戦神兄妹

ジェダ

第7戦 オペレーション・ムーンブレイク【前編】

先日の地球軍と火星軍の戦闘から一日が過ぎた。

タカヤは自分の部屋でぐっすり寝ていた。

だが、いつもの日常とは違った点がある。

それは妹と名乗り家にやって来た少女、リリとサクヤがほぼ毎日一緒に寝ている事だ。

タカヤはこの光景にすっかり慣れたし、戦闘の日常にも慣れてきた。

そして目覚まし時計のアラームで彼は目を覚ます。

「おはよ、お兄ちゃん!」

「おはようございます、お兄様!」

二人はすでに起きていたようだ。

「お、おはよう…。」

「良かった、お兄ちゃんが起きてくれて。」

「昨日は大変でしたから心配しましたわ。良かったです…。」

そういえば昨日は戦闘の後すぐ倒れてしまってみんなに心配かけてしまったっけ…。

「お兄ちゃん、どうする?今日は休む?」

「そうですわ。無理はいけませんわ。」

「ううん、無理しなかったら大丈夫だよ、ありがとう。」

「じゃ、早く着替えて朝ごはん食べに行こ!」

「うん、けど二人はここで着替えるの…?」

「うん!」

「そうですわ!」

それを聞いた途端、タカヤはやっぱり顔を真っ赤にする。

「そ、それは駄目だよ!自分の部屋で着てよ!」

「もう時間ないよー。お兄ちゃん、早く早く!」

結局三人一緒にタカヤの部屋で着替える事になった。

タカヤは着替えているリリ達を直視する事はやっぱり出来なかった。

三人は手早く朝ごはんを食べるといつものように学校へ向かった。

学校に向かう途中、リリとサクヤがタカヤの手を繋いできた。

「お兄ちゃん、今日は無理しちゃ駄目だよ。」

「そうですわ。クリス隊長も同じ事を言うと思いますわ。」

「わ、わかってるよ…。」

この光景もタカヤは緊張はするものの、すっかり慣れてしまったようである。

いつもの日常ならありえない事だっただろう。

本来のタカヤは女の子ともまともに話せないような内気な少年だったのだから。

そして学校に到着し、いつもの教室に入ると、第七中隊のメンバーがタカヤの元に集まって来た。



ノエルとゼル、フィリアとジークもみんな先日倒れてしまったタカヤの事を心配してくれていた。

「タカヤさん…大丈夫…なんですか…?」

「大丈夫ならそれでいい…。」

「まったく、心配したんだぞ…。今日は無茶しちゃ駄目だよ。」

「ま、今日はゆっくりしとけよ!」

「ありがとう…。今日は無理しないよ。」

午前の授業は身体に問題はなかった。しかし、午後の訓練はタカヤだけ別室で授業を受ける事になった。

そして放課後。今日は出撃要請もなく、普段通りに授業は終了した。

タカヤは訓練を終えたリリ、サクヤと合流し、一緒に帰る事にした。

「お兄ちゃん、お待たせ!」

「早く帰りましょう!」

「う、うん、そうだね。」

そんな三人一緒に帰る姿を隠れて見つめる少女がいた。

それはノエルだった。

ノエルの手には映画のチケットが二枚あった。

「…やっぱり…恥ずかしい…。明日こそ渡さなきゃ…。」

タカヤにチケットを渡そうとするも上手くいかないようだ。

すると、ノエルの背後からゼルが現れる。

「…何をしている?」

「キャッ!に、兄さん?」

「…飯の用意もある。早く帰るぞ。」

「う、うん…。」

ゼルとノエルも学校を後にした。




火星圏、マーズ・エンパイア軍基地。


基地の休憩室では、親衛隊のミア、プレシアに加え、マーズ軍科学者のユーノ・インキュベ(以下略)が昼食をとっていた。

「プレシアちゃん、一緒にマーズシードをパクパクしようねー。」

「うん!おいしーね、これ!」

「食べ終わったらいくらでもあげるからねー。」

「うん!」

ユーノがプレシアにあげた[マーズシード]は、火星圏で発売されたキャンディである。

形が若干種に見えるのが名の由来のようだ。

「ユーノ、プレシア、お菓子はご飯が終わってからにしなさい…!」

「はーい…。」

「後でまたあげるね。」

やっぱりユーノはプレシアのお守り役には適任のようだ。

会ったばっかりでもすぐ仲良くなっている。



これから戦争が激しくなるこの時にお守り役がいるのはやっぱり助かる。

「そういえば今日はレオ少佐はどこ行ったんだろう?」

「隊長は妹さんのお見舞いに行ったみたい。もうすぐ戻って来るわよ。」

「そっかー。お昼ご飯終わったら少佐と一緒に来て欲しい所があるんだ。」

この後、ミアは衝撃の事実を知る事になるとは知るよしもない…。




マーズ軍基地近くの病院。

レオが病室のドアを開けると、そこには一人の少女がいた。

「お兄ちゃん!来てくれたんだね!」

「ああ。元気だったか、ユリ。」

「うん!」

ベットに座っている少女はユリ・ブレイザー。

レオの妹である。

「そうか、それは良かった。身体の調子は大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ。けどまだ検査が必要だって…。」

ユリは二年以上も入退院を繰り返す生活を送っている。

ユリは兄であるレオと共に火星探査隊のメンバーとして火星に降り、エネルギー資源の調査等を行っていた。

しかし二年前、謎の爆発事故に彼らは巻き込まれてしまった。

二人は軽傷で済んだが、ユリは謎のウィルスによる病によって倒れてしまい、軍への復帰は難しくなり、今も闘病生活が続いている。

「元気だせユリ。俺がついている。これ、お前の好きなドーナツだ。好きなだけ食え。」

レオは病院に行く途中で買ったドーナツの詰め合わせをユリに渡す。

するとユリの顔に笑顔が戻り、ドーナツを美味しそうに頬張る。

「ありがとうお兄ちゃん!これ、美味しい!」

「そうか、良かった…。」

レオはユリの笑顔を見て胸を撫で下ろす。

ユリはそんなレオの顔を見上げる。

「お兄ちゃん、戦争ってまだ続いてるんだよね…。」

「ああ…。」

「早く終わって欲しいね。みんな仲良くするのが一番なのに…。」

ユリは優しい子だ。地球圏とエネルギーを奪い合う戦争が起きるなんて創造もしなかっただろう。もちろんレオもだが。

「そうだな…。だが俺達は戦わねばならない。軍人として火星の人々やお前を守る為に…。」

「…お兄ちゃん、もし戦争が終わったら一緒に地球に行こうね。」

それは戦争が起きる前に二人で誓った約束だ。

ユリは学校の授業で美しい地球に興味を持ち、いつか地球に行くという夢を持っていた。


忘れる筈がない…。その為にもこの戦いを終わらせなくてはならない。

「ああ…わかってる。」

すると、レオの腕時についている緊急通信が鳴り響く。

「すまないユリ、俺はもう行かなくてはならない。」

「もう行っちゃうの…?」

「心配するな、また来る。」

「うん、待ってるよお兄ちゃん!」

ユリの笑顔を見届けた後、レオは静かに病室を出た。



そしてレオが基地に戻ると、そこにはミアとユーノがいた。

「隊長、おかえりなさい!」

「やあ、待ってたよ少佐。」

「一体何の用だ…?」

「これから二人に見てもらいたい物があるんだ。ついて来て!」

ユーノは二人を研究所まで案内する。



マーズ軍兵器開発研究所に到着した三人は関係者しか入れないエレベーターに乗ると、そのまま地下三階まで到達する。

そこには軍の一部の人間しか知られていないシークレットラボがあった。

「なんだここは…!」

「研究所の地下にこんな所が…?」

「一部の人にしか知られてないからね。二人に見て欲しい物はこれだよ。」

ユーノが案内した先には、ASを装着した何者かが巨大な水槽の中にいる姿があった。

しかもその人間は死んでいるようにも見える。

「…これは一体何だ?」

「これはボクの作った新兵器、機械少年だよ!」

「機械少年って…?」

「まさか…!」

レオはこの前にユーノが新入隊員にそんな事を言っていたのを覚えていた。

「そ、これがその機械少年だよ。これは試作機だよ。」

「こんな物を今まで作っていたのか…。」

「あれ、聞いてなかった?強化兵士計画の事。」

レオが聞いていたのは、隊員の一部をサイボーグ化し、戦闘能力を強化する計画だった。

「…計画とはこの事だったのか。」

「そうだよ。計画はちょっと変更になったけどね。素体は君たちの知ってるこの子だよ!」

ユーノの指示でヘルメットのバイザーが開くと、見覚えのある顔が見えた。

そう、先日基地を脱走した新入隊員のイービルだった。

顔に生気はなく、まるで屍のようになっている。

大統領命令で連れて行かれたと聞いていたが、まさかこんな姿になっていたとは。


イービルの変わり果てた姿にミアは目を背ける。

「非道い…。」

「ユーノ博士、こんな計画は聞いていないのだが。」

「ごめんね、実験が失敗して死体を改造して動かすプランにしたんだ。凄いでしょ?これなら死体をリサイクル出来て一石二鳥だね!」

ユーノは新しい玩具を自慢するかのようにレオ達に説明する。

レオもミアも改造されたイービルの姿を見て心の中では怒りを抑えていた。

二人は[淫Qβ]の意味はともかく、何故ユーノが[白い悪魔]と呼ばれるのかをようやく理解した。

子供のように無邪気だが、非人道的な実験も何のためらいもなく行える冷酷な少女だということだ。

まさに美少女の皮を被った狂科学者である。

だが、レオはすぐに頭を切り替える。

今は私情を挟んではいけない。このような兵士が使い物になるかどうかだ。

「で、この機械少年はすぐに使えるのか?」

「いつでも動けるよ!戦闘はこれからの作戦で実験するんだけどね。あ、機械少年ってのはボクが付けた愛称で、正式名は[パペットソルジャー]だけどね。」

パペットソルジャー…死体が人形のように命令通りに動いて戦う兵士ということだ。

「次の作戦に…あれを出すの?」

「…本気か?」

「本気だよ。だってグライエン大佐直々の命令だからね!」

つまり上層部もこの非人道的な実験を黙認している事になる。

こんな兵士で本当に地球軍に勝てるのか不安がよぎる。

ミアは不安そうな顔でレオを見る。

「隊長…。」

「…こんな物使う気にもなれん。だが命令には従わないとな…。」

死体を無理矢理戦わせるなど戦争に勝つ為とはいえやり過ぎだと思う。

出来れば計画は凍結になって欲しいと二人は願わずにはいられなかった。



そして次の朝。

タカヤはいつものようにリリとサクヤに起こされ、いつものように学校へ向かった。

そして午前の授業が終わり、午後の訓練が始まると、クリス隊長がタカヤに声を掛ける。

「タカヤ君、今日は君には特別授業をやってもらうわよ。」

「特別…授業ですか?」

一体何をするんだろう。

「みんな、こっちに来て!」

すると、ゼルやノエル達第七中隊のメンバーが集まって来た。


第七中隊のメンバーを集めて何をしようというのか。

「よし、みんな集まったわね。」

「隊長、一体何をするんですか?」

「これから君にはゼル君と一対一で戦ってもらうわよ。みんなにはそれを見てもらうから。」

「お兄ちゃん、最後のテストだよ!」

そうか、いよいよ今までの訓練の成果が試される時が来たんだ。

「タカヤ君、今までの戦いで身に付けた力、見せてもらうよ!」

「今まで通りにやれば大丈夫だって!」

今まで特訓に協力してくれたフィリアとジークも応援してくれている。

そしてクリス隊長がルールの説明をする。

「今回はニュートロン兵器の使用は禁止!通常兵器のみ使っていいわよ。」

強力なニュートロン兵器を使えないのは痛い。けど今の自分ならやれる筈だ。

「ゼル君のASのシールドゲージを70%まで減らせたらタカヤ君の勝ちよ!…けど、負けたらタカヤ君は戦力外として次の作戦には連れて行かないから、そのつもりでね。」

つまり、負けたらリリやサクヤ達と一緒に戦えなくなるって事か…。

このテスト、絶対に負ける訳にはいかない。

「わかりました、やります!」

「いい顔になったわね、タカヤ君。さ、二人ともASを装着しなさい!」

そしてついにタカヤの最後の特訓が開始される。

タカヤは専用AS[希望号]を装着し、ゼルも専用AS[アイアングリズリー]を装着する。

「手加減なしで来い…!特訓の成果、見せてもらうぞ…!」

「うん、行くよ!」

タカヤはニュートロンブレード[グラディウス]を手元に転送する。今回は実体剣モードで使用しなくてはならない。

ゼルも大剣[ブリューナク]を手元に転送し、構える。

「お兄ちゃん、ファイトー!」

「お兄様なら出来ます!」

「タカヤさん…頑張ってください…。」

リリとサクヤ、ノエルも応援してくれている。

無様な姿は見せられない。

「それじゃ、始め!」

クリス隊長の合図と共に戦闘が開始される。

まず最初に仕掛けたのはタカヤだった。

「行くよ!」

タカヤはブースターを全快に吹かせてゼルに向かって前進する。

そして[グラディウス]で一気に斬りかかる。

機動性ならこちらが上だ。先手必勝で一気にダメージを与える!

しかし、ゼルは最小限の動きでタカヤの一撃を避けた。

さすがはゼルだ。そう簡単に当てさせてはくれない。


改めてゼルは凄いランダーだと思い知らされた。

「やるな…。次は俺からだ…!」

ゼルは大剣をタカヤに向けて勢いよく振り下ろす。

「うわっ!」

なんとか避けたが振り下ろした
衝撃で吹っ飛ばされてしまった。

しかし、ゼルの攻撃は止む事はなく、起き上がった所に大剣でなぎ払う。

これも避ける事が出来たが、このままではやられる。

タカヤはグラディウスで斬りつけようとするが、ゼルの渾身の一撃で剣ごとはじかれてしまう。

「終わりだな…!」

ゼルがタカヤに斬りかかろうとした時、タカヤははじかれたグラディウスの元に向かって走り出す。

「させるか…!」

タカヤがグラディウスを手にして反撃に出ようとした瞬間、すぐそこにはゼルが立っていた。

ゼルが大剣で渾身の一撃を繰り出そうとしたその時!

「…今だ、ニュートラル・ランチャー!」

タカヤの右手に電磁ライフルが転送され、近距離のゼルに向けて3発撃つ。

「くっ…!」

さすがに近距離ではゼルは避けられず3発食らってしまった。

ASの性能か、たいした損傷はなかったが、シールドゲージが70%減少していた。

タカヤの勝ちだ。

「はい、そこまで!タカヤ君の勝ちよ!」

テストとはいえ、ゼルに勝てた。

それだけでもタカヤは嬉しかったし、自信に繋がった。

「やるな…。まさか俺を誘い出すとはな…。」

「ちょっと賭けだったけどね…。」

「お前はもう充分強くなった…。これからも頑張れよ。」

「うん、今まで本当にありがとう、ゼル!」

二人が握手をかわすと、リリ達が駆け寄って来た。

「お兄ちゃん、やったね!」

「お兄様、おめでとうございます!」

リリとサクヤがタカヤに抱きつく。

「ふ、二人とも、恥ずかしいよ…。」

するとフィリアが日本刀を抜き、三人に付きつける。

「こら!人前でイチャイチャするなって言ってるでしょ!」

「まぁまぁ妹よ、そうカリカリしなさんなって。」

フィリアもジークもタカヤが合格した事を素直に喜んでいた。

「まさかここまで強くなるなんてね…。訓練付き合った甲斐があったよ。これからもよろしく、タカヤ君!」

「ま、一緒に頑張ろうぜ、タカヤ!」

「うん、二人も本当にありがとう!」

ゼルだけではない。フィリアやジークの協力がなければここまで強くはなれなかっただろう。


クリス隊長もタカヤの成長ぶりを高く評価してくれたようだ。

「よくやったわねタカヤ君!ここまで成長してくれて嬉しいわよ!」

「あ、ありがとうございます!」

「これで君も一人前のランダーよ。これからの戦いはきつくなるけど頑張ってね!」

「はい!」

そしてクリス隊長は第七中隊のメンバーを集める。

「みんな聞いて!これから放課後に基地でこれからの作戦の説明があるから忘れないでね。」

作戦会議という事はこちらから火星に攻め込むという事か。

今まで守る側だった地球軍が攻める側になるのだ。

「はい!」

「それじゃみんな訓練に戻ってね!」

全員が返事をした後、いつものように訓練を再開した。



そして放課後。

午後の訓練を終えて、タカヤ達第七中隊のメンバーはイズモ軍基地へ向かった。

基地の会議室には戦闘に参加する他の特務中隊のメンバーも集まっていた。

全隊員が揃うと、第七中隊のクリス隊長と第二中隊のウォレス隊長が作戦の説明をする。


「まずイズモ軍主力艦隊が火星圏フォボスコロニー周辺の資源衛星に先制攻撃を仕掛けます!」

「そして主力艦隊が守備隊と交戦している間にエネルギー奪取隊が資源を一気に奪う!」

「当然、敵の増援もあるでしょうからその時は私達特務中隊の出番ね!」

つまり、増援部隊が奪取隊を襲って来たら特務中隊でそれを守る、という事だ。

ついにこちらから攻める側になる事で隊員達が緊張している。

「ま…説明はこんな所ね。」

「作戦開始は1週間後だ!この作戦は地球圏の未来が左右される戦いだという事を忘れるなよ!以上、解散!」

こうして作戦の説明が終わり、隊員達はそれぞれ帰宅して行った。

タカヤとリリとサクヤも今日はまっすぐ帰宅する事にした。

「お兄ちゃん、今日はゆっくり休もうね!」

「そうですわお兄様。これから大きな戦いが待ってますから。」

「うん、そうだね…。」

タカヤは不安だった。

一人前になったとはいえ、これからの戦いに生き残る事が出来るのか、と。

それだけじゃない。

タカヤの優しい性格から、他のコロニーから資源を奪いに行く事にも抵抗があった。

すると、リリがタカヤの顔を覗き込む。



タカヤは元気ないのがすぐ顔に出てしまう。

「お兄ちゃん、元気ないよ?」

「何かあったのですか?」

「うん、これから大きな戦いがあるのにちょっと自信がないと言うか…。」

タカヤが悩みを打ち明けると、リリとサクヤはタカヤの腕に組み付いて来た。

「大丈夫だよお兄ちゃん!もう充分強くなってるよ!」

「そうですわ。私達もついてますし大丈夫です!」

二人は笑顔を見せる。

やっぱり、この二人の笑顔を見るとこっちも元気になってくる。

「うん、ありがとう。やれるよね、僕達ならやれるよね!」

「そうだよ!ほら、早く帰ってゆっくり休も!」

「お母様もお父様も待ってますわ。」

「う、うん。ひ、引っ張らなくても…。」

リリやサクヤ達ならどんな時でも大丈夫だろう。

今までもそうだったように。

地球圏のコロニーを守る為に、今は戦うしかないのだから。




火星圏、マーズ軍本部の会議室では親衛隊の全メンバーが集結していた。

レオの隣にはあのユーノもいた。

隊員に何か伝えたい事があるらしい。

「みんな集まったようだな。これからの作戦の説明をするぞ。」

隊長であるレオと補佐官であるミアが今回の作戦を説明を開始する。

「先日火星軍総司令部より命令が下りました。これから私達は地球圏に対し総攻撃を仕掛けます。」

それを聞いた隊員達も緊張の色を隠せない。

ついに地球軍に総攻撃するのだから。

マリー、ミリー、エリーの三人は突然の話に呆気に取られていた。

「え、総攻撃…?」

「本当に…。」

「一気に仕掛けるのか…!」

反対にガルバは闘志を燃やしていた。

「いいじゃねぇか!ちまちま奪うより一気に資源奪う方が俺は好きだぜ!」

ミアが説明を続ける。

「みんな静かにしなさい。まずはマーズ軍、ダイモス軍、フォボス軍の主力艦隊が地球圏の大統領府のある月面に侵攻します。」

「そして俺達親衛隊は資源衛星を制圧しつつ、主力艦隊と共に地球軍および特務中隊を足止めする。」

「そしてお互いの主力艦隊が交戦している間に、ユーノ博士の開発した新兵器、[機械少年]を大統領府に向けて降下させ、一気に壊滅させる…、そういう作戦です。」

つまり、地球圏のトップを一気に叩き潰して戦いを終わらせ、資源を根こそぎ奪うという作戦なのだ。



だが、隊員達は機械少年については初耳だった。

関係者以外はトップシークレットだったのだから。

すると、ガルバが手を上げる。

「隊長、機械少年ってのはどんな奴なんだよ?」

「…それは作戦までのお楽しみって事だ。それよりユーノ、伝えたい事ってのはなんだ?」

今度はユーノが説明を始めた。

「今度の作戦は機械少年以外にもボクの作った新兵器を使ってもらうよ。それも当日までのお楽しみだけどね。あ、ガルバ少尉はいるかな?」

名前を呼ばれてガルバはユーノを見る。

「何だよ?」

「君にも新兵器を使って欲しいんだ。アグレッシブな君にはピッタリだと思うよ!」

「面白そうだな。いいぜ、使ってやるよ!」

「ありがとう!後でマニュアル渡すからよく見ててね。」

「ああ!」

こうして、ユーノの説明は終わった。

「作戦名はオペレーション・ムーンブレイクだ。作戦開始は4日後だ。全員準備を怠るなよ。では、解散だ。」

地球圏統一連合の本拠地である月面を全力で潰すという今回の作戦に相応しい名前だ。

作戦の説明を終えた全隊員はそれぞれ解散して行った。

説明を終えたレオとミアは休憩室に行き、コーヒーを手にしながらソファーに腰をおろした。

「隊長、やっぱり改造されたイービル君、使うつもりなんですね…。」

「ああ…。あんな物を使って本当に勝てると思っているのか…?」

死体をサイボーグ化して戦わせるだけでも正気の沙汰ではないのに、さらに月面の大統領府にそれ一人だけをぶつけるなど、ユーノや上層部の考えている事は理解出来ない。

特にユーノは見た目は無邪気な僕っ娘だが、中身は相当ドス黒いようだ。

「だがやるしかない…。命令だからな。機械少年とやらがどこまでやれるかだな…。」

「そうですね。他の隊員達には機械少年にはならないで欲しいですね…。」

二人はコーヒーを飲み干すと、休憩室を後にする。

上層部の思惑がどうであろうと、火星圏の日常や人々を守る為に戦う。

今はただそれだけである。




地球軍による火星圏侵攻が決定して4日後。

地球圏、イズモコロニーの朝の時間はいつも通り平穏だった。

タカヤは自宅でいつものように寝ていた。

しかしその平穏は突如破られる事になる。


部屋の机に置いてあるタカヤのスマートフォンが激しく鳴り響く。

その音でタカヤは少し目を開ける。

すると、タカヤの体が激しく揺さぶられる。

「お兄ちゃん、起きて!」

「お兄様、起きてください!」

リリとサクヤがタカヤの体を揺さぶっている。

タカヤはそれで完全に目が覚める。

二人から驚愕の事実を知らされる事になる。

「んー…どうしたの二人とも…?」

「火星軍がこっちに攻めて来たんだよ!」

「軍から緊急出撃命令が出てますわ!」

「なんだって!?」

タカヤはすぐに体を起き上がらせる。

机に置いてあるスマートフォンがずっと鳴り響いている。

これはイズモ軍の緊急出撃コールだった。

今までいきなり鳴る事はなかったのに今になって…。

いや、今は考えている時ではない。

リリとサクヤの話によると、火星軍はいきなり地球圏に侵攻し、すでにいくつかの資源衛星を制圧し、月に向かっているらしい。

急がないと大統領府のある月にまで侵入を許してしまう。

「お兄ちゃん、早く着替えて!」

「お手伝いしますわ!」

タカヤは急いで制服に着替え、一階に降りる。

一階では母、サオリが朝食の準備をして待っていた。

父、タクマは既に仕事に行っているようだ。

「みんなどうしたの?そんなに急いで。」

「学校から急に呼び出されて…!もう行くよ。」

「朝ご飯は?」

「そんな時間ないから、行って来る!」

「わかったわ。リリ、サクヤ、タカヤが無茶しないように見てあげてね。」

「うん、行って来ます!」

「行って来ます、お母様。」

慌てて家を出る三人をサオリは笑顔で見送った。

「必ずここに帰って来るのよ、三人とも…。」

まるで三人が大きな戦いに赴くのをわかっていたかのようだった。


タカヤ達が学校に着くと、校庭には他の特務中隊メンバーも既に集まっていた。

他の生徒はいないようだ。

第七中隊のノエルやゼル達も既に来ていた。

「…ようやく来たか。」

「タカヤさん…リリさん達も…、良かった。」

もちろんフィリアとジークも一緒だ。

「遅いぞ、君達!」

「これでみんな揃ったな!」

「ご、ごめん遅れて…。」

「なんでこんな時間に…。」

「戦況はどうなっているのですか?」

「これからクリス隊長から説明があるみたいだよ。あ、来たね。」

全員集合した特務中隊の前に、クリス隊長と第二中隊のウォレス隊長が姿を現す。

「みんな揃ったみたいね。緊急通信で聞いた通り、火星軍の艦隊が侵攻して来たわ。しかもマーズ軍、ダイモス軍、フォボス軍の三国で構成された大艦隊よ。」

「火星軍は守備隊を破って資源を奪い取り、大統領府のある月面に侵攻している。俺達特務中隊は既に敵と交戦している月主力艦隊を援護する!」

火星軍は月の主力艦隊と既にぶつかっているようだ。

そう簡単に破られる事はないだろうが、絶対に月へ行かせる訳にはいかない。

「これから月に向かうのは第二、第三、第七、第八中隊のメンバーよ。残りの部隊はイズモコロニー宙域の防衛を任せてもらうわね。」

「これからすぐに出撃するぞ!ぐずぐずするな、いいな!」

「了解!」

説明を終えた特務中隊はすぐにイズモ軍基地へと向かった。



基地内は慌ただしく全員が出撃準備をしていた。

タカヤ達も第七中隊旗艦[シラサギ]に乗り込む。

第二、第三中隊の旗艦も発進した後、シラサギも宇宙に出る。

艦橋にいるクリス隊長が指示を出す。

「第七中隊、シラサギ、発進よ!全速前進!」

特務中隊の艦隊は大きな戦いが待つ月へと向かって行った。




火星軍親衛隊旗艦[オリンポス]の艦橋では、レオとミアがその戦況を見守っていた。

まずは、地球圏のコロニー国家が所有している資源衛星を制圧し、守備艦隊を壊滅。

そして攻撃目標である月が迫っていた。

「ここまでは作戦通りですね。」

「ああ、後は月を落とすだけだ…。」

そしてしばらくすると、ついに地球軍の主力艦隊との交戦が始まった。

「レオ少佐、我が軍の艦隊と地球軍主力艦隊が戦闘を開始しました。」

ネーナ艦長がレオに状況を伝える。


ついに作戦決行の時が来た。 

レオとミアが席を立つ。

「よし、俺達親衛隊も出るぞ。」

「ネーナ艦長、プレシアをよろしくお願いしますね。」

「わかりました!お任せください!」

プレシアは艦に残り、新兵器を使ってもらう予定だ。

「プレシアちゃん、行って来るわね。ネーナ艦長のいう事をよく聞くのよ。」

「うん!おにーちゃん、おねーちゃん、きをつけてね!」

「ああ。行くぞ、ミア。」

「はい!」

レオとミアは艦橋を出て格納庫へ向かった。

「プレシアちゃん、さっそくバトルルームへ行ってらっしゃい。」

「うん、いってくるねー!」

女性兵士に連れられてプレシアも艦橋を後にした。



格納庫にはプレシアを除く親衛隊の全メンバーが集結していた。

全員ASを装着している。

「全員揃ったようだな。わかっていると思うが、月主力艦隊と特務中隊をこちらに引き付け、[機械少年]が月に降下するまでの時間を稼ぐ。いいな。」

「了解!」

いよいよ作戦開始時刻だ。

「よし、オペレーション・ムーンブレイク発動!マーズ軍親衛隊、出撃する!」

親衛隊員はカタパルトから宇宙へと飛び立つ。

レオとミアも出撃しようとした時、ミアがレオの手を掴む。

「…どうした?」

ミアは顔をほのかに赤くしている。

「隊長…。この戦い…絶対、生きて帰りましょう…。この戦いが終わったら…一緒に、食事に行きませんか…?」

「ああ、生きて帰れたらな…。」

この戦い、必ず生きて帰れる保証はない。

だから戦闘中でも今の内に言っておきたかった。

後悔だけは、したくない。

「ありがとう…ございます!」

「…行くぞ。」

「はい!」

二人はそれぞれカタパルトに配置する。

「レオ・ブレイザー、[コバルトファルケン]、出る!」

「ミア・フィーリス、[フェアリオン]、行きます!」

二人はカタパルトから戦場に向かって射出された。



親衛隊で一人艦に残ったプレシアは球状のバトルルームの中にいた。オリンポスのバトルモード等の制御はここで行われる。

バトルモードの制御がプレシアの主な役割だ。

モニターにネーナ艦長の顔が写し出される。

「プレシアちゃん、私の言う通りに動かすのよ、わかった?」

「はーい!」

プレシアは元気よく返事する。

「プレシアちゃん、いいわよ!」

「うん、行くよー!」

プレシアの手により、新兵器が起動を始めた。




月に全速力で向かうイズモ軍第七特務中隊旗艦[シラサギ]。艦内のブリーフィングルームではクリス隊長が全隊員を集めていた。

「みんな、もうすぐ月に着くわよ。後は主力艦隊の援護をお願いね。後、あの[蒼き鷹]レオ・ブレイザーが来たらすぐに私に知らせてね。今のあなた達じゃ絶対勝てないわ。私が相手をするからお願いね。」

間違いなく親衛隊も作戦に参加しているだろう。

[蒼き鷹]が現れたらクリス隊長ぐらいの実力者しか相手に出来ないだろう。

「最後に一つ。みんな絶対に生きて帰って来る事!今回の戦いはRFがあっても必ず生きて帰れる保証はないわ。みんな本当にいい子達なんだから、イズモコロニーにみんなで帰るわよ!」

「はい!」

本格的な戦いとなる今回は敵からのダメージが蓄積し、RFがあっても死ぬ可能性がある。

地球圏の生活や平和を守る為、絶対に勝って帰らなくてはならない。

全隊員が力強く返事をする。

「じゃ、みんな戦闘準備をしなさい!解散!」

タカヤ達はすぐに格納庫へ向かう。



クリス隊長は艦内の研究室にいる少女科学者ユミナに通信を入れる。

「もしもし、どーしたの隊長?」

「ユミナちゃん、例の新兵器の具合はどう?」

「うーん、まだ一機のエンジンの出力が安定しないよー。次の戦いでテストする予定だったのにー。」

「いきなりでごめんね。けど何とか使える程度でもいいから間に合わせて。お願いね。」

「うん、わかったー!」

ユミナは通信を切り、作業に戻る。

「みんな、頑張るのよ…。」

クリス隊長は格納庫に集合したタカヤ達を見届けた。



それからしばらくして、特務中隊の各戦艦は主戦場である月周辺宙域に到着した。

既に月周辺では地球軍主力艦隊と火星軍艦隊が激しく争っていた。



ついに出撃の時が来た。

出撃前に第七中隊のまとめ役でもあるフィリアが全員を集める。

「みんな、この時がついに来たよ。絶対みんな無事に帰ろう、必ず!」

「うん!」

「ああ!」

全員が緊張した顔つきで返事をする。

隊員が順番にカタパルトに入り、戦場へ飛び立つ。

「第七中隊、出撃します!」

まずはフィリアとジークが出る。

「フィリア、[白虎・改]出ます!」

「ジーク、[シュライク]出るぜ!」

そして次はノエルとゼルの出撃の番だ。

「ノエル、[ティンクルガード]行きます…!」

「ゼル、[アイアングリズリー]出る!」

最後はタカヤ、リリ、サクヤが出る。

「リリ、[勇気号]行きまーす!」

「サクヤ、[慈愛号]発進します!」

「タカヤ、「希望号]行きます…!」

第七中隊全員が月の戦場へと向かって行った。



ノエルとゼルが戦闘宙域に到達すると、地球軍と火星軍の艦隊が凄まじい戦いを繰り広げていた。

今までの小競り合いとは比べ物にならない。

それを前にしてゼルはまだ冷静だが、ノエルは戦場の雰囲気に圧倒されてしまっている。

ノエルは思わず不安を口にしてしまう。

「兄さん…、私達なんかで大丈夫…なんでしょうか…?」

「大丈夫だ。俺達はこの時の為に訓練して来たんだ…。いつも通りに戦えばやれる。行くぞ…!」

「は、はい…!」

いつも通りにやれば大丈夫。

ゼルの言った言葉をノエルは何度も繰り返す。

二人の成績は特務科でもトップクラス。絶対にやれる。

そして、苦戦している地球軍部隊を発見。援護に入る。

「ノエル、いつも通りに頼むぞ…!」

「はい…!」

ノエルは地球軍と火星軍の兵士の戦いに割って入る。

「ティンクルシールド、プラズマフィールド展開!」

大型の盾からプラズマフィールドを展開させ、敵兵からのマシンガン攻撃を一気に防ぐ。

そして、大剣[ブリューナク]を手にしたゼルが敵部隊に突っ込む。

「特務中隊か!助かったよ!」

心強い援軍が来て、地球軍兵士も安心したようだ。

「私達も援護します…!」

「すまない!」

ノエルは敵の攻撃を一手に引き付ける。


ノエルが敵の攻撃を引き付けている間にゼルが敵兵士の大群を大剣で次々と凪ぎ払う。

二人の参戦により、戦況は地球軍側に有利になりつつあった。

しかし、ノエルとゼルのヘルメットからアラートが鳴り響く。

新たな敵が高速で近づいて来た。

「何か…来る!」

「気を付けろ、戦闘機だ…!」

接近して来たのは火星軍の主力宇宙戦闘機、SU-28ファイアバード。

今では宇宙戦の主力となったASの前では地味な存在となってしまったが、戦闘機は対艦戦の要として今でも重宝されてる。

攻撃力では専用ASより劣るが、機動力ではASを上回っている。

よほどの機動力がない限り、ASでは不利だ。


火星軍の戦闘機は地球軍の部隊に接近すると、レーザー機銃を連射する。

「危ない…!」

ノエルはとっさに盾からプラズマフィールドを展開し、部隊全員を守る。

攻撃を弾くことは出来た。

ノエルはレーザーガンで追撃するが、戦闘機に当てる事が出来ない。

「…あいつは俺がやる!」

「兄さん!?大丈夫…?」

ASでは戦闘機相手では分が悪い。

どう立ち向かうというのか。

ゼルを捉えた戦闘機はレーザー機銃を連射。

ゼルはそれを避けると同時に戦闘機の上に掴まった。

この時を待っていた。

いくら機動力で勝っていても、上からの攻撃はどうする事も出来ない。

戦闘機のパイロットはゼルを振り落とそうするが、遅かった。

ゼルはそのまま大剣で戦闘機を一刀両断にし、離脱した。

「一機撃破…!」

しかし、もう一機の戦闘機がゼルに接近して来る。

レーザー機銃を連射し接近するが、ゼルはかわし、ウイング部分に着地する。

「ニュートラル・ランチャー…!」

ゼルは左腕に大型ライフルを転送させる。

そしてエンジン部分にプラズマ弾を直撃させ、戦闘機を撃破する。

「二機撃破…!」

「兄さん、凄い…!」

戦闘機相手に二機も撃破したゼルにノエルは思わず見とれそうになっていた。

「よし、俺達も行くぞ!」

「あいつらには負けられんからな!」

それを見た地球軍兵士の士気が上がる。

士気が上昇した地球軍は火星軍を押し返しつつあった。

これで地球軍側が完全に有利になるはずだ。

しかし!


火星軍がさらなる増援を呼び出したのだ。

ミサイルやバズーカを装備した攻撃型AS部隊が地球軍に襲いかかる。

今までやられっぱなしだった火星軍が再び巻き返して来た。

ノエルは攻撃を防ぐので精一杯だ。

すると、二人の兵士が敵部隊に突撃して行く。

「ダメです、下がってください…!」

「大丈夫、こんな奴らすぐに…うわぁっ!」

ノエルの叫びも空しく、地球軍兵士は二人とも敵の攻撃を受けて爆散してしまった。

「そんな…!」

ノエルは目の前の光景が信じられなかった。

普通、ASにはランダーを撃破寸前に母艦に転送させる安全装置、RF(レスキューフィールド)が搭載されているはずだ。

しかし、それが作動せずに爆死してしまった。

RFの故障なのか。

いや、他の部隊でも敵の攻撃を受けた兵士がRFが機能せず、死んでしまっている。

「に、兄さん、もしかして…。」

「…ああ、RFが無効化されている…!」

二人の予感は的中していた。

地球軍のRFだけが何らかの手段で無効化されている。

火星軍の新兵器なのか。

このままでは地球軍が不利だ。

二人が他の部隊の援護に向かおうとしたその時。

ゼルとノエルのヘルメットのアラートが鳴る。

レーダーに新たな増援の反応が表示される。

しかも三体。

「気を付けろ、来るぞ…!」

「は、はい!」

接近して来るASはエースだった。

赤、青、黄のカラー。

それは二人もよく知っているランダー三人組だった。

「第七中隊、見つけたよ!」

「…目標発見。」

「派手に暴れようぜ!」

親衛隊のマリー、エリー、ミリーの三人組だ。

第七中隊とは何度か戦った腐れ縁だ。

「やっぱり、あの子達…。」

「行くぞ、ノエル…!」

「は、はい!」

ゼルとノエルは向かって来たマリー達に攻撃を開始した。



第七中隊のまとめ役、フィリアとジークも火星軍の月侵攻を食い止めていた。

フィリアはヒートブレード[シラヌイ]とプラズマブレード[ウンリュウ]を手に、月に向かおうとする敵兵士を次々と斬り捨てる。

「この程度か!」

フィリアは別方向から月に向かおうとした敵小隊も撃破した。

ジークもプラズマライフルで遠距離から敵兵士を撃ち落とす。

「どんどん行くぜぇ!」

敵兵士はジークの正確な狙いから逃れられず、プラズマ弾の餌食になる。


フィリアとジークの活躍で、火星軍の侵攻を食い止める事が出来た。

「よし、これで終わり!楽勝だったな!」

ジークが最後の一人の兵士を撃ち落とす。

「いや…兄さん、まだだよ!」

フィリアの予感は的中した。

二人のヘルメットのアラートが鳴る。

新たな敵の接近を感知したのだ。

その数三体。しかも火星軍の戦闘機、SU-28ファイアバードだ。

攻撃力ではASの方が高いが機動力では戦闘機の方が上だ。

三機の戦闘機がフィリアに向かってレーザー機銃を撃ちまくる。

フィリアはギリギリで避けると、戦闘機の上に飛び乗り、シラヌイとウンリュウでエンジン部分を切り裂く。

エンジン部をやられた戦闘機はそのまま爆発する。

「まずは一機!」

しかし、他の二機が執拗にフィリアに機銃を撃ちまくる。

やはりASの推進力では戦闘機は振りほどけない。

「くっ…しつこいなぁ!」

しかし、そこから離れた場所で、ジークがフィリアを追い回す戦闘機に狙いを定めていた。

「まさかこれを使う時が来るとはなぁ…!スカイホーク、セット!」

プラズマライフルに長距離誘導ニュートロンミサイル[スカイホーク]が装着される。

「スカイホーク、行けぇ!」

ライフルからミサイルが発射され、二機の戦闘機に向かって高速で飛んで行く。

スカイホークには少量のニュートロン粒子が推進剤として使用されている為、航続距離も破壊力も通常のミサイルより上だ。

二機の戦闘機はミサイルを振り切る事が出来ずに直撃し、爆散した。

「兄さん、助かったよ!」

「後ろは任せとき、妹よ!」

二人が安心したその時、ヘルメットのアラートが鳴り響く。

レーダーが新たな敵をキャッチしたのだ。

増援の艦隊から重火器を装備したAS部隊が出てきた。

火星軍が再び地球軍に大規模な攻撃を仕掛けて来た。

敵の火力の前に地球軍艦隊は押されつつある。

「みんな、一旦下がるんだ!」

フィリアの叫びも空しく、兵士達は次々と撃墜される。

しかもRFが機能せず、そのまま爆発してしまったのだ。

もはや即死同然だ。

それを見た二人は自分の目を疑った。

「兄さん、まさか…!」

「RFが機能していない…!?」

何が原因か不明だが、命綱であるRFが機能していないようだ。

すなわち、撃墜される事は許されないと言う事だ。


このままでは地球軍が追い詰められてしまう。

だが、ここで退く訳にはいかない。

「兄さん!」

「よし、行くか!」

フィリアとジークは味方の救援に向かおうとする。

しかし、レーダーが新たな敵を発見した。

数は一機。

しかも地球軍を散々苦しめて来た親衛隊だ。

親衛隊はフィリア達に迫って来た。

「見つけたぜぇ、第七中隊!今度こそブッ殺してやるぜぇ!」

大型の杭打ち機を持ったAS 。間違いない、この前フィリアと互角に戦ったガルバ・アルバレツだ。

「来たね…。兄さん、援護を!」

「ああ!」

フィリアとガルバの対決が再び始まろうとしていた。




火星軍親衛隊旗艦[オリンポス]の艦橋内では、現在の戦況が次々とネーナ艦長に報告されていく。

中でもやはりRFを無効化する新兵器の効果が大きいようだ。

「さすが、[アンチRFフィールド]の効果は凄いわね…。プレシアちゃん、よくやったわね!」

すると、プレシアの笑顔がモニターに表示される。

「えっへん!あたしだってやればできるんだよー!」

ネーナ艦長に褒められてプレシアは嬉しそうだ。

すると、オペレーターからまた報告が入る。

「艦長、いよいよ[機械少年]が月に降下されるようです!」

ついに虎の子の新兵器のお披露目の時が来たと言う事だ。

「いよいよね…。」

ネーナ艦長はモニターに注目する事にする。

これが戦況を大きく左右する事になるのだから。



前線近くに待機している火星軍の艦隊の中に、変わった形の戦艦があった。

火星軍の特務試験艦[アンゴルモア]。

地球に生息する海洋生物、クジラをイメージさせるデザインだ。

そのアンゴルモアの艦橋にいるのは、火星の美少女科学者ユーノだった。

彼女は機械少年の活躍を見届ける為に同行を申し出たのだ。

仮に機械少年にトラブルが起きても彼女がいれば対応できる。

いよいよ機械少年の月降下が迫っていたが、ある問題に悩まされていた。


それは、地球軍主力艦隊の抵抗が思ったより激しく、なかなか大統領府に降下出来ないのだ。

やはりそう簡単に通してはくれないという事だ。

「うーん、これは困ったねー…。」

ユーノが悩んでいると、火星軍総司令官であるグライエン大佐から通信が入る。

「ユーノ博士、何をやっている?なぜPS(パペットソルジャー)を降下させない?」

「やっぱり地球軍は甘くなかったね。なかなか大統領府に落とす隙を与えてくれないよ。」

「それぐらいの事は想定済みだ。月のどこでもいいから落とせ。後はPSが全て殲滅してくれるだろうからな。」

機械少年の性能なら月のどこに降下させても問題ないという事だ。

「本当にいいんだね?」

「ああ、さっさとやれ!戦果を期待してるぞ!」

焦っているグライエン大佐からの通信が切れる。

許可が出た事で、機械少年の降下準備に入る。

「さてと、[スケルトン]に異常はない?」

「はい、[スケルトン]に異常なし、オールグリーンです!」

[スケルトン]とは、機械少年ことイービルが常に装着しているASの名称だ。

全身がドクロのようなデザインで、銀色に輝いている。

機械少年は降下カプセルの中に入れられている。

「うん、完璧だね。それじゃあ、[スケルトン]降下開始だよ!」

「了解![スケルトン]降下開始!」

ユーノの合図と共に機械少年を入れた降下カプセルが降下準備に入る。

戦艦[アンゴルモア]のクジラの口のような部分が開き、カプセルが月に向かって射出される。

火星軍の迎撃で手一杯の地球軍はそれに気づいていない。

「思いっきり暴れておいで、僕の可愛い機械少年君。」

ユーノは月に落ちていくカプセルを笑顔で見守っていた。



第七中隊旗艦[シラサギ]の艦橋内では、クリス隊長が隊員達に指示を飛ばしながら、その状況を見守っていた。

しかし、RFを無効化する敵の新兵器のおかげで地球軍が不利になっている事を知る。

「これは厄介ね…。」

少し早いがクリス隊長も出ようとした時、オペレーターから新たな報告が入る。

「待ってください、親衛隊に新たな増援!これは…[コバルトファルケン]、レオ・ブレイザーです!」

[蒼き鷹]がようやく姿を現した。

クリス隊長の出番が来たのだ。

クリス隊長が席を立つ。


「メイファ、私も出るわ。後はお願いね。」

「わかりました!隊長、気をつけてください…。」

シラサギの指揮は副隊長のメイファに任せ、クリス隊長は出撃する。

「あ、ついでにアレの準備もしといてね。」

「え…アレをもう使うんですか?」

「ええ、相手も全力出してるんだから出し惜しみはダメよ。じゃ、よろしくね!」

「了解です!」

クリス隊長は艦橋を出ると、赤いASを装着し、戦場へ飛び立った。

すると、メイファ副隊長から通信が入る。

「隊長、[ヒリュウ]の起動準備完了、出します!」

「わかったわ!」

クリス隊長の後ろから一隻の小型艦が接近して来る。

小型艦が近づくと、艦は変形を始める。

翼や尻尾、四本の脚部に長い首と竜のような頭部。

まるで地球の神話に出てくるドラゴンの姿に変わったのだ。

「ヒリュウ、変形完了!」

クリス隊長はドラゴン型の機動兵器の上に乗る。

そう、[アレ]とはこのドラゴン型の兵器の事を言っていたのだ。

突撃機動竜[ヒリュウ]。第七中隊の切り札とも言える大型機動兵器である。

「まさかこれの封印を解く時が来るとはね…!」

出来れば使いたくはなかったが、向こうが総力戦で来た以上、こちらも持てる力を全て使って挑まなくてはならない。

「行くわよ、ヒリュウ…!」

クリス隊長を乗せたヒリュウは敵艦隊へ攻撃を開始した。



火星軍親衛隊の隊長、レオはようやく第七中隊の旗艦を発見した。

レオとミアは地球軍の精鋭部隊である特務中隊を出来るだけ長く足止めしなくてはならない。

[機械少年]が大統領府を潰すまで時間を稼げればこちらの勝ちだ。

しかし、偵察に出ていた親衛隊のアリアから通信が入る。

「レオ隊長、アリアです。」

「どうした?」

「特務中隊の旗艦から大型機動兵器が発進した模様です。気をつけてください。」

「大型機動兵器だと…?わかった、お前はすぐに戻って俺達と合流しろ。」 

「了解です!」

アリアとの通信が切れた。

地球軍に対艦用の秘密兵器があったとは。

だが退くわけにはいかないのだ。

「隊長、どうしますか…?」

ミアは敵の新兵器を前に不安な表情になる。

どんな性能を持っているかわからない以上、慎重に行動しなくてはならない。

「そうだな…。まずは戦闘機部隊にやらせてみるか…!」

レオは戦闘機部隊に敵大型機動兵器を攻撃するように指示を出した。



クリス隊長の駆る[ヒリュウ]の前に、多数の火星軍戦闘機が飛来する。

「来たわね…!」

戦闘機が次々にレーザー機銃を連射する。

しかし、その程度で[ヒリュウ]は傷1つつかない。

「悪いけど、一気に終わらせるわよ!」

ヒリュウの全身から対空レーザー機銃が展開され、レーザーを一斉に発射する。

ヒリュウに近づこうとした戦闘機は次々とレーザーに貫かれて爆発する。

しかし、後ろからも戦闘機が機銃を放ちながら接近して来る。

「もう、しつこいわね!」

ヒリュウは尻尾を振り回し、接近して来た戦闘機をまとめて叩き潰す。

クリス隊長は戦闘機部隊をあっという間に全機撃ち落としてしまっていた。



戦闘機を全て退けたクリス隊長だったが、レーダーにまた新たな反応があった。

AS部隊の中に親衛隊のASが二体。

その一つがあの[蒼き鷹]レオ・ブレイザーだ。

ついに姿を表した。

「来たわねレオ君。悪いけど、ここで墜ちてもらうわよ!」


レオとミアも地球軍の巨大な竜をその目で確認する。

見た目だけでなく、その戦闘力も侮れない。

「来たか…。ミア、お前は援護を頼む。奴は俺が倒す!」

「わかりました!」

レオとミアも戦闘態勢に入る。

巨大な竜が二人の前に接近して来る。

「レオ君、今度は容赦はしないわよ。」

「クリス先輩、それは俺も同じです…!行くぞ!」

クリス隊長とレオの戦いが再び始まろとしていた。




月周辺では地球軍艦隊と火星軍艦隊の戦闘が激しさを増していた。



タカヤとリリとサクヤはバイク型サポートマシン[天鳳]を駆り、火星軍の部隊を次々に蹴散らしていく。

[天鳳]の機動力とASの攻撃力の前に敵は次々と倒されていく。


だが火星軍の部隊は次々とタカヤ達に襲いかかって来るのだった。

「お兄様、前方からまた敵部隊が来ましたわ!」

「くっ…しつこいよ!」

「お兄ちゃん、ここはあたしに任せて!」

「わかった!」

リリはASのリミッターを一時解除する。

こうする事で、必殺技の使用が可能になるのだ。

ただし、エネルギーの消耗が激しく、再チャージに時間がかかる為、連発は出来ない。

「行くよ、リミッター30%解除![エンジェリック]転送!」

リリの右手にチャクラム状の武器、プラズマサークル[エンジェリック]が転送される。

「いっけー![天聖戦輪乱舞 エンジェリック・サークルダンス]!」

リリがエンジェリックを敵部隊に向かって投げると、戦輪が無数に分裂し、敵兵士を一気に切り刻む。

プラズマサークルの1つ投げただけで敵部隊を一気に退けてしまった。

「凄い…。けど、僕だってやれる!」

タカヤもニュートロン・ライフルを右手に転送し、執拗に追い回して来る敵部隊に向けて撃ちまくる。

タカヤが放ったニュートロン粒子が敵兵士に直撃し、次々と撃ち落としていく。

「やった!」

「お兄ちゃん、すごーい!」

「私も行きますわ!」

サクヤは[天鳳]のプラズマ機関砲を連射し、前方の敵部隊を全て撃ち落とす。

「やりましたわ!」

「やっぱりリリちゃんもサクヤちゃんも凄いよ…!」

「お兄ちゃんも凄いよ!自信持って、ね?」

「そうですわ!」

「う、うん!」

リリとサクヤに褒められてタカヤはより自信が沸いて来た。

「さ、敵をコロニーや月に近づけちゃ駄目だよ!」

「うん、イズモコロニーは僕達が守る!」

「もちろん、他のコロニーや月に行かせませんわ。」

タカヤ達が次の攻撃目標へ向かおうとした時、クリス隊長からの通信が入る。

「タカヤ君、リリ、サクヤも聞こえる?」

「は、はい!」

「月面基地が敵の襲撃を受けているわ!月に近いのはあなた達だけだからすぐに救援に向かって!」

「りょ、了解です!お兄ちゃん、サクヤちゃん、行くよ!」

「わかった!」

「はい、行きますわよ!」

火星軍がどうやって主力艦隊の防衛網を突破して月に降下出来たのかはわからないが、今は月に一番近いタカヤ達が敵の撃退に向かうしかない。

月面基地に向かうと、基地のあちこちから火の手が上がっていた。

タカヤ達は全速力で月面基地へと飛んで行った。



第8戦へ続く。































































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