○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

6話―2「マジなトーン」

 これは、謝るしかない。
 どうもこういうもの選ぶとなると中々決められなくなっちゃうんだよな……。
 いわゆる優柔不断。
 やっぱり長い間使われる物を決める時はきちんと時間をかけたい。

「許すからさ、目立つやつでペアね」
「ま、マジで……」
「じゃあ、許さない。あの本のこと円ちゃんにチクる」
「是非ペアで買いましょう!」

 くぅ……。
 痛いところ突いてきやがって!

「あたし決めていい?」
「どうぞ」

 最初から聞く気があったのかというくらいのスピードで、近くにあったアクセサリーを二つ取る妃奈子。
 なるほど。
 さては、ずっと狙ってたな。
 そんな小悪魔なレジへ向かう妹の背中を追って会計を済ませ店を出る。

「ありがとう」
「どいたま」
「そう言えばさ、今朝円ちゃんからなんかもらってたでしょ」

 前を歩く妃奈子が肩ごしに顔を向けそう言ってきた。
 なんでこいつが知ってんだっ。

「も、もらったけど」
「なんか勘違いしてるような気がするから言うけど、別に見たくて見たわけじゃないから」

 なら、どうして見れるというのか。
 妃奈子のことだから嘘をついてる可能性は大いにある。
 俺から真実を引き出すために。

「ただお父さん達が見ようっていうからたまたま目に入っちゃっただけだから」
「バカ親共がっ」

 ろくでもないことはすぐ思い浮かぶんだよなっ。
 その発想力をもっと別のところで発揮してほしい。

「んで、なんかもらったの?」

 チッ。
 流れで今の話無かったことになったかなと思ったんだけど。
 質問したの忘れてなかったらしい。

「クッキー」

 もうここまで来たら教えないのもなんか違う気がするので素直に教えてやった。

「食べた?」
「まだ。食べるタイミング無かった」
「……うん。何となく食べられなかった理由わかった気がする」

 そう言って苦笑い浮かべる妃奈子。
 この話の展開的に諒のことを言ってるのだろう。

「多分妃奈子が考えてることであってるよ」
「じゃあ、フードコートで今食べれば?」
「そうだな」

 一瞬家でゆっくり食べたいなと思ったが、クッキーの存在を親が知っていることがすぐ頭をよぎり、妃奈子の指示に従うことにした。
 バカにされながらクッキーを食べたくない。

「あたし飲み物買ってくる。そこの自販機で」
「おう」

 フードコートに着き、席を決め、妃奈子が俺に背を向ける。
 何にするか聞いてこなかったけど、ヘンチョコリンな物買ってこないといいんだが。

「あれ、祐君?」
「宮城先輩っ」

 後方から俺の名前を呼ぶ声がしたので振り向いたら、ニコニコ笑顔の宮城先輩がいた。
 手には、ビニール袋が握られている。
 先輩もフードコートで何かを食べに来たらしい。

「はい、祐君っ」
「サンキュ」

 飲み物を買っていた妃奈子が戻ってきた。
 こげ茶色の水コーヒーが入ってることから俺の心配は無駄だったようだ。

「あたし用事思い出したからちょっと席外すよ」
「ご、ごめんね。妃奈子ちゃん」
「いえ、お構いなく。それじゃ」

 紙コップを持って宮城先輩に軽く会釈し、妃奈子はフードコートから離れていった。
 結局クッキー食えねぇじゃん。

「それどうしたの?」
「買ったんです」  
「そうなんだ」

 とっさにウソをついてしまった。
 ちょっと罪悪感。 

「せ、先輩はなに買ったんですか?」

 これ以上クッキーの話をされたくないので、無理やり話題を変えた。
 少し強引だったかな……。

「あたしは、プリン」

 良かった~。
 宮城先輩気づいてないみたいだ。

「ここで食べるんですか?」
「うん。良かったら食べる?」
「先輩のが無くなっちゃうから大丈夫ですよ」
「いや、二個あるから一つは平気。というか、一緒に食べない?」
「はい、食べましょう」
「ありがとう。はい、祐君」

 スプーンをセットにして宮城先輩がプリンを手渡してくる。

「すみません」
「いえいえ」

 何はともあれ、宮城先輩が変に気がつくタイプじゃなくて良かった。
 こんなところで「円ちゃんの手作りなの!?」て言われて、さらにもしフードコートにクラスメイトがいた日にゃ楽しいスクールライフは酷いものになりそうだ。
 何気に円芭って学年の中で人気が高い位置にいるから、そんな人と仲良いと知れば、俺が逆の立場だったら嫌がらせをするに違いない。

「唐突だけど、祐君。来年部長ね」
「ぶっ! はぁ!?」
「冗談だよ、ウソ」
「も、もう止めてくださいよ」
「ごめんごめん」

 本当に突然すぎて飲んでいたコーヒーを少しこぼしてしまった。
 口の周りと恐らく飛んだであろうテーブルを拭きながら、謝る宮城先輩を見る。
 ニコニコとしたいつも通りの笑顔だが、さっき俺にいった『唐突だけど……』の時のトーンは、マジだったと思う。 

「そう言えばさ、プリンおいしい?」
「おいしいですよ」

 むしろプリンにマズいものなんてないと思う。 

「そっか。なら良かった」

 よし、この流れでクッキーも食うぞ。

「あ、クッキー私にも少し頂戴」
「はい」

 本当は凄い嫌だが、プリンをもらってる以上俺に拒否権はない。

「ありがとう」

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、礼を言ってすぐ宮城先輩はクッキーを口に含んだ。
 俺も食べよ。
 ……旨い。普通に旨い。

「……おいしいね」
「そうですね」

 少し間があったのは気のせいか。
 心なしか宮城先輩の表情にも陰りが見えてきたような。

「あ、そろそろ私行くね」

 それを間接的に肯定するかのように先輩が立ち上がった。

「もう行くんですか?」
「うん。このあと用事あるから」
「そうなんですか……」
「じゃあ、またね」
「また学校で」

 手を振ってくる先輩に振り返しながら、俺は妃奈子にフードコートに戻ってくるよう連絡した。


 ☆ ☆ ☆


 最近休日になるのがやけに長く感じる。
 誰が決めたか土曜日も半分学校だし。
 まぁ、学校って言っても土曜日は毎週行くわけではないけど。

「あ、祐君。おつか――」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃないのよっ」
「おつかいだろ」
「正解っ」
「というわけで、他当たってくれ」
「……分かったわ。今日は諦める」

 “今日はっ”ってなんだよ。
 お袋のわけ分からない話を背中で聞きながら、俺はリビングを出た。
 外に行こう。
 家にいては、満足にゆっくりできない。

 そう決めて誰にも言わず自宅を後にした。
 自転車を使うとどこかへいったのがバレるので、徒歩であてもなくブラブラしようと思う。
 いわゆる散歩と言うやつだ。

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