内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記ー家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇー

こたろう

01-19

セイファー歴 756年 3月6日


セルジュはリベルトの部屋に居た。


「その、ご機嫌は……麗しくないですよね」
「いや、そうでもないさ。ここまで打ちのめされるといっそ清々しいぞ」


リベルトは窓際のイスに座って外を眺めていた。どうやら外で遊びまわっている子どもたちを眺めているようだ。村はまだ再建が出来ておらず、子どもたちは屋根のある場所で寝るため領主館の近くで遊んでいる。


「もう少しで解放してあげられますので、もう暫く辛抱ください」


セルジュはダンプリングとカブラとビーグのスープをリベルトに差し出した。これはセルジュが栽培したものではなく領民から分けてもらったものであった。リベルトは感謝を述べてからそれを受け取り、ゆっくりと口へ運んだ。


「其方は私を恨んだりしていないのか?」


食事の手を止めてリベルトはセルジュに話しかけた。セルジュはもう下がろうと思っていたので呆気にとられたが、このリベルトという男に興味が湧いてきたので少し話してみることにした。


「セルジュで良いですよ。うーん、恨んでないかと言われれば全くと言って良いほど恨んでないです」


この返答に目を丸くしたのはリベルトである。セルジュは襲われて村を全焼させられても恨んでいないというのだからリベルトの反応は正常と言えよう。


「これで領民の一人でも殺されていたら恨んでいたかもしれませんが、幸い怪我で済んでますし。それにこの世の中ですから弱いところから叩いていくのは自領を広げる判断としては正しいかと」


このセルジュの言葉を聞いてリベルトは目を見開いて驚かざるを得なかった。六歳になろうかという男の子がここまで達観できるのは両親を失っているからなのだろうかと考えていた。実際には前世の記憶が残っているだけなのだが説明したところでリベルトには受け入れるはずもないだろう。


「だから、今回もリベルト卿を使ってゲルブム卿には無茶なお願いをさせてもらいました」


セルジュはリベルトに向かって屈託の無い笑顔を向けた。リベルトは心からこの子には勝てないと何故か思っていた。


「私のこともリベルトと呼んでくれ。なぁセルジュ。私が負けた要因は何だったであろうか」
「んー。やはり油断ではないでしょうか。私たちにまともな兵が居ないという油断」
「そうか」
「戦には天地人が必要でございます。このうちの地の利と人の和はこちらに分がありました。館を砦に改築して後ろに家族を控えての背水の陣。兵糧が燃やされてしまったリベルトの軍との士気の差は歴然でございましょう」


セルジュはそこまで説明しきると、セルジュもまた疑問に思ったことをリベルトに尋ねてみた。


「リベルトはなぜ弓矢を使わなかったんです? 弓で上の狩人や領民たちを狙われていれば、こちらの負けだったでしょう」
「実はな、矢も糧秣と同じ場所に保管しておいたもんだから全て焼けてしまったのだ。そう言った意味ではそちらに天の理があったのだろう」


そう言うなりリベルトは黙ってしまったのでセルジュは一礼をしてから部屋を後にした。




セイファー歴 756年 3月7日


「わざわざお時間を割いていただき誠にありがとうございます」


ダドリックはゲルブムに会いに領都のアルマナまで足を延ばしていた。なぜ会いに来たのかと言うとアシュティア領との諍いの件以外は考えられないだろう。


「いや、構わん。会いに来た理由も大方は察しが付く」
「それは話が早くて助かりますな。それでは率直に申し上げますがご嫡男を解放する代わりにコンコール村より北の地を割譲いただきたいとアシュティア殿は申されおりますぞ」


ゲルブムはダドリックに対し「しばし待たれよ」と伝えて頭の中で算盤をはじき出した。現在、ファート領には領都のアルマナの他、ヤナワサ村とサーヤラ村、モルツ村とそれからコンコール村が存在していた。


アルマナはファート領のほぼ中心に位置しており人口は一〇〇〇人を超えている。そして商業が盛んな小さな町である。ヤナワサ村とサーヤラ村とモルツ村はそれぞれ二〇〇人を抱えている村で肥沃な土地でありアルマナを支える農村となっていた。


それに対しコンコール村は数年前にできた人口も一○○人に満たない村である。西には森が広がっており、土地は北か南か東にしか拡張できない場所に位置していた。もちろん西の森を伐採していけば西にも拡張できるが時間がかかるのは否めない。


東に広げようにもグレン山脈はどうすることも出来ずに限界が訪れる。北へ進むとアシュティア領で南に下れば領都とぶつかる。戦に負けた今となっては難しい立地に位置する村となってしまったのだ。


本来であれば先の戦に勝利して北と東に拡張する予定であった。そのために拵えた村だ。しかし、それも今や泡沫の夢となってしまったのである。今となってはお荷物な村というイメージも否めない。


材木を供給してくれる村ではあったが材木であれば他の場所でも良い。それこそ北と東が頭打ちになってしまった今、西へと領土を広げていくことを考えるのであればファート領の西端の森に拠点の役割も兼ねた村を建設すべきだろう。


そう自分に言い聞かせて、自分自身を納得させてからダドリックの提案を受け入れることにした。しかし、ゲルブムの本心は手塩にかけて育てた嫡男の安否である。ゲルブムには三人の子どもがいるが男子はリベルトだけであった。


そういった感情面からも揺さぶられてしまったと言っても過言ではないだろう。ゲルブムはバーグとゲティスが見守る中、反対する者が居ない・・・・・・・・・中で領土の割譲を決断した。


これはセルジュの考え通りであった。セルジュはキャスパーだけが頑なに反対していると踏んでいたのだ。そして、その読み通りキャスパーを除いて会談に臨むと話がすんなりと纏まったのだ。


「ありがとうございます。それでは調停は五日後でよろしいですかな? 折角ですので場所はコンコール村で行いましょう。よろしければサインを」


ゲルブムは提出された紙に雑なサインをしてダドリックに返した。これでファート領の北部、コンコール地方はアシュティア領へと組み込まれることが決定的となった。

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