転移した先は彼女を人質にとるムゴい異世界だった

涼風てくの

第八話「ある日ある時-1」

 部屋の中にはほんの少しの月あかりが差し込むばかりで、そのほか一切光源は無く、中の様子もいまいちつかめないが、よくよく見てみると鎧やら服やらが転がっている。うっすらとほこりが積もっていた。存在を忘れるほどガブリエルは押し黙っている。
 理恵は両手で俺の肩を掴む。柔らかな感触が制服越しに伝わってくる。
 頼りない光の中何とか部屋に侵入し床のものをよけて、どかりと座り込む。理恵は律儀に正座なんてして俺と向かい合うように座っているが、うるわしげな大人びた微笑みを浮かべている。あまり昔の面影はない――




 もう本当に長い付き合いだ。もとはいわゆる幼馴染であったのだが、二人付き合い始めるのが異常に早かったからして、長年の付き合いになるのだ。
 今では覚えていることもあまりないけれど、こいつがいきなり告白してきたのは十三年たった今でも記憶に残っている。幼げで素直そうな女子だった。好きという単語を安易に使っていた。四歳という年齢にしてはませているようにも思われるが、当時の俺はそんなことは思わず、もてるんだろうとか思っていた。本当は理恵が特別なのだ。


 小学校も六年間クラスは同じで、常にふたり一緒に過ごしていた。やはり帰ってからも同じだった。ゲーム機を持ち寄って競い合ったり、他の男友達などと混じって鬼ごっこをすることもあった。遊ぶときは絶対にそこにいたのだ。ふたりでいてもデートだとは俺は思わなかった。
 地域の自治会で催し物があれば、優勝をして俺に自慢をしたものだ。悔しいと感じていたことは隠しおおせた。その能力にはけていたらしい。


 小学生の目にもその圧倒的で、慎重で、かつ絶妙なうつくしさはよく映えた。体育も抜かりない。その細身でやせぎすな体ながら、女子のトップの座を譲ったことはないし、男子だって大方は下されていた。前を見据えて、スポーツ選手のように細い手足全体を使った走り方だった。
 俺の見方もやや変わった。完璧超人が偶然好きになったんだと思った。運命的だ。おかげで俺の運動能力も馬鹿にできないものになった。


 理恵がそばによって、右肩にもたれる。髪は変わらずおさげのままだ。俺と違って彼女の髪はストレートである。吐息が耳元からかすかに聞こえてくる。香でも焚きつけたようなにおいがほんのり漂ってきた。




 理恵との付き合いはちょっとした友達とのネタになった。文化祭や体育祭などでも一緒に食事をとるだとか校内展示をみて回るだとか、露骨に手を結んで笑い合うだとかした。友達にいじられることも間々あった。
 帰り道も同じだし、家に遊びに行くこともよくあった。彼女の家は整頓された二階建てで、ほんのりと香のにおいが漂う幻想的な家。雑然とした俺の家とは好対照をなしていた。
 それから中学生ともなれば下世話な話、そのたぐいの欲もあった。その頃には付き合い始めてから十年たっていた。

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