○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

第1章4話―1「シュークリーム」

 思い出した。
 思い出してしまったぞ、俺は!
 いつぞやの日だったか、おごってもらう約束を諒に押しつけたはずだ。

 まぁ、心の中で思ったことと実際に言ったことが混合してるけど。
 隣でカチカチキーボードをニヤニヤしながら叩いている気持ち悪い親友に声をかける。

「なぁ、諒」
「……」
「お~い」
「……」
「住吉諒さ~ん」
「……」

 いい集中力だ。
 これはもう行動で気づいてもらうしかあるまい。
 頭を狙うか肩を狙うか。
 幸い部室内は自由時間も中ほどとなっているため元から適度に騒がしいので、叩いたことにより大声を出されてもそれほど気にする部員はいないだろう。
 ……頭だな。いざっ!

「……殺気! ……」
「……」

 ちっ。気づかれたか。
 つか、何で“気”は分かるのに声は分からないんだよ。
 耳大丈夫かと心配するわ、むしろっ。

 こちらへ視線を向け様子を窺ってくるので、意地でも目を合わせないようにしてやる。
 さっき叩こうと上げた手は、カモフラージュの為自分の頭に乗せておいた。

「何やってんだ、お前」
「つむじが痛くて」
「背が縮むんじゃな――バシッ!

 叩いてやった。全力で頭をっ。
 縁起でもないこと言いやがって! 

「す、すまん。言い過ぎた……」
「じゃあ、おごれ」
「分かった。いつがいい?」
「この後だな」

 当初の予定とは異なる方法であったが、結果オーライということで。
 さて、何をおごってもらおうかな~。

「あまり高いところは勘弁してくれよ?」
「大丈夫。そこまで高いものなんて求めてないから」
「じゃあ、何おごってほしい?」

 うぅ~ん……。あっ!
 最近色々あって疲れたし、甘いものにしようかな。

「シュークリーム」
「え、し、シュークリーム。ホントにそれでいいのか?」
「かまわない」
「そ、そうか。んじゃ、帰りコンビニ寄るべ」
「何言ってんだ、コンビニのじゃないぞ」
「はぁ!? 今あまり高くないって言ったろ」

 あまり高くないって言ってなぜコンビニに結びつくのか。
 眉を中央に寄せ、部員達の視線を集める。

「言ったな」
「じゃあ、どこのやつなんだよ」
「デパートのやつだよ。駅前の」
「おい待て。いくらすると思ってんだっ」
「いや、いくらするかは店に行ってみないと分からない」
「絶対高いに決まってんだろ」
「決めつけは良くないぞ諒。シュークリームと一重に言っても、色々種類があるんだから」
「そんなの知ってるわっ」
「じゃあ、よろしく頼むな」
「……分かったよ」

 いくら言っても無駄と判断したのか、諒はため息混じりにデパートに行くことを了承した。

「はい、終了。今日は終わり。最後に残った人鍵当番ね」

 顧問の恐ろしいかけ声にみんな部室を後にする。
 俺らもそれにあやかり部室を後にし、強引に決めたデパートへと足を進めた。
 ……のは良かったのだが、帰宅途中の奥様方の存在を忘れていたよ。
 あまり身動きが取れないっ。

「お前のせいだからな」
「い、いや~、凄い賑わいぶりだ」
「引き返すなら今だぞ」

 何をアホなことを言ってるんだ、こいつは。
 この人の波を逆流なんて出来るわけないだろ。
 どこを見て言ってんだよ。

「やっぱり店まで行こう」

 どうやらアホではなくバカだったらしい。後方を見て即座に意見を切り替えられたのは良かったけど。
 とまぁ、切り替えてくれたのは良いのだが、もう目的のお店に着いた。

「いらっしゃいませ」

 並べられたダミーのケーキが入っているケースまで近づく。
 全体を見渡して決めたいが、少しでも後ろに下がると人波に拐われてしまいそうだ。
 さて、シュークリームは……お、あった。
 って、一種類かよ!
 値段にして三百円。

「残念。一種類だったな」

 何か言い方が腹立つな。

「全部頼むわ」
「す、すまん。悪かった」

 自分の言い方に難があったと気づいたのか謝ってきた。
 最初から言わなければいいのに。

「ったく。大丈夫か、これで」

 ショーケース内のシュークリームを指さす。
 それを見て、諒が頷いた。

「問題はないけど、いくつ買うんだ?」
「一個でいいよ」
「そんな少なくて良いのか」
「いやいやいや、普通一個だろ」
「ふ~ん。じゃあ、二個ください」
「人の話聞けよっ」
「妃奈子ちゃんの分も買っていけよ」
「……払うのは諒だけどな」
「そうだった」


 ☆ ☆ ☆


 いや~、旨かった。
 一千も払ってないから旨さが数倍上がるよね。

「そう言えばさ」
「どうした?」

 帰宅し夕飯を済ませ、自室。
 先にいた我が妹に声をかけられたので答える。
 この際なんで俺の部屋に居るのかはもう聞かない。

「放課後住吉先輩とどこ行ってたの?」
「デパート」
「ふ~ん」

 ん?
 心なしか口を尖らせているように見える。
 やはり二個買ってもらって正解だった。

「妃奈子の分もあるから安心しろ」
「……やったー! どこにあるの?」
「冷蔵庫に入ってる」
「わーいっ」

 小さな子どもみたいにはしゃいで俺の部屋から出ていった。
 若干の間があったような気もするが、勘違いだろう。


 ☆ ☆ ☆


「ゴールデンウィーク予定あるっ?」

 ある日の放課後。
 部室に入るや否や高田先輩が詰め寄ってきた。
 大丈夫と言えば大丈夫だが、円芭と疑似とはいえ恋人同士になってる以上下手な真似はできない。
 隣にいる本人を横目に

「まだ分からないです」

 と返答をあやふやにしておいた。

「そっか。葉瑠メールするから大丈夫だったら返信ちょうだい」
「分かりました」

 少々肩の落ちている高田先輩を見て罪悪感を覚える。
 返答をあやふやにしてこの様子だと断ったらヤバイことになりそうだな。

(ねぇ、祐)
(ん?)

 去り行く先輩を眺めていたら、円芭が声をかけてきた。
 小声であるので、さっきの件での話かもしれない。

(別に疑似なんだから断らなくても良かったのに)
(そういうのは事前に言ってくれ)

 事後報告ほど厄介なことはない。
 俺の苦情を幾分不快に思ったか顔をしかめている円芭。
 正直こっちが不愉快だ。
 口には出さないけど。

「今日は、パワーポイントやるよ」
「「うわっ!」」
「入り口でドラマするの好きだね」

 仲良く同時に驚いた俺達に顧問が苦笑いを見せる。
 あなたの来るタイミングが悪いんだよっ。
 声に出して突っ込めないのが悔しい!

「ほら、二人とも席着いて」
「分かりました」
「すみません……」

 クソッ。諒にはちょっと犠牲になってもらうとしよう。
 この悔しさをどこかにぶつけなければっ。
 あっ……。

「……」

 気づいたらしい。
 長年友人をやっているからどの表情・行動したらやられるというのを把握したな。
 若干俺のクセを見抜くのが遅い気もするが。
 頭を両手で覆い、さらにはイスをテーブル側に引いている。

 自席に着きながら、パソコンを起動し、諒を一瞥。
 こいつにも学習能力があったとはな。
 次からやり方を変えよう。

「それじゃ、今日のお題の資料渡すよ~」

 顧問がそう言って、列の先頭の部員に紙を渡していく。
 この課題苦手なんだよな。
 資料を見てただパソコンに自分の好きなようにまとめるだけだが、その単純作業がめんどくさい。
 まぁ、やりますけど。

「ちゃっちゃと終わらせて帰ろう」
「あれ、今日は検索とか良いのか?」
「用があんだよ」

 諒も俺と同じ考えのようだ。
 作業をしながら会話しているので、今回は怒られることは――無いとは言えないが、確率は少ないはず。にしても、諒のやつが検索よりも大切な用事ってなんなんだろ。

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