魔女はきょぬーになりたかったので転生して好きに生きます。

秋先秋水

第二話 神魔皇、女の子を拾う

 あれから三日ほどの時が経った。
 セラはずっと引きこもってソレを致していた。


 汗ばみ、だるい体を起こす。


 自分の体を見るたびに劣情が湧いてくるようではさすがにまずい。


「……ちゃんと、魔法使いにならなきゃ……」


 十分エロは足りているが、魔法使いっぽさがないと自戒する。
 自分の体に興奮して三日間のまず食わずでアレに耽るのは、流石のセラもまずいと感じていたのだ。


 しかし性欲も大分落ち着いてきた。


 ふと、本来であれば奴隷として出荷されて向こうに着くのが昨日くらいだったな、と思い出した。
 待っても来ない奴隷を捜索しに貴族の私兵がくるかもしれない。


 当然、この森も捜索範囲だろう。


「移動しようかな……?」


 この三日で主にやったことは風呂に入って自分を慰めていただけだ。
 魔法使いをやるにあたっての準備など何もしていない。


 おしゃれな鞄を作ったり、パーティーを組む仲間のためのポーションなどもない。
 そして魔法使いの象徴たる長杖もない。作らなければ。


 どれも午前中に終わりそうな仕事量だな、とセラは考える。


 風呂でベタついた体を流し終え、魔法できっちりと身支度を整えた。


「……ふぅ! さて、確か近くに薬草とか杖の素材になる木とかあったよね」


 薬草や杖の知識は当然の如くにセラの頭の中に入っている。
 この森はグリムベアーが住むだけあって、魔力も豊富で人の手もあまり入っていないようだ。


 奴隷の運搬はやはり目立つ仕事だったらしく、わざわざこんな危険な道を通ったわけだ。
 まぁ、その護衛もグリムベアーが現れるとは知らなかったようだが。


 そんなことを考えながら周囲の探索を進める。
 ホーンラビットやレッサーモンキー、ホブゴブリンといった魔物の気配はするものの、セラの常時放っている圧倒的な魔力に怖気づいてしまって姿を現すことすらしない。


 邪魔も入らずに数十分ほどで大量の薬草が手に入った。
 ついでにグリムベアーの皮を魔法でなめし皮に変えてマジックバッグも作った。


 『空間拡張』と『時間停滞』の魔法がかかっているので、大量の荷物を入れられるし生ものは腐らないという夢の鞄だ。
 デザインも凝っていて、腰に付けられるようになっている。装飾としてあしらってある小さな黒と白のリボンがお気に入りだ。


「魔法はやっぱり便利だよね~」


 薬草採取を生身でやっていたら今頃疲れてへとへとだっただろう。
 転生前の体なら筋力も異常なほどにあったが、今は魔力と知識、手先の器用さのみが洗練されているだけ。
 筋力は並みの女性よりも少ないくらいなのだ。


 魔法で薬草のみを引き抜いて鞄に転送する作業は鞄を生成する片手間にできたというわけだ。


「さってと、あとは杖……よし。この木にしようかな」


 一本の大樹に目を付けたセラは、半径一キロほどを探索魔法で精査する。
 五百ほどの魔石反応を見つけ、その一つ一つに意識を集中させる。


「ほいっ」


 パチン、という指の音と共にその五百の魔力反応――魔物がすべて弾け飛んだ。
 あちこちから破裂音が聞こえるがセラは淡々と作業を続ける。


 狙いは魔物そのものではなくて、その体内に宿す上質な魔石だ。
 魔物の体内から強引に取り出した魔石たちを合成していく。


 セラのような魔女が使う杖は特殊なものでないとダメだ。
 普通の大木から作られた杖を触媒に使おうものなら、一瞬で粉々になってしまう。
 そこで魔石の出番というわけだ。


 質の良い樹木と五百の魔石を合成した純魔石があれば、なんとかセラが触媒として使っても問題ないクラスの杖ができあがる。


 別に触媒などなくてもいいのだが、これもセラの想い描く『エロ魔法使い』には必要なもの。
 杖に乗って浮遊する魔女は、かっこいいしかわいいからだ。


「できあがりーっ♪」


 ハイセンスな杖が出来上がった。
 ところどころ魔力を制御しやすいように魔紋が刻まれている。
 そして先端に取り付けられている魔石は拳くらいの大きさで七色に輝いている。


 ぶんぶんと振り回してみる。
 魔力で強化すれば打撃武器にもなりうる杖。
 何気なく他の木に対して振り下ろしたら轟音を上げて真っ二つになった。


 納得のいく出来栄えだ。これならエロ魔法使いになれる。


 あとは家で薬を作って、街に向かうだけだ。
 でもちょっと疲れたから腹ごしらえにホーンラビットのお肉でも食べよう。
 自由って素晴らしい。




―――――――――




「あれ? なんだろ」


 家に戻ろうと空を飛んでいる時、上空から不自然なものを見つけた。
 みすぼらしいマントにくるまった不思議な物体だ。


 近づくにつれその正体が段々とはっきりしてくる。


「女の子?」


 マントにくるまって横たわる女の子を発見したのだ。
 周囲には先ほどの魔石集めで破裂した魔物の死骸。


 なるほど、どうやらこの女の子は殺される直前にセラが無意識に救ってしまったようだ。


 魔法で身体検査を行う。
 装備は何もつけていない。着の身着のまま街を飛び出してきたような格好だが、何者かに追われているのだろうか?


「もしもーし。起きてる~? こんなところで寝てるとお姉さんが襲っちゃうぞ~?」


 ぺちぺちと頬を軽く叩いてみる。
 無反応。


 とりあえず顔がよく見えないのでマントをめくってみた。
 ――思ったよりもかなりの美少女だった。


 手入れが良くされた金色の髪の毛、土で少し汚れているがその顔は整っている。
 そして、頭に生えた二つのケモミミ。かわいい。


 もふもふのけもみみを穴が開くほど見つめる。
 おっぱいはDくらいか。顔立ちからして15歳前後だろうが、年の割にはおっきい。


 獣人と呼ばれる種族だろう。マントを脱がさないとしっぽが見えないのでネコかイヌかキツネかオオカミからトラかライガーかわからないが、獣人だった。


「んん……?」


 不埒な視線に気づいたのか、金髪の少女が目を覚ました。
 しゃがんでいるセラとばっちり目が合った。


「おはよ」


「…………。人形が……しゃべった!?」


 金髪の少女は呆気にとられた顔をしている。
 どうやらセラの無機質な美しさから人形だと勘違いしているようだ。


「あはは。私は人形じゃないよ?」


「えっ、あっ、す、すみません! あたし――、わ、私ったら失礼なことを」


「まぁまぁ落ち着いて。普通の話し方でいいよ。私一般人だし」


「あっ……」


 にっこりと微笑みながら頭をなでると、気持ちよさそうに金髪の少女は目を細める。
 ふふっ、ケモミミ少女、ちょろい。


「こんなところで話すのもアレだし……すぐそこに家あるんだ。来る?」


 有無を言わさずセラは金髪少女の腕をとる。
 第一村人発見だ。旅は道連れとは言うものの、こんな偶然あるんだろうか。


 ずっと孤児院で過ごしていたので、転生後の世界の普通の価値観というものがわからないセラ。
 この娘に色々と教えてもらおうという打算と、単純な人助けというのが現在のセラの行動原理となっていた。


「えぇそんな悪いですし――って、ひぇぇぇぇっ!?」


 遠慮するも、既に金髪ケモミミ少女の体は宙に浮いていた。

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