○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

5話―2「信頼しすぎは危険」

「ん? なんかついてる?」

 俺がどもったのが顔にソフトクリームがついてると思ったか、自分の顔に手を当てる妃奈子。
 変な目で見ていたと気づいた訳じゃなくて良かった。
 “ん?”なんて言った時焦ったわ。

「大丈夫だ。なにもついてない」
「これってお得だよね。違う味が同時に楽しめる」
「確かに効率いいな。スプーン持ってこようか?」
「うぅん、平気」

 こっちが平気じゃないっ。
 いいや、スプーンもってきちゃえ。
 「一応持ってきとくよ」と言って席を立ち、店員からスプーンをもらった。

「せっかく持ってきてくれたから使おうかな」
「最初から持ってきておけば良かったな」
「でも、ソフトクリームは口で直接食べるのがいいんじゃん」
「まぁな」

 でも、あんた女子だろ。
 回りの目を少しは気にしてくれ。
 特に男のっ。

 ピポン。

 ん? メールだ。
 スマホを取り出し送信者を見る。

『須藤円芭』

 え、円芭っ。

「誰からだった?」
「円芭から」
「例の件じゃない?」
「多分な」

 確かに疑似恋人がらみがしっくりくる。
 にしても、最近そう言った内容メールしてこないからすっかり恋人のフリをしてること忘れてた。
 タップをして画面を移動し、メールの内容を確認してみる。

『明日学校一緒に行こう?』

 おっ。
 やっと恋人らしいことを言ってきたな。

「どんな内容だった?」
「明日一緒に学校行こうだってよ」
「ついに動き出したんだね」
「みたいだな」
「あっ。でも、住吉君と一緒に行ってたよね?」
「そうだった」

 妃奈子に言われるまで気がつかなった。
 何も言われなかったら、明日の朝あわあわしてたな。
 俺は、円芭に『いいぞ』と返信し、ポンポンと肩を叩いてきた妃奈子を見る。

「どうするの、祐君」
「円芭の方優先するよ」
「さすが祐君」
「一応断りのメール入れとくか」
「じゃあ、あたしはコーン食べちゃう」

 さくさくとコーンを口にする妃奈子を尻目に、俺は諒に明日一緒に学校に行けない旨をメールで伝える。
 送信してすぐ既読がつき返信が来た。

『じゃあ、今なにかおごってくれ』

 まさか交換条件を提示してくるとは思わなかった。
 しかも、今からかよっ。 

「悪いんだが、今から交換条件で諒になにかおごらなきゃいけなくなった」
「住吉君小さい男だね……」

 言われてるぞ、諒。
 苦笑いを浮かべ、最後の一口を食べる妃奈子。
 なんか最近妃奈子の中のイメージがマイナス方面に向かってる気がする。

「じゃあ、あたしは帰るから」
「別にいてもいいぞ?」
「いい。男同士仲良くやりなよ」
「分かった。親父達によろしくな」
「うん」

 そう言って背中を小さくしていく妃奈子。
 さて、来てもらうか。
 さすがに俺が悪いわけじゃないので、わざわざ待ち合わせをもうけるのは少し違うと思う。
 諒にデパートにいることをメールで伝え、一階に降り入り口で待機する。
 ……。
 …………。
 待つこと数分思ったより早く来た。

「この間俺がおごった店行くぞ」
「分かったよ」

 なるほど、仕返しというわけね。
 ほんとに小さい男だ。
 親友の器の小ささを改めて垣間見て、友達関係を維持するかしないか考えていたら目的の場所に着いた。

「いらっしゃいませ」 

 前回来たときと同じ店員に出迎えられる。
 さぞかしこの店員の心の中では、「男二人でスイーツ店に……。ま、まさか!?」的なことを思っているに違いない。

「……」

 ショーウィンドウを見つめる諒。
 高いの選んだら腹パンにしてやろ。
 こいつ頭がパッパラパーだからそういうところに気がつかない。

 もしも気がついたら次の日は嵐になるね。
 冗談抜きで。

 さて、それはさておいて、俺もせっかくここまで来たし、なにも買わないのは違う気がする。
 ショートケーキにモンブラン・タルト他にも沢山。
 迷うな……。
 この間シュークリーム食べたからモンブランという手もあるし……。

「イチゴのショートケーキでいいか?」
「ちょっと高いけど、いいぞ」
「祐は?」
「う~ん、モンブランにする」
「イチゴのショートケーキとモンブランでよろしいですか?」
「は、はい」

 店員さんの笑顔が怖いっ。
 この笑顔はつまりこうだ。
『なにいつまでも人の店の前でくっちゃっべってんだよ! さっさと決めろ』的な。
 可愛らしい見た目に反して高度なテクニックで圧してくる店員に代金を払い、代物を手にした俺達はフードコートにやって来た。
 しばらくあの店には行かない。
 いや、行けないっ。
 行かないのといけないのとでは全くニュアンスが違う。
 とにかくあの目を二度と見たくない。

「サンキュ、祐」
「どいたま」
「いや~、そう言えばさ、この間の体育の時はひどい目にあったな……」

 サービスの無料コーヒーを飲みながら、諒がイスの背もたれに背中を預ける。
 あれは、完全に自業自得だろ。

「まさかあんなに水が赤くなるとは思わなかったよ」
「そんなに赤くなったのか」
「わりと騒ぎになったぞ」
「説明はどうやってした?」
「ホントのこと言えるわけないだろっ」

 マジの事実を言ったら、俺まで謹慎になっていたからな。
 とっさに言い訳を考えたよ。
 まぁ、潜ってて鼻血あり得るのかって話だが、なんか保健の先生は薄々感ずいていた感じだったし。

「だよな」
「もうやるなよ」
「やらねぇよ。……多分」
「次やったら助けないから」
「絶対やらないと誓うぜっ」

 やるわ、これは。
 こう言う風に言ってる時は必ずやる。

「にしても、須藤はどんな心境の変化だ?」
「知らねぇよ。俺円芭じゃねぇもん」
「それはそうだけど、須藤にしては珍しいだろ。だって」
「まぁな」

 う~ん、ホントのことを言ってもいいものだろうか。
 こいつ口が軽いから絶対すぐ周りが知ってる事態に発展しかねない。
 ただ諒は勘違いして今回の件を捉えているような気がする。
 ……まぁ、いいか。勘違いしてても。

「明日だけなのか?」
「恐らく明日だけだと思う」
「とりあえず一ヶ月くらい一人で行くわ」
「すまんな」
「気にすんな。まぁ、ケンカにならないようにな」
「サンキュ」

 いや~、よい親友を持ったもんだ。
 俺の礼に諒が答え、スイーツを食べ終えた親友は帰りたいと言い出したので、そこでお開きということにした。
 自宅に帰りリビングに入ると、ニヤニヤしているバカ家族がいた。

「ようやく円ちゃんと一歩前進したのねっ」
「は? 何の話だ」
「とぼけるなよ。須藤さんと一緒に行くんだろ?」

 何でそのことを親父がっ!


「妃奈子喋ったなっ」
「隠すようなことじゃないじゃん」
「言うことでもなくね?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと疑似って言ってるから」

 そういうことじゃないんだよ、俺が言いたいことは!
 バカ親どもの特徴をよく分かってるはずだと思っていたのは、どうも検討違いだったらしい。
 もう妃奈子には、秘密を教えない。
 信用できない!


 ☆☆☆ 


 翌日。月曜日。
 七月に入り、暑さも本格的になってきた。
 昨日に引き続きニヤニヤが止まらない様子のバカ家族を尻目に、俺は朝食の目玉焼きを口にする。

 気にしていたら身が持たないので、気にしないようにしていたが、やっぱり無理だ。
 どうにもこうにも視界に親父達が入っているし、『嫁』だの『義理の娘』だの聞こえてくるから。
 気に止めないようにするのには限度がある。

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