戦神兄妹

ジェダ

第4戦 男の娘もいいかもしれない


前回の戦闘から1日が過ぎた。

今日もタカヤは放課後にゼルの特訓を受けていた。

リリとサクヤとノエルはそれを見守っていた。



「よし、今日から新しい特訓を始めるぞ。準備はいいか?」

「は、はい!」

タカヤとゼルはASを装着していた。

今日から本格的な訓練が始まるのだ。

「まずは射撃訓練からだ。正確な射撃が出来れば敵を殺さずに動きを止める事も可能になる。」

グラウンドにはあらかじめ的変わりになるボロボロのASが配置されていた。

「これを…撃つの?」

「そうだ。」

「やってみろ。」

「わかった。ニュートラル・ランチャー!」

タカヤはライフルを転送する。

ライフルを手にすると、的になるASに向かって撃ち始める。


しかし、配置されているASに全く当たらない。

「な、なんで!」

動いていない的なんて楽勝!と思っていたが、いざ 
撃ってみると、以外と当たらない。

「お兄ちゃん、惜しい!」

「お兄様、実戦の時の事を思い出してください!」

リリとサクヤが応援してくれている。

「そんな事言われたって…。」

あの時は無我夢中で撃ってたし…。

「ちゃんとセンサーの表示を見てるのか?」

ゼルに言われて、タカヤは気付いた。

センサーに表示される照準マークを見ていなかった。

今度は目標に照準を合わせ、ライフルの引き金を引く。

「そこだ!」

ライフルから放たれた弾丸はASを撃ち貫いた。

「や、やった!」

「やったね!」

「その調子ですわ!」

タカヤはその後も、次々と的に攻撃を当てていった。

「よし、上出来だ。次の訓練だが…。」

次の訓練に進めようとした、その時!



「タカヤ君、やってるじゃないか。」

そこに現れたのは、生徒会長のフィリアだった。

彼女の周りにはやっぱり他の女子生徒が集まっている。

「フィリアさん…。どうして?」

「前に言ったはずだ。君の特訓に付き合ってやると。」

フィリアは既に戦闘用スーツを着ていた。

「私が直々に相手をしてやろう。ゼル、構わないよね?」

「…好きにしろ。」

「と、言う訳だ。タカヤ君、よろしくな。」

フィリアは専用AS[白虎・改]を装着する。

そして、二本の刀を転送する。

「あれ?あの刀じゃ…、ない?」

「シラヌイとウンリュウの事か?これは実戦ではなく特訓だ。今回は訓練用の武器を使う。君はこれを使え。」

フィリアは訓練用の剣を転送すると、それをタカヤに手渡した。

そして、フィリアが構える。

「さあタカヤ君、かかって来い。」

フィリアさんと戦うのはこれが初めてだ。

訓練とはいえ、かなりのプレッシャーを感じる。

どうやって攻めていいかわからない。

とりあえず僕から攻める事にした。

「行くよ!うぉぉぉぉ!」

ブースターを全開に吹かせてフィリアに突っ込み、一気に斬りかかる。

しかし、その一撃をフィリアは余裕でかわす。

「甘いな。」

「こ、このぉ!」

タカヤは何回もフィリアに斬りかかるが、全く当たらない。

「今度はこちらから行く。」

そしてフィリアがタカヤの斬撃を避け、その隙をついて斬りつけた。

その一撃を食らったタカヤのASのシールドが減少し、タカヤは膝をつく。

「さすがフィリアさん!さすがですー!」

フィリアのその華麗な剣技にフィリアファンの女子生徒達も興奮する。」

「うっ…!」

「どうしたタカヤ君?立て!」

「このぉー!」

立ち上がったタカヤは再びフィリアに向かって剣を降り下ろす。

やっぱりフィリアにはかすりもしない。

フィリアはタカヤの攻撃を避けると、再び隙をついて一撃を叩き込んだ。

またしてもタカヤは膝をついてしまう。

「君の剣の腕はまだまだ未熟だ!」

「こんなの、勝てる訳ないよ…。」

タカヤはすっかり自信をなくしてしまっていた。

「お兄ちゃん…!」

「お兄様…。」

リリとサクヤは心配そうにタカヤを見ていた。

と、ここでフィリアが口を開く!


「この前の自信はどうした!?前にも言ったはずだ、君なら出来ると!さぁ、かかって来い!」

フィリアの叱咤を受けて、タカヤは立ち上がった。

こんな事であきらめたら、男じゃない。

タカヤは再びフィリアに斬りかかる。

またしても避けられるが、次の一撃がフィリアに決まりそうになる。

しかし!


それの一撃は刀で受け止められてしまった。

「今のはいい一撃だった。だが、ここまでだ!」

フィリアはタカヤを突き飛ばすと、突進して二本の刀でとどめの一撃を決める。


フィリアの一撃を食らって、タカヤはその場に倒れてしまった。

「…フィリアさん、やっぱり強いね。」

「まだまだ君が未熟なだけだよ。君の力は見せてもらったよ。明日から接近戦の基本を教えてやろう。」

「う、うん、よろしく…。」

「それじゃ、また明日な。」

フィリアが振り向くと、兄のジークが女子生徒数人を口説いているのが見えた。

フィリアはジークの元に全速力で駆け付けると、ジークを日本刀で斬り捨てる。

フィリアは気絶したジークをひきずってグラウンドを後にした。


そして、今日の特訓は無事に終了した。

「今日はこれまでだ。またな。」

「タカヤさん…、また明日…。」

ゼルとノエルも帰って行った。

「お兄ちゃん、お疲れ!」

「お兄様、お疲れ様です。」

「はは…、今日もきつかったよ…。」

「それじゃ、あたし達も帰ろっか!」

「うん、トイレ行って来るから先に教室で待ってて。」

「わかった!」

「お兄様、待ってますわね。」

二人は先に教室に向かって行った。


タカヤはトイレに向かう前に顔を洗う事にした。

ああ、今日も疲れた…。

と、誰かが走って来る音が聞こえる。

しだいにその音が大きくなっていく。

まさか…。

タカヤが振り向くと、一人の女の子がこっちに向かって走って来た。

「どいてどいてー!」

「えぇ!?」

いきなり言われても!

女の子も止まろうとするが手遅れだった。

そして!


タカヤと女の子は派手にぶつかってしまった。

「いたたた…。」

「す、すみません!大丈夫ですか?」

「う、うん、大丈夫…。」

よく見たらその女の子はとても可愛かった。

胸は残念なほどにないけど…。

「あの…立てますか?」

「う、うんって、えぇ?」

僕は見てしまった。

「ど、どうしたんですか?」

「い、いや…下…。」

「下…、うわぁっ!?」

スカートからパンツが見えていたのだ。

ちょっとだけど…。

「ぼ、僕はみ、見てないから!」

「い、いや、こっちこそごめんなさい!それじゃ!」

女の子はとっさに立ち上がるとそのまま走り去って行った。

「何なんだ…?」

あんな女の子は見た事ない…。

他のクラスの子かな?

タカヤは急いでトイレに向かった。


「お兄ちゃん、遅いよ!」

「何かあったんですか?」

「な、何でもない…。すぐに着替えるから。」

タカヤは制服に着替え終えると、二人と一緒に学校を出た。



そして、次の日。

午前の授業がおわり、昼休みに入るとリリとサクヤが弁当を持って近づいて来た。

「お兄ちゃん!お弁当食べよ!」

「う、うん、そうだね。」

三人が屋上に向かおうとした、その時!



「リリちゃん、サクヤちゃん、やっほー!」

二人の少女が教室に入って来た。

背の高い女の子と背の小さい女の子だ。

「あっ、アイカちゃん、ファリスちゃん!」

何故か小さい女の子の方は何故かゴスロリ服を着ている。

その子を僕は見た事あるような…。

「この前の任務はお疲れ様ー。」

「お疲れー!あたし達なら楽勝だよー。」

「あ、あなたが第七中隊期待の新人クンねー。」

「は、はい…。」

背の高い女の子が僕に話しかけて来た。

「私は第二中隊のアイカ・リビンスキーよ。よろしくねー。」

「よ、よろしく…。」

「そして、この子が妹のファリスよ。」

この子、ファリスって言うんだ…。

「あぁ!あの時の!?」

「見た事あるって思ったら!?」

やっぱり、昨日ぶつかって来た女の子だ。

「え?ファリスちゃんを知ってるの?」

「知りませんでした…。」

リリとサクヤが驚いている。

「あらあら、ファリスちゃんともうお知り合いだったなんてー。」

「いや、そういう訳じゃなくて…。」

「とりあえず屋上でお弁当食べながらお話しましょー。」

タカヤ達は弁当を持って屋上へ向かった。


今日も屋上では弁当を食べている生徒達で賑わっていた。

そこにはタカヤ、リリ、サクヤ、アイカ、ファリスの五人もいた。

「そうなんだー、そうやってファリスちゃんと知り合ったのねー。」

タカヤとファリスは昨日の出来事を三人に話した。

アイカ・ファリス姉妹とリリ達は過去の任務で一緒に戦って以来の親友同士だったのだ。

「で、ファリスちゃんは…何であの時走ってたの…?」

タカヤは昨日の事についてファリスに聞いてみる。

「そ、それは…、姉さんがまた衣装着せようとするから…。」

どうやらアイカの作った衣装を着せられそうになって逃げ出したらしい。

「ファリスちゃーん、あれはせっかく可愛い衣装だったのにー。」

アイカは演劇部に所属しており、衣装作りも担当しているのだ。

趣味でコスプレ衣装も作っているらしく、ファリス用のも作っているらしい。

ファリスはすっかり顔が赤くなっていた。

「な、何で嫌だったの…?」

「そ、それは…。」

すると、アイカが口を開く!

「あらあらー、二人共いつの間にそんなに仲良くなったのー?」

アイカが二人が仲良くなった姿を妄想して微笑んでいる。

「ちょ、ちょっと、そんなんじゃ…!」

「ね、姉さん!妄想し過ぎだよ!」

「また始まったね、アイカちゃんの妄想が…。」

「そうですわね…。」

アイカは妄想し出すと人の話を聞かない癖があるようだ。

「もうー、二人共うらやましいわねー。」

アイカは妄想しながらタカヤの背中を押す。

「うわっ!」

アイカに押されたタカヤはバランスを崩して前にいたファリスを押し倒してしまった。

「うわぁっ!」

「ご、ごめん!だ、大丈夫?」

「う、うん…って、ひゃあ!」

よく見ると、タカヤの手がファリスの胸に当たっていた。

「ご、ごめん!」

タカヤは慌てて手を離した。

しかも胸が驚く程にない。まるで男の子のように…。

そしてファリスが顔真っ赤にして叫ぶ。

「ぼ、僕は男の子です…!」

「へ?」

タカヤはその場で唖然としていた。


あまりにも可愛くて、とても男の子には見えなかった。

声もそうだけど…。

「リリとサクヤは…知ってたの?」

「もちろん知ってますわ。」

「知ってたよ!いわゆる男の娘だよ!」

「お、男の娘…?」


何なんだ、男の娘って…。

訳がわからないや。

しかも何でゴスロリ服を着ているのか…。

「あ、あのー、何でファリス…君は何でゴスロリ服着てるんですか…?」

タカヤはアイカに聞いてみた。

「今度の演劇で使う衣装をお披露目しようと思ってー。」

「そ、そうなの?」

「う、うん…。ぼ、僕は恥ずかしいから嫌だったんだけど…。」

ファリスも同じく演劇部に所属していたのだ。

見た目が女の子っぽいが為に、女の子の役をやらされる事が多いようだ。

「た、大変だね…。」

「そうだよ、次はどんな物着せられるのか…。」

「お兄ちゃん、早くお弁当食べようよ!」

「そ、そうだね。」

タカヤやアイカ達も再びお弁当を食べだした。

「次の任務も一緒になれるといいわねー。」

「うん、そうだね!」

こうして賑やかなお昼休みは終わった。



そして午後の授業が終わると、放課後は再びゼルの特訓が始まる。

今回はフィリアによる剣の訓練から始める事になった。

「今日は私から教えてやろう。よろしくな。」

「よ、よろしく!」

フィリアの特訓も結構厳しくて、緊張する。

「よし、まずは剣の持ち方からだね。」

タカヤが訓練用の剣を持つと、フィリアはタカヤの手を握り、剣の持ち方を教える。 

フィリアの手、柔らかくて、温かい。

思わずドキドキしてしまった。

「その状態で素振り百回!やってみろ。」

「う、うん!」

まずは基本的な特訓から始まった。

そして、剣の特訓が終わった。

そして、次はジークによる遠距離戦闘の訓練が始まった。

「よし、次は俺が遠距離での戦いを教えてやる!よろしくな。」

「うん、よろしく!」

今度は動く標的を撃つ訓練だ。


グラウンドに標的となる小型ロボットが飛び回っている。

「あのロボットを訓練用ライフルで全部撃ち落としてみな!」


「う、うん!」

タカヤはライフルを構えると、動き回るロボットに向けて撃ちまくる。

しかし、素早く動く標的にはなかなか当たらない。

「でたらめに撃っても当たらねぇぞ!前の訓練を思い出せ!」

そうだった。敵に照準を合わせて…。

「そこだ!」

タカヤは次々とロボットを撃ち落としていった。

「お兄ちゃん、その調子だよ!」

「頑張ってください、お兄様!」

リリとサクヤも応援する。

そして、タカヤは何とか目標を全て撃ち落とす事に成功した。



そして、今日の特訓が全て終了した。

「よし、今日はここまでだ。」

「タカヤさん…また明日…。」

ゼルとノエルはグラウンドを後にした。

そしてフィリアとジークも帰ろうとする。

「あ、あの、フィリアさん、ジーク君、今日はありがとう…!」

「お礼なんていいんだよ。チームの一員としては君には強くなってもらわないといけないんだ!そ、それだけなんだからねっ!」

「いいって事よ。またな!」

フィリアとジークも帰って行った。




「ふぅー、今日も疲れた…。」

「お兄ちゃん、帰ろ!」

「うん!」

三人も帰ろうとすると、そこにアイカとファリスの姉弟が来た。

「みんなー、お疲れ様ー。」

「ど、どうも…。」

ファリスはちゃんと男子用の制服を着ている。

まさか衣装を着るとあんなに変わるとは…。

「あ、アイカちゃん!ファリスちゃん!」

「部活は終わったのですか?」

「まあねー。それより、これからみんなでファミレス行かなーい?タカヤ君も一緒にー。」

「あ、いいねー!お兄ちゃんも疲れてるしね!」

「もちろんご一緒しますわ。」

「それじゃ、出発ねー。」

今日は疲れてるからいいか…。

たまにはこういうのもいいかもしれない。

五人は早速学校を出た。



学校を出た五人は近くのファミレスに入った。

すっかり夕方になってしまった為、それなりに客は入っている。

五人は全員ジュース飲み放題のドリンクバーを注文した。

しかもアイカはケーキまで注文していた。

アイカはスマートフォンを取り出すと、自分の作った衣装の写真を三人に見せた。


「この服もいいでしょー。今度ファリスちゃんに着せてみようと思ってー。」

それはアニメで見るような魔法少女風の衣装だった。

「これ可愛いねー!」

「アイカさんは凄いですわ。」

「こ、こんなの恥ずかしいよ…。」

ファリスは顔を真っ赤にしている。

「これもいいでしょー。」

「これも可愛いねー!」

四人が衣装を見て盛り上ってる中、タカヤは店内のモニターに目をやる。

今はニュースが映っていた。

なんと、衝撃的なニュースが流れた。

「火星圏統合政府は今日、地球圏統一連合に対し、宣戦布告を宣言しました。」


何だって…!

「ねー、タカヤ君のも作ってあげるよー。」

「い、いいよ!女装なんてしないから!そ、それよりニュース見て、ニュース!」

「え?」

四人がモニターを見る。



「これから火星圏統合政府代表、ゲルニカス大統領の演説が始まるそうです。」

「火星圏の諸君!ついに我々はエネルギー不足から開放される時が来た!新たなAS、新兵器の準備が着々と進み、もはや地球軍を恐れる必要はなくなった!火星圏の輝かしい未来の為に、地球圏のエネルギーは全て火星圏が頂く!これより、地球圏統一連合に対し、宣戦を布告する!」



五人は演説をじっと見つめていた。

ついに火星圏が宣戦布告…。

本格的な戦争が再び始まるのだ。

と、ここでアイカが口を開く。

「タカヤ君、あなたはゼル君の特訓を毎日受けてるんでしょ?」

「う、うん。」

「今の君なら大丈夫よ。君はあたし達の切り札なんだから、期待してるわよー。」

アイカはにっこりと微笑んだ。

タカヤは笑顔を見て胸がドキッとなった。

「う、うん、頑張るよ!」

そうだ、もうこれ以上無様な戦いは出来ないんだ。

「そうだよ、お兄ちゃん!」

「お兄様なら出来ます!」

「タカヤ君なら…大丈夫です!」

「みんな、ありがとう!」

みんなに励まされてタカヤは自信を持つ事が出来た。

この戦い、絶対に負けられないんだ。


五人はそれからしばらくゆっくりした後、ファミレスを出た。

「それじゃみんなまたねー。」

「うん、また明日ね!」

アイカとファリスも帰って行った。

「あたし達も帰ろ!」

「そうですわね。」

「うん…。」

三人も家に帰る為に駅へ向かった。


その帰り道。

「ねぇお兄ちゃん、手…繋いでいい?」

「え?え?」

一体何を言い出すんだ?

「お兄様、フィリアさんとも手を繋いでましたよね?」

確かに訓練の時に握られたけど…。

「あ、あれは特訓だから、仕方なく…。」

「だったら、あたし達と繋いでもいいでしょ?」

「う、うん…。」

「それじゃ、決まりですわね。」

「じゃ、あたしはこっち!」

リリは僕の左手を握った。

「私はこちらですね!」

サクヤは僕の鞄を持つと、僕の右手をギュッと握った。

二人の手も柔らかくて、温かい。

妹とはいえ、女の子に手を握られるとドキドキする。

「お兄ちゃん、緊張してるの?」

「え?い、いや…。」

「そうですわ。元気がないですよ。」

二人が心配そうに僕を見ている。

「う、うん、これから戦争になると思うと緊張してしまって…。」

「大丈夫だよ!お兄ちゃんにはあたし達がついてるよ!」

「そうですわ。ノエルさんやフィリアさんもいますから心配しないでくださいね。」

「うん、ありがとう…。」

二人に手を繋がれた緊張もあるが、これから本格的な戦争になるという緊張感もあった。

「良かったら、あたし達が一緒に寝てあげてもいいよ!」

「そうすれば緊張もしなくなると思いますわ。」

「いいいいや、だ、大丈夫だって!ま、またいつか、寝てあげるから!」

「約束だよ!」

「う、うん!」

けど二人のおかげで緊張も少しはましになってきた。

三人は手を繋ぎながら家に帰った。




そして次の日の午前。

タカヤは授業中も緊張していた。

今はいつ出撃要請があってもおかしくないのだ。

そんなタカヤをノエルが心配そうに見ていた。

「タカヤさん…、元気、ないですよ…。」

「あ、ありがとう。大丈夫だよ…。」

そう言ったものの、やっぱり緊張は隠せなかった。

その時、教室内に警報が鳴り響く。


「特務中隊に出撃要請!ブルネイコロニーが火星軍の襲撃を受けている模様。第二、第三、第七中隊はただちに出撃せよ!」

出撃要請のアナウンスが流れた。


やっぱりこうなってしまうのか…。

第二中隊って事はアイカさん達も一緒か…。

「第七中隊、出撃するぞ!」

「了解!」

第七中隊は前回と同じメンバーでの出撃となった。

タカヤ達は急いで基地へ向かった。



タカヤ達はイズモ軍基地に着くと、すぐに戦艦[シラサギ]に乗り込んだ。

そして、シラサギは第二中隊旗艦[ユリシーズ]、第三中隊旗艦[アルマダ]と共にブルネイコロニーへと出発した。


シラサギが宇宙空間を進んでいる間、担任であり隊長でもあるクリスはメンバーを司令室に集めた。

「みんな、火星大統領の演説を見たと思うけど、火星軍がついに資源を狙って来たわ。これまでとは違って厳しい戦いになるわ。絶対にみんな無事で帰って来る事。いいわね!」

「はい!」

「タカヤ君、君は仲間を信じて、自信を持って戦いなさい。わかったわね?」

「はい!」

「みんな、出撃準備よ!」

メンバーは出撃準備に向かった。


第七中隊のメンバーはそれぞれのASに装着し、出撃の時を待った。

そして、ついにその時が来た。

「みんな、ブルネイコロニーに着いたわ!ブルネイ軍の援護をして!」

「了解!白虎・改、出ます!」

「シュライク、出るぜ!」

ジーク、フィリアの兄妹が出撃した。

「アイアングリズリー、出る!」

「ティンクルガード、行きます。」

ゼル、ノエル兄妹も出撃する。

「勇気号、行くよ!」

「慈愛号、行きます!」

「き、希望号、出撃します!」

タカヤ達も宇宙空間へ飛び出した。


第二中隊旗艦ユリシーズ。

その格納庫で、アイカとファリスがASを装着していた。

アイカのASは[KAS-15 ヴァルキュリア]。

そして、ファリスのASは[KAS-25 ヴァーチャー]。

そしてオペレーターから通信が入る。


「まもなくブルネイコロニー宙域に到着します。出撃をお願いします。」

「了解ー。行くわよ、ファリスちゃん!」

「わかった、姉さん!」

二人は追加アーマーを装着し、出撃準備を完了させる。

「ヴァルキュリア、行きまーす。」

「ヴァーチャー、出ます!」

二人はカタパルトを使って出撃した。



ブルネイコロニー宙域では、すでに火星軍との戦闘が始まっていた。

地球圏所属のブルネイ軍はだんだん押されつつあった。

その時、火星軍の兵士が突然攻撃を食らって消滅した。



「こちらはイズモ軍特務中隊。ブルネイ軍を援護する。!」

「イズモ軍か!助かった!」

「みんな、火星軍を蹴散らすよ!海賊との戦いとは違う。油断するな!」

「了解!」

第七中隊は散開して火星軍の掃討を開始した。



「兄さん、後ろは頼む!」

「任せとけ、妹よ!」

フィリアとジークの前に、ASを装着した火星軍兵士が襲いかかる。

「来い、シラヌイ!ウンリュウ!」

フィリアは両手にヒートブレードとプラズマブレードを転送させる。

マシンガンを連射してくる兵士の攻撃を華麗に避け、二本の刀で次々と斬り捨てる。

「この程度か!」

後ろからも敵が次々と襲いかかる。

しかし、プラズマ弾の直撃を食らって消滅した。

ジークがプラズマライフルで遠距離から狙撃したのだ。

「俺の狙いからは逃げられねぇぜ!」


二人は次々と兵士を撃破していった。


「火星軍め、手応えがない…。」

すると、アラートが鳴り響く。

「何だ!?」

火星軍のASが一機接近して来たのだ。

しかも、量産機ではなく専用機だ。

「エースか…!」

すると、巨大なプラズマ弾が突然飛んで来た。

「くっ!」

フィリアは間一髪で避ける。

そして火星軍ASが近づいて来た。

「へぇ、てめぇもエースか!面白いじゃねぇか!俺はマーズ軍親衛隊所属、ガルバ・アルバレツ!てめえの名は?」

「私はイズモ軍第七中隊所属、フィリア・アルトリートだ。君は少しはやるようだね。」

ガルバのASは[MAS-05H ハルパー]。

重装甲のASのようだ。

右手には大きな杭打ち機のような物が装備されている。


「雑魚ばっかで退屈してたからよ、俺を楽しませろよ!プラズマパイルの餌食になりやがれぇ!」

「君との勝負、受けて立ってやる。来い!」

「行くぜぇ!」

フィリアは敵エースとの戦闘を開始した。


ゼルとノエルも敵部隊と遭遇した。

かなりの数だ。

敵兵はマシンガンやバズーカを撃ちまくって来た。

「…ノエル!」

「はい!ティンクルシールド!」

ノエルは大型の盾を転送させる。

そして盾からプラズマフィールドを放出する。

敵の攻撃は全てプラズマフィールドに弾かれた。

そして、ゼルがノエルの後ろから姿を表す。

「行くぞ、ブリューナク!」

ゼルの手に大剣が転送される。

そして、ブースターを吹かせて敵陣に突っ込むと、兵士達を剣の一撃で凪ぎ払う。

「ふん!」

さらにもう一撃で大量の敵兵が消滅する。


それを見ていたタカヤはやっぱりあの二人は凄い、と思った。

「僕も負けてられないね…。」

「そうだよ、お兄ちゃん!行くよ!」

「うん!」

三人も敵陣に向かって突っ込んで行った。



三人の前に多数の火星軍AS部隊がやって来る。

「ニュートラル・ランチャー!」

タカヤの手にライフルが転送される。

「くらえ!」

今までの特訓のおかげか、攻撃が的確に命中した。

弾丸が敵兵に次々と直撃し、消滅する。

「やった!」

「お兄ちゃん、その調子だよ!」

「うん!」

「よーし、あたしも!ファジー・ブラスト!」

リリの両手にマシンガンが転送される。

リリは敵に向けてマシンガンを連射し、次々と消滅させる。


「私も行きます!バズーカ・ランチャー!」

サクヤの手にバズーカが転送される。

バズーカを遠距離から撃ちまくり、爆風で次々と敵兵士が消滅する。

「やった!僕にも出来た!」

「お兄様、素敵ですわ!」

すると、ノエルから通信が入る。

「タカヤさん、ブルネイ軍の第三部隊が苦戦してるらしいです…。援護をお願いします…!」

「俺達はここで奴らを食い止める…!」

「わかりました!任せてくださいね。」

「と、言う事だよ!お兄ちゃん、行くよ!」

「うん!」

三人は苦戦しているブルネイ軍の援護に向かった。

三人はブルネイ軍と火星軍が戦っている宙域に到着した。

ブルネイ軍は三人のエースに押されているようだ。

「お兄ちゃん、サクヤちゃん、行くよ!」

「うん!」

「はい!」

三人は敵エースに向かって行った。



「地球軍、見ぃーっけた♪」

赤いAS、[MAS-010-1 マックスイーグル]を装着する少女は、マーズ軍親衛隊のマリー・オドニス中尉。

マリーは弓矢で次々と敵を狙い撃ちし、消滅させる。

「…攻撃開始。」

青いAS、[MAS-010-2 アクセルシャーク]を装着するのは、親衛隊のエリー・オドニス中尉。

エリーは二本の槍で次々と敵を凪ぎ倒す。

「行くよー!」

黄色いAS、[MAS-010-3 ラッシュパンサー]を装着しているのは、親衛隊のミリー・オドニス中尉。

ミリーは巨大な斧を振り回し、敵兵を消滅させる。

「みんな弱いねー。」

「強い奴は地球軍にはいないのかねー?」

「みんな…来るよ。」

「何が?」

すると、いきなりどこからかプラズマ弾が飛んで来た。

「うわっ!?」

マリーは何とか避ける。

すると、三体のASがこっちに向かって来た。

しかも見た事がない新型。

「あいつら、何者…?」

すると、タカヤ達がマリー達の目の前にやって来た。



タカヤ達三人は派手な色をしたASを見て驚いていた。

「凄い色だね…。」

「それだけの実力があるって事ですね…。」

「火星軍!あたし達と勝負だよ!」

その声を聞いたマリーから、驚くべき言葉が!



「あー!あんたリリでしょ!?」

「え?もしかして、マリーちゃん!?」

リリ達とこの三人は…知り合い?

「と、言う事はあんたがサクヤ?」

「はい、お久し振りです。」

すると、マリーは僕を指差した。

「…あんた、誰ー?」

いきなりあんたって言われても…。

「失礼ね!あたし達のお兄ちゃんだよ!」

「そ、そうです…。」

「ふーん。AS変えた上に三人組にしたからといってあたし達に勝てるとは限らないよー。」

「そうですわね。けど私たちも強くなってますわよ。」

リリ達とこの三人…とても敵対している者同士には見えないけど…。

「あたし達のASも強くなってるからな!負ける気はしないよ!」

「そういえばマリーのASは派手な色してるねー!」

「そうでしょー。イーグル、シャーク、パンサー、だよー!」

確かにそれぞれの動物をモチーフにしているみたいだ。

「あたし達の魂も萌え(燃え)ているんだから!」

「そうだよー!1+2…。」

すると、エリーがマリーに槍を突きつけた。

「それ以上は言わなくていいから…。」

「は、はい。」

「と、言う訳で、そこを通させてもらいます…。」

エリーが槍を構える。

マリーとミリーも武器を構える。

「望むところだよ!行くよ!」

「う、うん!」

調子狂わされたけど、相手は火星軍のエース。慎重に戦わないと。

「あたしから行くよー!」

先に仕掛けて来たのはマリーだった。

「行け、イーグルアロー!」

マリーは炎の矢でタカヤを狙ってきた。

「う、うわっ!?」

タカヤは何とかそれをかわす。しかし、炎の矢は手に持っていたライフルをかすめてしまった。

ライフルは高温でどろどろに溶けてしまった。

「そ、そんな…!」

「あたしの弓矢からは逃げられないよー。」

「こうなったら…、グラディウス!」

タカヤの手にニュートロン・ブレードが転送される。

「な、何あれ!?」

ニュートロンエネルギーの剣!?

あんな武器を見るのは初めてだよ…。

「うおぉぉぉぉ!」

タカヤはマリーに向かって突進する。

「くっ!」

マリーは炎の矢をひたすら連射する。

タカヤはグラディウスで連続で来る矢を斬り払う。

しかし、このままでは近づく事は出来ない。

どうすればいい…。

「お兄ちゃん!」

リリはタカヤを助けようとする。

すると、二本の槍を持ったエリーが立ち塞がる。

「あなたの相手はこの私です…。」

「どいて!コールド・ダガー!」

リリは両手にナイフを転送させる。

エリーは二本の槍を巧みに扱い、リリに遅いかかる。

リリはナイフでそれを受け流し、もう一本のナイフで反撃に出る。

しかし、エリーはその攻撃をギリギリで避けた。

「や、やるね…!」

「あなたもね…。」

二人は互角の戦いを続けていた。


「お兄様、お姉様、援護します!」

サクヤがマリー達に狙いを定めた、その時!

「悪いけど、そうはさせないっての!」

大戦斧を構えたミリーが立ち塞がった。

サクヤはバズーカとプラズマキャノンを同時発射する。

しかし、その攻撃はミリーの斧で斬り払われてしまう。

ミリーはどんどん間合いを詰めて来る。

サクヤはバズーカを撃ちながら後退し続けていた。



タカヤはマリーの攻撃を防ぎながらどんどん前進していた。

間合いを詰められるとまずい…。

マリーは戦っている二人に通信を入れる。

「みんな、こいつらやるよー!アレ使わなーい?」

「アレね…、わかった。」

「了解だよ!」

エリー、ミリーは突然戦闘を止め、後退する。

何をするつもりだ…?

警戒するタカヤ達。

「行くよ、必殺!ビースト・トライアングル!」

「了解…!」

「了解だよ!」

必殺技!?

リリ達も驚いている様子だ。

「あたしから行くよ!イーグルアロー!」

マリーは大型の炎の矢を飛ばす。

矢は途中で小さい矢に拡散し、タカヤに遅いかかる。

タカヤは全てを避けきれず、次々と命中する。

「うわぁぁぁ!?」

シールドゲージがみるみる減少していく。

「お兄ちゃん!」

「お兄様!」

マリー達はタカヤを集中狙いするのが目的だった。

「シャークフリーズ!」

エリーが氷を纏わせた槍を振り、冷気を飛ばす。

タカヤの体が凍りつく。

「う、動けない…!」

そこに大斧を持ったミリーがタカヤに遅いかかる。

「もらったー!」

ミリーは斧を降りおろそうとする。

や、やられる!

そう思った、その時!


どこからかブーメランが飛んで来て、ミリーに直撃したのだ。

「うわあっ!?」

「ミリー!」

「一体どこから…!」

すると、二体のASの姿が。

[ヴァルキュリア]と[ヴァーチャー]。

そう、アイカとファリスが来てくれたのだ。

ブーメランを投げたのはファリスだった。

「アイカちゃん!ファリスちゃん!」

「みんな大丈夫ー?」

「お待たせしました!」

「あなた達の相手は私たちよー!」

アイカ達が攻撃を開始した。

「ま、また地球軍のエース!?」

「あたし達の邪魔しないでー!」

先に仕掛けたのはファリスだった。

ファリスは二丁のライフルを転送させる。

「ライフル、ダブルファイヤー!」

プラズマ弾と実体弾を同時発射する。

「くっ!」

三人は何とかそれをかわす。

「まだまだよー!」

アイカは三又槍を転送させると、槍を持ったエリーに遅いかかった。

エリーはその攻撃を何とか受け止める。

「…君もやるわね。」

「そりゃどうもー。」

すると、火星軍の旗艦から撤退の合図の信号弾が放たれた。

「えー、撤退ー?もう少しだったのにー。」

「しょうがないなぁ…。」

「…帰るよ。」

「リリ、サクヤ、お兄ちゃんも、決着はまたの機会にねー。」

マリー達は撤退した。

た、助かった…。

「お兄ちゃん!」

「お兄様、大丈夫ですか?」

「う、うん、何とかね…。」

希望号のシールドのおかげで何とか助かったみたいだ。

「アイカちゃん、ファリスちゃん、助かったよ、ありがとう!」

「ありがとうございます!」

「どういたしましてー。」

「間に合って良かったです…。」

「戦闘は、終わった…の?」

「ええ、火星軍は撤退したわよー。」

「僕達の勝利です!」

良かった…。僕達はコロニーを守り抜いたんだ。

これが火星軍の力か…。

タカヤはまだまだ自分は未熟だと実感した。



フィリアとガルバの戦いは互角だった。

ガルバは遠距離からプラズマパイルでプラズマ弾を発射してくる。

フィリアはひたすら避けながら間合いを詰めようとする。

プラズマパイルから放たれた杭型のプラズマ弾が隕石を粉々に破壊してしまった。

「くっ…!」

ここまでの威力があるとは。

「兄さん、援護を!」

フィリアはジークに援護射撃を要請する。

しかし!

「残念だったなぁ!もう一人は忙しいってよぉ?」

よく見ると、ジークが多数の兵士に囲まれていた。

「女の子が相手なら良かったのになぁ…。」

これで援護はしばらく期待出来ない。

さて、どうするか…。


「さぁ、続きを楽しもうぜぇ!」

ガルバはひたすらプラズマパイルを撃ちまくる。

フィリアは隕石から隕石へと飛び移り、間合いを詰めて行く。

そして、近距離まで近づいた。

「その武器は使えまい!」

フィリアが攻撃しようとしたその時!

「甘いなぁ!スカルハーケン!」

ガルバの片手に大鎌が転送される。

ガルバは大鎌をフィリアに向けて降り下ろす。

フィリアは二本の刀で受け止める。

「やるな…!」

すると、火星軍の旗艦から信号弾が放たれた。

撤退命令だ。

「ちっ、もう終わりか…!まあいい、次も楽しみにしてるぜ!」

ガルバも撤退した。

「兄さん、無事か?」

「ノープロブレム!」

ジークは兵士を全て撃退したようだ。

ついに親衛隊を投入してくるとは。

いよいよ本気と言う事か…。

ここでクリスから通信が入った。

「フィリア、お疲れ様!火星軍は撤退したわ。帰還して。」

「了解しました。タカヤ君、みんなは無事か?」

他のメンバーにも通信を入れる。

「だ、大丈夫!」

「…問題ない。」

「大丈夫だよー!」

「よし、全員シラサギに帰還するぞ!」

「了解!」

第七中隊のメンバーはシラサギに帰還した。




しばらくして、全部隊はイズモコロニーに帰って来た。

やはり、戦闘に出たメンバーは全員帰宅する事になった。

「ねぇリリ、火星軍の三人とは、知り合い…なの?」

「知り合いって言うか、何回も戦ったライバルだねー!」

「マリーさん達が火星軍でなければ仲良く出来たかもしれませんわね…。」

ライバルか…。確かにあの子達もかなり強かった。


と、ここでフィリアが口を開く!


「これから戦いがまた厳しくなるね…。特にタカヤ!君はもっと強くならないといけないよ。」

「そ、そうだね…。」

「また明日もビシビシ鍛えてやるから安心しろ。兄さん、行こう。」

「ああ、それじゃまたなー!」


フィリアとジークはそのまま帰って行った。

「…俺達も帰るぞ、ノエル。」

「は、はい。じゃあ、また明日…。」

ゼルとノエルも帰って行った。


「それじゃ、私たちも帰るわねー。タカヤ君、これからもよろしくねー。」

「う、うん、今日は助けてくれてありがとう。」

「いえいえ、またよろしくお願いします!」

「また新しい衣装見せてあげるわねー。」

「は、恥ずかしいからいいよ!じゃあ、また明日…。」

アイカとファリスも学校を後にした。


「お兄ちゃん、この調子で明日も頑張ろうね!」

「そうです、頑張りましょう!」

「うん!」


ついに始まった火星軍との戦争。

そして過酷な戦いがタカヤを待ち受ける!

次回、一体どうなってしまうのか!?






火星圏、マーズ・エンパイアコロニー。

火星軍の宣戦布告の1日前。

前回の大荒れとなった説明会から5日が過ぎた。

隊員達はまともに訓練をしているのだろうか?

火星軍親衛隊のレオ、ミア、プレシアの三人が研修施設を訪れる。


施設には、既に特別顧問であるジョー・リュウモンが、来ていた。


「どうも。隊員達の様子は?」

「みんな真面目に訓練受けてますよ。」

「え?ほ、本当に…!?」

ミアは信じられないといった表情だ。

「本当ですよ。俺もびっくりしてるんですけどね!」

ジョーによると、隊員達は時折暴れる事はあっても、訓練自体はまともに受けていると言う。

「そうか…。今日からもう一人特別顧問2が派遣されるそうだ。」

「え、もう一人来るんですか?」

もう変な人来ないでね…。

ミアは不安になって来た。

不良だけでもストレスの元なのに…。

「これを読んでみろ。」

レオはプロフィールの書かれた電子ノートをミアに手渡す。

「名前は、ユーノ・い、インキュベ…。」

「火星の白い悪魔と呼ばれる科学者だそうだ…。」

「火星の白い悪魔…?」



特別顧問2の名は、ユーノ・インキュベレンファルケンハイン。

確かに呼びにくい名前だ。

白い髪でツインテールの少女の写真が載っている。

マーズ軍科学研究所に所属する兵器開発の天才少女。

何故か白い悪魔の異名で恐れられているようだ。

そして、もうひとつの異名を持っていた。それは、


淫Qβ。


「い、いんきゅうべーた?何ですかこれ?」

「…わからん。」

訳がわからない。

とにかく、四人はユーノという特別顧問2を待つ事にした。

そして、一人の白衣を着た少女が四人の前に表れた。

白い髪にツインテール。

この少女が天才科学者のユーノか。

とても白い悪魔と恐れられているとは思えない。

「やあ!ボクがユーノだよ。よろしくね、レオ隊長!」

「ああ、よろしく頼む。ユーノ・インキュベ…。」

「ボクの事はユーノでいいよ。早速隊員のみんなを見に行こうか。」

「そうですね、行きましょう!」

四人とユーノは施設の中へ入った。


レオ達がシュミレーション室に入ると、隊員達が宇宙戦闘の訓練を受けていた。

三人はは不良達が真面目に訓練を受けているのを見て驚いていた。

「意外だな…。」

「本当に真面目にやってる…。」

「すごーい!」

「ほら、意外でしょう?ところでレオ隊長、皆さん、今日は夕食ご一緒してもらっても大丈夫ですか?」

「…問題ないが、ミア達は?」

「私は大丈夫ですが…。」

「だいじょうぶだよー!」

「ありがとうございます!一緒に食事をすれば奴らの本当の姿がわかりますから。」



不良隊員達の以外な行動を見たレオ達。

確かにみんな全員真剣に訓練を受けている。

『一緒に食事をとれば彼らの本当の姿がわかりますよ。』

それは一体どういう事なのか?

そして、今日の訓練が終了する。


訓練を終えた隊員達が全員集まる。

そして、ジョーが全員に声をかける。

「よし、お疲れさん!今日の訓練はこれで終了!後は全員でメシです!それじゃ、解散!」

隊員達は無口でシュミレーション室を後にし、食堂へ向かう。

そして、レオ達も食堂へ向かった。

「ボクは部屋行ってやる事あるから、また何かあったら呼んでね。じゃ!」

「わかった、またな。」

ユーノだけは自分の部屋へ向かった。



そして、食堂では隊員達が無言で食券を買い、それぞれのご飯とおかずを注文する。

そんな彼らを訝しげな表情で見るジョー。


「それじゃ、全員メシにしましょう!いただきまーす!」


「……。」


ジョーの呼び掛けに誰からも返事がない。

「おい!メシ食う時はいただきますだよ!」

「いただきまーす!」

一人の隊員がようやく口を開いた。

そして、全員がしぶしぶ「いただきます」と言う。

「そうだよ、いただきますも言えない奴は、メシ食うなぁ!」

「くうなー!」

「しっ、静かに!」

楽しそうにはしゃぐプレシアをミアが止める。



投げ遣りに「いただきます!」とだけ言い、黙々と食事をとる隊員達。

誰一人言葉を交わそうとしない。あまりにバラバラ…。

殺伐とした空気が室内を覆う…。



そして、隊員の一人、白い特攻服を来たテツオが食事を終えて食堂を出ようとする。


「おい、メシ終わったのか?」

「おう。」

「ごちそうさまは!?」

「はぁ?何で言った事もないのを言わなあかんのじゃ!?」

「メシ食ったらごちそうさまだろ!」

「はいはい、ごちそうさん!」

そのまま、テツオは食堂を出る。

しかし!

「おい、食器片付けろテツオ!」

しかしテツオは無視して食堂を後にする。

「おい!てめぇ、ふざけやがって!」

ジョーはテツオを追いかけると、テツオを食堂まで引きずり戻す。

「何すんねん!」

「ちゃんと食器片付けろ!」

テツオはしぶしぶ食器を持って行く。

ジョーは隊員達に声をかける。

「お前らもメシ食ったらごちそうさまだからな!自分の食器ぐらい自分で片付けろよ!」

そして、テツオは食器を乱暴に返却口に戻す。

「これでええんかボケ!?」

「おぅ!」

テツオはそのまま食堂を出た。

そして全員が食器を戻して部屋へ帰って行った。




確かに隊員達はまともに訓練を受けている。

しかし、馴れない団体生活からか、ストレスが溜まっているようだ。

また何かとんでもない事が起こるのでは!?

そんな彼らをじっと見つめるジョー。



「…いつもこんな感じですか?」

呆れた表情でミアがジョーに聞く。

「こんな感じです!あいつらこういう集団生活とか出来ない奴らですからね。メシ食ったりしてる時とかはいつもこんな感じですね。」


彼らはランダーになるという目標はある。

しかし、ならず者のプライドが邪魔をして、完全にバラバラの隊員達。

隊員を見て不安になるミア。

こんな奴らがランダーになれるのか?

「隊長、あの連中集めて何するつもりですか?」

「まぁ、お前達には教えてもいいだろう。実はな…。」

レオは計画の事を話そうとしていた。

しかし、彼らの前に次々と信じられない修羅場が!



突然、一人の兵士が食堂に入って来た。

「特別顧問、上でまた、ちょっと…!」

隊員達が何かしでかしたのか?

「これですよ、メシが終わったら!」

「どうしたの、モメてるの?」

四人は兵士数人を引き連れて隊員の部屋のある三階へ向かった。


四人が三階にたどり着くと、隊員の四人が叫び、掴み合い、乱闘を繰り広げていた。

「うるさいんじゃコラァ!」

「やんのかコラァ!」

「ぶっ殺すぞコラァ!」

慌てて兵士が四人を止める。

「よせよせよせよせ!やめろ!やめろやめろやめろやめろ!」

兵士達が押さえつけても収まる気配がなかった。

すると、ミアの怒りが爆発したのか、ハンドガンを取り出すと天井に向けて一発撃った。

一発の銃声で周りが静かになった。

「うるさい!静かにしなさい。」

ミアが怖い目で隊員達を睨みつける。

「どうしたんだよ、これは?」

「お前の部屋の音楽がうるさいんじゃ!」

「音楽聴いてて悪いんかコラァ!?」

隊員のガイとイービルが激しく言い争う。

「まぁまぁ、とにかく部屋で話し合おう!」



自由時間のはずが、部屋の前で大乱闘を繰り広げるイービル、ガイ、ゴートス、テツオの四人。

原因はガイの部屋から漏れる音楽がうるさいと二人がケンカしたのが始まりらしい。

それにゴートスとテツオが加わって騒乱状態になったという。

ジョーはイービルの部屋にガイとイービルを入れ、話し合いをする事にした。

しかし、それをきっかけに次々と信じられない光景が!



「で、音楽聴いてないと落ち着かないと?」

「気分がのってこねーもんで…。」

「その音が漏れてうるさかったって事ね…。」

ミアが呆れた表情で聞く。

「音楽ジャカジャカうるさいんじゃ!こっちは疲れて寝とったんじゃ!」

「こっちだって疲れとったんじゃ!やかましいんやったらお前出ていけコラァ!」

「お前ランダーになれんのやろ!?お前帰れやコラァ!」

「周りが認めてるやろ!お前が帰れや!」

「お前いちいちめんどくさいやっちゃのぉ!」

「誰がめんどくさいんじゃコラァ!」

イービルとガイの言い争いはエスカレートし、イービルがガイに掴みかかる。

兵士達が乱闘を必死に止める。

「やめろやめろやめろやめろ!」

すると、イービルは突然荷物をまとめ始める。

「頭おかしくなるっちゅうねん!帰るわ!」

イービルが部屋を出ていく。

「待てコラァ!」

「待ちなさい!」

四人がイービルを追いかける。

イービルは一階に降りると、出口へ向かっていた。

脱走するつもりなのか。

「待ちなさい!あなたランダーになるんでしょ!?」

「あんな奴と一緒やったら頭おかしなるっちゅうねん!」

ミアや兵士達が説得しても聞く耳を持たない。

と、ジョーが口を開く!

「頭おかしくなるんやったら帰れや!」

「帰るっちゅうねん!もうやめるわ!」

イービルはそのまま施設を出てしまった。

「ちょっと、こら!」

ミアが追いかけようとするが、ジョーはそれを止める。

「いいって、いいって。大丈夫です!どうせウチに帰ったんですから大丈夫です!連れ戻せば済む事ですから。」

「まったく…。」

レオはその様子を黙って見ているだけだった。

「皆さん、今から皆でミーティングしましょう!」
食堂使えます?」

「大丈夫と思いますけど…。」

「決まりですね!話し合いしましょう!」


何と、隊員のイービルが施設を去るという事態に!

このようなケンカが日常茶飯事に起きているのか…?


事は重大と言う事で、急遽隊員を集めて話し合いをする事になった。

四人は部屋にいる隊員を呼び寄せる。

隊員達も憤りを隠せない。

『何で集まらないかんのだ!出てったのは奴の勝手だろ!俺達には関係ねぇ!』

ギラギラした目で四人を見る隊員達。

隊員達を食堂に集め終えると、ユーノが部屋から出てきた。

「みんな、騒がしかったけど何かあったの?」

ミアが状況を説明する。


「ふーん。ボクも一緒に行っていいかな?」

「いいですよ。それじゃ、食堂に行きましょう!」

ユーノを加えたレオ達は隊員達のいる食堂へ向かう。

そして、食堂で激しい怒号が飛び交う!



五人が食堂に入ると隊員達が席についていた。

そして話し合いが始まった。


「またよ、バカが二人ケンカしてよ!イービルが出てったんだよ!どうせ連れ戻すからいいけどよ!」

「そんなの関係ねぇだろ!」

「お前ら何しにここに来たんだ!?ランダーになりに来たんだろ?」

「わかってるわ!」

「わかってるならいいよ!けどお前らには我慢ってもんはないのか!?我慢知ってる人、手上げて!」

しかし、誰も手を上げようとしない。


「何でだよ…。お前らには我慢ってもんがないよ。何かあったらすぐモメるだろ?おい、コガラシ!楽しいか?」

サングラスをかけた隊員、コガラシがダルそうに言う。

「楽しくねーよ!」

「何が楽しくねーんだよ!」

「関係ねーじゃんか!やらしとけばいーんじゃねぇかよ!?俺は勉強してーんだよねー!」

ここで黙っていたガイが口を開く!

「何でシャバ来てまで我慢せなあかんのや!」

「シャバシャバうるせぇよ!シャバや軍隊は我慢する所だよ!お前シャバで我慢出来なかったから刑務所入ったんだろうが!」

ガイはどうやら刑務所に入った事があるようだ。

「お前らな、アレ作れ!何だっけ、レオ隊長?…そう、規則規則ぅ!お前ら生徒会作れ!生徒会作って規則作れや!」


「とりあえずもめ事起こす奴は追い出したらええやん!」

「あぁ、何やとコラァ!?」

ゴモルとガイの口喧嘩が始まった。

それを見たジョーがキレる。

「黙れよクズ!おいクズ!クズ!クズ!」

「誰がクズじゃ!?」

それを見ていたプレシアが楽しそうにはしゃぐ。

「くずー!くずー!」

ミアがプレシアの口を塞ぐ。

「だから静かにしてってば…。」

「ふぁーい…。」


「お前らなぁ、ランダーになれなくなったらなぁ、カッコ悪いぞ!クズ同士足引っ張りあってよ!」



『お前ら、訓練という地獄に突入したからには我慢しろ!』

ジョーの言葉に隊員達は激しく反発する!

何で我慢せねばいかんのだ!

『暴れたい時に暴れて何が悪い!それが俺達のスタイルだ!』

隊員達が激しく噛みつく。

しかし、次々と、信じられない事態が!



「やってられへんし帰るわ!」

ゴモル達隊員が食堂を出ようとする。

「待て待て待て待て待て!」

兵士達が必死に止める。

ジョーの話しに痺れを切らし、強引に食堂を出ようとする隊員達。

もうこいつの言う事はうんざりだ!早く部屋から出せ!

兵士達に止められたが、レオやミアの怒りも爆発しそうな状態だ。

そしてついに、ミアの怒りが爆発する!



「もう規則決めましょ、規則!隊長、特別顧問、それでいいですか?」

「…好きにしろ。」

「そうしましょう!」

「規則守れない奴は、ぶっ飛ばせばいいのよ!」

ミアの言葉に、隊員達が反発する。

「やれるもんならやってみろよ!」

「上等だコラ、テメェ!」

「うるさいわね、ピーピーピーピーと!」

すると、黙って見ていたユーノが口を開く!


「君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると同じ反応をする。わけがわからないよ。どうして君たちは都合が悪くなると吠えるんだい?」

「うるさいんじゃコラァ!」

「何やお前コラァ!」

ユーノの言葉に激しく噛みつく隊員達。

そして、レオの怒りも爆発する!


「お前ら、その辺の奴らに比べたら根性あるんだろ?だったら吠えてないで見せてみろ。」



『お前ら根性見せてくれよ!』そう訴えるレオ。

しかし、その言葉も隊員には届かない…。


「お前なぁ、何かあってもケンカすんな!モメるな!止めろや!後は俺に言って来いや!」

ジョーの訴えに、ゴモルが口を開く!

「おっさんに言いに行ったらええんか?」

「おう!」

「気に入らん事あったら言いに行ったらええんか?」

「おう!いつでもお前達の盾になってやるわ!皆さん、そうしましょう!」

「…そうですね。」

「よしっ、解散、解散!」

隊員達は一斉に食堂から出ていく。


『俺がいつでも相手になるからかかって来い!』

そう吐き捨て、隊員達を部屋に戻すジョー。

お前らに規則なんて作っても意味ねぇ!

『ならずにはならずのやり方でやる!これから地獄を見せてやる!』

隊員達を睨みつけるジョー。

そして最後にガイが出ようとした、その時!


「ガイ!お前まだだろ!」

「何や!?」

ジョーはガイを引き止める。

「お前が迎えに行くんだよ!」

「誰を!?」

「イービルに決まってんだろ!」

「ふざけんなコラ!」

「お前が原因で逃げたんだよ!だったらちゃんと連れ戻しに行け!俺もついて行ってやるからよ!」

「だったらボクもついてっていいかな?」

そこにユーノが割って入る。

「何じゃお前!?」

「特別顧問2だ…。」

こんな女の子が特別顧問…?

「君、威勢がいいね!気に入ったよ!」

「はぁ!?」

「ボクと契約して、機械少年になってよ!」

「訳わかんねぇぞコラァ!」

機械少年…?一体何なんだ…?

レオもミアもそんな言葉は聞いた事もなかった。

「まあまあ、とりあえず明日はイービルを向かえに行くぞ!いいな!」

「ふざけんな…!」

ガイはそのまま食堂を出ていった。

機械少年とは何なのか…?

レオ達は聞いてみる事にした。

「…ユーノ博士、機械少年とは何だ?」

「そんなの初めて聞くんだけど?」

「んー、まぁ後のお楽しみにって事で!」

全て秘密って事か…。後で上層部に聞いて見ないとな…。

「ユーノ、奴は何者だ…?」


「とりあえず、明日は訓練はいつも通り続けましょう!いいですね?」

ジョーの言葉に三人は頷く。


ユーノという少女の出現により、特殊部隊の養成に新たな急展開が!

次回、またしても信じられない事態が待ち受ける!



第5戦へ続く。













































































コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品