戦神兄妹

ジェダ

第5戦 恥ずかしがり屋でおとなしい妹もいいのです!

火星軍との開戦から一日が過ぎ、タカヤは疲れ果てて自分の部屋で爆睡してしまっていた。

そしていつものように寝ていると、何か右手に柔らかい感触がした。

ゆっくり目を開けると、タカヤの右手が、サクヤの豊満な胸を鷲掴みにしていた。

タカヤは慌てて飛び起きる。

「うわぁっ!何これ!?」

やっぱり部屋にはリリとサクヤがいた。

「お兄ちゃん、おはよっ!」

「お兄様、おはようございます!」

「お、おはよう…って、何してるんだよっ!?」

タカヤは慌ててサクヤの胸から手を離す。

二人に起こされるのはもう馴れたけど、やっぱり普通に起こして欲しい…。

「お兄ちゃん、最近起きるの遅いから、サクヤちゃんの胸で起こしてみようかなーって思って!」

「お兄様…、私の胸…また触っても…いいですよ…。」

サクヤは顔を真っ赤にしながら、僕に微笑んでいる。

確かに最近は特訓もあるし、ついには戦争も始まったし…。

疲れてなかなか起きれない時もあるし…。

「お兄ちゃん、本当に大丈夫?」

リリは心配そうにタカヤを見る。

「だ、大丈夫だよ!は、早く着替えて学校行かないと!」

「それじゃ、私たちが着替えるのをお手伝いしますね。」

「へ?い、いいよ、自分で出来るって!」

「駄目だよ!早くしないと遅刻しちゃうよ!」

こうして有無を言わさずに二人はタカヤの着替えを手伝う。そして早く朝ごはんを食べて学校へ向かった。



そして学校に着くと、午前は普通の授業から始まった。

タカヤは授業中に何回も眠りそうになっていた。

リリとサクヤはそれを心配そうに見ていた。

隣に座っているノエルも心配そうにタカヤの顔を見ていた。

「タカヤさん…大丈夫ですか?元気…ないですよ…。」

「だ、大丈夫…。」

そうは言ったがタカヤの顔にはいつもの元気はなかった。

「今日の特訓、お休み…しますか…?」

「だ、大丈夫だから、気にしないで…。」

タカヤは無理して笑顔を作ったが、やっぱり疲れてるのかもしれない。

こうして、一時間目の授業が終わった。



授業が終わると、タカヤは急いで保健室へ向かおうとした。

すると、リリとサクヤが来た。

「お兄ちゃん、どこ行くの?」

「ちょっと保健室に…。」

「大丈夫ですか?私たちも一緒に…。」

「大丈夫、一人で行けるから…。」

僕は無理しながらも一人で保健室へ向かう事にした。

やっぱりみんなに弱みは見せられない。



そして僕は若干ふらつきながらも廊下を歩いていた。

まずい、このままじゃ…。

すると、突然一人の小さな女の子がこっちに向かって走って来た。

ふらついている僕には避ける事も出来ず、そのままぶつかってしまった。

「だ、大丈夫…?」

「……。」

タカヤの呼び掛けに女の子は何も答えない。

「け、怪我はない…?」

「うっ…。」

女の子はタカヤを怖がってる様子だ。

どうしたらいいのか…。

すると、一人の男子生徒が駆けつけて来た。

「アンナ、大丈夫かい?」

「う、うん…。」

女の子は男子生徒にしがみついた。

またしても、兄妹…なのかな…?

「すまないね、妹の事は気にしないで…。君は大丈夫かい?」

「う、うん…。」

「君、顔色悪いけど、大丈夫かい?」

「だ、大丈夫、保健室行くから…。」

「そうか。じゃあ僕達はそろそろ行くよ。気を付けてね。」

「う、うん…。」

小さな女の子と男子生徒はそのまま去って行った。

とりあえずタカヤはフラフラしながら保健室へ向かった。


タカヤはやっとの事で保健室にたどり着いた。

保険医の先生によると、やっぱり過労だったようだ。

先生はかなりの美人だったが、そんな事を気にしている余裕はなかった。

僕はベッドに横になると、あっという間に眠りに落ちてしまった。

ゼルの過酷な訓練を連日受けている上に、戦争が再び激化してしまったのだから無理もない。

タカヤは午前の授業を休む事になってしまったのだった。


そしてお昼休み。

タカヤはようやく目が覚めた。

一体どれぐらい寝てたのだろう…。

すると、保健室に複数の女子生徒が入って来た。

よく見ると、リリとサクヤ、それにノエルにフィリアはまで来ていた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「お兄様、大丈夫ですか?」

「タカヤさん…よく休めましたか…?」

「全く、世話が焼けるな…。」

来てくれたのは嬉しいけど、女の子が四人もいると緊張する…。

「やっぱりお兄ちゃんは疲れてるんだよ。」

「今日はもうお休みになっててくださいね。」

「兄さんに…今日の特訓はお休みするように…言っておきますから…。」

「体調管理ぐらい自分でちゃんとしないと駄目だよ!き、君は私たちの貴重な戦力なんだからな!」

「う、うん。もう大丈夫だから…。」

「だーめ!お兄ちゃんは今日はちゃんと寝てるの!わかった?」

「そうですわ。無理しては駄目ですよ。」

こうしてみんなに今日は寝てるように言われてしまった。

リリとサクヤは僕の事を心配してくれている。

けど、本当に僕の妹なんだろうか?

そんな記憶は全くないのに…。

しかも唐突に現れて、戦争に巻き込まれて…。

それに僕は二人をまだ妹だとは認めていない。

本当の妹かわからない以上、絶対に弱みを見せてはいけないんだ。

僕はそう誓っていた。




そして午後の授業が始まろうとしていた。

今日は終わるまで寝てないと駄目なのか…。

そう思っていた、その時!


いきなり警報が校舎内に鳴り響いた。

出撃要請だ。

「デルタコロニーより救援要請!反政府組織がデルタコロニーと資源衛星を襲撃中。狙いはコロニーの資源と思われる。第二、第三、第七中隊はただちに出撃せよ!」

出撃要請のアナウンスが保健室にも流れた。

「…行かなきゃ!」

まだ疲れているけど、チームの一員として行かないと!

幸い保険医の先生はいないようだ。

タカヤは保健室を出た。



第七中隊の教室には、生徒達が全員戻っていた。

クリス隊長も急遽戻って来た。

「みんな、デルタコロニーがテロリストに襲撃されているとの報せが入ったわ。これより第七中隊は第二、第三中隊と共に出撃します!いつものメンバーはイズモ軍基地に集合!いいわね?」

「了解!」

リリ達が基地へ向かおうとした、その時!

教室のドアがいきなり開くと、そこにはタカヤがいた。

「ま、待ってください!僕も行きます!」

「お兄ちゃん!?」

「お兄様、無茶ですわ!」

リリとサクヤは二人を止めようとする。

「タカヤ君、本当に大丈夫なの?」

「はい、充分寝ましたから。いけます!」

「…わかったわ。タカヤ君、出撃を許可します。ただし、体調が優れなくなったらすぐに帰還する事。いいわね?」

クリス隊長は条件付きでタカヤの出撃を許可した。

「はい!」

「それじゃ、みんな行くわよ!」

クリス隊長と第七中隊のメンバーは急いでイズモ軍基地へ向かった。



第七中隊メンバーはイズモ軍基地に着くと、すぐに旗艦[シラサギ]に乗り込んだ。

そして、第二、第三中隊の旗艦と共にデルタコロニーへと出発する。

地球圏コロニー国家のひとつ、デルタコロニーは既に反政府組織の攻撃を受けていた。

資源を狙っている犯罪者は海賊だけではない。

地球圏統一連合に反抗しているテロリスト達もまた、貴重な資源を欲しているのだ。

そして、第七中隊のメンバーはそれぞれのASに装着し、戦場の真っ只中へ出撃した。

クリス隊長はシラサギのブリッジから隊員に指示を出す。

「みんな、資源衛星は他の部隊に任せてコロニーを襲っているテロリストを叩くのよ!」

「了解!」

第七中隊はテロリスト達に攻撃を開始した。



「来たぞ!各個撃破せよ!」

タカヤ達の前に、ASを装着したテロリスト達が接近して来る。

テロリストはマシンガンを連射して来た。

「…ノエル!」

「は、はい!」

ノエルは大型盾を転送すると、盾からプラズマフィールドを展開する。

敵のマシンガン攻撃はプラズマフィールドによって全て防いだ。

「今です!」

「みんな、行くよ!」

フィリアの合図で全員が総攻撃を仕掛ける。


ゼルは大剣[ブリューナク]で敵を凪ぎ払い、フィリアは二本の刀で次々と敵を斬り捨て、ジークは遠距離からプラズマライフルで敵を撃ち抜いていく。

「よし、僕も負けてられない…!」

「お兄ちゃん、本当に大丈夫?」

「無理はしないでくださいね。」

「大丈夫だよ。行くよ!」

タカヤ達三人も敵に攻撃を開始した。


第三中隊旗艦[クレープス]では、AS部隊の出撃準備が終わっていた。

その中には、タカヤが出会った男子生徒と小さな女の子の姿もあった。

「アンナ、そろそろ準備はいいかい?」

「…うん。」

彼らはカイン・アシュナードとアンナ・アシュナード兄妹。

この二人は第三中隊のエースでもあった。

「カイン、アンナ、そろそろ戦闘宙域だ。準備はいいかい?」

クレープス艦長から戦闘宙域到達の報せが入る。

そして、第三中隊メンバーが次々と発進する。

「アンナ、しっかりついて来てくれよ。行きます!」

「お兄ちゃんとなら…大丈夫…。」

最後に二人もクレープスから発進した。


旗艦[クレープス]から発進したカインとアンナは早速敵部隊と遭遇した。

作業用ASを装着したテロリスト達が二人に襲いかかる。

「アンナ、頼んだよ。」

「うん。アサルトジャマー、展開…。」


アンナのASから複数のビットが射出されると同時に、敵のASの機能が全て停止してしまった。

ASは小型のニュートロンエンジンで動いている。

アンナの放ったビットからは作業用ASのエンジンなら一瞬で機能停止させるジャマーが展開されていたのだ。

アンナの装着するASはSSA-01[ハーピー]。電子戦等のサポートを得意とするASだ。

「…行くよ!」

カインはブレードライフルを手元に転送すると、動けなくなった敵部隊に向かって攻撃を開始する。

カインの装着するASはSSA-03[クーガー]。遠距離から近距離まで対応出来るASのようだ。

カインはマシンガンや実体剣等、敵の武器だけを次々と破壊し、敵は一人も傷つけなかった。

「…みんな、ごめんね。アンナ、行くよ。」

「うん…。」

カインとアンナは別の敵部隊に攻撃を開始した。




その頃、デルタコロニー外部では、ASを装着した三人の男が隕石に隠れてコロニーを眺めていた。

「戦闘、始まったみたいですよ。」

「予定通りですね、ボス。」

「ああ、いよいよだ。」

彼らはコロニーに攻撃を仕掛けた反政府組織の一員だった。

その中の一人がリーダーのようだ。

すると、コロニーの宇宙港が突然爆発した。

「行くぞ!これからあのコロニーの資源を奪う!」

「了解!」

三人はデルタコロニーの内部へと向かって行った。



コロニー付近では、第七中隊と反政府組織との戦闘が激しさを増していた。

しかし、数が多くても作業用ASでは戦闘用ASに敵わない。

「お兄ちゃん、行くよ!」

「うん!」

「ファジー・ブラスト!」

リリは二丁のマシンガンを転送すると、敵部隊に次々と撃ちまくる。

「私も行きます!バズーカ・ランチャー!」

サクヤはバズーカを転送し、敵の群れに向かって拡散弾を発射する。

敵の近くで拡散した無数の弾丸は敵部隊を次々と消滅させる。

「二人はやっぱり凄い…。僕だって!」

タカヤも敵部隊に向かってライフルを連射する。


タカヤのニュートラル・ランチャーから放たれた一撃は次々と敵にヒットし、消滅していった。

「や、やった!」

「お兄ちゃん、やったね!」

「お兄様、その調子ですわ!」

やっぱり僕は確実に強くなってる!

これなら楽勝かもしれない!

今まで弱気だったタカヤに自信がついて来た。

すると、レーダーに複数の敵部隊の接近が確認された。

その中に一人、戦闘用ASを装着している敵がいる。

「あの中にエースがいる…!」

「今のお兄ちゃんなら大丈夫、いけるよ!」

「そうですわ!大丈夫です!」

「よし、行こう!」

リリとサクヤに励まされ、タカヤは敵エースに向かって行った。



戦闘用ASを装着した反政府組織のリーダー、ビルは戦闘用ASを装着した三人をレーダーで確認した。

「あ、兄貴!敵のエースが来ますよ!」

「慌てるな!いざとなったら別の手がある!お前らはさっさとかかれ!」

「は、はい!」

ビルの部下達はタカヤ達に攻撃を開始した。


敵部隊がタカヤ達にマシンガンを連射して襲いかかって来た。

しかし、リリは攻撃を避けながらマシンガンで敵を次々と蹴散らし、サクヤはバズーカで敵部隊をまとめて消滅させた。

「残りはあいつだけだよ!」

「お兄様!」

「うん、行くよ!出ろ、グラディウス!」

タカヤはニュートロンブレード[グラディウス]を転送し、敵リーダーであるビルに斬りかかった。

「ちっ!」

ビルはタカヤの攻撃をかわすと、プラズマソードを転送して斬りかかる。

「くっ!」

ビルの攻撃をなんとか避けたタカヤ。

けど腕はたいした事はない!

「このおぉぉぉ!」

タカヤはビルにグラディウスで斬りかかる。

ビルはプラズマソードで防ごうとするが、ニュートロンブレードの一撃は、プラズマソードを軽く両断してしまった。

「そんな馬鹿な!?」

タカヤは勝利を確信した。


「くっ!」

敵わないと判断したのか、ビルは撤退を始めた。

「逃がすか!」

タカヤはすぐにビルの後を追った。

「お兄様!RFの範囲外から出ては駄目です!」

サクヤもブースターを吹かせて後を追った。

RF(レスキューフィールド)の範囲外で撃墜されれば、旗艦に帰れずそのまま爆死する事になる。

「ちょっとお兄ちゃん!サクヤちゃん!」

リリも後を追おうとするが、残った敵部隊が立ち塞がる。

「もう、邪魔だよ!」

リリは敵に阻まれて後を追えなかった。




ビルはコロニー付近まで逃げ込んだが、すぐに追い付かれてしまった。

「しつこい奴め!」

「も、もう逃げられな…い…。」

タカヤがグラディウスを構えた瞬間、身体に異変が起きた。

意識がもうろうとする…。ヤバイ…。

やはりまだ疲労が残っている状態で出撃したのがまずかったようだ。

「お兄様、大丈夫ですか!?」

「はぁ…はぁ…、サクヤちゃん…。」

サクヤはふらふらしているタカヤに近づく。

すると、ビルの顔に笑みが浮かんだ。

「チャンスだ!」

ビルはブースターを吹かせてタカヤ達に突っ込んだ。

そしてビルはそのままタカヤに近づこうとしたサクヤを連れ去った。

「キャッ!?」

「さ、サクヤちゃん…!」

サクヤを連れ去ったビルはコロニーの外壁近くまで移動するとサクヤを盾にし、ヘルメットの近くにプラズマナイフを突きつけた。

「ハハハハハハ!動くな小僧!動けばこいつを殺すぞ!」

なんと、サクヤを人質に取られてしまったのだ。

「そ、そんな…、サクヤちゃん…!」

このままじゃ攻撃できない。すると、ナイフを突きつけられたサクヤが叫ぶ。

「お兄様…!私に構わず逃げて、ください…。」

「そんな事…出来ないよ…!」

「それだけじゃないぜ!今さっき部下達がコロニーを占拠したからよ!どっちも助けたければ武装解除するんだなぁ!」

サクヤだけでなく、コロニーの住民までもが人質にされてしまった。


すると、ビルの周りにある隕石の陰からビルの部下のAS隊が次々に姿を現した。

「やれ!」

ビルの合図と共に部下達がタカヤ達に襲いかかろうとした。


しかし、部下達のASは突然機能停止してしまった。

「こ、コントロールが!」

「な、何が起きた!?」

すると、コロニーからASを装着した二人の男女が現れた。

そう、第三中隊のカインとアンナだった。

アンナがジャマーで敵ASの機能を停止させたのだ。

すかさずカインがブレードライフルで機能停止した敵のの武器を破壊して戦闘不能にする。

今度こそ残りはビルだけになった。

後はサクヤを救出するだけだ。

すると、戦闘を終えたノエルとゼルが駆けつけて来た。

「タカヤさん、下がってください!」

ノエルは大型の盾をビルに向かって投げつけた。

盾はビルの前で停止すると、強烈な閃光を放った。

「ぐああああっ、何だぁ!?」

強烈な光でビルもサクヤも目を開けられない。

「タカヤさん、リリさん、今です!」

「お兄ちゃん、行くよ!」

「うん!」

タカヤとリリは怯んだビルに接近する。

そしてリリは素早く人質にされたサクヤを救出する。

「サクヤちゃん、大丈夫?」

「お姉様!私は大丈夫ですわ。」

「お兄ちゃん!」

「うん、行くよ!」

タカヤはグラディウスを構えて人質のいなくなったビルに接近する。

「お、おい、やめろ…!」

最終手段も失ったビルは完全にビビっている。

もう抵抗の意思はないようだ。

しかし、タカヤは怒りの眼差しでビルを睨みつける。

「僕の怒りは、爆発寸前です!」

タカヤはグラディウスでビルを一刀両断にする。

ニュートロン兵器の前ではシールドも紙同然に切り裂かれてしまう。

「いや、もう既に爆発して…、ギャアァァァァ!」

RFの範囲外にいたビルは艦に帰還出来ず、ASは爆発して彼は宇宙の塵と化した。

すなわち死亡である。

テロリスト達はやがて鎮圧され、戦いは終わったのだった。

しかしタカヤはその後、力が抜けたかのように意識をなくしてしまい、宇宙空間を漂ってしまった。

「お兄ちゃん、やったね!」

「お兄様、ありがとうございます!」

しかし、タカヤに返事はない。

よく見るとタカヤはぴくりとも動かずに宇宙空間を漂っていた。

「お兄ちゃん!」

「お兄様、大丈夫ですか!?」

しかし、タカヤは目を覚まさない。

そこにクリス隊長から通信が入る。

「やっぱりタカヤ君、相当無理してたようね…。二人はタカヤ君をシラサギに!」

「は、はい!」

リリとサクヤはタカヤを抱えてシラサギへ向かった。

「みんなも任務完了よ。シラサギに帰還して。」

「了解!」

ノエルやゼル達もシラサギへ帰還した。

ノエルはリリ達に抱えられているタカヤを心配そうに見つめていた。



タカヤは気が付くと、学校の保険室にいた。

テロリストのリーダーを倒してからの記憶が全くない。

けど、覚えている事がある。

僕が無茶をしたせいで、サクヤを危険な目に合わせてしまった。

そしてみんなに迷惑をかけてしまった。

もうみんなに合わせる顔がない…。

タカヤはベッドから起き上がると、保健室を出た。



リリとサクヤはタカヤが眠っている間は教室で目が覚めるのを待っていた。

「お兄様、大丈夫でしょうか…。」

「大丈夫だよ!寝てたら元気になるって言ってたし!そろそろ保健室に行って見ようよ。」

「はい、そうですわね。」

二人は早速保健室へ向かった。

そして保健室の前まで着くと、ドアが開きっぱなしになっていた。

二人が保健室の中に入ると、タカヤの姿はなかった。

保健医の先生が出掛けている間にどこかに行ってしまったのか。

「お兄様、一体どこに…?」

「とにかく探そう!遠くには行ってないと思うよ。」

「はい!」

二人は保健室を出て二人を探し始めた。



その頃、タカヤは校舎の裏にある小さな丘にいた。

ここは昼休みには昼食を食べる生徒達で賑わう場所の一つだ。

タカヤは一人丘の上でぽつんと座っていた。

保健室を出ちゃったけど、誰もいないから落ち着くし…。

それにみんなにどのような顔して会えばいいのか…。

しかもサクヤが危険な目に…。

僕は…最低だ。

すると、丘の下からタカヤを呼ぶ声が聞こえる。

「お兄ちゃーん!」

「お兄様ー!」

リリとサクヤだ。


二人共、僕を探しに来たのか…。

「お兄ちゃん!急にいなくなっちゃったから心配したんだよ!」

「お兄様…探しましたよ。何かあったのですか?」

「……。」

しかし、タカヤは何も答えない。

「お兄ちゃん!どうしたの?黙ってたらわからないよ!」

「お兄様、私たちだけにでも何があったのか話しくださいね。私たち兄妹なのですから、ね?」

サクヤは優しく微笑みながらタカヤの手を優しく握る。

「…ごめん。」

「え?」

「どうしたのですか?」

「…僕が無理をしたせいで…サクヤが人質に…。」

タカヤはさっきの戦闘でサクヤが人質に取られてしまった事を悔やんでいるようだった。

「もうその事は気にしなくてもいいですわ。助けてくれて本当にありがとうございます。」

「そうだよ、あれはあんな卑怯な事したあいつが悪いんだから、気にしちゃ駄目だよ!」

「けど…けど…僕、みんなに迷惑かけて…しかも無理して出撃して…。」

次第にタカヤの目から涙が溢れだした。

今にも泣き出してしまいそうだった。

そんなタカヤを、サクヤは優しく抱き締める。

「お兄様、もう過ぎたですし気にしないでください。お兄様は全力で私を助けてくれました。本当に嬉しかったです、ありがとうございます!」

「サクヤ…。」

「私たちは兄妹なのですから、何でも悩みがあれば言ってくださいね。」

サクヤの大きな胸に顔を押し付けられたタカヤは突然声をあげて泣き出した。

みんなの前では弱い所を見せたくないって思ったのに。

けど、この二人なら何でも話せそうな気がする。

「お兄様、もう無理はしなくていいですわ。大丈夫、大丈夫ですわ。」

サクヤはタカヤの頭を優しく撫でる。

「そうだよ、大丈夫だよお兄ちゃん!」

リリは泣きじゃくるタカヤの背中をさすった。



しばらくして、タカヤは泣き止んだ。

「お兄様、落ち着きましたか?」

「う…うん…。」

「これからは私たちだけにでも何かあったら言ってくださいね。それと、絶対に無理はしないでくださいね。」

「うん…、ありがとう…。」

「そうだよお兄ちゃん!もう泣かないの!」

リリはタカヤの手を優しく握った。


「お兄ちゃん、ファイトだよ!」

「う、うん…。」

リリはいつもの笑顔をタカヤに見せる。

「それと、サクヤちゃん!」

「お、お姉様?」

「さっきからサクヤちゃんばっかりずるいよ!」

「え、何がですか?」

リリはサクヤを睨みつけていた。

サクヤは自分が何故睨まれているのかわからなかった。

するとリリはタカヤの顔を自分の胸に押し付けると、タカヤを優しく抱き締める。

「お兄ちゃん、何か悩みがあったら何でも言ってね。あたし達ずっと一緒だから!約束だよ、ね。」

「うん…。」

どうやらリリもタカヤを抱き締めたかったようだ。

「お兄ちゃん、元気出た?」

「う、うん…、リリもサクヤも…ありがとう。」

いつも僕を振り回してばっかりかと思っていた二人だった二人だけど、本当は優しくて、いつも僕の事を心配してくれていたんだ…。

やっぱり、二人は僕の本当の妹だったんだ。

「お兄様、もう大丈夫ですか?」

「うん、おかげで元気出たよ。ありがとう!あの…今さらだけど…これからも…よろしく…。」

「うん!これからも一緒だよ、お兄ちゃん!よろしくね!」

「お兄様、これからもよろしくお願いしますね。」


二人はいつもの笑顔を見せる。やっぱり、二人の笑顔を見ると元気が出てくる。

リリとサクヤが妹で本当に良かった。

タカヤが初めて二人に心を開いた瞬間だった。



その後、タカヤは制服に着替えなおす為に一人で保健室に向かっていた。

その途中、タカヤの前にノエルが向かって来た。

「あ、タカヤ…さん…。もう大丈夫なんですか…?」

「う、うん、もう大丈夫だよ。」

「良かった…。心配になって…これから保健室に行こうと…。」

ノエルはこれから僕のお見舞いに行こうとしてたようだ。

「そうだったんだ…。もう大丈夫、心配かけちゃったね…。」

「けど、元気になって…良かった…です。あ、あの、タカヤ…さん。」

ノエルは顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにタカヤの顔を見る。

「ど、どうしたの、ノエルさん?」

「タカヤさんのアドレス…良かったら…教えてもらっても…いいですか…?」

「え、えぇ!?」

タカヤは驚きのあまり声をあげてしまった。


リリとサクヤのアドレスはこの前教えてもらったけど、まさかノエルさんからも…。

今までの生活ではあり得ない事だった。

「う、うん、いいよ。」

「あ、ありがとうございます…!」

こうして僕とノエルさんは互いのアドレスを交換した。

「タカヤさん…、これからは…無茶をしないでくださいね…。」

「う、うん、ありがとう…。」

「そ、それじゃ私…図書室に戻りますね…。」

「うん、それじゃまた!」

ノエルはそのまま走り去って行った。

まさかノエルさんのアドレスを教えてもらえたなんて…!

あまりの出来事に驚きを隠せないタカヤを前に第三中隊のカインとアンナがタカヤの前に歩いて来た。

「やあ、もう大丈夫みたいだね。」

「あ…あの時は助けてくれてありがとう…。」

アンナはカインの腕にしがみついて離れようとしない。

「いいんだよ、同じ特務中隊の仲間なんだし。かなり落ち込んでたみたいだけど、立ち直ったみたいで良かったよ。」

カインもタカヤの事を心配してくれていたようだ。

「…良かった…無理は、しないで…。」

カインにしがみついていたアンナが初めてタカヤに笑顔を見せた。

アンナの可愛い笑顔にタカヤは一瞬胸がドキッとなってしまった。

「アンナは君の事を気に入ったみたいだね。君の事心配してたんだよ。」

「そうだったんだ…ありがとう。」

僕に心を開いてくれた…って事かな?

「アンナの言う通り、仲間を信じて無理をしない事も大切だよ。」

「うん、ありがとう!」

「僕は第三中隊のカイン・アシュナード。そして妹のアンナだ。これからもよろしく!」

「よろしく…タカヤ、お兄ちゃん…。」

カインとアンナはタカヤに手を差し出した。

「僕は第七中隊のタカヤ・シンジョウ。よろしく!」

タカヤも手を差し出し、互いに握手をした。

「また君達と一緒に戦えるといいね。」

「うん、今日はありがとう!」

「それじゃ、僕達はもう行くから。じゃあね!」

「またね…タカヤお兄ちゃん…。」

カイン達はその場を去って行った。

「あ、二人を待たせてるんだった!」

タカヤは急いで保健室へ戻った。



「お兄ちゃん、遅いよ!」

「お兄様、早く帰りましょう。」

「ごめんごめん。家に帰ろうか。」

リリとサクヤは教室でタカヤを待っていてくれた。

こうして二人と合流したタカヤはそのまま学校を出て家に帰った。


そして、その夜。

タカヤはいつものように部屋で寝ようとしていた。

すると、タカヤのスマートフォンから着信音が鳴った。

「誰だろう…?」

すると、ノエルからメールが来ていた。

「こんな時間にごめんなさい。兄さんが明日の訓練は休んでいいって言ってました。明日はゆっくり休んでくださいね。」

メールにはそう書かれていた。

「明日は休みか…。今日はゆっくり寝れるな…。」

タカヤはノエルにメールを返してベッドに向かおうとしたその時、いきなり部屋のドアが開いた。

「お兄ちゃん!」

「お兄様!」

リリとサクヤがパジャマ姿で部屋に入って来た。

「二人ともどうしたの?」

「お兄ちゃん、今日は一緒に寝よ!」

「お兄様がよろしければ、ですけど…。」

今日は二人に心配かけさせちゃったし、今日ぐらいはいいかな…。

やっぱりドキドキするけど…。

「う、うん、今日は…寝てもいいよ。」

「やった!ありがとう、お兄ちゃん!」

「ありがとうございます!今日はゆっくり寝ましょうね。」

二人は嬉しそうな笑顔でタカヤのベッドに入った。


こうしてタカヤは久しぶりにリリ、サクヤと同じベッドで寝る事になった。

二人が側にいるだけでやっぱりドキドキする。とてもいい匂いはするけど…。

「お兄ちゃん、今日はよく眠れそう?」

「う、うん、大丈夫だよ。」

「良かったです…。明日はゆっくり休めますわね。」

「う、うん。二人とも、今日は…ありがとう…。」

「いいの、あたし達兄妹なんだから!」

「何かあったら、何でも言ってくださいね。」

二人とも僕の手を握って来た。

さらに胸がドキドキしてきた。

「うん…。それじゃ、おやすみ。」

「おやすみ!」

「おやすみなさい。」

二人と一緒に寝ると緊張するけど、今日はよく眠れそうだ。

リリとサクヤが優しい子達だってわかったし、二人に心を開いて良かった。

この二人が妹で、本当に良かったと思う。

タカヤは静かに目を閉じた。






木星圏、ガニメデコロニー。

前回の木星探査隊選抜のオーディションは大荒れの展開となった。


『軍のランダーは全員帰れ!』

混乱のるつぼと化したオーディションから数日後。


『覚悟の出来た者は誰でも来い!』

探査隊隊長、ダイス・サノー少佐の呼び掛けで、選ばれた候補者達がガニメデ軍探査隊基地に集まって来ていいるのだ。

果たして何人集まっているのか?

特殊部隊のキール、カナン、ミーアは早速ダイスと合流し、候補者達が集まっている会場へ向かった。


「前回は大荒れになったけど、候補者は来てるんですかね?」

「…わからん。とりあえず行って見るか。」

「ねー、キール、今日は戦えるのー?」

相変わらずミーアは戦う事で頭がいっぱいのようだ。

「ミーアちゃん、そればっかり…。」

「今日はまだわかんねぇぞ。黙ってついて来い!」

「はぁーい…。」

こうして四人は会場へ向かった。



四人が会場に入ると、前回選ばれた傭兵、素人のグループから六人が来ていた。

しかも前回不合格になった軍のランダー、ブンとゾルに加え、ダイスに異議を唱えた為に追い出された素人のスーまで来ていた。

どうやって基地に入り込んだかはわからないが、前回の結果に納得していないのは間違いない。

果たしてダイスはこの三人にどう対処するのか?

しかし、ダイスの口から思いもよらない言葉が! 

「今日来たのは、この六人か…。」



無視…完全に無視…。

まるでブン達がそこにいないかのようなその態度…。

怒鳴られ、追い返されるのも覚悟でここに来た。

何を言われても一歩も引かない覚悟で三人は来た。

しかし、待っていたのは冷酷な仕打ち…。

『どこまで馬鹿にすりゃ気が済むんだ…!』

ブン達がダイスを睨みつける。

そして一人の男が抗議の口火を切る!


「よし、今日からお前達はここで木星探査の訓練を受けてもらう。いいな!」

「はい!」

「ちょっと待てよ!」

ダイスが説明しようとすると、スーが話に割って入って来た。

「それじゃ、まずは…。」

「待てって言ってんだろ!」

ダイスは三人の方に振り向く。

「俺らはどうなんの?」

「部外者は出ていけよ。出入り禁止だよ。出禁だよ!」

「部外者じゃねぇよ!」

抗議するスーにダイスは冷たくあしらう。


「帰って来るって言ったじゃん!」

「誰も帰って来いなんて言ってねぇよ!」 

すると、ブンが席を立つ。

「先生、残らせてください。お願いします!」

「駄目だよ、お前はもう不合格なんだよ。」

「厚かましいとは思いますけど、お願いします!」

「駄目なもの駄目。出ていけ!」

「自信だけはあります、お願いします!」

「駄目だよ。」



『もう一度!もう一度お願いします!』

何度も頭を下げ、懇願するブン。

しかし、ダイスは首を縦に振ろうとはしない。

ところが!


次は自分のASを持ったゾルが立ち上がった。

木星軍が使用している量産型ASのようだ。

「ダイス少佐、俺はどうなんのかな?軍をやめて来たけど。」

「そんなお前の事情なんか知らねぇよ!」

「これ、俺が使ってたASですわ。これで4年間頑張って来ました。」

「…。」

「血と汗と涙の結晶ですわ。」

するとゾルは小型のレーザーガンを取り出すと、自分のASに向けてレーザーを発射した。

レーザーの直撃を受けたASは爆発し、ゾルはレーザーガンを投げ捨てた。

「こっちに入れてくださいや!」



ランダーにとって愛機ともいえるASをダイス達の目の前で破壊するゾル。

『俺はすべてを捨てる!これで文句はないだろ…。』

思い詰めた表情でダイスを睨みつけるゾル。

押し黙るダイス。

しかし!



「よし、わかった!お前らの気持ちはわかった!」

まさか、残らせてくれるのか!?

三人がダイスを見つめる。

「もう一度お前らに言う!」






「今すぐ出ていけ!」

「いい加減にしろよ!」

スーが席から立ち上り、ダイスに詰め寄る。

「帰れしか言えねぇのかよ!?そんなんで俺らは帰れねぇよ!」

「出ていけ!」

「納得いかねぇよ!」

スーはダイスの胸ぐらを掴む。

ダイスもスーの胸ぐらを掴み揉み合いになる。

慌てて兵士やメイド隊が止めに入る。

「手ぇ出すな!手ぇ出すな!」

「やめろやめろやめろやめろ!」

固い表情で同じ言葉を繰り返すダイスに、スーの苛立ちが爆発する!

『俺達の思いを何度踏みにじれば気が済むんだ!』

やり場のない情熱、度重なる侮辱への怒り…。

荒んだ静寂が会場を支配する…。

怒るスーをたしなめながらゾルは言う。

「少佐、みんなこれだけやる気があるんですよ。」



誰も好き好んでこんな事をやってるんじゃない。

『俺達は木星圏の繁栄の為に出来る事をしたいんだ。』

そうゾルはダイスに思いをぶつける。

三人の情熱はダイスの決定を覆すのか?

しかし、ダイスの口から信じられない言葉が!




「これじゃしょうがねぇじゃんかよ!せっかく今日から基礎訓練を始めようと思ったけど、オーディションのやり直しだ!」

その言葉にキール達も唖然となる。

「少佐!ちょっと待ってくださいよ!」

「いきなりは…ちょっと…。」

「揉め事はもうやめようよぉー。」


キール達だけではなく、候補者達も我が耳を疑う。

ダイスさん、今何て言った?もう一回言ってくれ!

しかしダイスは強い口調で、

『オーディションを一からやり直す!』

そう繰り返すだけ。

『今日ようやく立ったスタートラインなのに全て白紙に戻すと言うのか?』

予想だにしない言葉に六人の候補者達の顔色が変わる。

しかし、この一言がさらなる混乱を招いてしまう!



「ちょっと待ってください!」

候補者の一人、傭兵のブラーが声をあげる。

「訓練やらせてください!この六人でやらせてください!」

「いいじゃん、オーディションやるって言ってんだから。やってやるよ!」

スーはやる気満々だ。

「やり直しだ!」

ダイスの決定は変わらない。

「ちょっと待ってくださいよ!」

候補者の一人、傭兵のゲモンが口を開く。


「俺らは、前回、ダイスさんに、『やる気のある奴だけが来い!』って言われて来たんですよ!こいつらは、前回落ちたんですよ!筋が通ってないですよ!」

「うるせぇよ!」

スーはゲモンを睨みつける。

「こいつらはゴネてるだけですよ!ゴネ得なんですよ!」

「ゴタゴタ言ってんじゃねぇよ!」

「こういうような連中がね、また次々と出てくるんですよ!!こいつらゾンビと一緒なんですよ!お前らもさぁ、男だったらウダウダ言わずにカッコよく散ってけよ!」

「お前、それだけ偉いのかよ!?」

スーがゲモンに詰め寄る。

「偉いとかそういう問題じゃねぇよ!俺らは、ちゃんと筋通して来てる!お前らみたいな落ちたのがまたここに来てさぁ、それをゴネてるって言ってるんだよ!」

「オーディションやるって言ってるんだからやればいいじゃん!」

「女々しいんだよ!お前ら女々しいんだよ!」

「うるせぇんだよ!」



『このゴネ得野郎が!とっとと帰れ!』

激しい言葉で罵るゲモン。

何でこいつらのゴタゴタに巻き込まれなきゃいけないんだ!

『自分達は正規のルートでここまで残って来た。それがあの三人のせいで無効?そんなの納得出来る訳がない!』

悪い冗談はやめてくれ!

一触即発の空気が会場を支配する…。

しかし!


再びブンがダイスに頭を下げる。

「先生、どうしても残らせてください!お願いします!」

しかしダイスは何も答えない。

ブンは土下座してダイスに頭を下げる。

「先生、お願いします!」

それを見たゲモンはブンに声をあげる。

「もうやめろよ!カッコ悪いよ!男じゃねぇよ、そんなの!」

ブンはゲモンを睨みつける。

「ほっといてくれや!」

ブンはダイスのズボンを掴み、執拗に懇願する。

「先生、お願いします!どうしても残らせてください!」

「離せよ!」

「いいえ、やる気はありますから、お願いします!」

「離せって言ってんだろ!」

再び二人は掴み合いになり、激しく揉み合いになった。

兵士やメイド隊がまた止めに入る。

「落ち着いて座ろう。」

「落ち着いてください…。」

兵士とメイド隊がブンを落ち着かせる。


「…もう、揉め事ばっかり…。」

「ああ…、少佐も上層部も何考えてんだ…!」 

キールとカナンはすっかり身も心も疲れ果てていた。

「そんな事より、早く戦いたいよぉー。」

ミーアはかなり退屈しているようだ。

そして、ダイスの口から信じられない言葉が!




「駄目だ、もうこの選考は!やめよう!」

「待ってくださいよ、少佐!」

「三人には悪いし、上層部には申し訳ないけど、やってもしょうがない!」

ダイスは候補者のプロフィールを載せた電子ノートをその場に投げ捨てた。

「おしまい!」

ダイスは会場から出ていってしまう。

「ちょっと待ってくださいよ!」

候補者達の制止も耳に入っていない。

キール達は慌ててダイスを追う。

「ちょっとお前らここで待っててくれよ!」

「…ごめんなさい。」

「二人とも待ってよー!」



『もうやめだ!』

いきなり中止を告げ、会場を去るダイス。

候補者達はあまりの出来事に驚きを隠せない。

そして!


会場の外では、キール達がダイスを説得していた。

「これじゃ滅茶苦茶じゃねぇか!まったく!」

「まさかあの三人が入り込んでたとはなぁ…。」

「落ちた人達の気持ちも…わかる…。」

「これじゃ先に進まないよぉー。」

「もう一回落ち着いてもう一度話し合ってくれませんかね?中途半端に終わりには出来ないんでね。」


そう、残っている六人も戻って来た三人も思いは同じ。

『木星圏の為に出来る事したい』

ただそれだけである。

しかし、ダイスとしても一度決めた事を覆す訳にはいかない。

だが三人にもやる気があるのは事実…。

このままでは話が先に進まない。

『どうすればいい?どうすれば…。』

そして数分後、意を決したかのようにダイスが動き出す。

だがダイスの口から思いも寄らない言葉が!



会場に戻ったダイスとキール達。

ダイスはブン達三人の元に歩み寄る。

「お前らの気持ちはわかるよ。一回落ちて、またここに来るっていう熱意はわかる。だがな、その熱意と、探査隊に入るってのは、別問題なんだよ!」

ダイスは三人をじっと見つめる。

「ここで待ってろ。」

ダイスは候補者達の元へ歩み寄る。

「お前らはどうだ、あの三人は?ゲモンは?」

「俺はあいつら気に入らないですね!」

「気に入らない?」

「全然筋通ってないですよ!俺はちゃんと筋通して来てるし、あいつらはゴネてるだけですよ!ああいう連中はね、絶対足手まといになりますよ!」



『あんな奴等、とっとと追い返すべきだ!』

強い口調で三人を否定するゲモン。

なかなか帰らない三人への苛立ち、そして訓練開始の遅れへの苛立ちを剥き出しにする。

他の五人も同じ考えなのだろうか?

しかし!



「グラゼルは?」

ダイスは候補者の一人、大柄の傭兵、グラゼルに聞く。

「別にいいんちゃいますか?入りたいって言うてるんやったら。足手まといにならんかったらいいんやし。」



ゲモンとは対照的に三人の参加を認める口振りのグラゼル。

やりたいんならやらせてやればいい。

『どっちでもいいから、早く訓練を始めませんか?』

口には出さないが他の四人も同意しているようだ。

哀れみ?それとも無関心…?

ダイスに投げ掛けられるグラゼルの冷たい視線…。

しかし、ダイスの口から思いも寄らない一言が!



「じゃあお前が帰れ!」

「へ?」



『じゃあお前が帰れ!』

ダイスの一言に絶句するグラゼル。

『何言ってんだコイツは?問題なのはあの三人だろ?』

俺はあんたに言われてその感想を聞かれただけ。

『何で俺が帰らなきゃいけないんだ…?』

言い間違いでしょ、いくら何でも!?

しかし!



「じゃあ、お前は何しにここに来たんだ?」

「はぁ?訳がわからんわ!」

「甘ったれてんじゃねぇよバカ野郎!お前甘えんだよ!」



『甘えんだよ!』

切り裂くようなダイスの怒声。

これは木星圏や地球圏、火星圏の命運を賭けた重要なプロジェクト。もう勝負は始まっている!

別にどっちでもいいだと?

『一人生きれば一人死ぬ。そんな戦場の真ん中でもそんな寝言を言えるのか?』

グラゼルは何も言い返せない。

そして、ダイスの口からさらに信じられない言葉が!


ダイスはブン達三人に視線を向ける。

「おいお前ら、席が一つ空くぞ!」



『この男はこの席がいらないらしい。欲しい奴は奪い取れ!』

子供じみた、しかし強烈なダイスの言葉。

どうしてもここに入りたいんだろ?

『この男をどかせるだけで済む。さあ、どうする?』

ダイスの視線が三人を直撃する。

しかし、あまりに突然の言葉に戸惑う三人。

そんな馬鹿げた話…どうすれば…。

しかし、ここで一人の男が動く!



いきなりブンが席から立ち上がり、グラゼルの元に歩み寄る。

「席譲ってもらってもいいですか?」

ブンはダイスに確認する。

「好きにしろよ。」

ダイスの許可を得て、ブンはグラゼルに近づく。

「席を譲ってください!」

しかし、ゲモンが立ち上がり、ブンを制止する。

「お前やめろよ!」

「どいてください!」

「俺らは選ばれてるんだよ!そしてお前らは選ばれてねぇんだよ!情熱とかさ、そんなもんはクソなんだよ!」

「何言うてるんですか!情熱がなかったらここに来てへんで!」

ブンはゲモンを押し退けてグラゼルに懇願する。

「お願いします、席を譲ってください!」

「何で譲らなあかんねん!座っとれや!」

「いいえ、私はASの腕はあなたには負けへんつもりです!」

「だから?」

「だから席を代わってください!お願いします!」

「だから誰が代わる言うてん!?代わる訳ないやろ!」 

「 木星の発展させたい気持ちはあなたには負けへんつもりです!譲ってください!」

「だから何で譲らなあかんねん!?」

ブンが執拗にグラゼルに食い下がる中、候補者の一人がダイスに抗議する。

「すみません、こんな事やらせて何が楽しいんですか!?」

「黙ってろ!」

すると、ブンとグラゼルが揉み合いになり、乱闘が発生する。

慌てて兵士やメイド隊が止めに入る。

「席を譲ってください!」

「誰が譲るか!」

「落ち着け落ち着け、やめろやめろやめろやめろ!」

しばらくして乱闘はようやく収まった。



執念…。

熱意などと言う言葉を超えたその行動…。

この男にあるのはたった一つの思いだけ。

『絶対に勝ち残る!勝つしかないんだ!』

異常…、なぜここまで…。

六人の候補者達に困惑の表情が浮かぶ。

しかし、ダイスの口から信じられない言葉が!



「また揉め事かよ…。」

「もう嫌…。」

「もう退屈だよぉー。」

キール達三人も頭を抱えていた。

ダイスはブンに視線を向けて口を開く。


「ブン、お前合格だ!」

「ほ、本当ですか…?」

「ああ。」

「あ、ありがとうございます!」



『ブン合格』

あまりに唐突、そして衝撃的なダイスの一言。

『一体何故この男が…?』

六人の候補者達は言葉を失う。

ブンも合格となった理由がわからず、ただ呆然としていた。

さらに!




ダイスは席に座っているゾルとスーの元に歩み寄る。

「お前らにもチャンスあったのに、何で席取りに行かねぇんだよ?」

スーはダイスを睨みつける。

「バカじゃねぇの?そんなイス取りゲームみたいな
事やらして、つまんねぇよ!馬鹿馬鹿しいよ!」

「何が馬鹿馬鹿しいんだ?」

「やらしてる事がだよ!そんなイス取りゲームみたいな事最初からやればいいじゃねぇかよ!馬鹿げるって!」

「その馬鹿げた男がお前らの隊長になるんだよ!」



ダイスの厳しい言葉がスーに突き刺さる。

『確かにあんな馬鹿げた話に乗ったあいつは馬鹿だ…。しかし、そいつを合格にした俺は大馬鹿だ!』

木星圏のエネルギー問題を解決しつつ、地球と火星の戦争を止めるなんて事自体、馬鹿げた夢物語…。

『お前みたいな素人同然の奴がまともに立ち向かえると思っているのか?』

俺はお前をまともな社会人にしようとは思わない。

『お前らがどこまで馬鹿になれるか?見極めたいのはその覚悟だ!』

ダイスは改めて全員に問う。



「俺のやり方に不満のある奴は今すぐ出ていけ!」

しかし、誰も席を立とうとしない。

「帰っていいぞ!いねぇのか?」

すると、素人の候補者の一人が席を立つ。

「ダイスさん…、すみません…。」

候補者はそのまま会場を後にした。

しかし、ダイスは黙って見送った。

仕方ない…、引き返すなら今の内だ。

そして!



「よし、合格者六名!決まりだ!」

ダイスは合格となった候補者達を見つめる。

そして、残ったゾル、スーの二人に視線を向ける。

「お前ら、来たいんだったら来い!ただし、邪魔したら辞めてもらうぞ!」

「は、はい!」

ダイスはゾルとスーも合格にしたようだ。

「よし、お前ら全員、明日朝6時、ガニメデ軍基地に集合だ。いいな!」

「はい!」

こうして、六人の傭兵、素人と二人のランダーが木星探査隊の新メンバーに決まった。

ここから待ち受けるのは本当の地獄…。

『お前ら全員、覚悟はいいか?』

ダイスの呼び掛けに力強く頷く新メンバー達。



「ふぅ、やっと隊員が決まったか…。」

「良かった…。」

キールとカナンは胸を撫で下ろした。

「ねー、ようやく戦えるのぉー?」

ミーアもようやく元気が戻ったようだ。

「そうだな、戦闘訓練もあるからその時に出番があるかもな。」

「やったー!楽しみー!」


『明日、ガニメデ軍基地に朝6時!』

いよいよ始まる鬼との真剣勝負、そして地獄の訓練。

しかし次回、とんでもない激震が!





第6戦に続く。






































































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