕事だ。
タカヤ達兄妹も次の日はさすがにゆっくり休んでいた。
父と母も疲れ果てた三人(特にタカヤ)を見て心配していたが、二日目にはすっかり元気になっていた。
タカヤの部屋にはやっぱりリリとサクヤがいた。
やはり三人一緒に寝ていたのだ。
さすがのタカヤもさすがに慣れたようでぐっすり眠れたようだ。
「お兄ちゃん!はやく着替えて!」
「ど、どうしたの、いきなり?…って、ここで着替えないでよ…。」
リリとサクヤは相変わらずタカヤの部屋で着替えている。
タカヤはとっさに後ろを向いた。
「お兄様、今日はお買い物に行きましょう!」
「え、買い物…?」
「そうだよ。せっかくだからお兄ちゃんも一緒に行こ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!自主練とかは…?」
「お兄ちゃん、せっかくの休日は楽しもうよ!」
「休む事も私達の大切な仕事ですわ。」
「そ、そうかもしれないけど…。」
「ほらほら、お兄ちゃんも着替える!」
「ち、ちょっと、待って…!」
リリとサクヤによってタカヤは強制的に着替えさせられてしまう。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「行きましょう、お兄様!」
「まあ、今日は用事もないしいいかな…。」
着替え終わった三人は買い物へと出発する。
三人はイズモコロニーにある電気街に向かった。
リリとサクヤと出掛けるのはタカヤも慣れつつあり、緊張することはない。
ただ、リリとサクヤがタカヤの腕に組付いているのはやっぱりこの休日の人混みの中では恥ずかしいのだが。
「リリちゃん、サクヤちゃん、そんなにくっつかれると…、そ、その…。」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「お兄様、顔がちょっと赤くなってますわ。」
二人が心配そうにタカヤの顔を見つめる。
「や、やっぱり、恥ずかしいんだけど…。」
「えー、やっぱり駄目かなぁー…。」
「お休みの時ぐらいは…お兄様と…こうしていたいです…。」
リリもサクヤも悲しそうな眼でタカヤを見つめて来る。
こんか顔をされたらやっぱり断れないタカヤだった。
「ご、ごめん…!このままで…いて、欲しい…。」
「ほんと?」
「いいのですか?」
「うん、いいよ。」
すると、二人の顔に笑顔が戻る。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「ありがとうございます、お兄様!」
元気になった二人はタカヤの手をぎゅっと握りしめる。
「ほら、お兄ちゃん!早く行こ!」
「わかったから、そんなにくっつかなくても…。」
けど、三人でいるとやっぱり楽しいの事実だ。
タカヤはこの休日を楽しもうと思うのだった。
タカヤ達は電気街にあるアニメショップにたどり着いた。
リリがどうしても欲しい物があるらしい。
店内に入ると数々の美少女キャラのアニメグッズが並べられていた。
タカヤもアニメや漫画は好きなのだが、ここまで来るとまさに異質の空間だった。
リリは眼を輝かせながらお目当ての物を探している。
「あーー!あったよー!マミィちゃんのフィギュアー!これが欲しかったのー!」
お目当てのフィギュアを見つけてテンションがあがるリリであった。
リリが魔法少女アニメ[サイバーウィッチ・マミィ]が好きで毎週見ているのはわかっていたが、まさかここまでとは…。
「うーん、けど[マジカルナース☆メリリィ]も可愛いなぁ…。迷うなぁ…。」
リリはお目当ての美少女フィギュアをまた見つけてどっちを買うか迷ってしまったようだ。
すると、リリがフィギュアの入った箱を2つ持ってタカヤの元に駆け寄って来た。
「ね、ね、お兄ちゃん!マミィちゃんかメリリィちゃん、どっちがいいかな?」
リリが眼を輝かせながらタカヤに迫って来る。
タカヤにどっちのフィギュアがいいか決めてほしいみたいだ。
「えーと…、どっちも可愛いし…、やっぱりマミィの方…かな…。」
タカヤがマミィのフィギュアの方を指差すと、リリがさらに明るい笑顔になる。
「そうだよね、やっぱりマミィちゃんだよね!ありがと、お兄ちゃん!あたし、他のも色々買って来るね!」
マミィのフィギュアは買う事が決定したようだ。
リリは他のアニメグッズも買いに行ってしまった。
残されたタカヤとサクヤはリリのハイテンションぶりに唖然となっていた。
「リリちゃん、いつも以上に元気いいね…。」
「そうですわ。好きなアニメの話になるとお姉様はいつもああなってしまいますわ。」
サクヤはリリのアニメ好きには慣れているようだ。
リリの元気な姿を見て今日は一緒に買い物に来て良かったと思うタカヤだった。
結局リリはフィギュアだけでなく、袋一杯にアニメグッズを色々買ったようだ。
「ありがとね、お兄ちゃん!サクヤちゃん!今日はいい買い物しちゃった。」
「ううん、僕も色々見れて楽しかったよ。」
「今日もいっぱい買いましたわね。」
「えへへ…。」
買い物を終えた三人はサクヤがお薦めする喫茶店へ向かった。
サクヤはここの紅茶とケーキがお気に入りのようだ。
三人はケーキと飲み物を注文すると、外のテーブル席へ座った。
ここは電気街を見渡せる気持ちのいい場所だ。
「ね、ここのケーキ美味しいでしょ?」
「うん。こんな美味しいケーキは久しぶりだよ。」
「喜んでもらえて良かったですわ。」
紅茶やジュース、ケーキを口にしながら一息つく三人。
タカヤはふとコロニーの空を見上げていた。
今まで戦いや訓練続きでこんなに休めたの久しぶりだった。
このまま何事もなければいいと思いつつ、ぼーっとしてしまっていた。
そこにリリとサクヤが声を掛ける。
「お兄ちゃん、どうしたの?ぼーっとしちゃってるよ?」
「何かあったのですか?」
二人が心配そうにタカヤを見つめる。
「な、何でもないよ。やっぱり平和はやっぱりいいなって思って…。」
「そうだよね、やっぱりこんな日がずっと続くといいよね!」
「今は戦いは続いてますけど、早く終わってほしいですわね。」
リリとサクヤに笑顔が戻ると、二人はタカヤの手をそっと握る。
「お兄ちゃん、早く戦い終わらせる為に頑張ろうね!」
「私達がついてますから大丈夫ですわ、お兄様。」
「うん、ありがとう…。」
これからも激しい戦いは続くだろう。
けど、リリとサクヤがいてくれるなら、戦える。
そしてこんな戦争を終わらせる為に出来る事をしようと誓うタカヤであった。
「ほらお兄ちゃん、買い物まだ終わってないんだから。行くよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!」
「もう、お姉様ったら…。」
まだまだリリ達の買い物は続きそうだ。
このような平穏な日がずっと続いて欲しいと願うタカヤ達だった。
地球圏の宙域に漂う小惑星帯。
そこは隕石だけでなく、廃墟となったコロニーや宇宙ゴミが漂う宙域だ。
コロニーの残骸がぶつかって宇宙船が沈む事故もあり、誰も近寄らない魔の宙域である。
この宙域は反政府組織や宇宙海賊等の隠れ場所にもなっている。
彼等は小惑星や廃棄コロニー等を隠れ家にし、エネルギー確保の為にコロニーへの襲撃や地球圏政府へのテロを行っている。
その小惑星帯に一隻の黒い戦艦が資源の眠っている隕石へと進んでいた。
その黒い戦艦は地球軍が最も恐れている凄腕の宇宙海賊[ブラックスター]の海賊船[ブラック・アルバトロス]だった…。
海賊船[ブラック・アルバトロス]の艦橋はのんびりとした雰囲気だった。
海賊のメンバーがみんな仲良く食事をとっていた。
いつ地球軍が取り締まりに来るかわからないのに、全く緊張感がないようだった。
「ふぅ~、手作りの焼きそばはやっぱりうまいなぁ…。」
艦長席に座って焼きそばをすすっているのは、宇宙海賊[ブラックスター]の首領、リュシオン・ブラック。
まだ若いが、船長としてもランダーとしても優秀な切れ者である。
「うんうん、久しぶりの手作りは最高だね~☆」
リュシオンの隣に立っている少女は[ブラックスター]の戦闘隊長、レナ・ウヅキ。
マイペースでいつもニコニコしているが、ランダーとしての実力はリュシオンにも匹敵する腕の持ち主だ。
「前みたいにゼリーばっかりよりかはいいんですけど…、焼きそばは今日で三日目ですよ…。」
同じくリュシオンの隣にいるメガネをかけた理知的な男性は、[ブラックスター]の参謀役である、リーツ・カーマイン。
普段は作戦立案が担当だが、、リュシオンが出撃している時は船の指揮も担当している。
「だね~、毎日食べるとちょっと飽きる~♪だよね~☆」
レナは焼きそばを食べながら相変わらずニコニコしている。
「確かになぁ。けど、ニュートロンを見つけ出したらもっといいもん食えるぜ!」
リュシオン達が焼きそばを食べながら会話していると、オペレーターから目標の隕石に近づいたとの知らせを受ける。
「いよいよですね、リュシオン船長。」
「ああ。よーし、野郎共!ニュートロン回収してさっさと帰るぜぇ!」
「総員、出撃準備!」
リュシオンとリーツの指示で、部下達がASを装着し、隕石へ向かう。
「みんな、頼んだぜ!」
「おぉ!」
「任しといてください!」
船から出撃したAS部隊は隕石に眠っているニュートロンの回収に向かった。
地球圏、イズモコロニーは今日も平穏な朝を迎えた。
昨日の買い物を楽しんだタカヤ達はそれぞれの部屋で眠りについていた。
しばらくは学校は休みなのだ。
三人はぐっすりと寝ていた。
しかし、タカヤ達の平穏な休日は突如終わりを告げる事になる。
タカヤの机に置いてあるスマートフォンから緊急コールが鳴り響く。
特務中隊への出撃要請が来たと言うことだ。
タカヤはゆっくりと目を覚ます。
「うーん…、せっかくの休みなのにぃ…。」
すると、タカヤの部屋のドアがいきなり開けられた。
「お兄ちゃん!」
「お兄様!」
リリとサクヤが部屋に入って来た。
二人はまだパジャマ姿だった。
二人が部屋に入って来た事でタカヤはすぐにベッドから起き上がる。
「う、うん、わかってる。すぐに学校に行こう!」
「あーあ、せっかくのお休みだったけど、しょうがないよね。」
「お兄様、急ぎましょう!」
リリとサクヤはタカヤの部屋でパジャマを脱ぎ始める。
「ちょ、ちょっと!まさかここで着替えるの…?」
「そうだよ、それがどうしたの?」
二人がタカヤの前で着替えるのは今に始まった事ではないが、やっぱり女の子の着替え姿を直視する事が出来ないタカヤだった。
「お兄様、今はそんな事より早く着替えないと!」
サクヤの言う通り、今は一刻も早く学校へ向かわねばならない。
「う、うん、わかったよ…。」
二人はそのまま急いで制服に着替え始めた。
タカヤも二人が見えないように後ろを向き、急いで制服に着替えた。
制服に着替えて急いで学校へ駆け込んだタカヤ達はそのまま基地へ向かい、第七中達の旗艦である[シラサギ]に乗り込んだ。
シラサギの艦橋にはクリス隊長やメイファ副隊長だけでなく、既にフィリアとジークも来ていた。
だが、そこにはゼルとノエルの姿はなかった。
ゼルとノエルは故郷であるグラナダコロニーにまだ帰省しているようだ。
あの二人がいない状態で大丈夫なのだろうか。
「さて、せっかくのお休みのところ悪いけど、今回の任務について説明するわね。」
クリス隊長が任務の説明を始める。
今回の任務は地球軍ですら手を焼く宇宙海賊の討伐だという。
宇宙海賊[ブラックスター]が軍所有の資源衛星を次々と襲撃しているらしい。
彼らは資源衛星だけでなく、誰も手をつけていない隕石の資源も狙っているようだ。
「正規軍の追撃を何度も振りきる程の相手だしね…。ついに私達に出撃要請が来たってわけね。」
それほどまでに手強い海賊と戦うことになるとは…。
タカヤ達は緊張の色を隠せない。
だが、フィリアだけは顔を強ばらせていた。
[ブラックスター…!」
そんなフィリアにタカヤ達は気付いていなかった。
「相手は数は少ないけど油断はしないでね。それじゃ、出撃準備よ!」
これ以上海賊達に貴重な資源を奪われる訳にはいかない。
ASを装着した第七中隊は星の海へ飛び出した。
隕石から資源を確保したブラックスターのメンバー達。
これから本拠に帰還しようとしたその時、戦艦[ブラック・アルバトロス]の艦橋に警報が鳴り響く。
敵に発見されたようだ。
オペレーターを務める少女、ミカは突然の事態におろおろしてしまっている。
「あわわ、み、見つかっちゃいましたー!」
慌てふためくクルー達をリーツが落ち着かせる。
「全員落ち着くんだ!…で、敵は地球軍ですか?」
「は、はい、地球軍です…。けど、あの特務中隊が来ましたよぉー…。」
「特務中隊だと…!」
ASスクールで選りすぐりの少年少女達で構成された地球軍の精鋭部隊。
しかもこの前の月面大戦[オペレーション・ムーンブレイク]で活躍した奴等が来たというのか。
「へー、次の刺客はあの特務中隊ってか。おもしれぇな!」
強力な敵が現れたのに、リュシオンは嬉しそうだった。
「船長!相手はあの特務中隊ですよ!今までの正規軍とは訳が違います。すぐに逃げるべきです!」
「だーいじょーぶだよ、リーツ。リュウが本気出したらあの子達なんか目じゃないよー。」
リュシオンだけでなくレナまでも楽しそうだった。
「彼等はあの超兵器を使う可能性があります!過小評価は危険です!」
「そんなのわかってるって。あいつらがそう簡単に逃がしてくれる訳ねぇだろ。だったら、戦うしかねぇじゃんか。」
「しかし…!」
「それにあいつらの力を見極める必要もあるしな。」
「それはそうですが…。」
リュシオンが艦長席から立ち上がる。
「よぉーし、そんじゃ俺達は行ってくるぜ。…心配すんなって、適当に戦って撤退するからさ。」
「…わかりました、お気をつけて。」
「ああ、行って来る。艦の指揮は頼んだぜ。レナ、行くぞ!」
「はーい。それじゃ、行って来るねー。」
リュシオンが艦橋を出ると、レナもそれに続いた。
リーツは出撃準備に行く二人を見届けると、艦長席に座った。
艦の格納庫ではリュシオンとレナ、そして配下の戦闘部隊が出撃準備に入っていた。
二人もASを装着する。
[ブラックスター]の隊員達は全員黒いカラーリングのASを装着していた。
リュシオンが装着する専用
AS[レイブン]。
そして、レナが装着する専用AS[シャーマン]。
二人の専用ASも黒く塗られている。
そして全員の出撃準備が終了する。
「野郎共、行くぞ!」
「おおっ!」
リュシオン達戦闘部隊は地球軍を迎撃するべく、出撃した。
第七中隊旗艦[シラサギ]がイズモコロニーを出てから一時間後。
シラサギはついに宇宙海賊の船の捕捉に成功する。
「みんな、ついに宇宙海賊を見つけたわ。出撃よ!」
クリス隊長から出撃命令が出る。
海賊掃討作戦がついに始まるのだ。
「みんな、行くぞ!」
「了解!」
フィリアを筆頭に、ジーク、タカヤ、リリ、サクヤがそれぞれ専用ASを装着し、出撃する。
タカヤ達が宇宙へ飛び出すと、前方に戦艦が見えた。
「あれが宇宙海賊の船…。」
見た目は軍で使われている戦艦のようだが、黒く塗られている。
すると、レーダーに反応。
「来た!ASが3、いや…、5体!
こっちに来るぞ!」
船から海賊のランダー部隊が出撃したのだ。
しかもどのASも黒く塗られている。
これが地球軍を手こずらせた悪名高い[ブラックスター]…。
今まで海賊とはやはり違うようだ。油断は出来ない。
「私と兄さんはリーダー機を叩く!タカヤ達は手下達を頼むよ!」
「わかったよ!」
「こっちは任せてー!」
「気を付けてくださいね。」
フィリアとジークはリーダーと思われる専用ASを叩きに行った。
タカヤ達の前にも黒いASを装着した海賊達が接近して来る。
「こんな時にブレイブウエポンが使えないなんて…。」
「そうだよねー。けど、しょうがないよね。」
「そうですわ。今はノーマル形態で頑張りましょう。」
出撃前、ユミナにブレイブウエポンは使えないと言われていたのだ。
やはり、月面大戦で無理をし過ぎたのか、しばらくの間は調整が必要らしいのだ。
確かに超兵器が使えないのは痛いが、今のままでも充分な戦力になる。やるしかない。
「お兄ちゃん、来るよ!」
「お兄様!」
「うん、行こう!」
海賊達がタカヤ達に攻撃を仕掛けて来た。
三人も攻撃を開始した。
フィリアとジークの前にも海賊の部隊が立ち塞がる。
「来たぜ、妹よ!」
「ああ、わかってるよ!」
黒いAS部隊の中に一人リーダーがいる。
「あいつ…まさか…!」
リーダーASの肩アーマーには3つの星のマーキングが描かれている。
それを見た瞬間、冷静だったフィリアの表情が一変する。
「お前が…お前が…お父さんの仇かあぁぁぁぁ!」
フィリアの顔が怒りの表情に変わり、海賊のリーダーに突っ込んで行く。
「お、おい!いきなり突っ込むな!」
ジークの制止を振り切り、フィリアはリーダーに戦いを挑む。
「来い、シラヌイ!ウンリュウ!」
フィリアはヒートブレードとプラズマブレードを両手に転送する。
「真っ正面から来るとねぇ。受けて立ってやるとするか!」
海賊のリーダー、リュシオンは二本のサーベルを両手に転送する。
フィリアと同じく二刀流で戦うスタイルのようだ。
「海賊共め、絶対に許さない!」
フィリアは二本の刀でリュシオンに斬りかかるが、最小限の動きでかわされる。
まるでフィリアの動きを全て読んでいるかのように。
ジークの周りにも黒いASの部隊が襲いかかる。
「やめろ、フィリア!ったく、あのバカが!」
冷静さを欠いたフィリアはジークの言葉が全く耳に入っていない。
これではジークが遠距離から支援し、フィリアが近距離線で敵を片付ける戦法が台無しだ。
残った黒いAS部隊がジークに襲いかかる。
ジークはプラズマピストルを転送し、敵部隊を狙い撃つ。
しかし、一般兵も動きが良く、なかなか撃ち落とす事が出来ない。
敵部隊もプラズマライフルをジーク目掛けて一斉に撃ちまくる。
このままでは数で押されてしまう。
「フィリア…何やってんだよ…!」
ジークは多数の敵相手に持ちこたえる事しか出来なかった。
一方、タカヤ達も海賊達に苦戦を強いられていた。
今までの海賊とは違う統制のとれた行動にタカヤ達は翻弄されていたのだった。
「こ、こいつら手強いよぉ…!」
「お兄ちゃん、気をつけて!」
タカヤ達は敵の攻撃を避けて反撃するだけでも手一杯の状態だ。
「お兄様、お姉様!新手が来ますわ!」
サクヤの警告通り、新たな敵が接近して来た。
黒い専用AS。しかも右肩に二つの星のマーキング。
海賊の実力者が現れたようだ。
「また来たよぉー!」
「あいつは僕が相手をする!」
「お兄様、援護しますわ!」
タカヤはニュートロンライフルを右手に転送すると、接近して来る海賊のエースに狙いを定める。
リリとサクヤもマシンガンとプラズマランチャーを構え、海賊のエースに狙いを定め撃ちまくる。
タカヤもライフルを撃ちまくる。
しかし、海賊のエースは三人の砲撃を全てかわし、接近して来る。
「なかなかやるねー。あたしも行くよー。」
三人に襲いかかる海賊のエース。それはブラックスターの戦闘隊長、レナだった。
「行け、ソードフィッシュ!」
レナの周りに多数の短剣型ビットが転送される。
ビットは意思を持っているかのように三人に襲いかかる。
「ビット型兵器!全方位に気をつけて!」
リリは火星軍親衛隊のミアが使っていたビット型兵器と戦った経験があるのだ。
あらゆる方向からナイフ型ビットが次々と三人に突撃して来る。
三人はなんとかそれを避け続ける。
リリの警告がなければ、タカヤもサクヤもズタズタに切り刻まれていたかもしれない。
しかし、避け続けてばかりでなかなか敵に反撃出来ない。
そうしている内に、タカヤにレナが接近して来ていた。
レナの右手にはニュートロン兵器か何かわからない輝きを放つロッド型の武器が握られていた。
「うわぁっ!」
タカヤはとっさにニュートロンコーティングが施された小型盾を転送し、攻撃を防ごうとする。
「そんなので防げるかなー?」
レナは光輝くロッドをタカヤに向けて振り下ろす。
タカヤは盾で防ごうとするがロッドの一撃で盾は破壊されてしまう。
明らかにニュートロン兵器とは違う未知の兵器だ。
「くそっ…!来い、グラディウス!」
タカヤはとっさにニュートロンブレード[グラディウス]を転送し、レナに斬りかかる。
レナはタカヤの斬撃も軽々とかわした。
「残念でしたー。」
「くっ…!」
「お兄ちゃん、あきらめちゃ駄目だよ!」
「私達も行きますわ!」
「…うん!」
タカヤ達は再び反撃を開始しようとしていた。
フィリアと海賊のリーダー、リュシオンはほぼ互角の戦いを繰り広げていた。
フィリアは怒りに任せてリュシオンに斬りかかる。
「あんただけは…あんただけは…あたしの手で倒す!」
いつもの冷静さを失っているフィリアは二本の刀で斬りかかるが、リュシオンは軽々とかわす。
「父の…仇か…。」
リュシオンは攻撃をかわしながらつぶやいた。
「これでもくらえ!リミッター30%解除!」
フィリアは必殺技のリミッターを解除する。
「白虎衝波斬!」
フィリアは炎と雷を帯びた衝撃波をリュシオンに向けて放つ。
高速で放たれた衝撃波はリュシオンに命中した。
「やったか!?」
しかし、リュシオンは無傷だった。
リュシオンは左手からニュートロンフィールドを展開し、衝撃波を防いだのだ。
「…やめとけ。今の君じゃ、俺には勝てねぇよ。」
リュシオンの言葉がフィリアをさらに激昂させる事になった。
「ふ、ふざけるなぁ!」
フィリアは怒りに身を任せ、リュシオンに斬りかかろうとする。
「やれやれ…。」
リュシオンは二本のサーベルを構え、フィリアを迎え撃とうとする。
だが、その時!
ASのセンサーが謎の部隊の接近をキャッチする。
「何!?」
フィリアもこれがきっかけでようやくいつもの冷静さを取り戻したようだ。
「来やがったか…。」
一方のリュシオンは謎の部隊の出現にも落ち着いていた。
謎の部隊は特務中隊と宇宙海賊が戦っている宙域に姿を現した。
「何だあのASは…。」
「見た事もねぇな…。」
謎のAS部隊の前にフィリアもジークもあっけに取られていた。
データを照合してもディスプレイに[機体データ無し]と表示されるだけだ。
謎のASはまるで地球に生息している生物、ゴキブリのようなデザインをしている。
謎のASはいきなり眼からビームを放つ。
フィリア達はかろうじてそれを避ける。
「うわっ!」
「問答無用かよ!」
謎のAS部隊は第七中隊、ブラックスター関係なしに無差別にビームを撃って来る。
「おい嬢ちゃん!」
リュシオンから通信が入る。
「ここは一時休戦だ。あいつらは人間を見境なしに襲いかかって来るぞ!」
確かに今は人間同士で争っている場合ではなさそうだ。
あいつらは容赦なしに人間に攻撃を仕掛けている。
「妹よ、今はあいつらの言う通りにした方がよさそうたぜ。」
「…わかった。今回だけだよ!」
ジークとフィリアはリュシオンの申し出を受ける。
「ありがとよ。さ、あいつらを蹴散らすぞ!」
リュシオンは第七中隊の旗艦にも共闘を呼び掛けた。
第七中隊旗艦[シラサギ]の艦橋内ではクリス隊長達が戦況を見守っていた。
苦戦しているようならクリス隊長自らも出撃しなければならない。
やはり海賊達は相当な戦力を持っているようだ。
しかも正体不明のAS部隊まで襲いかかって来たのだ。
クリス隊長は出撃しようと艦長席から立とうとしたその時だった。
「地球軍の艦長、聞こえるか?」
突然、謎の男が通信に割り込んで来た。
「あなたは…!」
「そう、ブラックスターの船長、リュシオンだ。」
「地球軍所属、イズモ軍第七特務中隊の隊長、クリスチーナ・ブレイデスよ。海賊のリーダーが私達に何の用かしら?」
「謎の敵が襲いかかって来たのはわかるだろう?ここは一時休戦して俺達と一緒にあいつらを蹴散らすってのはどうだ。」
確かに今は一緒に謎の敵を倒した方がいいだろう。
特務中隊も海賊も関係なしに攻撃を仕掛けて来るのだから。
「いいわ。今はあなた達の申し出を受けてあげる。だからと言って、あなた達をこのまま放っておくつもりはないからそのつもりでね。」
「ありがとう。協力、感謝するぜ!」
リュシオンとの通信が切れた。
今は人間を襲う謎のASを倒す事が最優先なのだ。
クリス隊長は全隊員に指示を出した。
タカヤ達も謎のASからの襲撃を受けていた。
通信も通じない、データも一切ない。
奴等は特務中隊も宇宙海賊も無差別にビームを放って来る。
「な、何なの、こいつら!?」
「見た目が気持ち悪いよぉー!」
「火星軍や木星軍…ではないですわね…。」
タカヤもリリもサクヤも見た事がないASだ。
すると、クリス隊長から通信が入る。
「タカヤ、リリ、サクヤ、聞こえてる?」
「は、はい!」
「これから宇宙海賊のみんなと協力してアンノウンを叩くのよ!出来るわね?」
「わ、わかりました…。」
「あの海賊と一緒にかぁー…。」
「お姉様、今はそれしかないですわ。」
先程まで戦っていた敵と協力するのには戸惑うが、今は正体不明の敵を共に迎撃するしかない。
「みんな聞いたよねー。一緒にあいつらやっつけるよー。」
レナは謎の敵を前にしてもいつものペースで話しかけて来る。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「気にしなーい!トモダチナラアタリマエー。だよー。」
「あのー…、まだ友達になった覚えないんだけどー…。」
「ま、まあまあ、お姉様、気になさらないで。お兄様も行きましょう!」
「う、うん、そうだね…。」
タカヤもリリもサクヤもレナの緊張感のないマイペースぶりに困惑してしまっていた。
謎のAS部隊は目からビームを放ち、容赦ない攻撃を仕掛けて来る。
レナ達海賊の部隊は臆する事なく、敵に向かって行く。
タカヤ達もそれに続いた。
「みんなー、あたし達にしっかりついて来てねー。」
「は、はい!」
「楽しい戦いになりそう、フフフ…。」
レナは笑みを浮かべると、謎の敵に攻撃を開始する。
「ソードフィッシュ、行くよー。」
レナは無数のナイフ型ビットを謎の敵の大群に向かって放つ。
謎の敵はナイフ型ビットによって次々と切り刻まれ、撃破される。
海賊の戦いぶりにタカヤ達も見とれていた。
「やっぱりあの人、凄い…。」
「お兄ちゃん、あたし達も負けてられないよー!」
「そうですわ。私達の力、見せてあげましょう!」
タカヤ達も謎の敵の大群に攻撃を開始する。
「ニュートロン・ライフル!」
タカヤはライフルからニュートロン粒子を連射し、襲いかかる謎の敵を次々と撃ち落とす。
「あたしも行くよ!リミッター30%解除![天聖戦輪乱舞 エンジェリック・サークルダンス]!」
リリはプラズマサークル[エンジェリック]を転送すると、リミッター解除で無数のサークルを展開し、敵の大群に向けて飛ばす。
無数のプラズマサークルは謎の敵を次々と切り裂いていく。
「一気に行きますわ!リミッター30%解除!」
サクヤは必殺技のリミッターを解放する。
「圧縮粒子雷撃砲[フォトンプラズマブラスター]!」
プラズマランチャーから放たれた極太のプラズマ粒子が多数の謎の敵を一気に葬る。
だが、謎の敵は次々とタカヤ達とブラックスターに襲いかかる。
「数が多い…!けど!」
「うん、強さは大した事ないよ!」
「はい、このまま押しきりましょう!」
こうして、タカヤ達はブラックスターと協力して謎の敵を撃退する事に成功したのだった。
フィリア達の前にも大量の謎のAS軍団が襲いかかって来る。
「来るよ、兄さん!」
「後ろは任せとけ!」
フィリアは敵の大群に斬り込み、ジークは後方からの狙撃でそれを支援する。
「邪魔するな、化け物!」
フィリアは謎の敵が放つビームを次々とかわし、二本の刀で敵を斬り捨てる。
「敵の能力は大した事はないみたいだね。けど…!」
謎の敵の個々の能力は弱いようだが、数が多い。
フィリアの能力がいくら高くてもこのままでは押し切られてしまう。
すると、後方からジークがプラズマライフルで援護してくれた。
謎の敵は次々とプラズマ弾の餌食になる。
だが、倒しても倒しても謎の敵は大群でフィリアの前に表れる。
「兄さん、頼むよ!」
「任せろ!リミッター30%解除!」
ジークは武装のリミッターを少し解除する。
「ボルト・ブラスター!」
プラズマスナイパーライフルから放たれらプラズマレーザーが謎の敵を一気に数体撃破する。
ジークとフィリアの戦いぶりを見たリュシオンも謎の敵の大群に攻撃を開始する。
「あいつらもやるじゃねえか。よし、俺も負けてられねぇな!」
リュシオンは二本のサーベルを振り回し、次々と謎の敵を一刀両断にする。
「よぉし、一気に片付けるぜ!リミッター30%解除!」
リュシオンは武装のリミッターを解除する。
「ブラック・クロス!」
リュシオンがサーベルを十文字に振り回すと、十字型の衝撃波が謎の敵に襲いかかる。
衝撃波は多数の敵を一気に飲み込んで、撃退した。
こうして特務中隊とブラックスターは謎の敵を殲滅する事に成功したのだった。
未確認の謎のASを宇宙海賊と共闘して撃破した特務中隊。
だが、戦いはまだ終わってはいない。
共闘したとはいえ、宇宙での生活に必用な資源を奪い、地球圏の平和を乱す海賊を放置する訳にはいかない。
特にフィリアは宇宙海賊に対して強い憎しみを抱いているようだった。
「一緒に戦ってくれたのは感謝するわ。けど、あなた達をこのまま逃がす事は出来ないわね。」
クリス隊長がリュシオンに通信を入れている。
だが、バイザーから見えるリュシオンの顔は余裕の表情だった。
「悪いが、俺達にもこれからの生活がかかってるんでな。これでおさらばだ。あばよ!」
宇宙海賊達はその場を去ろうとする。
「逃がすか!お前達は…父の仇だ!」
フィリアは怒りを剥き出しにしてリュシオンに突っ込む。
「バカ!一人で突っ込むな!」
ジークの声もフィリアには届かない。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
フィリアはリュシオンの頭上から刀を振りおろす。
しかし、その斬撃はそこに割って入ったレナのビームロッドで受け止められていた。
「リュウはやらせないよー。」
「邪魔をするな!答えろ、父を殺したのはお前達か!?」
「…。」
リュシオンは何も答えない。
「教えてあげないよ、ジャン♪」
レナはフィリアを軽く振り払う。
「お前らがもう少し強くなったら答えてやるぜ。リーツ、そろそろずらかるぜ!準備はいいか?」
リュシオンは艦で指揮をとるリーツに通信を入れる。
「いつでも大丈夫ですよ。退却してください!」
リュシオン達が一斉に退却を始める。
「待て!」
フィリアが追おうとすると、ヘルメットのバイザーが突然真っ暗になり、視界が遮られてしまった。
「何、これ!?」
「ま、前が見えねぇ!」
フィリアやジークだけではなく、タカヤ達やシラサギでも同じような事が起きていた。
しばらくしてバイザーの映像が回復すると、海賊の姿はどこにもなかった。
見事に逃げられてしまったようだ。
「逃げられたか…!」
「今のは一体何だったんだ…?」
フィリアやジークだけでなく、リリやサクヤも見た事がない兵器だった。
「まさか…あれはジャミングフィールド?」
クリス隊長の呟きがタカヤ達にも聞こえていた。
「隊長ー、何ですかそれ?」
「私達も聞いた事がありませんわね…。」
「今では封印されたの技術よ。まさかあいつらがね…。」
封印された技術や乱入した謎の敵は何なのか気になるが今はイズモコロニーに帰還する事が先だ。
「さ、とにかく帰るわよ。あいつらに逃げらたのは残念だったけど、みんな無事で何よりだわ。行くわよ!」
確かに今までの海賊やテロリストとは違う手強い相手だった。
任務は失敗してしまったが、全員無事だっただけでも良しとしなければならない。
特務中隊はすぐにシラサギへ帰艦する。
その途中、タカヤ達は一緒に帰艦するフィリアを見ていた。
いつも冷静で第七中隊を引っ張って来た彼女が何故海賊を前にして取り乱したのか。
心配だが、帰って聞いてみるしかなさそうだった。
こうして、無事にイズモコロニーへと帰って来たタカヤ達。
しかし、タカヤ達にいつもの元気はなかった。
任務に失敗しただけではない。
何故フィリアが海賊に対して憎しみを抱いているのか。
聞きたい事が色々あるからだ。
タカヤ達はすぐには帰宅せず、誰もいない自分達のクラスの教室へと入った。
全員が席に座るが、フィリアにいつもの元気はなく、黙りこんだままだ。
「フィリアさん…。」
「フィリアちゃん、どうしたの?何かあったの?」
「私達だけにでも話してみてください、ね?」
「…。」
タカヤ達が心配して話しかけるが、フィリアはうつむいたまま何も答えない。
「おい、みんな心配してくれてるんだからよ、ちゃんと答えてやれよ。」
ジークの呼び掛けに、フィリアはようやく口を開いた。
「すまない、みんな…。私とした事が…。」
「あの海賊と…何かあったの…かな?」
「良かったら、聞かせてみて?」
「話したくなければ無理はしないでくださいね。」
三人の問いかけにフィリアが口を開こうとすると、いきなり教室のドアが開いた。
全員がびっくりしてドアの方を見ると、入って来たのはクリス隊長だった。
「クリス隊長!」
「あなた達、まだ帰ってなかったの?」
タカヤ達は今回の戦いでのフィリアの行動について説明した。
やはりクリス隊長もシラサギから今回のフィリアの戦いを見ていた。
「確かにいつものフィリアさんらしくなかったわね。アンノウンが表れなかったら全員生きて帰れなかったかもしれなかったわよ?」
「すみません…。」
フィリアと宇宙海賊との間に何があったのか。全員が気になっていた。
「フィリアさん、話しづらいなら私が話すけどいい?」
フィリアが顔をあげて口を開く。
「いえ、私が話します。あの宇宙海賊は私達の父の仇かもしれないんだ。」
全員が真剣な表情でフィリアの話に耳を傾ける。
フィリアとジークの父、グレイ・アルトリートはイズモコロニーと同盟を結ぶゼカニアコロニー軍の司令官だった。
司令官でありながら、前線に出て戦う事でも知られており、部下からの信頼も厚かった。
それは、グレイが部下を連れて輸送船の護衛任務に就いていた時だった。
輸送船には、木星圏から譲り受けたヘリウムや小惑星から少量しか採れないニュートロン等の貴重な資源が詰まられており、何としても無事にコロニーまで届けなくてはならなかった。
しかし、その資源を狙って宇宙海賊が輸送船を襲撃して来たのだ。
しかもその海賊は最近地球圏の資源衛星を荒らしまわってい
る[ブラックスター]だったのだ。
グレイ率いるゼカニア軍は何とか輸送船を守りきる事に成功するが、グレイだけは行方不明になってしまった。
後に生還した部隊長から、父グレイは戦死した事を聞かされた。
しかもその海賊の装着していた黒いASには、三つの星のマーキングが描かれていたと言うのだ。
それを聞いたフィリアとジークはその海賊を倒して父の仇を討つと心に誓うのだった。
「あの海賊が…。」
「お父さんの仇だったなんて…。」
「お気持ちはわかりますけど…。」
フィリアの話を聞いて沈黙が続いた後、タカヤ達が口を開く。
「けど、戦場で冷静さを欠いちゃ駄目よ、自分だけでなく、仲間も危険にさらす事になるわよ。…気持ちは痛い程わかるけどね。」
「はい、気を付けます…。」
クリス隊長の指摘に、フィリアは素直に謝った。
「フィリアちゃん、大丈夫だよ!あたし達も力を貸すから!」
「そうですわ。一人で抱え込まないでくださいね。」
「ぼ、僕達で良かったら一緒に協力するよ…!」
タカヤ達がフィリアを励ます。
「ありがとう、みんな…。チャンスがあれば、あいつが父の仇かどうか聞き出してみせるよ。」
フィリアの顔に笑顔が戻って来た。
「俺だって宇宙海賊が憎いのは同じさ。怒りに任せたら相手の思うつぼだしな。いずれまた戦うかもしれないし、チャンスを待とうぜ。」
いつもは女好きでおちゃらけているジークが真剣な表情でフィリアを励ましている。
「兄さん、みんな、ありがとう。もう私は大丈夫だよ。これからも頑張ろう!」
いつもの冷静で強気なフィリアが戻って来た。
宇宙海賊[ブラックスター]との戦いはまだ始まったばかりなのだ。
打倒[ブラックスター]を誓うタカヤ達だった。
宇宙海賊との戦いから次の日。
長かった連休も終わりが近づいて来た。
休日を家で過ごしていたタカヤに突然メールが届いた。
それはノエルからだった。
ゼルとノエルが故郷であるグラナダコロニーから帰って来たのだ。
メールによると兄であるゼルは寮に一人で帰ったようで、今は一人でモノレールのシノノメ駅にいるらしい。
「…そういえば一緒に映画観に行く約束してたっけ。」
タカヤは早速シノノメエリアまで出掛ける事にした。
やはり、リリとサクヤからどこに行くのか、と聞かれると「友達の所へ行って来るよ。」と言ってなんとか家を抜け出した。
ノエルとデート、なんて言ってしまったら面倒な事になりそうだから言わない事にしたのだった。
しばらくしてシノノメ駅に到着すると、改札前でノエルが待っていた。
「お、お待たせ。」
「今日は…よろしく…お願いします…。」
こうして二人だけで会うのは初めてで、かなりぎこちない状態だった。
「そ、それじゃあ行こうか…。」
「は、はい…。」
お互いぎこちない状態のまま二人は映画館へ向かうのだった。
二人が観たのはASを装着したヒーローが宇宙の平和を守るアクション映画だった。
ノエルがタカヤの好きそうな映画をチョイスしたようだ。
観ている間も二人はガチガチに緊張していたのだった。
そして、映画を観終わった二人は近くの喫茶店へと向かった。
ところが、喫茶店ではタカヤもノエルも全く口を開かなくなってしまった。
「ど、どうしよう…、何か話さないと…。」
タカヤは紅茶を飲みながら、何を話したらいいか考える。
しばらく続いた沈黙の後、ようやくタカヤが口を開く。
「あの…、ノエルさんはグラナダコロニーで…何してたのかな…?」
タカヤはとっさにノエルとゼルの実家のグラナダコロニーで何して過ごしていたのかを聞いてみた。
「えっと…、実家で過ごしたり、久しぶりに友達に会ったり、戦闘訓練してたり…、ですね…。」
ノエルも故郷でも休日を楽しく過ごしていたようだ。
「あの…、タカヤさん達は…私達がいない間…何かありました、か…?」
ノエルとゼルは不在の間に海賊討伐の任務があった事をまだ聞いていないようだった。
タカヤは先日の任務の事を話した。
「その[ブラックスター]って海賊なんですけど…、資源を手に入れてはアステロイドの下層民に分け与えている義賊だって話を聞いたんですけど…。」
「あいつらが…義賊?」
その話が本当なら[ブラックスター]は悪い奴等ではないという事なのか。
「あ、あくまで噂、ですけど…。」
確かにまだその話は噂に過ぎない。
現実に宇宙での生活に欠かせない資源を奪い、地球圏の平和を乱している連中に違いはない。
「ごめん…、任務の話になっちゃった…ね。」
話題を探していたらやっぱり任務の話になってしまう二人だった。
「い、いえ、それでも…楽しかった…です…。」
二人共緊張のあまり顔が真っ赤になっていた。
まだまだぎこちない二人だが、デートは楽しめたようだった。
時間はあっという間に夕方の時間帯になり、タカヤもノエルも家に帰る時が来た。
二人はシノノメ駅で別れる事にした。
「き、今日はありがとう、ございました…。」
「こ、こちらこそ楽しかったよ。ま、また行こう…。」
「は、はい!」
二人が別れようとしたその時、ノエルがいきなりつまづいて、タカヤに倒れかかって来た。
「きゃっ!?」
「あ、危ない!」
タカヤはとっさにノエルを受け止めた。
「ご、ごめんなさい、緊張…しちゃって…。」
「う、ううん、気にしないで。」
すると、タカヤが右手に違和感を感じる。
何か柔らかい物を掴んでいると思ったら、タカヤの右手はノエルの豊満な胸を鷲掴みにしていた。
「きゃっ!?」
「ご、ごめん…!」
タカヤは慌てて右手を胸から離す。
二人はすっかり顔が真っ赤っかになっていた。
「ご、ごめん、ほんとに…。」
「い、いえ、気にしないでください…。た、楽しかったです…。」
そして二人はそれぞれ家に帰る事にした。
「じゃあ、また学校で…。」
「はい、また…。」
こうしてノエルと別れたタカヤは家へと向かっていた。
その途中でリリとサクヤの姿が見えた。
二人もタカヤの姿に気付いたのか、走って近づいて来た。
「お兄ちゃん!」
「お兄様!」
二人は片手に食材が入ったビニール袋を持っていた。
「二人共どうしてここに?」
「ちょうど買い物から帰るところだよね、サクヤちゃん?」
「そうですわ、今日のご飯はお鍋ですよ、お兄様。」
そういえば、袋には野菜や肉がたくさん入っていた。
晩御飯の買い物に行っていたようだった。
「お兄ちゃんも一緒に帰ろ!」
「そうですわ、今から帰るところですのよね?」
「う、うん。帰ろうなか。僕もお腹空いたし。」
こうしてタカヤはリリとサクヤと一緒に家に向かった。
この楽しい生活が長く続く事を願うタカヤだったが、後に新たな戦いに巻き込まれる事になるのだった…。
宇宙海賊[ブラックスター]は、
なんとか地球軍から逃れる事に成功した。
今回はかなりの量の資源、特にニュートロンの大量獲得に成功した為、メンバーはいつも以上に喜んでいた。
「みんな、今日はよくやった!」
「これで焼きそば生活からおさらばだねー。」
「今回の仕事は大成功ですね。特務中隊と奴等が来た事は予想外ですが…。」
リュシオンやレナは勿論、いつも冷静なリーツも喜びの表情を浮かべていた。
謎の敵の乱入もあったが今回も無事に帰る事が出来そうだ。
しかし、リュシオンには気になる事があった。
リュシオンと刃を交えた地球軍の少女は、彼を父の仇だと言った。
「船長、あのランダー、あなたの事を父の仇って言ってましたが、まさか…。」
「リュウ、あの子に話さなかったのー?」
リーツもレナも昔起こった輸送船襲撃事件の事を言っているようだ。
「そうだな…。まだあの子に話すには早いしなぁ。それにあの状態じゃまともに話を聞いてくれなかっただろうしな。」
「そうですね…。また襲って来た時は伝えるのですか?」
「あの子が強くなって俺の前に現れたら、な。」
「そうだねー。またあの子達に会うの楽しみだしー。」
またあの特務中隊との再開を楽しみにしているリュシオンとレナであった。
「さて、湿っぽい話は終わりだ。さっさと帰って今日は宴会にしようぜ!」
何はともあれ無事に仕事を終えたブラックスターの面々を乗せた旗艦[ブラック・アルバトロス]は、本拠地のあるアステロイド帯へと進路を向けた。
火星圏、マーズ・エンパイアコロニー。
地球圏から無事に火星軍艦隊が帰って来た。
しかし、火星軍の被害は大きかった。
特にダイモス軍の艦隊は地球軍の新兵器によって半数以上も失うという有り様だった。
マーズ軍親衛隊は無事に帰還したが、コロニーに戻ると上層部への報告が待っていた。
隊長であるレオと副隊長のミアはコロニー中心部にある火星軍本部へと向かった。
二人は親衛隊の上司であるグライエン大佐の執務室へと呼び出された。
「あれだけの戦力と新兵器を与えてもあのザマか…。[蒼き鷹]の名が泣くぞ。」
「…申し訳ありません。」
「今までの戦果とエネルギー確保の成功がなければ処分を検討してたがな。…まあいい。しばらくは大規模な侵攻は出来ないから、また新兵器開発に必要な人材の確保に専念してくれ。以上だ。」
新兵器とはあのパペットソルジャー、通称[機械少年]の事だ。
上層部はまだあの非人道的な兵器を作り出す気なのか。
だが、大きな任務がない以上はしばらく続けるしかない。
「わかりました。失礼します。」
レオとミアは敬礼をし、執務室を出た。
二人がマーズ軍基地に戻り、訓練室に向かうと、辺りが静まりかえっているのに気付いた。
訓練に励んでいるはずの候補生達が誰もいない。
「隊長、候補生達が…。」
「ああ、どういう事だ…?」
すると、訓練室に一人の少女が入って来る。
その少女は候補生の一人を[機械少年]に改造した天才少女、ユーノだった。
「ユーノ博士…。」
「候補生達はどうした?」
レオの問いに、ユーノは笑顔で答える。
「あの子達は僕が機械少年に改造したよ。今はラボで調整中だけどね。」
「なっ…!」
二人は言葉を失った。
まさか親衛隊が地球圏に行っている間に候補生達が全員改造されてしまっていたとは。
火星軍上層部は非人道的なやり方で作った機械少年を量産化させるつもりのようだ。
「それより次もまたオーディションが開かれるみたいだよ。機械少年になる候補生を決める…ね。」
また同じようなやり方で無関係な人間を改造しようというのか。
レオは怒りを抑えていた。
それはミアも同じだった。
「隊長…。」
「わかっている。だが命令には従わねばならない…。それしか俺達には出来ないからな…。」
こうして、再び新たなランダー候補生を決めるオーディションが始まろうとしていた。
そして次の日。
マーズ軍基地にあるオーディション会場にやって来たレオ、ミア、プレシアの三人。
会場には6人の志望者と、ユーノに加え、もう一人マーズ軍の士官がいた。体つきや鋭い目からして、歴戦の士官のようだ。
「どうも、カーネルです。」
彼はカーネル・タケハイラ少佐。
過去に数々の戦いで戦果を挙げた戦士だ。
現在はランダーを引退し、教官として後進の指導をしているが、相当な鬼教官として恐れらているらしい。
「今回の新人は相当元気な奴等がいるらしいんで。みっちりしごいてやりますよ。」
この男がジョー・リュウモンに変わる新たな特別顧問のようだ。
候補生が非人道的な改造人間のサンプルにされるとも知らずに。
「それじゃ、会場の中へ行ってみましょうか。」
「…そうですね。」
カーネルとユーノ、そしてレオ達は会場内へ向かう。
「次はどんなモルモットが集まってるか楽しみだよ。」
ユーノは飴を舐めながら笑みを浮かべていた。
会場内に入ると、6人の志望者達が席に座っていた。
またしても、志望者は全員不良だった。
志望者全員がレオ達を睨み付けている。
「隊長…、またこんな人達ばっかりなんですか…?」
「上層部に聞いてくれ…。」
ミアはまた不安になって来たようだ。
この前の候補生のようにまた乱闘を起こしかねない雰囲気だからだ。
この前のようなもめ事が起こらなければいいが…。
しかし、レオ達の不安はやはり的中してしまうのだった。
オーディション前に次々と信じられない事態が!
「そ、それじゃあ、私がオーディションの説明をしますね…。」
親衛隊の一員であるアリア・ワイズマン中尉がランダー隊員を決めるオーディションの説明を始める。
「何で私が説明しなきゃいけないの…?」
アリアは心の中で不安を口にした。
集まった不良共はアリアをじっと睨み付けているのだから。
『喧嘩上等!』とでも言わんばかりに。
それから、アリアが説明していると、集まった不良達は話を聞いていないのか、全員だらけているようだった。
『難しい話はどうでもいい…。さっさと戦わせろ!』
そう言わんばかりのだるそうな目つきでアリア達を見ている。
それを見ていたカーネルの目にも怒りの色が。
『こいつらはコロニー戦争をナメているのか!?』
そう言い出しそうなぐらいの不機嫌な表情を見せる。
そしてついに、カーネルの怒りが爆発してしまう!
「お前らのぉ、人が説明してんのにちゃんと聞いとんのかぁ!?」
カーネルはプラズマ斬馬刀を右手に転送すると、二人の不良の前にある机に向けて降り下ろす。
不良の目の前の机が破壊され、二人の不良がびびって小便を漏らす。
それを見たプレシアもびっくりしてミアにしがみつく。
「おねーちゃーん…。」
「大丈夫、大丈夫よ。」
ミアは怖がるプレシアを落ち着かせる。
「帰れ!お前らみたいな奴はいらんのんじゃ。」
カーネルはびびっている二人の不良を無理矢理立たせると、会場から追い出してしまう。
次にリーゼント頭の不良を追い出そうとするカーネル。
「何やお前、はよ立て!」
リーゼント頭はガムを噛みながらカーネルを睨み付けている。
「はよ帰れ言うとろうが!」
カーネルは不良にビンタを食らわす。
「なんじゃコラ!ジョトダコラ!(上等だコラ!)」
リーゼント頭はカーネルに敵意を剥き出しにする。
「さっさと帰れ!」
カーネルはリーゼント頭を無理矢理に席から立たせ、会場から追い出す。
もう一人の不良も追い出そうとするが、その男はカーネルの胸ぐらを掴み、睨み付ける。
「何しよっとかお前!話ちゃんと聞いとったやろ!」
一人の不良がカーネルに突っかかる。
「その態度の事を言っとんのじゃ!それが人の話聞く態度か!」
「態度やろが!」
不良がカーネルに睨み付けながら迫る。
一触即発の緊縛した空気が会場を覆う。
「ワシが殴らんと思うとんとか!?カメラ止めんかー!」
「カメラなんてないけど…。」
アリアが横から突っ込むと、不良はアリアにも迫って来た。
「余計なツッコミはいらんけんの!」
「ちょっと、なんで私までー?」
不良がアリアに襲いかかろうとするが、複数の兵士達がそれを止める。
「やめろ!やめろ!やめろ!」
兵士に押さえつけられた不良は懲りずに制止を振りきり、カーネルに掴みかかり、乱闘が勃発する。
「やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろ!」
カーネルは暴れる不良を強制的に会場から追い出す。
「帰れ!コロニー戦争をナメんなよ!」
それにしても、カーネルは前任のジョー・リュウモンよりも血の気が荒い性格のようだ。
この前以上の波乱がありそうだと、ミアはため息をつく。
「あの人達に関わるとまた疲れるでしょうね…。」
「…。」
レオはいつも通り冷静だった。
しかし、カーネルが不良達を全員追い出した事で、オーディションがうやむやのまま終わってしまった。
これからどうすればいいのか…。
「これで…良かった、のでしょうか…。」
「そうだな…。これで誰も機械少年にならなく済むのだからな…。」
ミアもレオも無関係な人間が機械少年にならなくて済むと思うとホッとするのであった。
しかし、一人の人物が現れる!
「困るなぁ、全員不合格なんて。」
白いツインテールをなびかせたユーノが会場に入って来た。
「ユーノ博士…!」
「やはり…。」
彼女も会場の様子を見ていたのだ。これで簡単に終わるはずがなかったようだ。
「このままじゃ僕の計画が台無しだよ。特別顧問とアリア中尉で彼らを呼び戻してくれないかな?」
「…わかりました。」
「何で私までー…?」
やはりユーノが簡単にサンプルとなる人物を手放すはずがなかった。
ユーノの命令は大統領命令にも相当するので、逆らう事は許されない。
カーネルとアリアはオーディションを受けるはずだった不良達の説得に向かった。
それから翌日。
カーネルとアリアが先日追い出した不良達を連れて会場に戻って来た。
それを聞いたレオ達やユーノが駆けつける。
カーネルが説得すると、不良達を刺激する怖れがあった為、アリアがなんとか説得して連れて来たらしい。
こうして、ランダー隊員候補生を決めるオーディションに挑むメンバーが揃った。
ここでカーネルが不良達にオーディションに挑む覚悟を問いただす。
「お前ら、オーディションに挑む覚悟あんのか?」
「おぅ!」
「やってやんよ!」
「やる言うとろうもん!」
どうやら覚悟はあるようだ。
「もし不満とか言ったら全員辞めさすけぇの!覚悟しとけよ!」
「おぅ!」
不良達から威勢のいい返事が飛ぶ。
これでオーディションが予定通り行われる事が決定した。
「良かった。これで僕のモルモットがまた増えるね。」
ユーノは無邪気な笑みを浮かべていた。
それを見ていたレオはユーノを睨み付けていた。
不良達は知らない。彼らが機械少年と言う名の改造人間にされてしまう事を…。
木星。
前回の木星調査隊に選ばれたメンバー達は、木星に眠っているというニュートロンを求めて、木星へと降下した。
一番ランダーの経験があるランドが副隊長に選ばれ、グラゼル、ブン達選ばれた新メンバーが向かった。
彼らは木星探査用の特殊ASを装着すると、今回与えられた新兵器である、強化外装[アーマードモジュール]をさらに装着し、木星へと向かう。
強化外装は、ASの防御力をさらに強化し、生存率を上げるだけでなく、機動力の強化や武装の拡張等、戦闘力を上昇させる事が出来る。
もしもの時は自由に切り離す事も出来る為、汎用性にも優れている。
この新兵器を装着して、隊員達は木星への突入に成功した。
木星は大気の大半がヘリウムで構成されている為か、視界が極めて悪い。
目的地にたどり着くには、前の調査隊からの地形データだけが頼りだ。
隊員達はOSのナビゲーションに従って移動する。
「いよいよだな…。」
ランドがマップスクリーンを見て呟く。
資源が眠っている目的地が近づいて来たのだ。
「もうすぐか。資源を確保して早く帰ろうや。」
グラゼルも新兵器の扱いにも馴れたのか、余裕の表情だ。
《俺、故郷に彼女がいるんだ。帰ったら木星に行ったって、自慢出来るだろうなぁ。》
ほとんど素人の状態から始めたスーだが、ランダーの腕を磨き、正式に調査隊の一員として選ばれたのだ。
《僕も同じです。故郷で妻子が待ってるんですよ。絶対成功させましょう!》
元軍のランダーであるブンも新兵器の扱いにもすぐに馴れたようだ。
「お前ら、目的地に着いたか?」
隊長であるダイス・サノーから通信が入る。
彼は宇宙船から指揮している。
「ちょっと待ってください…あっ、着きました!」
ランドの視界に、遺跡のような建造物が見えて来た。
ここに宇宙での生活に必要なニュートロンが眠っているというのか。
「みんな、行くぞ!」
ランド達は遺跡へと向かった。
遺跡へとたどり着いたランド達は遺跡内の調査を始めた。
「みんな、慎重に調べろよ。」
ここは人工の建造物のようだ。
何か仕掛け等があるかもしれない。
隊員達はダイスの指示に従う。
すると、スーから他の隊員との連絡がつかないとの連絡が入る。
ランドは詳しい話を聞こうとする。
「何かあったのか?」
「わかりません…。けどいきなり連絡を経って…な、なんだ?」
「どうした、スー?」
「ば、ば、ば、化け物…。うわぁっ!」
スーからの連絡はいきなり途絶えた。
スーからの生命反応もレーダーから消失してしまった。
これは緊急事態だ。
ランドはすぐに全隊員に遺跡から退避するように連絡する。
すると、別の場所で調査していたブンから通信が入る。
「ブンさん、無事ですか?」
「ランドさん、は、早く逃げましょう!ば、化け物が…!し、死にたくな…!」
ブンの通信も途絶え、生命反応も消えた。
すなわち死亡である。
ランドは残りのメンバーを集め、遺跡から離れようとする。
しかし、その前に巨大なゴキブリのような生物が立ち塞がる。
まるでASのようでもある。
「や、やばいぜ!早く逃げよう!」
グラゼルが木星から退避しようとすると、謎の化け物は剣のようなものでグラゼルを一撃で串刺しにする。
「い、やだ…。」
残りのメンバーも次々と化け物に殺され、残されたのはランドだけだ。
謎の化け物はバールのようなものをランドに向けて降り下ろす。
「嫌だ、死にたく…!」
こうして、ダイス率いる調査隊は全滅した。
その後、遺跡の爆発も目撃された。
この事態を重くみた木星圏政府は調査隊を次々と木星へ送り込むが、誰一人として調査隊は帰って来なかった。
その後、政府は木星への調査を全面的に断念し、木星への立ち入りも禁止した。
結果、木星圏でも資源の枯渇の危機にさらされてしまう。
ニュートロンがなくなってしまえば木星圏コロニーに人が住めなくなってしまうだろう。
そして、木星圏政府は、地球圏、火星圏に宣戦布告した。
木星圏も生活を守る為、資源争奪戦争への介入を決定したのだった…。
地球、火星、木星による三つ巴の戦いが始まる…。
第10戦へ続く。
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