○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

第1章7話「スベスベお肌」

 十七歳の兄と十五歳の妹が、一緒にお風呂に入ってるところなんてあるのだろうか。
 世間一般的に考えれば、ありえない話に違いない。
 つか、二・三ヶ月前に妹から脱兄宣言をされたばかりなのだが、どうやら俺の妹は物覚えが悪くなってしまったらしい。
 ……そう言えば風呂の扉って鍵がかかる仕様になってるんだっけか?

「……」

 おっと、そうでした。
 我が妹妃奈子が体を洗ってること忘れてたよ。
 ちょうど扉を遮るようにいるんだもんな。

 まぁ、あとどうやって洗うんだって話だけど。
 他の場所に視線を移し、タオルで顔をゴシゴシ洗う。
 いっそガン見してやろうか。

 ……やめておこう。
 あることないこと円芭にチクられそうだ。
 若干手がシワシワになってきたのを確認しながら、給湯器の時刻表時を眺める。

 いつまで浴槽に浸かってればいいのだろうか。
 今の時間午後八時四十分。
 俺がお風呂に入り出したのは午後八時ジャスト。

 オシャレっ気もあまりない高二男子の入浴時間にしては、ありえないくらい長風呂である。
 幸い夏でぬるい温度なので、のぼせるということはないだろうけど。
 甘いとも違う良い香りのするボディーソープ攻撃止めてほしい。

 なんだろうね。
 円芭を思い出してしまう。
 このボディーソープのようなやつ使ってるのかと変態的に。

「そう言えば祐君。身体まだ洗ってないよね?」
「おまえが丁度入ってきたからな」
「あれは、うん。ごめんとしか言いようがない」

 もう少し隠すのが遅かったら親に通報レベルでしたよ。
 んで、しかも俺が悪くなってたね。
 普通男が女に痴漢されても信じてもらえない。

 恐ろしいぜ……。
 泣き寝入りするしかなくなるから。

「もう過ぎたことだからいいよ」
「さすが祐君。……っ……っ……」

 俺をおだてつつ、シャワーで身体についた泡を洗い流していく。
 何か言ってるような感じがするが、シャワーの音で掻き消されて全く分からない。
 こっちを見てくるので、多分一人言ではないのだろうけど。

「おまたせ」
「おう」

 シャワーを受け取り、大事なところをタオルで隠しながら浴槽を出る。
 なんで俺だけタオル以外守るものつけてないんだよ。
 不公平じゃね?
 ちなみに、妃奈子は水着を着ている。

「別に隠さなくていいのに」
「普通隠すわっ」
「兄妹なんだから、気にすることないじゃん」

 こいつの頭は大丈夫か?
 どう考えても気にするだろ。
 ましてや年頃の女の子なんだから。

 むしろ妃奈子の方から俺に対してキモいだの臭いだの言ってくるのが一般的ではないだろうか。
 それとも今の時代普通なことになってるのか?
 バスタオルを腰に巻き、タイルの上に正座する。

 ひんやりと冷たい。
 夏には丁度いいね。
 普段ならあぐらをかいてるところだが、おかしな年頃女子がいるので正座している。

 意外とタイルも痛い。
 膝に体重がかかってる。
 よく妃奈子のやつ長時間やれたな。

「祐君、文化部のわりにはシュッとしてるよね」
「文化部イコールふくよかじゃないからな」

 つか、お前も文化部だろ。
 同じところに所属してるんだから。

「分かってるよ」
「あと、あんまりじっくりみてんじゃないよっ。洗いにくいわ!」
「別にいいじゃん」
「逆だったら、円芭にチクるんだろ?」
「んにゃ、しない」
「あ、そう」

 にわかには信じがたいが、すごく真面目な顔なので思わず突っ込めなかった。
 止めてほしいよね。
 意味の分からないところで真顔で発言。

「ほら、早く洗いなよ」
「そ、そうだな」
「大丈夫、見ないから。さっきの冗談マジホント」
「……」

 あんな無表情にも近い顔されて、冗談で受け止められるとでも思ってるのか、妃奈子はっ。
 ……もういい。
 いい加減早く風呂から出たいし、あらっちまおう。

「あ、祐君って手首から洗う人なんだ」
「妃奈子は違うのか?」
「うん。あたし肩から」

 そんなに変わらないじゃないか。
 要は腕からだろ。
 つか、結局こっち見てんじゃん!

「というかさ、兄離れしたんじゃないのか?」
「たまには兄接近したいじゃん」
「意味わからんし。何だよ、兄接近って」
「そのままの意味だけど」
「……」

 こいつになに言っても、価値観が違うから無理だな。
 そう諦め、頭を洗いもう一度湯船に浸かり直して浴室を出る。
 ホントマジで、あの兄離れ宣言はなんだったのやら。
 自室に入り、ベットに横になる。
 なんで風呂に入ったのに疲れてなきゃいけないんだよっ!


 ☆ ☆ ☆

 はっ!
 あ、あれ?
 俺もしかして寝てたか。
 カーテンの向こうが明るい。

 タオルケットを身体から剥がそうとして謎の引っ張りを感じた。
 なんだ?
 引っ張りを感じたところへ視線を送る。

「……」

 寝顔の可愛いらしい妹がいた。
 いつ来たんだ、こいつ。
 静かに寝ている妃奈子を起こすべく、彼女の肩辺りを軽く叩く。

「妃奈子、起きろ~」
「ん~……」
「……」

 ツンツン。
 おー、スベスベしてるっ。
 もち肌というやつか?
 起きないので、ほっぺを突っついてみた。
 クセになりそうだね。

「ん~? 祐君?」

 突っつかれた感触に違和感を覚えたのか、完全にではないにしろ妃奈子が起きた。

「あぁ」
「お……おは……ふぁふ」

 さも俺のベットにいるのが当然のようにあくびをする。
 一瞬視点の定まっていない目とあった。
 だが、それはすぐまぶたによって遮られる。

「だから、起きろって」
「……しょうがないな」

 むくっと妃奈子がしかたなさそうに上半身を起こした。
 凄いことになってるな、髪の毛。
 まるで爆発に巻き込まれたかのようなボサボサ加減である。
 さて、本題に入ろう。

「なんでお前がここにいるんだよ」
「……ぐぅ……ぐぅ」
「寝たふりしても無駄だぞ」
「ちっ」
「前より悪化してね?」
「なんか急に寂しくなっちゃって」
「だからって、俺の隣で寝ることないだろ」
「……うるさいな。いいじゃん、祐君的に得でしょ。女の子のとなりでしらずのうちにねれてるんだから」

 なっ!?
 開き直りやがったっ。
 妹が隣に寝てる状況を容認する兄がどこいるんだよ!
 つか、女の子って言っても身内だし。

「はいはい、そうですね。着替えるから出てくれ」
「……え? 今なんて?」

 わざとらしく片耳に手を当て、聞こえないアピールしてくる。
 マジで脱いでやろうか!

「着替えるから出ていけっての!」
「着替えればいいじゃん」
「じゃあ、脱ぐぞ」
「円ちゃんに報告するから。体つきとか」

 俺にデメリットしかない!?

「……マジでお願いだから出ていってくれ」
「えー」
「妃奈子もここで着替えるか?」
「全力で円ちゃんにチクる」
「だろ?」

 最低だな、こいつ。
 自分は良くて他人にされると嫌とか。

「それじゃ」
「円芭に言うなよ」
「言わない……と思う」
「お、おい――バタン

 不安にさせることを言って、俺の声かけには応じず出ていった。
 大体何度も言うけど、もう俺にベタつくのやらないってつい一ヶ月くらい前に言ってたような気がするんだけど。 
 寂しくなっちゃったからって添い寝するとか意味分からんし。

 ただ円芭には、早急に期限がよくなるものをプレゼントしておこう。
 妃奈子ならチクらないとか言ってチクりそうだし。
 円芭のご機嫌取りをもさくしながら着替えを済ませ、階下のリビングに入る。

「おっす」
「おはよう」
「今日は私が朝ごはんつくったから」

 別に宣言しなくていいんだけど。
 エプロンを着たお袋が湯気の立つ皿をもってニコニコしている。
 なんと言えばいいのか。
 う~ん。
 ……。…………。
 よし!スルーしよう。

「何か言ってよっ」

 しばらく黙っていたら、お袋がキレだした。
 めんどくさいな……。

「いつものことだから別に返す必要ないかなと思って」
「というより、お母さんが朝食作るのは普通だから。改まって言うことじゃないでしょ」
「……」

 言われてやんのっ。
 思わず笑いそうになっちまったぜ。
 言い返す言葉が見つからない様子のお袋をこれ以上見ていたら堪えられなくなりそうだったので、俺は本日の朝食へと視線を落とすことにした。

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