○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

2話―4「行事の当日に忘れ物に気づくときってあるよね」

 身内がいた。
 だからこの間俺がどこに所属してるか聞いてきたのかっ。
 手を振る妹に頭を抱えながら、周囲の視線から逃れる。
 何が“ヤッホー! ”だよ!
 タッタッタッ!

 ムギュッ。

 やりおったで、こいつ。
 甘え上手な妹は、場所を構わず抱きつくことができるらしい。
 背中に温もりを感じる。

「あ、ズルい!」
「はい、ストップッ」
「グフェッ」

 こちらに来ようとした高田先輩の首根っこを宮城先輩が掴んだ。
 それにより、首が絞まり女子とは思えない声を高田先輩があげる。
 大丈夫だろうか。

 キレイに首に襟が食い込んでいた。
 宮城先輩も張本人ながら心配している。

「さて、新入部員が来たわけだし……といっても、一人だけど」
「さすがに毎年大量に来ないでしょ」

 どさくさに紛れて顧問にタメ口!?
 高田先輩やりよる。

「そうよね」
「「……」」
「さりげなくため口止めなさい!」
「先生気づくの遅すぎ」
「余りにもさりげなさすぎなのよ」
「あ、そうだ!」
「な、なによ」
「今度の日曜日花見行かないですか?」

 高田先輩の提案に部室内がざわつく。

「何で?」
「親睦を深めるためです」

 なるほど。
 大体やりたいことは分かった。
 多分、何だかんだ理由をつけて俺に抱きつきたいだけだろう。

「そういうことなら賛成」
「部長はオッケー出してますけど」
「分かったよ。その代わりハメは外さないように!」
「は~い……。ところで、あなたは何者なの?」

 入り口から席の近い高田先輩が、そこにいる妃奈子を凄い目付きで見ている。
 例えば人一人殺れそうな目。

「練本妃奈子。祐君の妹です」
「妹なんだ~! 後で祐君の話聞かせて?」

 は!?
 マズイことになったぞ……。
 さっきまでの殺気は何処へっ。

「はい!」
「はいじゃねぇよ!」
「別に減るもんじゃないじゃん」
「……減りはしないけど」

 納得しがたいが、ダメとも言えない。
 俺のバカッ!


 ☆☆☆


 結局教えるのを承諾したが、度が過ぎたことを教えたりしないか不安である。
 とまぁ、そんなわけで今日は日曜日。
 今日だけは忘れておこう。
 にしても、時が流れるのは早い。
 恥ずかしながら昨夜眠れず朝早く起きたので、我が家のルール『一番早く起きたものが家事をする』に則り、早速掃き掃除から開始している。

「珍しいね」

 玄関のドアを開け、掃いたゴミを外に出しつつ綺麗な空を眺めていたら、妃奈子の声が耳に入った。

「何か眠れなくてな」
「そっちじゃないよ。祐君が家事をやってる方だって」
「気分だよ、気分」

 振り向いたら苦笑いをしていた。
 俺だって家事くらいするっての。

「毎日やってくれないかな」
「それは、無理な相談だ」
「だよね~」

 そう言って、パジャマを抱えた妃奈子が洗面所に入る。
 たまには、家事やろうかな。

「諒達何時にくるんだっけ?」
「十時過ぎ~」
「サンキュ」
「今朝ごはん作るね」
「いや、今日は俺が作るよ」
「え!?」

 洗面所から出てきた妃奈子が心底驚いた表情を浮かべる。

「そんなに驚くことか?」
「ごめんごめん」
「まぁ、いいけど」

 全然良くないけど。
 これ以上言うのは男らしくないかと思うので止めておく。
 よし、作るぞっ。
 俺は、そう意気込んでキッチンへ向かった。

 何があるかな~。
 冷蔵庫を開け、中身を見る。

 ……わぉ。

 ウィンナーしかない。

「今日の朝食はウィンナーな」
「え~……」
「文句言うなよ。これしかないんだから」
「むう……。分かった」

 渋々納得した妃奈子を尻目に、火をつけフライパンを熱していく。

「祐君、換気扇つけて」
「あ、すまん」

 普段はちょっとバカなところがチラチラ見え隠れしているが、こういうちゃんとしたところを見るとこいつもしっかりした部分が出てきたんだなと感心してしまう。
 食べやすい大きさに切ったウィンナーをフライパンに開け、コロコロ転がしながら微笑んでいると、妃奈子が訝しげな表情を浮かべていた。

「何で笑ってるの?」
「ウィンナー転がしてるのが楽しくなった」
「ふ~ん」

 これは、信じてないな。
 むしろ何で俺が笑っていたのか薄々感づいていたような口調だ。

「そろそろ焼き上がるからご飯よそってくれ」
「ご飯ないよ」
「えっ!? じゃあ、どうするか」
「パンならあるけど」
「しょうがない。パンにしよう」

 ピンポーン。

 パンとウィンナーが焼き上がり、さぁ食べようといったところでチャイムが鳴った。

「誰だろう?」
「セールスってことは無いだろ、日曜だし。多分円芭だろ」

 時間にして午前九時三十分。
 家近いんだから、もっと遅く来れば良かったのに。
 インターホンの受話器を取る。

「はい」
『私。ちょっと早く来た』
「今開ける」

 受話器を置いて玄関の鍵を開け、ドアを開く。
 春らしい服装を着ておしゃれしている円芭がいた。
 フリフリしたスカート円芭も履くんだな。

「ずいぶん早いな」
「早いなら帰るけど」
「帰れとは言ってないだろ」

 背中を向けようとする円芭の腕を掴む。
 何ですぐめんどくさい勘違いするかね。
 つか、すべすべしてるなこいつの肌。
 出来れば離したくない。

「じゃあ、最初から言わなければいいじゃん」
「すまん」
「後で覚えておいてよ……。お邪魔します」
「あ……」

 掴んでいた手を振りほどかれてしまった。
 手のひらに円芭の腕の感触が残る。
 名残惜しさを感じながら、先に入っていった円芭を追いかけて横に並ぶ。

「いい臭いするね。ウィンナー?」
「飯食うところだったんだよ」
「そうなんだ。集合十時なんだからもっと早く食べれば良かったのに……」
「返す言葉もありません」
「おはよう。妃奈」
「円ちゃん。おはよう」

 円芭に挨拶を返す妃奈子が笑顔を浮かべる。
 こいつ何先に食べてんだよ!
 五本あったウィンナーが三つになってるんですけどっ。

「そこ俺の席なんだけど」

 どさくさに紛れて俺のイスに座る円芭に突っ込む。
 すると、円芭は俺を一瞥。

「知ってる」
「じゃあ、何で座るんだよ」
「良いじゃん、祐が違うところ座れば」
「……分かったよ」

 すねられるわけにいかないか。
 違う席に座る。

「……」
「な、何だよ」
「ウィンナーちょうだい」
「いや、それ俺の朝ごはん」
「ちょうだい」
「はい……」

 断れない流れらしい。
 俺は、諦めて円芭に箸を渡した。

「口つけた?」
「つけてない」
「あ、そう」

 間接キスの危険性を確認してすぐパクっと食べる円芭。
 そんなに嫌か……。

「ところでさ、ちょっと気になったんだけど高田先輩達って家知ってるの?」
「「……」」

 盲点だった……。
 まったくその事について考えに及ばなかった。

「どうする?」
「どうするって言われても、迎えにいかないとまずいだろ」
「連絡先知ってるの?」
「知ってる」
「ふ~ん」

 再び様子がおかしくなった。
 何かマズい事でも言ったかな。
 ちなみに、高田先輩のメールアドレス知ってる理由は強引に携帯をパクられたから。
 気づいたときには、メアド交換は終わっていた。

「と、とにかく連絡する」
「勝手にすれば」
「……」

 何でこんなに拗ねてんだ?

「祐君、どんまい!」
「妃奈子あとで覚えておけよ」
「いいから早く連絡しないとっ」
「そ、そうだな」

 ピロリン。
 連絡しようとした矢先スマホが鳴った。

『着いたよ』
「え!?」

 どうして道を知ってるんだろ。
 ……急になんとも言えない気持ちになる。

「どしたの、祐君」
「着いたって」
「は? 高田先輩祐の家知らないんじゃないの?」
「教えてないから知るわけないだろ」
「……祐、もしかしてストーカーされてるじゃない?」
「恐ろしいこと言うなよ」

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