○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

第1章2話―1「マジ勘弁してください!」

「何調べようかな」
「さすがに今日は課題があるだろ」
「そんなの分からないじゃないかっ」

 廊下に諒の怒鳴り声が木霊こだました。
 帰りのホームルームが終了し、俺達は所属している部活の活動場所に向かっている。
 キレられる筋合いはこれっぽっちもないが、それを否定するとまためんどくさいことになるので、

「じゃあ、課題があるに一票」

 と、諒の逆鱗に触れない形の答えにした。

「俺は、そんな罠には引っ掛からないぞ!」

 さっきの努力はまったく無駄だった。
 なぜか諒にキレられた。
 つか、別に罠にかけようなんて思ってないけど。
 俺達が所属しているのは、情報科学部。
 通称パソコン部。

 周りからは、コン部と呼ばれている。
 何をする部活かは部の名前通りで、活動内容はほとんどネットサーフィン。
 これが、コン部と言われる原因の一因になっているのかもしれない。

「はいはい」
「俺が課題無いって言ったら無いんだよっ」
「……」

 でたー、俺様発言!
 何を根拠に自信満々にそんなこと言ってるやら。
 無言で諒を見つめ、アウェー感を抱かせる。

「いつからお前俺様系男子になった?」

 いつの間にか伊津美が横にいた。
 この問いからするに結構前から後ろにいたな。
 タイミング的に凄くナイスなところでの侵入の仕方。
 ただ伊津美は珍しそうな顔をしているので、バカにしてるというよりも本当に不思議だったようだ。

「別になった覚えないけど」
「いやいや、どう聞いても自己中発言だったけど」
「ウソつけ~」
「ウソなんかつくかよ」
「……すまん」

 自分の発言が自己中心的発言をしたと伊津美に指摘され、しょぼんとしてることから反省したようだ。
 伊津美がいなければ、さぞやめんどくさいことに発展しかねなかった。

「ほら、着いたぞ」

 と、そうこうしてる内にパソコン室に到着した。

「いや、見れば分かるから」
「ん? よく聞こえないな」
「何でもねぇよ!」

 諒いじりを楽しむ伊津美を見ながら、パソコン室の前で上履きを脱ぐ。

 ガラガラっ!

「ひぃーろー君ッ」ボスッ。

 胸に衝撃が走る。
 視線を下にすると、ショートカットヘアの女の子の顔があった。
 ニコニコ笑顔を浮かべるこの女の子は、俺の一個先輩で高田たかだ 葉瑠はる
 イメージ的には、人懐っこくブンブン尻尾を振っている犬。
 出ているところが出ており、巨乳好きにとっては最高なのかもしれないが、生憎俺はBくらいが好みなので全くドキッとしない。
 ……。…………。
 ごめん、嘘。
 少なからず胸が当たっているのでドキッとはする。

「久しぶりっ」
「おひさしぶりです」
「今日もお熱いですね」

 何ともしらけた目で俺を見ながら、低い声で諒が言う。
 俺は悪くないだろっ!
 何で抱きつかれた方が敵意を向けられなければならないっ。


「えへへっ。会えなかった分充電してるの」
「へぇ~」

 抱きついて充電って正直意味分からない。
 冬にくっつかれるのは百歩譲って温かいからいいけど、春である今俺にはデメリットしかない。

「先輩離れてください」
「理由は?」

 言わなくても分かるだろっ!
 彼氏彼女の仲ならまだしも、カップルでもない男女が公衆の面前でハグしてるとかおかしいんだよ。
 どういう環境で高田先輩は育ったのか。

「みんなが見てますからっ」
「いいじゃん」
「はははっ……」

 良くねぇよ!
 何公衆の面前でイチャついてんだよって視線が四方八方から飛んできてんだ。
 この状態を円芭に見られたらマズい。
 無理やりにもこのくっつき癖のある犬を引き剥がさなければ!
 幸いまだ気づかれていない。

「先輩マジで離れてください」
「……そんなに嫌?」
「うぐっ」

 セコい!
 上目遣いにウルウル目はセコすぎる!
 これじゃ本心が言えないっ。
 女の子の最強技の前に打つ術がない俺をよそに、背中に回していた手をギュッと締めてくる高田先輩。
 くそっ。どうしたらいいんだ!
 何か打つ手はないのかっ……。

「入り口でイチャつくのやめてもらえませんか?」

 げっ!
 この声はもっとも見てほしくなかった人物。

「通れるじゃん、別に」
「そういうことじゃないんですよっ」
「じゃあ、何?」
「……」

 もっとも見てほしくなかった人物=円芭は、言い返す言葉が見つからなかったのかなぜか俺を睨んできた。
 意味分からん。
 睨まれる理由がさっぱり皆目検討もつか――無くはないが、俺限定で睨むのは間違っている。
 理不尽な視線を送られながら、高田先輩から離れられる手段を練る。
 ……。
 …………。
 ………………。

 やっぱり無理!
 がっちりホールドされてるし、しゃがんですり抜けようにも胸が顔に引っ掛かって埋めてる形になるため誤解されかねない。

「入り口で昼ドラするのやめてくれる?」
「先生!」

 何てグットタイミング!
 やってきたのは、情報科学部顧問。
 普段はのほほんとして使えない人だが、たまには頼りになる。

「健全なドラマですよ」
「いや、どう見ても健全じゃないでしょ」
「むぅ……」
「とにかく邪魔だからやるなら端の方でやりなさい」

 ……ん?
 今さりげなく不健全な行動を肯定しなかったか?

「分かりました~」

  やばい、端の方に連れてかれる!
 と思っていたが、ぬくもりが消えていき

「もう今日は抱きつく気分じゃないから」

 それだけ言って高田先輩は自席へ座った。
 抱きつく気分ってどんな気分だよ。
 この中の誰一人理解に苦しまずに聞いてるやつはいないだろう。
 散々円芭をイラつかせておいて、その対処を全部俺に押し付けてくるのだから高田先輩は世話が焼ける。
 ちなみに、円芭と高田先輩は仲が悪い。
 二人が二人きりで話をしているのを見たことがない。

「……」
「俺はなにもしてないからな。高田先輩が勝手に抱きついてきただけで」
「あ、そ」

 短めの相づちをして興味なさそうに自分の席へ歩いていく円芭。
 クソ……。
 折角最近話をしてくるようになったのに、これじゃ振り出しじゃないか!

「ごめんね、祐君」
「あ、いえ宮城先輩は謝ることないですよ」
「うぅん、葉瑠の友人として代わりに謝るよ」
「優しいんですね、宮城先輩は」
「そ、そんなことないよ。あたしにだって悪いところも……」

 どんどん言葉が小さくなっていくこの女子は、高田先輩と同じ年の宮城みやしろ優莉愛ゆりあ先輩。
 大人しくて頼りになる我が部活の部長様。
 ただ謙遜がいつまでも続くとめんどくさいので、肩を叩き現実世界へ引き戻す。

「ハッ! あたしとしたことが」
「んじゃ、とりあえず今日から部活が始まるわけなので、ウォーミングアップとして速打ちやります」

 宮城先輩の現実世界復帰待ちだったか、顧問が皆の視線を集めそう言った。
 最初から速打ちかよ!
 パソコンで絵を描いてそれを発表する方がよっぽど楽だと思う。

「早速ですね」
「もっとめんどくさい方が良かった?」
「とんでもないとんでもない!」 

 首を左右に振り高田先輩が焦っている。
 まったく、今の先輩の発言で部室内がピリッとしたぜ。
 もしこれでパワーポイントを使ったプレゼンなんかに変わってみろ。
 高田先輩の明日は無い。
 ……というのは、まぁ冗談にしても、この部活に居づらくなるのはほぼ間違いないね。

「もう……。ほら、ファイル開いて」
「は~い」

 ちなみに、さっきから速打ち速打ち言ってる速打ちは、某新聞社が主催のその名の通り速打ちで、あらかじめ用意された例文をひたすら打ち込むというシンプルな検定? である。
 この検定タイピングが出来る人の方が有利なので、みんなこれをやるとなると良い顔をしない。
 肩は凝るし、目はかすんでくるし。
 楽しいと言ってる人がいたら、友達になれない自信がある。 

「年度初の速打ちだから、まさか難易度の高いのはやらないだろ」
「それ聞こえてたらヤバいぞ」
「……」

 口を押さえ、顧問を一瞥する諒。
 バカだね……。
 なにか言いましたって言ってるようなもんじゃないか。

「今日は、高校3年上級を全員・・やります」
「……」
「お、俺じゃないしっ」

 お前しかおらんじゃろがい!
 あと誰が声発したんだよっ。

「どこからか聞こえてきた声にお答えしたの」

 顧問がガンガン諒を見つめている。
 プラス必然的に他の部員も顧問につられて諒を視界にIN。
 ピリピリモードだな、顧問。

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