戦神兄妹

ジェダ

第8戦 オペレーション・ムーンブレイク【後編】

地球軍月面基地。

地球圏統一連合に所属する全コロニー軍の総司令部であり、大統領府のあるアポロシティへの最終防衛ラインでもある。



月面基地から遠く離れた地点に、謎の物体が降下した。

誰もが破壊された戦艦の残骸が落下したものと思っていた。

だが、違った。

落下したのは降下カプセルだった。

その降下カプセルが静かに開くと、銀色に輝くASを纏ったランダーが姿を表した。

そう、彼は火星軍の天才科学者少女、ユーノ・インキュベ(以下略)が死体をサイボーグ化して作り上げた新兵器[機械少年]である。

機械少年はユーノが付けた愛称であり、正式名は[パペット・ソルジャー]なのだが。



機械少年に改造されてしまった少年イービルは、ユーノからの指令に従って動き出し、月面基地へとまっすぐ歩きだした。



月面基地でも基地に向かって少しずつ接近して来るASをキャッチしていた。

「何!?所属不明のASが接近しているだと?」

「はい、しかも一人だけです。」

月面基地の司令官、ガノン大佐はそのASを見て唖然とした。

まさか主力艦隊の包囲網をくぐり抜けて月面に降下してくる奴がいるとは…。

しかし、それだけの力を持っているとしてもたった一人で基地に乗り込むなど自殺行為だ。

「と、とにかく奴に警告を出せ!」

「わ、わかりました!」

ガノン大佐は正体不明のASに警告を出すようにオペレーターに指示を出す。

素直に退けばそれで良し、何も答えず接近するなら火星軍と見なして攻撃するまでだ。

「アンノウンに告げる。貴公の所属を答えよ。月面基地に何の用だ?答えなければ貴公を火星軍とみなして攻撃する!」

基地の近くに立っている銀色のASに警告を伝えた。

「どうだ?」

「…応答ありません。」

銀色のASを着たランダーは黙ったままで何の反応もない。

「もう一度警告する。貴公の所属を答えよ!さもなくば火星軍とみなして攻撃するぞ!」

「…。」


やはりASからの反応はなかった。

「…どうしますか?」

「やむを得ん。アンノウンに攻撃を開始しろ!」

ガノン大佐の指示で基地に設置している無数のレーザー機銃が一斉に姿を表す。


レーザー機銃が機械少年に照準を定める。

しかし機械少年はぴくりとも動かない。

「撃てぇ!」

ガノン大佐が叫ぶと同時にレーザー機銃から無数のレーザーが機械少年に浴びせられる。

これだけ一斉にレーザーを食らったら並のASは無事では済まない。

しばらくして機銃の一斉射撃が止み、辺りは砂ぼこりに包まれていた。

敵の姿が見えないが、誰もが敵は灰になっているだろうと思っていた。

しかし。



「やったか?」

「映像、出ます!」

ガノン大佐が食い入るようにモニターを見る。

砂ぼこりが薄くなり、映像が確認されると、ガノン大佐達は目の前の現実に驚愕する事になる。

仕留めたと思っていた機械少年が何事もなかったかのように無傷で立っていたのだ。

しかも機械少年の周りには黄緑色に輝く球状のバリアが展開されていた。

「な、何だあれは…?」

「アンノウンから高濃度のニュートロンエネルギーを感知!…これはニュートロンバリアです!」

「バカな…!」

ガノン大佐が驚くのも無理はない。

地球軍にしかないと思っていたニュートロン兵器を謎の敵が持っていたのだ。

しかし、驚かせたのはそれだけではなかった。

機械少年は右手にハンドガンを転送させる。

ハンドガンを手にした機械少年は基地の隔壁に向けて銃を構える。

すると、ハンドガンからニュートロン粒子が発射され、頑丈な隔壁を破壊してしまった。

「バカな、ニュートロン兵器をここまで持っていたとは…!」

圧倒的な性能を持つ謎の敵を前にガノン大佐は呆然としていた。

このままでは敵に基地への侵入を許してしまう。

ガノン大佐はすぐに基地の防衛隊に指示を出す。

「な、何としても奴を食い止めろ!全レーザー機銃展開!迎撃用戦車も出せ!それと交戦中の部隊に救援要請を出せ!」

「了解です!」

基地内はアラートが鳴り響き、騒然としていた。


基地から超電磁砲(レールガン)やミサイルポッドを装備した戦車が次々と機械少年の前に立ち塞がる。

しかし、機械少年は基地に少しずつ前進して来る。


「全軍攻撃開始!」

ガノン大佐の指示と共にレーザー機銃と戦車部隊が一人の機械少年に一斉射撃を開始する。

しかし、機械少年は球状のニュートロンバリアを展開し、戦車部隊など無視するかのように基地へ前進して行く。

レーザー、超電磁砲、ミサイルと雨あられのように降り注ぐ攻撃を機械少年はバリアで全てはじき、基地へ近づいて来る。

「…地球軍ハ全テ抹殺スル事ヲ許サレテイル!」

機械少年はニュートロンガンを構えると、前方の戦車群に向けてニュートロン弾を放つ。

放たれたニュートロン粒子は戦車部隊を軽く蹴散らすだけでなく、後方の基地施設の大半も消し飛ばしてしまった。

その光景を目の前にして司令部の兵士やガノン大佐達は言葉を失った。

「化け物か…こいつは…。」

ガノン大佐は無意識にそうつぶやいていた。 

このまま基地を突破されれば大統領府への接近を許してしまう。

それは地球軍の敗北を意味する。

しかし、あの化け物ランダーを止める術はないに等しい。

彼は今もニュートロンガンで基地を破壊しながら前進し続けている。

誰もが月面基地壊滅は時間の問題と思われていた、その時だった。


月面基地に接近するAS三体をレーダーが感知する。

「新たなにAS部隊が接近!」

「敵か!?」

今この状況で援軍を送りこまれたらひとたまりもない。

「…照合完了。イズモ軍第七特務中隊所属、[希望号]、[勇気号]、[慈愛号]です!」

味方の援軍が来てくれた。

しかもニュートロン兵器を試験運用している少年少女で構成された特務中隊だ。

最新兵器であるニュートロン兵器を持っている彼らに後は託すしかない。

「後は頼んだぞ…!」

ガノン大佐は月面に降下する三人のランダーを見つめていた。



クリス隊長の指示で襲撃された月面基地への援護へ向かうタカヤ達。

月面基地が見えると、すで攻撃を受けており、基地のあちこちが破壊されていた。

「基地がもうこんなに…!」

「ひどいですわ…!」

「サクヤちゃん、早く行こう!」

「はい、全速力で向かいますわ!」

サクヤは[天鳳]を駆り、月面基地へと最大速度で降下した。



月面基地に近づくと、たった一人の敵に襲撃されているのが見えた。

見た事のない銀色のASだ。

これ以上の基地侵攻を許す訳にはいかない。

「サクヤちゃん、あいつに攻撃するよ!」

「ええ、行きます!」

サクヤは[天鳳]の機首に装備されたプラズマ機関砲を謎のASに向けて連射する。

プラズマ弾は何発か命中したが手応えはなさそうだ。

だが、攻撃した事で敵がタカヤ達に反応し、基地への攻撃が止んだ。

「お兄ちゃん、サクヤちゃん、降りるよ!」

「ええ!」

リリとサクヤが[天鳳]から飛び降りる。

「ええ、僕も!?」

「お兄ちゃん、早く!」

「う、うん!」

タカヤも[天鳳]のグリップから手を放し、月面に飛び降りる。

三人が月に降りると、基地を攻撃していた謎のASが標的を変えた。

狙いをタカヤ達に定め、こちらに向かってゆっくり歩き出す。

やはりこれまで戦った相手とはまるで違う。

銀色のカラーリングも目に引くが、ヘルメットがまるでドクロのようなデザインである。

「こいつ…火星軍…なのかな?」

「見た事ないね…。」

「照合してもデータはありませんわね…。」

データもない未知の敵。

どんな能力を持っているかわからない為、慎重に戦わねばならない。

「とにかくあいつを止めなきゃ!」 

「そうですわね…。」

「う、うん…!」

タカヤ達が武器を構える。

「これまでよ!あんたの好きにはさせないからね!」

「三対一で勝てると思いますか?」

「…。」

しかし、謎の敵はリリ達の呼び掛けに反応せず、タカヤ達に向かって前進して来るだけだ。

「リリ、何にも反応ないけど…。」

「無視?聞こえてるなら返事しなさい!」

すると、謎の敵は右腕にガトリングガンを転送し、三人に狙いを定める。

「お兄様、お姉様、避けて!」

サクヤが叫ぶと同時に謎の敵は無言で三人に向かってガトリングガンを連射する。


ガトリングガンから放たれた多数のプラズマ弾を三人はぎりぎりでかわす。

「ちょっと、いきなり撃たないでよ!危ないじゃない!」

「……。」

リリの抗議にも敵は全く反応を示さない。

「やっぱり…無視ですね…。」

「そうみたい、だね…。」

しかし、謎の敵は再び三人に銃口を向ける。

「地球軍ハ、全テ抹殺スル事ヲ許サレテイル!」

謎の敵の感情のない機械的な言葉を放つ。

敵はガトリングガンを三人に向けて再び撃ちまくる。

「うわぁっ!?」

三人は謎の敵がやっと喋った事に驚きつつも飛んで来た無数のプラズマ弾から回避する。

[地球軍ハ、全テ抹殺スル事ヲ許サレテイル!」

謎の敵はロボットのように同じ台詞を連呼しながら三人にガトリングガンをひたすら撃つ。

「さっきから同じ事ばっかり言って!」

「まるでロボットみたいですわね…!」

「もしかして…こいつ、ロボット!?」

サクヤの言葉でタカヤは敵がロボットではないかと推測する。

「そんな…!」

「火星軍の人型ロボット…?」 

ここまで完璧に人間の動作を可能にした人型ロボットを実用化したという話は聞いた事がない。

だが、動きや話し方からその可能性は高かった。

「お兄ちゃんの言う通りあいつがロボットなら…遠慮はいらないね!」

「お姉様、まさか…!」

「あいつを完全にやっつけなきゃ!このままじゃ基地もみんなも危ないよ!」

リリは謎の敵を徹底的に叩き潰す決意を固めた。

ロボットなら人間と違って遠慮なく破壊に専念できる。

あの敵を放置すれば、地球軍の敗北し、多くの命が奪われてしまうからだ。

「ええ、やりましょうお姉様!」

「あいつを基地に向かわせる訳にはいかないよ!」

サクヤとタカヤも頷く。

ついにタカヤ達と火星軍が[機械少年]と呼ぶ謎の敵との戦いが始まった。

相手は未知の敵だ。何をしでかすかわからない。

タカヤ達は先制攻撃に打って出る。

「サクヤちゃん、あれで一気にぶっ飛ばしちゃって!」

「了解ですわ、お姉様!」

サクヤは両手にフラット・ランチャーとバズーカ・ランチャーを転送する。


サクヤは二つのランチャーを連結させ、謎の敵[機械少年]に銃口を向ける。

「おもいっきりやっちゃって!」

「ええ!リミッター30%解除!」

サクヤは兵装のパワーリミッターを開放する。

こうする事で強力な必殺技とも言うべき攻撃が放てるようになるのだ。

「行きますわよ!」

サクヤがランチャーを構える。

「圧縮粒子雷撃砲[フォトンプラズマブラスター]!」

ランチャーから放たれた巨大なプラズマ粒子が機械少年に襲いかかる。

サクヤの放った一撃で機械少年が立っていた月面の表面は一瞬にして焦土と化していた。

その圧倒的な破壊力にタカヤは唖然としていた。

「こ、これはさすがにやり過ぎなんじゃ…。」

「いいの!どうせ相手はロボットなんだから!」

敵を一瞬にして葬ったその光景を見てリリは笑顔だった。

さすがにこの一撃を食らって無事なASはないだろう。

ニュートロン兵器に匹敵するか、それ以上の破壊力だ。

もしかしたら敵は蒸発してしまっているかもしれない。

相手は人間じゃない、ロボットなのだ。

消し飛ばしてしまっても問題ないだろう。

誰もが勝負は見えたと思っていた。

しかし!



辺りに立ち込めていた砂塵が消えると、黄緑色に輝く光が見えた。

そこには消滅したと思われていた機械少年が何事もなかったかのように立っていた。

しかも光のバリアに護られていて無傷だった。

三人は言葉を失った。

「そんな…。」

「ウソでしょ…。」

「攻撃が効いてない…?」

機械少年を護っているバリアはニュートロン粒子だった。

地球軍以外でニュートロン兵器を保有しているなんて初耳だ。

だが、目の前の敵はニュートロン粒子のバリアで護られている。

「あ、あれって…!」

「ニュートロンバリア…なのでしょうか…?」

「だって、ニュートロン兵器は僕が持っている武器しか…!」

確かにニュートロン兵器開発のノウハウを持つのは地球軍だけのはずだ。

もしかしたら火星軍も完成させたのかもしれない。

だが、今はそんな事を考えている暇はない。

機械少年は再びにタカヤ達に向かって歩きだした。

機械少年はさらに右手にハンドガンを転送する。

じりじりと歩み寄って来る敵に、三人は慌てふためいていた。

「わ、私の攻撃が、効かないなんて…。」

「ど、どうしよ~…。」

「どうしたらいいんだ…。あ、そうだ!」

タカヤは右手にニュートロン・ライフルを転送させる。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「僕にはまだこれがあったよ!ニュートロンにはニュートロンだ!」

タカヤは機械少年に銃口を向ける。

「そうでしたわ!」

「さっすがお兄ちゃん!よーし、行くよ!」

元気が出たリリも両手にマシンガン[ファジー・ブラスト]を転送する。

「行こう、リリ!」

「うん、お兄ちゃん!」

サクヤは必殺技を使ったばかりで攻撃がしばらく出来ない。

ここは二人でやるしかない。

それにこちらにもニュートロン兵器がある。諦めたら負けだ。


「食らえっ!」

「いっけぇー!」

タカヤとリリがニュートロン・ライフルとマシンガンを同時発射する。

ニュートロンバリアに包まれた機械少年に対し、タカヤとリリはありったけの弾を浴びせる。

しかし、マシンガンの弾はおろか、ニュートロン粒子さえもバリアに弾かれてしまった。

「そんな…!」

「ニュートロン兵器も効かないなんて…!」

バリアに護られた敵は何事もないかのように三人に近づいてくる。

すると機械少年がハンドガンを構える。

「地球軍ハ、全テ抹殺スル事ヲ許サレテイル!」

機械少年は同じ台詞を言いながら、ライフルからニュートロン粒子を連射する。

二人はすぐに攻撃を止め、ニュートロンの光の弾をなんとか回避する。

「あいつもニュートロン・ガンを…!」

「危なかったぁ~、もう少しであたし達やられる所だったよぉ…。」

敵はバリアだけでなく、攻撃用のニュートロン兵器まで持ってた。

なんとか避けたからいいが、直撃していたらASのシールドは一撃で貫通され、やられていただろう。

遠距離攻撃が駄目なら、残るは接近戦しかない。


タカヤはニュートロン・ブレード[グラディウス]を右手に転送する。

「お兄ちゃん、あたし達が援護するからあんなヤツぶった斬っちゃって!」

「私たちに任せてください!」

サクヤのASのエネルギー充填は完了している。

ようやく戦闘行動が可能になった。

二人の援護ほど心強いものはない。

リリとサクヤが射撃で敵の気を引き付け、タカヤがニュートロン・ブレードで敵のバリアを破る。

現時点ではこれしかなさそうだ。

「わかった、行くよ!」

「オッケー!」

「行きますわよ!」

リリとサクヤがマシンガンとランチャーを機械少年に向けて撃ちまくる。

やはりニュートロンバリアの前に攻撃は防がれてしまう。

「今だ!」

タカヤは一気に敵に接近する。

そして敵の至近距離に近づくと、ニュートロン・ブレードを振り上げる。

「よし、もらった!」 

バリアに護られた敵にニュートロン・ブレードを振り下ろす。

ニュートロン・ブレードの威力はライフルより高い。

もしかしたらバリアを破られるかもしれない。

しかし、剣の一撃ですらバリアを破る事は出来なかった。

「そんな…!」

機械少年はタカヤにニュートロン・ガンの銃口を向ける。

「うわぁっ!」

敵は近距離から撃って来たが、弾はタカヤのASの肩アーマーをかすめた程度で、なんとか避ける事が出来た。

タカヤはすぐに後ろに下がり、リリとサクヤと合流する。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「無事で良かったですわ…。」

リリとサクヤが心配そうにタカヤを見つめる。

「だ、大丈夫だよ。でも…!」

遠距離も近距離もあのバリアの前では無力だった。

完全に打つ手がなくなった三人に以前の自信満々な余裕はなくなっていた。

すると、機械少年は突然バリアを解除し、三人に銃を向ける。

「何だ…?」

「嫌な予感するね…。」

「何か仕掛けて来そうですわね…。」

すると、敵のエネルギー出力が急に上昇を始めた。


三人の嫌な予感は的中する事になる。

機械少年はハンドガンにニュートロンエネルギーを溜め始めたのだ。

「みんな、逃げて!」

リリの合図でタカヤとサクヤもとっさに機械少年から離れる。

それと同時に機械少年はハンドガンから最大出力のニュートロンエネルギーを放ったのだ。

巨大なニュートロンエネルギーは目の前の山も一瞬で消し飛ばしてしまった。

逃げるのが遅れていたら三人は跡形もなく消滅していただろう。

地形を変える程の破壊力を目の当たりにした三人は呆然と立ち尽くすしかなかった。

「あ、あんなの、勝てるわけ…ないよ…。」

タカヤは完全に震えあがっていた。

「お兄ちゃん…。」

「お兄様…。」

自信を喪失したタカヤを見て、リリとサクヤの自信も揺らぎ始めていた。



月の衛星軌道上で待機している火星軍の特務試験艦[アンゴルモア]。

艦橋の中では白い髪でツインテールが特徴の少女科学者、ユーノ・インキュベ(以下略)は艦長席に座り、地球軍のランダーと機械少年との戦いを観戦していた。

「へぇー、あれが地球軍のニュートロン兵器かぁ。けど、ボクの機械少年には、それだけでは勝てないよ。」

ユーノが開発した[機械少年]は思った通りの性能を発揮していた。

新型ニュートロンエンジンにサイボーグ化した死体。

この組み合わせならニュートロン耐性に左右される事なく強力な兵器をいくらでも使う事が出来る。

現時点で機械少年を倒す手段はないに等しい。

ユーノはお菓子を食べながら笑みを浮かべていた。



月周辺宙域では地球軍と火星軍の艦隊が激しい戦いをいまだに繰り広げていた。

地球軍所属、イズモ軍第七特務中隊のクリス隊長は竜型の大型機動兵器[ヒリュウ]に乗り、火星軍艦隊を次々と蹴散らしていた。

戦況は地球軍が有利に見えるが、状況は最悪に等しかった。

火星軍が密かに一機のASを月に降下させ、月面基地を急襲したのだ。

クリス隊長はタカヤ達を月に向かわせたのだが、報告によると一機のASに苦戦しているらしい。


リリとサクヤがついているとはいえ、ニュートロン兵器を持つタカヤでも持ちこたえる事が出来ないかもしれない。

「一杯食わされたわね、火星軍に…!」

今は一刻も早く親衛隊を倒し、タカヤ達の救援に向かわなくてはならない。

例の新兵器が完成すればその必要もないのだが…。

クリス隊長はシラサギにいる少女科学者、ユミナに通信を入れる。

「ユミナちゃん、例のあれは完成した?」

「あ、あとちょっとだからもう少し待ってー!」

「わかったわ。完成したらすぐにタカヤ君達の所に転送して。」

「はーい!」

クリス隊長は通信を切った。

天才少女のユミナでも調整にてこずっている事が表情からわかる。

しかし、新兵器が完成すればこの戦況を覆す事が出来る。

それまで耐えるしかなかった。


すると、ヘルメットのアラートが突然鳴り響く。

敵が新たに接近して来たのだ。

数は二人。親衛隊隊長であるレオともう1人の親衛隊ランダーが接近して来る。

「来たわねレオ君。今度は容赦しないわよ。」

「クリス先輩、それは俺も同じです…!行くぞ!」

レオは右手にプラズマライフル改を転送し、クリス隊長を乗せた[ヒリュウ]に向けて強力なプラズマ弾を放つ。

何発かは命中したが、装甲の硬い[ヒリュウ]には効果的なダメージは与えられない。

「やはりな…!」

やはり並の攻撃では倒せない。

レオはミアに指示を出す。

「ミア、一気に敵を叩き潰せ!」

「わかりました、隊長!」

ミアは無数の無線攻撃ビット[フェリシア]を周囲に転送させる。

敵は大型機動兵器だ。数で圧倒するしかない。

「行きなさい、破壊の妖精!」

ミアは無数のビットを操り、[ヒリュウ]に襲いかかる。

これだけの数なら敵はひとたまりもないはずだ。

しかし、無数のビットに前にしてクリス隊長は笑みを浮かべていた。



無数のビットがクリス隊長とヒリュウに襲いかかろうとした、その時!


「対空レーザー、一斉発射!」

ヒリュウのボディから複数の対空レーザー機銃が姿を表す。

機銃からレーザーが発射され、ヒリュウの周囲に集まっていたビットが全て撃ち落とされる。

「…そんな!?」

ミアは動揺を隠せない。

まさか対空対策も万全だったとは。

やはりこのランダー、ただ者ではない。

「ミア、下がれ!奴は俺がやる…!」

「は、はい!」

ミアを後方に下がらせ、レオは一人でクリス隊長と[ヒリュウ]に戦いを挑む。


レーザー機銃で敵の攻撃を退けたクリス隊長だったが、一人の敵がこちらに接近して来る。

「レオ君、やはり来るのね…。」

AS[コバルトファルケン]を装着したレオが接近線を挑んで来る。

「手加減はしないわよ!」

クリス隊長は[ヒリュウ]のミサイル全弾をレオに向けて発射する。

しかし、レオはそれを全て避け、接近して来る。

ミサイルを全弾避けたレオは右手にプラズマライフル改を転送し、[ヒリュウ]にプラズマ弾を放つ。

プラズマ弾はヒリュウに命中したが、たいした損傷は受けていない。

「やはりこの程度の武器ではな…。」

対艦用装備があればまだ対抗出来たのだが、ない物をねだっても仕方がない。

「ならば…!」

レオは電磁ランサー[イーグルレイジ]を左手に転送する。

「クリス先輩…勝負です!」

レオは[ヒリュウ]ではなくそれに乗っているクリス隊長に狙いを定める。

「なるほどね…。けど近づけるかしら?」

クリス隊長はレーザー機銃を全砲門発射し、弾幕を張る。

これでレオはうかつに近づけないはずだ。

「確かに。ならば奥の手を使わせてもらう…!」

レオはASのリミッターを再び解除する。

リミッターを解除すれば、コバルトファルケンの真の力を少しずつ解放出来ると同時に強力な必殺技を使う事も出来る。

「リミッター30%解除!」

レオはヒリュウの上に乗っているクリス隊長に狙いを定める。

大型兵器を破壊するのは無理でも、操縦している者を倒せば無力化する事は出来る。

「来たわね…!」

クリス隊長はヒリュウの対空レーザー砲を全砲門斉射する。

無数のレーザーがヒリュウの周りから乱れ飛ぶ。

普通なら近づく事すら出来ないだろう。

「そんなもの…!」

リミッターを解除したレオは凄まじい機動でレーザーの嵐を避け、クリス隊長に接近して来る。

「!!」

クリス隊長に接近すると同時にレオは強力な攻撃を繰り出す。

「ファルコン・ディストラクション!」

レオは四体の分身を繰り出す。

四体の分身が次々とクリス隊長に襲いかかる。

「ガイスト・フィスト!」

クリス隊長は2つの大型グローブを転送する。

四体の分身は電磁ランサーによる突き攻撃を繰り出す。

しかし、クリス隊長は分身の攻撃を全てグローブで防ぎ、分身を消滅させる。

「やるわね、レオ君!」

「くっ…!」

攻撃を全て防がれたレオは無数のレーザーを高速で避け、離脱する。

そしてヒリュウの背後に回り込み、後ろから再び突撃しようとする。

「甘いわよ!」

クリス隊長はヒリュウの後方に搭載されたプラズマ粒子砲を突撃してくるレオに向けて発射する。

放たれたプラズマ弾をレオはなんとか回避する。

「やりますね、先輩…!」

やはり対艦装備や大型兵器なしで挑むのはかなり厳しい。

レオは全速力でヒリュウから離脱する。

そして後方にいるミアと合流した。

「隊長!良かった、ご無事で…!」

ミアは一人で大型兵器に突撃して行ったレオを心配していたのだった。

だが、やはりレオはそれでも無事に戻って来た。


やはりASだけであのモンスターマシンを相手にするにはかなり厳しい。

「隊長、あのままじゃあの機体を止められないですよ…。」

「ああ…。やはり[オリンポス]をぶつけるしかないようだな…!」

ミアの言う通り、正攻法ではあの大型兵器は止められない。

レオは旗艦[オリンポス]に通信を入れる。

しばらくして多数の親衛艦隊と共に旗艦[オリンポス]がやって来た。

オリンポスのネーナ艦長から通信が入る。

「レオ隊長、全艦隊集結しました。」

「よし、地球軍の大型兵器に総攻撃を開始せよ!」

「了解です!」

レオはクリス隊長の駆るヒリュウに対し全艦隊による攻撃を指示した。



最大の強敵である親衛隊長レオを退けたクリス隊長だったが、レーダーに多数の敵艦隊の反応があった。

「親衛艦隊か…、火力で圧倒しようって訳ね…。」

敵艦隊が一斉に主砲を発射して来る。

「けど…、この私とヒリュウは止められないわよ!」

クリス隊長は笑みを浮かべると、敵艦隊に向けて突撃する。



親衛隊旗艦[オリンポス]は接近して来る大型兵器に対し、バトルモードによる攻撃を開始しようとしていた。

「プレシアちゃん、バトルモード起動するわよ!」

「はーい!いっくよー!」

ネーナ艦長の指示でプレシアがオリンポスを変形させる。

艦橋部分が人型のような状態になり、バトルモードとなった。

「プレシアちゃん、おもいっきり叩き潰しなさい!」

「うん!うっちゃうよー!」

プレシアは左右のアームからプラズマ主砲とミサイルを同時発射する。

例えヒリュウが機動力が高くてもすべて回避するのは難しいはずだ。

「命中してるわ、その調子よ!」

「うん、がんばるねー!」

やはり竜型機動兵器は右足と尻尾部分を損傷していた。

プレシアは休む事なく主砲を撃ち続けた。



「くっ…やられたわね…!」

[ヒリュウ]を駆り火星軍の戦艦を次々と撃墜していくクリス隊長だったが、親衛隊旗艦[オリンポス]からの激しい砲撃にさらされ、ヒリュウの右足と尻尾を損傷してしまった。

半人型のような状態に変形したオリンポスは二本のアームを振り回しながら、動き回るヒリュウに集中放火を浴びせてくる。

でたらめに撃っているように見えてもその狙いは的確だった。

クリス隊長はオリンポスの砲撃から逃げ回りつつ、他の敵艦隊を相手にしていた。

[ヒリュウ]のツインアイから熱線砲が発射され、一隻の敵戦艦が撃沈する。

他の戦艦はただの的でもオリンポスは強力な砲撃の前になかなか近づけない。

「やるわね…!」

このままではいかにヒリュウでも追い詰められてしまう。

その時、一隻の敵戦艦が突然火を吹いて撃沈する。

それは味方からの砲撃だった。

ヒリュウの後方から一隻の戦艦が接近して来る。

それはアイカやファリスが所属しているイズモ軍第二中隊の旗艦、[ユリシーズ]だった。



「敵戦艦、撃墜を確認!」

「どうやら間に合ったみたいだな。」

艦長席に座っている軍服を着た若い男はジリオン・ステルバート。

第二中隊を率いる隊長である。

ジリオンはヒリュウの援護に間に合うと、笑みを浮かべた。

「この俺が来たからには火星野郎の好きにはさせねぇぜ!メリア、コンバットモードで敵を蹴散らすぞ!」

「了解!」

ジリオンがオペレーターに指示を出すと、ユリシーズはオリンポスのように変形を始めた。

まるでユリシーズはオリンポスと違い、完全な人型の戦闘ロボットのような姿となったのだ。

「コンバットモード、変形完了!」

「これより第七中隊の[ヒリュウ]を援護する!メリア、操縦は任せた!」

「了解!任せてください!」

ユリシーズのコンバットモードの操作は操縦士である少女、メリアに一任される。

人型形態となったユリシーズは火星軍艦隊と旗艦[オリンポス]に総攻撃を開始した。


ユリシーズの対空砲、そして両肩のエネルギー砲が火を吹き、多数の親衛艦隊を撃沈させる。

その火力はオリンポスと同等かそれ以上だ。


[ユリシーズ]の激しい砲撃で、[オリンポス]は左腕をやられてしまった。

「おねーちゃーん、これいじょうもたないよー!」

オリンポスのコクピットが激しい揺れにさらされる。

するとレオから通信が入る。

「オリンポス!このままでは艦隊は全滅する!後退しろ!」

「了解です…!プレシアちゃん、バトルモード解除!退くわよ!」

「は、はーい!」

ネーナ艦長はオリンポスと残された艦隊を後退させる。

このまま撃ち合いになれば全ての艦が撃沈されかねない。

「第七中隊、クリス先輩、やはりあなどれんな…。ミア、俺達も退くぞ…!」

「は、はい!」

レオとミアもオリンポスと合流する為に撤退した。



「遅いわよ、ジリオン!けど、助かったわ。」

「全く、あんまり無茶すんなよ…。」

クリス隊長は[ユリシーズ]にいるジリオン隊長に通信を入れる。

ユリシーズが来てくれなかったら今回は危なかったかもしれない。

さすがは親衛隊。艦隊戦でもあなどれない。

「さて、後はあいつらを助けに行かないとな…。」

「そうね、行きましょっか!」

部下達はまだ多数の敵を相手に戦っているはずだ。

クリス隊長とジリオン隊長は次の戦場へと向かった。



第七中隊のゼルとノエルは親衛隊の一員であるマリー、エリー、ミリーの三人娘から突然の襲撃を受けた。

「兄さん、あの子達…!」

「またあいつらか…。」

あの三人とは何度も戦った事がある。

親衛隊に抜擢されるぐらいの実力を持っている為、一筋縄ではいかない相手だ。

「…相手が誰だろうと俺達のコンビネーションで封殺するのみだ。やるぞ…!」

「は、はい…!」

ノエルの鉄壁の防御とゼルの圧倒的な攻撃力。

この二つがあれば誰だろうと敵ではない。

「ねぇ、あれって…。」

「まさか、ゼルとノエルか?」

「ASは変わってるけど…間違いないよ…。」

二人の持っている武装で相手がわかった。

マリー達はゼルとノエルに攻撃を開始した。


「まずはあたしから行くよ!」

専用AS[マックスイーグル]を装着したマリーがイーグルアローを転送し、ゼル達に向けて炎の矢を連射する。

「き、効きません!」

ノエルのティンクルシールドから放たれたプラズマフィールドによって炎の矢は全て弾かれる。

「二人とも今だよ!」

「よっしゃー!」

「行くよ…!」

[ラッシュパンサー]を装着したミリー、[アクセルシャーク]を装着したエリーが突撃する。

盾で防御したノエルの背後に左右から回り込み、まずはゼルから叩こうというのだ。

しかし、ゼルには既に見抜かれていた。

「浅はかな…!」

ゼルは大剣[ブリューナク]を手にし、向かって来るマリーとミリーをまとめて鋭い一閃で凪ぎ払う。

「うわっ!」

「くっ…!」


なんとか槍と斧でゼルの攻撃を防いだが、そのパワーはやはり圧倒的だ。

やはりゼルとノエルはあなどれない。

マリーはイーグルアローの出力を80%まで上げる。

「これは防げるかなー?」

マリーは巨大な炎の矢を盾を構えているノエルに向けて発射する。

炎の矢はティンクルシールドに直撃する。

「ううっ…!」

ティンクルシールドは巨大な炎の矢もなんとか防ぎきった。

しかし、プラズマフィールドが消失してしまった。

「ど、どうして…!」

突然の事態にノエルは動揺する。

敵の強力な攻撃を防いだのはいいが、その衝撃でプラズマ発生装置が故障してしまったようだ。

「これはチャンスだよー!」

「…一気に叩くよ。」

「よっしゃ、行くよ!」

これでゼル達を護るフィールドはなくなった。

後は一気に叩くだけだ。

マリーは炎の矢を連射し、ノエルに遅いかかる。

「キャアアアア!」

すさまじい数の矢がノエルに襲いかかる。

プラズマフィールドなしではいつもの連携が使えない。

「…ノエル!」

ノエルを助けようとするゼルの前にエリーとミリーが立ち塞がる。

「…あなたの相手は私達。」

「これまでお返し、させてもらうよ!」

かなりまずい状況になった。


エリーとミリーを倒さないとノエルの救援に向かえない。

「行きます…!」

エリーが二本の槍[ハイドラ]を振り回し、ゼルを近づけさせない。

「もらったぁ!」

ミリーは大斧[パニッシャー]を構え、ゼルに斬りかかる。

ゼルは大剣でそれを受け止めるが、そのパワーは半端ではない。

「この俺を…簡単に倒せると思うな…!」

ゼルは大剣[ブリューナク]の柄部分の伸ばすと同時に、剣はプラズマ粒子を放出させる。

これでブリューナクは槍のようにリーチが伸び、複数の敵とも戦える必殺武器となるのだ。

「行くぞ…!」

ゼルがブリューナクを振り回すとプラズマ粒子の衝撃波が放出され、ミリーに襲いかかる。

「うわぁぁぁぁ!」

ミリーは衝撃波をまともに食らい、ぶっ飛ばされてしまった。

おそらく、無事ではすまないだろう。

次はエリーだ。

「やるわね…。なら、これならどう?」

エリーは必殺技を使うリミッターを解除する。

「シャーク・ブラスト…!」

エリーの槍から鮫のような形をしたエネルギー弾が四発発射され、意思があるかのようにゼルに襲いかかる。

「くっ…!」

重装甲タイプのASである[アイアングリズリー]を装着しているゼルでは追いかけて来るエネルギー弾を避けるだけで手一杯だった。



マリーは防御機能を失ったノエルに炎の矢を浴びせ続ける。

「さーて、いつまで耐えられるかなー?」

プラズマフィールドを使えなくなった盾では全てを受け止めるのは難しい。

「ダメ…このままじゃ…。」

盾の耐久力も限界に近づいて来た。

ノエルは盾か強力な閃光を放ち、マリーの目をくらまして後退しようとする。

しかし、それもマリーには読まれていた。

「そうはさーせない☆プロミネンス!」

マリーは敵を追尾する強力な炎の矢を放つ。


ノエルはなんとか避けたが、炎の矢がASの胸部のアーマーをかすめ、一部が熱で溶けてしまった。

「キャッ!に、兄さん…!」

まともに食らったらAS自体がドロドロに溶けてしまっていたかもしれない。

「けど、これでおしまいだよ、ノエルちゃん!」

マリーが再びノエルに照準を合わせる。

今度ばかりはかわせないかもしれない。

「兄さん…助けて…。」

ノエルは盾を構えたまま震えあがっていた。



「…ノエル!」

ノエルの危機を察したゼルは救援に向かおうとするが、エリーにまたしても阻止される。

「…行かせると思う?」

エリーは二本の槍を巧みに操り、ゼルに迫って来る。

「くっ…!」

さらに倒したと思っていたミリーがゼルの背後から迫って来ていた。

タフさは三人の中で一番のようだ。

「よくもやってくれたね!もらったー!」

ミリーは必殺技のリミッターを解除する。

このまま必殺技を食らえばゼルでも無事ではすまない。

「ここまでか…!」

さすがのゼルもやられてしまうかもしれない。

このまま妹も助けられないままやられるのか…。

あきらめかけた、その時!



すると、どこからかミサイルが飛んで来た。

そのミサイルはマリー達を追尾して来たのだ。

「な、何?」

「…増援?」

ゼル達が戦っている宙域に二体のASが迫って来る。

ヘルメットのディスプレイには[KAS-15 ヴァルキュリア]、[KAS-25 ヴァーチャー]と表示されている。

間違いない。装着しているのは第二中隊のアイカとファリスだ。

心強い援軍が来てくれた。

「二人共大丈夫ー?」

「お待たせしました!」

アイカがトライデント[ワルキューレ]を転送し、ゼルの背後に迫っていたミリーに斬りかかる。

「邪魔すんじゃないよ!くらえ、パンサーショット!」

ミリーは斧から豹のような巨大なエネルギー弾をアイカに向けて放つ。

アイカはエネルギー弾を軽々と避け、ミリーに接近する。

ゼルの攻撃を受けてASが損傷しているミリーは避ける事が出来ない。

「もらったわよー。」

「しまっ…!」

アイカの槍の一閃を受けてミリーはふっ飛ばされてしまう。

「ちくしょぉぉお!」

これでミリーはまともに戦えないだろう。

「さーてと、次はっと…!」

アイカはゼルと戦っているエリーに斬りかかる。

「あの時の…!」

エリーはもう片方の槍でアイカの槍を受け止める。

「お邪魔するわねー。」

エリーは二対一の戦いを強いられる事になった。



マリーからの集中放火にさらされるノエル。

もうダメかと思われたその時、マリーに多数のプラズマ弾が飛んで来る。

「あ、危ないじゃなーい!」

助けてくれたのは第二中隊のファリスだった。

「ノエルさん、援護します!」

「ファリス君…!助かった…。」

ファリスは必殺技のリミッターを解除する。

「リミッター、30%解除!おいで、シグマウエポン!」

ファリスの周りに多数の重火器が転送される。

「行くよ、シグマバースト!」

重火器からミサイルやプラズマ弾が次々と発射される。

「うわわっ!」

マリーは圧倒的な弾幕を避けるのが精一杯だった。

マリーはエリーとミリーに通信を入れる。

「マリーちゃん、ミリーちゃん、ここは退くよ!」

「…わかった。」

「ふざけんな!あたしはまだやれるよ!」

エリーは承認したが、ミリーは感情的になって反対する。

「あの二人まで現れたらあたし達不利だよー。ミリーちゃん、シールド10%しかないしー。」

エリーはまだ大丈夫だが、ミリーは戦闘が出来る状態ではない。次の攻撃を受けたら身が持たないかもしれない。

「…ミリー、帰るよ。」

「ちっ、わかったよ!」

マリーとエリーはは攻撃を止め、損傷したミリーを連れて撤退した。


「二人共、大丈夫ー?」

アイカがゼルとノエルに通信を入れる。

「…なんとかな。感謝する。」

「あ、ありがとうございます…。」

ゼルとノエルのASも損傷しているが、戦闘は続行出来るようだ。

「間に合って良かったです…。」

ファリスがゼルとノエルを見て微笑む。

なんとか援護に向かえたから良かったが、そうでなければゼルとノエルはやられていただろう。


「ここは私達に任せてー、シラサギでゆっくり休んでねー。」

「ゼルさんとノエルさんは安心して補給して来てくださいね。」

アイカとファリスの言う通りだ。

二人のASのシールドは70%以下にまで減り、特にノエルの盾は損傷してプラズマフィールドが使えない状態だ。

万全の状態になって戦場に戻らなければならない。

「…わかった、後は頼む。」

「お任せします…。」

「じゃー、後は任せてー。」

「行って来ます!」

アイカとファリスは残りの敵部隊に向かって行った。

ゼルとノエルは補給の為にシラサギへ帰艦した。



月周辺宙域で敵部隊の侵攻を食い止めていたフィリアとジーク。

そこに親衛隊の一人であるガルバ・アルバレツが現れたのだ。

「また会ったな女ぁ!前回の借りを返してやるぜぇ!」

「ガルバ君か…。いいよ、勝負だ!」

専用AS[ハルパー]を装着したガルバはパワーにモノを言わせて[プラズマパイル]から巨大なプラズマ弾を連発して来る。

「フィリア!」

ジークがフィリアの援護に向かおうとする。

しかし、フィリアはそれを止める。

「ここは私に任せて!兄さんは月に向かう敵をお願い!」

親衛隊と戦っているフィリアを一人で戦わせるのは不安だ。

「おいおい、大丈夫なのか!?」

「こいつ私一人で充分だ。兄さんは雑魚を片付けて!」

確かに月に降下しようとしている敵部隊も片付けなくてはならない。

ジークはフィリアを信じて敵部隊の迎撃に向かう。

「無理すんなよ妹よ!助けが欲しいならいつでも来るぜ!」

「わかったよ!」

これでガルバと一対一の戦いだ。

どこまでやれるかわからないが、やるしかない。

「一対一で俺に勝てるとでも思ってんのかぁ?」

「言っただろう?私一人で充分だって。」

「自信あるとか?」

「あるね。」

「面白れぇ!ならやってみろやぁ!」

ガルバは再びプラズマパイルから巨大なプラズマ弾を連発する。

一発でも当たれば致命傷は免れない。

フィリアはガルバになかなか近づけない。

「やるね、だがこれならどうかな?ウンリュウ、出力最大!」

フィリアはプラズマサーベル[ウンリュウ]のプラズマ出力を最大まで上げる。

刀から凄まじいプラズマが放出される。

フィリアは飛んで来たプラズマ弾をウンリュウで斬り払いながらガルバに接近する。

何回も攻撃を受け続けるとウンリュウが焼き切れてしまうので、出来る限り避ける。

ついにフィリアはガルバとの間合いを詰める。

接近戦ならフィリアの独壇場だ。

「もらったよ!」

フィリアはもう一本の刀、ヒートサーベル[シラヌイ]を降り下ろす。

「甘ぇよ!」

ガルバは左腕に近接戦闘鎌[デス・サイス]を転送する。

刀の一撃を左腕の鎌で受け止める。

「やるね…!」

「お前もな…!とっとと死ねオラァ!」

ガルバは鎌で斬りつけると同時に右手のプラズマパイルで近距離からプラズマ弾を放つ。

「くっ…!」

フィリアはなんとか避けたが、プラズマ弾が[白虎・改]の肩アーマーをかすめる。

シールドゲージが10%減ってしまったが、たいした損傷ではない。

「シラヌイ、出力最大!」

フィリアはシラヌイの出力も上げ、パワーを増大させる。

「行くよ!」

フィリアは出力を上げたシラヌイとウンリュウでガルバに斬りかかる。

ガルバもそれを避けるが、斬撃をかすめただけでも胸部アーマーに傷が付いてしまった。

「面白ぇ…。俺のASに傷を付けるとはな…!しょうがねぇ、新兵器を使わせてもらうぜ!」

ガルバの顔は笑っているが、フィリアに殺意を向けている。

「デス・サイス、出力解放!」

ガルバは右手のプラズマパイルを捨て、右腕にもデス・サイスを転送する。

鎌に禍々しい程に輝く紫色のオーラが包み込む。

「何、あれは…?」

フィリアはこんな兵器を見た事もない。

「ニュートロン兵器…?いや、違う…!」

ニュートロン兵器ではないようだが、油断は出来ない。

これこそがユーノがガルバのASに装備させた新兵器なのだ。

「ありがたく使わせてもらうぜぇ!淫Qβさんよぉ!」

ガルバは怪しく輝くオーラをまとった左右の鎌でフィリアに斬りかかる。

「オラオラオラァ!」

左右の腕に装備された鎌が次々とフィリアに襲いかかる。

ガルバの攻撃は荒々しいが、しだいに的確になってきた。

さすがのフィリアも避けるのが難しくなって来る。



しかし、ガルバの次の斬撃は避けきれないと思ったフィリアはウンリュウで受け止めようとする。

「これで終わりにしてやんよぉー!」

ガルバの渾身の斬撃はフィリアのウンリュウを簡単に切断してしまった。

「そんな…!」

やはりあの鎌はニュートロン兵器なのか。

しかし、今そんな事を考えている余裕はない。

ニュートロン兵器だとしたら一撃でシールドを貫通され、やられてしまうだろう。

フィリアは残った一本の刀のみで挑むしかなかった。



ジークは地球軍の残存部隊と共に月に降下しようとしている火星軍を迎撃していた。

プラズマライフルで次々と敵を撃ち落としていく。

これが落ち着いたらフィリアを助けに行くか。

そう考えていた時、ヘルメットにアラートが鳴り響く。

すると二体のASが接近して来る。

ディスプレイには[MFA-02 ヴァレリオン]と[MFA-050 ダンガード]と標示される。

この前戦った親衛隊の一員のようだ。

しかもフィリアのいない時を狙って来るとは…。

残された部隊をやらせるわけにはいかない。

ジークは一人で親衛隊の二人に突っ込んで行く。


新しく親衛隊の一員となったファサリナ大尉とゴードン中尉は一人で挑んで来るASを見つける。

「あいつは確か、この前戦った特務中隊みたいだね。」

「そうみたいですね。確か狙撃タイプでしたね。僕達に一人で向かって来るって…本気ですか?」

ゴードン中尉は二対一で戦うのは気乗りではないようだ。

「けど来るなら徹底的に叩き潰さないとね。」

ファサリナ大尉の顔に笑みが浮かぶ。

「行くよ!」

「はい!」

ファサリナはドリル槍[ギガトンドリル]を、ゴードンは日本刀[ヘルエッジ]を転送する。

「やはり来やがったな…!」

ジークはプラズマライフルを構える。


しかし、遠距離狙撃をさせる暇もなく、ゴードンが高速で接近して来る。

「二対一で戦うのは不本意ですが…、覚悟していただきます!」

ジークに接近したゴードンは素早く刀を抜くと、スナイパーライフルを真っ二つに切り裂く。

「ちっ…!」

得意武器を失ってしまったジークはプラズマピストル二丁を両手に転送する。

もしもの時の為にも接近戦の訓練もしている。

ライフルに比べたら威力も低いが、やるしかない。

しかし、ゴードンの後方からドリル槍を手にしたファサリナも接近して来る。

「へっ、もらったぁ!」

ジークはファサリナの槍の一閃をかわしながらプラズマピストルを撃ちまくる。

「こりゃやべぇなぁ…!」

フィリアが来てくれるまで持ちこたえれるかはわからないが、やるしかない。



フィリアのヘルメットからも突然アラートが鳴り響く。

それは敵の増援を知らせるものだった。

しかも相手はこの前に直接戦った親衛隊員。

「こんな時に…!」

フィリアはガルバの攻撃に対処するのが精一杯で、もう一人に攻撃されたらひとたまりもない。

だが、親衛隊の二人、ゴードンとファサリナはジークに集中攻撃を仕掛ける。

二対一で、しかも接近戦ではジークは圧倒的に不利だ。

「兄さん!」

しかし、ジークに気をとられたその隙が命取りとなる。

「人の心配してる場合かぁ!?」

紫色の禍々しいオーラをまとったガルバの鎌の一撃がフィリアに襲いかかる。

フィリアはそれを残されたシラヌイで受け止めようとするが、鎌は最大出力のシラヌイも切り裂いてしまった。

「しまった…!」

フィリアは主力兵器である二本の刀を失ってしまった。

これでは戦う事は出来ないし、素手でガルバに勝てるとは思えない。

「刀がなくなっちまったなぁ?お前はこれからじっくり切り刻んで殺してやるぜぇ…!」

ガルバは不敵な笑みを浮かべる。

しかし、それはフィリアも同じだった。

「それはどうかな?」

「…何だと?」

ガルバの顔から笑みが消える。


この状況でまだ逆転の切り札でもあるのか。

「まだ勝負は終わってないよ。これから私の本当の力を見せてあげるよ。」

「面白れぇ。ならやってみろ!」

するとフィリアは右腕にエネルギーを溜めはじめる。

「これだけは使いたくなかったんだけどね…。」

フィリアはそうつぶやくとASのリミッターを最大まで解除する。

「リミッター100%解除!」

フィリアは右腕を上に挙げると、ニュートロンエネルギーが右手を包み込む。

そして手刀を繰り出すように右手を振り下ろす。

「ニュートロン兵器か…!」

フィリアの切り札とは、右腕に搭載されたニュートロン発生装置だった。

右手にニュートロンエネルギーで包み込む事で強力な格闘兵器となる。

しかし、ニュートロンエンジンのエネルギーの大半を使ってしまう上に、ニュートロンの毒素によって身体が蝕まれてしまうので容易には使えない最終兵器だ。

ニュートロン耐性がAクラスのフィリアでさえも使用時間が3分に設定されていた。

特Aクラスの人物でない限り毒素に侵される事にかわりはないのだから。

「へぇー、それで俺に挑もうってのか?」

「その通り。行くよ!」

「やってみろやぁ!」

フィリアはエネルギーを込めた手刀でガルバに斬りかかる。

ガルバはその一撃を避けるが、次の一撃が来る。

その一撃は避けきれず、とっさにプラズマパイルで防ぐが、バターのように切り裂かれてしまう。

「ちっ…!」

やはりニュートロン兵器の威力は絶大である。

「これで決めさせてもらうよ![光破一閃]!」

フィリアが手刀を繰り出すと、ニュートロンの衝撃波がガルバに向かって高速で襲いかかる。

ガルバは回避しようとするが、衝撃波が右肩アーマーを吹き飛ばしてしまった。

「てめぇ、また俺のASに傷をつけやがったなぁ!?」

激昂したガルバは接近して鎌で斬りかかって来た。



ジークは増援として現れた二人の親衛隊の攻撃をなんとか避け続けていた。

しかし、このままではプラズマピストルのエネルギーも尽き、攻撃の手段を失ってしまう。

しかし、ゴードンが必殺の一撃を放って来た。


さすがのジークもこの攻撃をかわせるかどうかはわからない。

「リミッター30%解除!ファングスラッシュ!」

ゴードンが刀を振り下ろすと、真空の刃が三つに別れてジークに向かって飛んで行く。

「うわっと!」

飛んで来る真空の刃を次々とかわすが、左手のプラズマピストルを破壊されてしまった。

残るは右手のピストルのみ。徐々に追い詰められている。

すると、後方からいきなり無数の小型のドリルから飛んで来た。

「こっちからもかよ!」

ドリルは一発も当たらなかったが、すぐにドリル槍を持ったファサリナが接近して来る。

「もらったぁぁぁぁ!」

近接武装を持っていないジークは避ける事が出来ない。

「やべぇ…!」

このまま死んでしまうのか…。

そう思った、その時!

別方向から突如、無数のプラズマ弾が飛んで来る。

プラズマ弾はジークに接近しよとしていたファサリナに命中する。

「嘘っ、キャアアアアア!」

ファサリナのASは激しい損傷を受け、シールドが30%まで減少してしまった。

すると、別方向から二体のASが接近して来る。

「あれは…!」

ジークのASのヘルメットのディスプレイには[SSA-03クーガー]、[SSA-01ハーピー]と標示される。

間違いなく味方だ。

第三中隊のカインとアンナが来てくれた。

この二人が来てから形勢が逆転した。

「ファサリナさん!…くそっ!」

損傷したファサリナを助けに行きたいが、地球軍の新たな援軍がゴードンに襲いかかる。

「行くよ…。」

アンナは二体の無人ASを遠隔操作で操り、ゴードンに攻撃を開始する。

無人ASはマシンガンを撃ちながらゴードンに襲いかかるが、ゴードンはそれをなんとか避ける。

しかし、別方向からカインが接近し、ブレードガンからプラズマ弾を撃ちまくる。

「まずい…、このままじゃ不利だ…。」

ゴードンは動けなくなったファサリナを抱えて戦線から離脱した。



最終兵器を発動させたフィリアと最新兵器を持つガルバの戦いは互角だった。

しかし、ニュートロン兵器を持つフィリアはいつまでも長引かせる訳にはいかない。

残り使用時間は2分と標示されているが、毒素が身体を蝕んでいるかもしれない。


いつまでも時間をかけてはいられない。

一気に決着をつけようと、フィリアは右手にエネルギーを溜め、必殺の一撃を繰り出そうとする。

ガルバもそれに応え、鎌を振り上げる。

「その腕、切り落としてやんよぉ!」

ガルバがフィリアの右手に狙いを定めたその時、ゴードンから通信が入り、攻撃の手を止める。


「ガルバさん!」

「てめぇら!俺は今いい所なんだよ!邪魔すんじゃねえぞ!」

「ガルバさん、撤退してください!ファサリナさんも負傷してますし、地球軍の増援も来ます!」

「ふざけんなコラ!俺はこの女を…!」

「これはレオ隊長の命令です!ガルバさんも撤退を!」

もう少しの所で倒せたものを…。

しかし、レオ隊長の命令に背く訳にもいかない。

「女、運が良かったなぁ。俺はこれで帰るぜ。」

「どうしたんだい、怖じ気づいたの?」

「んな事ぁない!次に会った時には必ずブッ殺してやるからな!あばよ!」

ガルバは後からやって来たゴードンとファサリナと共に撤退した。

敵がいないのを確認すると、フィリアは右手のエネルギーを切る。

あのまま戦っていたら毒素に侵されていたかもしれない。

今回はなんとか助かった。

「フィリア、無事か?」

ジークから通信が入った。

どうやら無事みたいで安心した。

「兄さん!良かった…。」

合流したのはジークだけではなかった。

第三中隊のカインとアンナも一緒だった。

彼らが来てくれたお陰で親衛隊は撤退したようだ。

フィリアは三人の元へ向かった。


「兄さん!」

「妹よ!無事で何より!」

ジークとフィリアはお互いの無事を喜んだ。

「なんとか間に合ったみたいだね。」

「良かった…。」

カインとアンナも二人の無事を確認して喜んでいる。

間に合わなかったらジーク達はやられていたかもしれなかったのだから。

「助かったよカイン、アンナちゃん。」

「お前らが来てくれなかったらヤバかったな。サンキュー!」


カインは笑顔を浮かべるが、アンナは相変わらず無表情だ。

「まったく…あの奥の手を使うなんてなぁ。無茶すんなよ、フィリア。」

「あれを使わないと危なかったからね。出来るだけ使わないようにするよ。」

奥の手とは右手のニュートロン兵器の事だろう。

いつもは封印していた兵器を使わなかければならない程、今回の敵は手強かった。

それにジークもフィリアも手持ち武器を失っている。

一度[シラサギ]に戻って補給しなければならない。

「ジーク、フィリアさん、ここは僕達に任せて補給しておいでよ。」

「私達なら、大丈夫…。」

この二人ならこの宙域の敵を任せられるだろう。

「わかった。二人に任せるよ。」

「一旦帰ろうぜ、妹よ!」

「ああ、そうだね。」

フィリアとジークは補給の為にシラサギへ帰艦した。



月面では未だにタカヤ達と機械少年との戦いが続いていた。

タカヤ達の体力の消耗が激しくなっていくのに対し、機械少年は攻撃の手を緩めない。

タカヤの心は既に諦めかけていた。

ニュートロン兵器も効かない絶対防御のバリアを持つ強敵。

このままではいずれ三人全員がやられてしまう。

「…だめだ、あいつに全く歯が立たない。もう僕達、駄目なんだ…。」

「お兄ちゃん、弱気になっちゃ駄目だよ!」

「あきらめちゃ駄目ですわ!」

リリとサクヤはタカヤを元気付けるが、二人の体力もいつまでもつかわからない。

このままみんなやられてしまうのか…。

リリとサクヤも絶望しかけたその時だった。

「みんな、お待たせ!」

メイファ副隊長から通信が入った。

「ついにあれが完成したわよ!」

「あれって…?」

すると、ユミナからも通信が入る。

「みんなー、新兵器完成したよー!」

ユミナが笑顔で応える。

タカヤ達に用意された新兵器がついに完成したのだ。

「今からそっちに転送するわね。これが…あなた達の新たな力よ!」

すると、タカヤ達の後方から転送ゲートが開かれる。

そこから新兵器が姿を現す。


ゲートから現れた三体のメカはライオン、鳥、ドラゴンの姿をしていた。

「ついに[ブレイブウエポン]完成よ!これとドッキングする時が来たわね。あなた達なら出来るはずよ!」

三体の[ブレイブウエポン]は、タカヤ達のASをパワーアップする為に開発された強化兵装だ。

ブレイブウエポンとドッキング(合体)する事により、火力、装甲などあらゆる性能がアップする。

タカヤ達は授業や特訓と同時に、ブレイブウエポンとの合体訓練も行っていた。

シュミレーションは何回もこなしているが、実戦で合体するのは初めてだった。

不安はあるが、やるしかない。

「やっと完成したね!お兄ちゃん、サクヤちゃん、ドッキングするよ!」

「え…、そんないきなり…。」

「大丈夫です。私達なら大丈夫ですわ。」

「わかった。行こう!」

タカヤ達は合体準備に入る。

「ブレイブ・ドッキング!」

三体のメカがそれぞれ分離する。

鳥型の[バードブレイブ]は分離してリリの[勇気号]とドッキングする。

こうしてリリのASは[勇気号・[疾風]となった。

ドラゴン型の[ドラゴブレイブ]はサクヤのASとドッキングし、[慈愛号・雷光]となった。

そしてタカヤのASにライオン型の[ライオブレイブ]がドッキングし、[希望号・流星]となった。

タカヤ達のASは合体した事により、ヒーロー物のロボットのような姿になっていた。

「すごいすごーい!」

「これが私達の新兵器なのですね…。」

「これなら…戦える!」

ドッキングした姿を見たユミナもテンションが上がっていた。

「みんなー、思いっ切りやっちゃてー!」

「任せてー!サクヤちゃん、派手に行くよ!」

「わかりましたわ!全兵装転送!」

サクヤの両手にニュートロンバズーカ、さらに両肩にミサイルポッド、両腕にプラズマ砲が転送される。

「まず私から行きます!全砲門、バーストショットですわ!」

サクヤはありったけの重火器を機械少年に向けて発射する。

合体後の慈愛号はニュートロン兵器が使用可能になり、火力が格段に上がっていた。

この攻撃を受けたら機械少年でも無事では済まないはずだ。

しかし、機械少年のバリアは破れなかった。

だが、バリアの出力は弱まっていた。


まだ攻撃は終わってはいない。

「お兄様、お姉様!」

「お兄ちゃん、行くよ!」

「う、うん!」

すかさずタカヤとリリが機械少年に高速で接近する。

「まずはあたしから!」

機械少年はニュートロンガンを連射するが、リリは一発も当たる事なく接近する。

リリの[勇気号・疾風]は機動性も格段に上がっていた。

「ホークカッター、転送!」

リリはニュートロンナイフ[ホークカッター]を両手に転送する。

機械少年に接近したリリはニュートロンエネルギーを込めた二本のナイフで機械少年を斬りつける。

「蒼鷹双剣撃[ホーク・ブルーフラッシュ]!」

リリの必殺の一撃は機械少年のバリアを斬り裂いた。

「お兄ちゃん、今だよ!」

「よし!キャリバーン転送!」

タカヤはニュートロンソード[キャリバーン]を左手に転送する。

タカヤはエネルギーを最大出力まで高めたキャリバーンで機械少年に斬りつける。

「とどめだ!獅子光刃撃[ライオ・ダイナミック]!」

タカヤが放った必殺の一撃はバリアを貫通し、機械少年のASの装甲を斬り裂いた。

機械少年はニュートロンガンで反撃しようとしたが、タカヤはキャリバーンで銃を持っていた右腕を切断した。

右腕から機械のパーツが見えていた。

やはり敵はロボットだったのか。

右腕を斬られ、バリアも停止した機械少年に戦う力は残されていないだろう。

機械少年はその場に膝をつき、動けなくなっていた。

タカヤ達の勝利だ。

月面基地を見事守りきったのだ。

「お兄ちゃん、やったね!」

「お兄様、凄かったですわ。」

「うん、この新兵器のおかげだよ。」

完成した新兵器、ブレイブウエポンがなければこの強敵に勝てなかっただろう。

ニュートロン兵器も希望号の物より遥かに強力になっていた。


タカヤ達は戦いを終えてようやく一息ついていた。

だが、まだ終わりではなかった。

「お兄様、お姉様、あのロボットのニュートロンエンジンがまだ生きてますわ!」

サクヤのASのレーダーがエンジンの熱反応をキャッチしたのだ。

「ええっ!?」

「そんな…!」

エンジンが生きているということは、再び動き出す可能性がある。


すると、メイファ副隊長からタカヤ達に通信が入る。

「大変よ!そのASにニュートロン爆弾が仕掛けられてるわ!このままだと3分で爆発してまうわよ!」

「えぇーーーーーー!?」

機械少年の体内には強力なニュートロン爆弾が仕掛けられていたのだ。

その威力はコロニーの一基をも消滅させるほどの破壊力らしい。

「そんな、終わりだ…。」

「ど、どうすればいいですの…。」

「何か、何か方法はないの?」

このままでは月面基地をも消滅させかねないし、タカヤ達も3分で逃げられるとは思えない。

三人は完全にパニックになっていた。

しかし、ユミナが通信に割って入る。

「いい方法あるよー!」

「え?」

「それはどうすれば?」

「さすがユミナちゃん!」

この絶望的な状況でまだ打開策があるようだ。

「みんな、[ブレイブ・フォーメーション]を使えばいいよ!」

「あの必殺技を使うのですか?」

「けど、まだ一回も…!」

「もうやるしかないよ、お兄ちゃん!サクヤちゃん!」

まだテストでしかやっていないが、ぶっつけ本番でやるしかないようだ。

「よし、やろう![ブレイブ・フォーメーション]!」

三人は装着していたブレイブウエポンをパージする。

離脱した三機のウエポンは一瞬で合体し、ニュートロン・ランチャーへと姿を変えた。

「やったね!」

「成功ですわ!」

「これが、必殺兵装…!」


タカヤがニュートロン・ランチャーのトリガーを担当し、サクヤが照準担当、リリがニュートロンエネルギーの制御を担当する。

これこそがブレイブウエポンの必殺兵装形態、ニュートロン・ランチャー[超獣閃光砲]である。

銃形態となったブレイブウエポンを見てユミナも興奮していた。

「ブレイブウエポンの合体に要する時間はわずか1. 5秒だよー!ではー、その合体プロセスをもう一度見てみよーう!」

ユミナはいきなりリプレイ映像を流そうとする。

「今はそんなのいいから!」

タカヤはきっぱり拒否する。

「そんなぁー、ショボーン(´・ω・`)」

リプレイを拒否されたユミナは落ち込んでしまった。

確かにそんな事をしている場合ではない。


三人はニュートロン・ランチャーを機械少年に向けて構える。

機械少年の切り傷から爆弾が見えている。

「ユミナちゃん、ニュートロンエネルギーをあいつに放てばいいの?」

「そうだよー!超高出力のエネルギーなら爆弾も一瞬で消えてなくなっちゃうよー!」

最大出力のニュートロンエネルギーをぶつければ、爆弾を爆発させる事なく消滅させる事が出来るようだ。

爆発まで残り2分。

リリはニュートロンエネルギーをランチャーに溜め込む。

「お兄ちゃん、ニュートロンエネルギー充電100%だよ!」

次はサクヤが高性能スコープで機械少年に照準を合わせる。

「ターゲット、ロックオンですわ、お兄様!」

「よし!リミッター100%開放![超獣閃光砲]、発射!」

タカヤがトリガーを引くと、砲身から巨大なニュートロンエネルギーが発射される。

巨大なエネルギーの光は機械少年をまるごと飲み込み、一瞬で爆弾もろとも蒸発させてしまう。

しかもそのエネルギーは月から遠く離れた火星軍の艦隊をも消滅させていた。

まさに圧倒的な破壊力だ。

やはり[希望号]、[勇気号]、[慈愛号]の新型ニュートロンエンジンがあったからこそ、これ程の威力が出せたのだ。

並のエンジンではエネルギー量が足りず、威力も弱くなってしまうだろう。


エネルギーの巨大な光が収まると、機械少年は跡形も無くなっていた。

その威力の前に三人は呆然と立ち尽くしていた。

「す、凄い…。」

「けど、やりましたわね。」

「そうだよ、あたし達勝ったんだよ!」

リリとサクヤがタカヤに抱きついた。

「お兄ちゃん、やったね!」

「お兄様、凄いですわ!」

「う、うん…けど二人がいてくれたお陰だよ。」

すると、クリス隊長から通信が入る。

「こらこら、月の真ん中でイチャつかないの!」

「クリス隊長!」

三人の前に表れたのは、竜型の大型兵器[ヒリュウ]に乗ったクリス隊長だった。

「みんな、戦いは終わったわ。さ、帰るわよ!」

どうやら、火星軍は戦闘を停止し、撤退を始めたようだ。

火星軍の艦隊から信号弾が放たれている。

撤退の合図だ。


艦隊が次々と月から離れていく。

大統領府と月面基地を守りきったのだ。

だが、いくつかの資源を奪われてしまっていたが、深刻なエネルギー危機にはならないらしい。

多少の痛手は被ったが、地球軍の勝利だ。

タカヤ達はクリス隊長のヒリュウに乗り、旗艦[シラサギ]に向かっていた。

「まさか、ブレイブウエポンをぶっつけ本番で使いこなすなんてね。やっぱりあなた達は凄いわ。」

クリス隊長もメイファ副隊長から状況は聞いているようだ。

「いきなりだったけど…なんとか、ね。」

「けど、まだまだですわ。」

リリとサクヤは照れ笑いしている。

「特にタカヤ君、あなたもね。」

「あ、ありがとうございます…。」

タカヤは顔を真っ赤にして照れていた。

ここまで誉められたのはこの隊に入って初めてだった。

「さ、戦いは終わったし、イズモコロニーに帰るわよ!しばらくはゆっくり休みなさい。」

「了解!」

クリス隊長とタカヤ達はシラサギへ帰還した。



新兵器[機械少年]を撃破され、大統領府襲撃に失敗した火星軍は撤退を開始する。

親衛隊のメンバーは誰一人欠ける事なく、無事に[オリンポス]に帰還する。

レオとミアも艦橋に帰って来た。

「みんなー、おかえりー!」

プレシアも艦橋に戻っていた。

「プレシアちゃん、頑張ったわね。いい子にしてた?」

「うん、がんばったよー!」

ミアはプレシアの頭を優しく撫でる。

プレシアも二人が無事に帰って来て喜んでいる。

「艦長、俺達も撤退するぞ。」

「了解です、オリンポス発進!」

親衛隊旗艦[オリンポス]も火星圏へ帰還する。

レオとミアは月面での戦闘映像を見ていた。

映像には機械少年と追加アーマーを装着したタカヤ達が映っていた。

「隊長、これは…。」

「地球軍も新兵器を持っていたか。機械少年を倒すとはな…。やはり、タカヤ達も侮れんな。」

「ですね。けど、機械少年計画もこれで凍結されればいいのですが…。」

「そうだな…。」

戦いには負けてしまったが、機械少年みたいな非人道的な兵器がもう生まれない事を願うレオとミアだった。

地球軍の新兵器によって、ダイモス軍所属の艦隊が甚大な被害を受けたが、いくつかの資源衛星から資源を奪い取っただけでもよしとしなければならない。

火星軍艦隊は火星圏へ長距離航行を開始した。



火星軍の特務試験艦[アンゴルモア]の艦橋では、ユーノも月面での戦闘映像を見ていた。

「あーあ、ボクの作った機械少年がやられちゃった。」

地球軍の新型ニュートロン兵器によって、機械少年が一瞬で消滅してしまったのだ。

しかし、ユーノに落ち込んだ様子はない。

「ま、いいか。データは色々取れたし、これから機械少年をもっと量産化しないとね。」

ユーノはお菓子を食べながら歪んだ笑みを浮かべていた。




火星軍との戦いを終えた特務中隊は無事にイズモコロニーに帰還した。

任務を終えたメンバーはそれぞれ帰宅して行く。

特務科のメンバーは戦いに勝ったご褒美として1週間の休暇が与えられる事になった。

休みの間、実家などでゆっくり静養する者、自主練する者など様々だ。

タカヤ達第七中隊のメンバーもしばらくはゆっくり休む事が出来る。

これから帰ろうとするメンバーにクリス隊長が声を掛ける。

「待って!ニュートロン兵器を使ったリリ、サクヤ、フィリアの三人は保健室に来て。」

「え、どうしてー?」

「まさか…。」

「ニュートロンの毒性…!」

三人ともわずかな時間だが、ニュートロン兵器を使ってしまっていたのだ。

たとえAクラスでも毒に侵されている可能性がある。

「そうよ。身体に異常がないか検査しとかないとね。あなた達はAクラスだからそんなに時間はかからないわよ。さ、 行きましょか!」

「は、はい!兄さん、しばらく待っててくれるかな?」

「ああ、いいぜ。」

ジークは検査が終わるまで学校で待つ事になった。

「お兄ちゃん、ごめん。ちょっとだけ行って来るね!」

「少しだけ待っててくださいね。」

「うん、待ってるよ。」

タカヤも学校で二人の帰りを待つ事にした。

リリ達はクリス隊長に連れられて保健室へ向かった。

ゼルとノエルはそのまま帰宅する事になる。

「ゼル達はこれからどうするの?」

「…俺達は一度実家に戻る。」

「私達、グラナダコロニーの出身なので…。」

ゼルとノエルはイズモコロニーと同盟を結ぶグラナダコロニーの生まれだった。

二人はしばらくは実家で静養するようだ。


「4日ぐらいで帰って来ます…。」

休日の期間中はノエルやゼルとはしばらくは会えないようだ。

「タカヤ、お前はまた強くなったな。だが、まだまだだ。帰って来たらまた鍛えてやる…。」

ゼルはさらに成長したタカヤを認めてくれた。

「うん、ありがとう…。」

「じゃ、またな。」

「タカヤさん…また、学校で…。」

「うん、また…。」

ノエルとゼルは学校を去って行った。

残されたのはタカヤとジークだけだ。

「まだ帰って来ねぇな、あいつら…。」

「うん、そうだね…。」

ニュートロンの毒に侵されていないかのチェックなのだ。しばらくは時間がかかるだろう。

すると、ジークが突然立ち上がる。

「ちょっと俺、ジュース買って来るわ。お前の分も買って来てやるよ。」

「え、いいよ。僕も一緒に…。」

「お前、疲れてんだろ?ちょっとは休んどけよ。すぐに戻って来るからよ!」

ジークはタカヤを残して去って行った。

タカヤはそのまま座り込んでコロニーの空を見上げた。

確かに初めての大規模な戦闘で疲れているのかもしれない。

手の震えもさっきから止まらない。

しばらく座って待っていると、一人の女の子がこっちに向かって走ってくる。

それはノエルだった。

忘れ物でもしたのだろうか。

ノエルはタカヤの目の前まで向かって来た。

「ど、どうしたの、ノエルさん…?」

「あ、あの…タカヤ…さん…。」

ノエルは顔を真っ赤にしながらタカヤの顔を見つめる。

沈黙がしばらく続いた後、ノエルが口を開く。

「あ、あの、その…良かったら、これ…。」

ノエルが差し出したのは映画のチケットだった。

「良かったら…5日後に…い、一緒に…行き、ませんか…?」

ノエルはガチガチに緊張していた。

まさか、ノエルから映画に誘われるとは思わなかった。

まさかのお誘いに戸惑いを隠せないタカヤだったが、せっかく誘ってくれたのに断るなんてはできない。

「ぼ、僕で良かったら、いいよ…。」

タカヤは震えた手でチケットを受け取った。

「あ、ありがとう…ございます…!そ、それじゃ、また…。」

ノエルは慌てて学校を再び去って行った。

まさかリリやサクヤ以外の子から誘われるなんて…。

うれしいけど、タカヤの心臓はドキドキしていた。

「待たせたな、タカヤ!」

すると、ジークが2本の缶ジュースを持って戻って来た。


「ほい、ジュース。」

ジークが缶を手渡す。

「あ、ありがとう。」

二人は缶ジュースを飲み干す。

「おい、帰って来たみたいだぜ。」

フィリア達三人の姿が校舎から見えて来た。

検査は終わったようだ。

「お兄ちゃん、お待たせー!」

「遅くなりました…。」

「兄さん、待たせたね。」

三人共、検査の結果は特に異常はなかったようだ。

さすがにAランクはすぐに毒に侵される事はないが、長時間の使用はしないように言われたらしい。

ジークとフィリアとはここで別れる事になる。

「ジークとフィリアちゃんは休みはどうするの?」

「私達はイズモコロニーに残るよ。自主練もしたいしね。」

「今んとこは実家に帰る予定もないしな。」

二人は実家に帰らずに学校で自主練をするみたいだ。

「呼んでくれたらいつでも訓練に付き合ってあげるよ。」

「それじゃあな!」

ジークとフィリアも学校を後にした。

残されたのはタカヤ達三人だけだ。

「じゃ、あたし達も帰ろっか!…ってお兄ちゃん、疲れてる?」

リリがタカヤの顔を覗きこむ。

「本当ですわ。大丈夫ですか?」

サクヤも心配そうにタカヤを見ている。

「うん…ちょっとまだ疲れてるかも…。」

激しい戦闘を経験したタカヤは
まだ疲れが抜けていないようだった。

「お兄ちゃん、ちょっと休もっか。」

「時間はまだ大丈夫ですから、ね?」

「うん…。」

三人は敷地内にある小さな丘に向かった。

この時間は生徒は誰もいない。

タカヤは前にもここで二人に励まされた事がある。

三人はここで休む事にした。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「やっぱり、ちょっとキツかったですか?」

「うん、疲れたのもあるし、やっぱり…怖かったって言うのもあるかな。」

大規模な戦闘はタカヤにとっては初めての経験だった。

その時の恐怖が蘇るのか、手の震えが止まらなかった。

「あたし達も最初はやっぱり怖かったよ。ね、サクヤちゃん。」

「そうですわ、お兄様。私達もRFがあっても死んでしまうんじゃないかって、不安でした。」

「確かに不安だよ。けど、あたし達が力を合わせたら大丈夫だよ!それに、お兄ちゃんも強くなってるし!」

「強く…なってる?僕が…。」

「そうですわ。お兄様も立派なランダーですわ。私達三人ならこれからも大丈夫です!」

タカヤはまた二人に励まされた。


しかも、リリはタカヤに膝枕までしてくれた。

リリは震えているタカヤの手を優しく握る。

「頑張ったね、お兄ちゃん!」

リリが優しい笑顔を見せる。

「うん…。」

「これからも一緒に、地球圏の平和を守ろうね。あたし達と一緒に!」

「うん、リリちゃんやサクヤちゃんと一緒なら…。」

やっぱりリリの笑顔を見ると元気が出てくる。

一緒に頑張りたいって、そう思えるようになる。

「お姉様!私にも代わってください!」

サクヤはタカヤをリリから引き離すと、タカヤの頭を自分の膝の上に乗せる。

「お兄様、一緒に頑張りましょう!私達なら、大丈夫ですわ。」

「ありがとう、サクヤちゃん。」

「サクヤちゃん、早く代わってよー!」

「まだまだ、あと少しだけですわ!」

こうして、リリとサクヤによるタカヤの膝枕争奪戦が始まった。 

また慌ただしいけど、いつもの楽しい日常が戻って来た。

この日常を守る為にも三人一緒に頑張ろう。

タカヤはそう誓っていた。

しかし、タカヤ達に地球圏の命運を左右する新たな戦いが待っている事を知る由もない…。




火星圏、マーズエンパイアコロニー。

兵器開発研究所の地下には複数の死体が転がっていた。

その死体は火星軍のランダー候補生達だった。

そう、先日まで基地で訓練を受けていた荒くれ者の不良達だった。

彼等はマシンガンで撃ち殺されたようだ。

床や壁に血が飛び散り、薬莢が散乱している。

ここで一体何があったのか。

候補生の一人、ガイが倒れている同胞であるオウルの身体を揺さぶる。

「お、おい!オウル、しっかりしろや!大丈夫か!?」

しかし、オウルは急所を撃たれて虫の息のようだ。

「う、うう…ああ、あ…。」

オウルはそのまま息を引き取った。

「オウル!目ぇ開けろ!オウルーー!」

しかし、オウルは目を開ける事はなかった。

ガイの周りには黒い制服を着た火星軍の兵士が数人と、地球圏から帰って来た白い髪とツインテールが特長の天才少女、ユーノがいた。

彼等は全員マシンガンで武装している。

どうやら兵士達が候補生達を撃ち殺したようだ。

ユーノは隊員で唯一生き残っているガイを見ていた。

「ただの脱け殻にどうして固執するのかなぁ?わけがわからないよ。どうして人間はそんなに、魂の在り処にこだわるんだい?」

ユーノは人間のやっている事が理解できないような目でガイを見る。

まるで人を玩具のように見ているかのようだ。

そんなユーノにガイは怒りを覚える。

「てっ、てめえぇぇぇ!」

ガイはユーノに渾身の力で殴りかかる。

しかし、ユーノはそれをかわし、ガイの足を引っかける。

勢いに任せて殴ろうとしたガイはそのまま転倒する。

「ぐあっ!」

「気安く触らないでくれる?」

兵士二人がすぐにガイを取り押さえる。

ユーノは怯えた表情をしているガイを見つめる。

「まったく、君達が抵抗なんかするからこうなるんだよ。ボクは君達を強くしたいだけなのに。」

隊員達は機械少年になるのを拒否し、抵抗した為に殺されたのだろう。

ユーノは兵士からマシンガンを受け取ると、ガイに向けて構える。

「な、何するんや…。」

「怖くないから大丈夫だよ。これからボクが君達を強い兵士にしてあげるから、安心して死んでね。」

「や、やめろ、やめてくれ、俺…まだ、死にたくない…!」

ユーノは笑顔のままガイに向けてマシンガンを撃つ。

「ギャアアアアアア!」

数発の弾丸を浴びせられたガイはそのまま絶命する。

ユーノの顔には返り血を浴びていた。

しかし、その表情は変わる事はない。

「みんな、この子達をボクの研究室に運んじゃって。」

兵士達がユーノの指示で隊員の死体を次々と運んで行く。

「さて、タイプαのデータも解析したし、量産型の機械少年を作らないとね。」

ユーノは運ばれていく死体を見て狂喜の表情を見せるのだった。



第9戦へ続く。

























































































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