○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

第1章1話―1「知り合いにだけはツンツン(女子を除く)」

 近頃○○系女子・男子と、動物に人を例えるのが巷で流行っているようだ。
 それにあやかっていいのなら、俺 練本ねりもと祐 ひろの幼なじみはまさしく猫と例えるのがピッタリだと思う。

 四月の八日目の朝。
 春休みが終わり、はれて高校二年生。
 そんな大事な? 朝に、隣にお住まいの幼なじみ 須藤すどう円芭かずはさんが俺とほぼ同時に家から出てきた。
 円芭と目が合う。
 我が幼なじみながら今日も今日とて可愛い。
 まぁ、見た目はだけど。

「お、おはーー」

 挨拶を聞かず自転車に跨がり、俺など見えていませんとばかりにサーと去っていった。
 な、猫っぽいだろ?
 こっちからのアプローチには、大抵こうである。

 ……俺も行くか。あー、ダルい。
 今日は入学式のため早い下校。
 どうせなら休みにしてほしかった。
 憂鬱な気分を抱きつつ、もう春だというのにまだ冷たい風を切りながら自転車のペダルを漕ぐ。

「はぁ……」

 ため息をつき、前方の信号が赤になったので自転車を止める。

 キィッ。

 うん?
 俺の自転車とは別のブレーキ音が横から聞こえた。

「お、おはよう……はぁ……はぁ……」
「うっす」

 ブレーキ音のした方を振り向くと、親友のりょう住吉すみよしが横にいた。
 息が荒いことから俺を見つけて飛ばしてきたようだ。
 学校でも会えるんだから、別に追いかけてこなくて良かったのに。
 待ち合わせ場所決めれば即解決のこの事案だが、こいつの不規則な起床時刻をもってしては、俺の遅刻をも左右してしまう。
 それは恐ろしいことなので、絶対待ち合わせしない。

「どうした、青だぞ?」
「……え、おっ!」

 運転中に考え事は良くないな。
 注意力が落ちる。
 諒の言う通り目前の信号が青になっていた。

「先に行くのは祐なんだから、しっかりしてくれ」
「すまん」

 って、思わず謝ってしまったっ。
 諒のやつ自転車通学の始まった中学時代から俺が先頭を走る感じになっていた。
 あと、そもそも論として並走すれば済む話ではないかと疑問に思ってる人も少なからずいるかもしれないが、正直俺としてももちろん並走したい。
 したいが、制服を着ているため、もし警察に見つかったら即刻学校に連絡が行って最悪反省文らしいので、そんなめんどくさい事態になるのなら大人しくルールに従う。

「春休み終わっちゃったな」
「凄いあっという間だったわ」

 こんな短いならむしろ無い方がいい。
 行きたくないという感情が強く出てしまう。
 義務教育の中学だったら、熱が出たとか言ってずる休みしてしまうのだが、残念なことに高校は休んだら休んだ分だけ自分につけがまわってくるのでできない。

「もう少し春休みあってもいいと思わね?」
「じゃあ、先生達に直談判してみたらどうだ?」

 これは良い機会だ。
 諒には悪いが、春休みの延長に際しての犠牲になってもらおう。
 世の中何事にも犠牲は付き物だ。

「言えたら今ごろ長くなってるわっ」
「そうだな」

 ち、騙されなかったか。
 こいつ変なところで勘が良くなる。
 普段ニブチンなのに、こういうときだけは勘のセンサーが過剰に反応するようだ。
 正直めんどくさいよね。

「そんなことより二年になったらクラス替えだよな?」
「そうだっけ?」

 自分で持ち出した話題をそんなことよりって言ったよ、こいつ。

「いや、クラス替えなんだよ」
「分かってるのに何で訊いたんだよっ」
「確認だよ!」

 確認ってお前勝手に納得して何が確認だよ。
 語気を強める諒に、ブレーキをなにもないところで強くかけ、嫌がらせをしてやる。

「あ~、誰と一緒になるかな~」

 効き目などなかった。
 そんなに楽しみかね……。
 折角仲良くなれたのにまた一から交友関係を気づいていかなければならないと思うと、めんどくさくてしかたないけど。

「さぁ~な」
「お前は、楽しみじゃないのか?」
「普通だな」

 楽しみと思う奴いるか?
 ドキドキはするかもしれないけど。
 全然知らない人だらけだったらどうしようっていうマイナス的な意味のドキドキ。

「ところで、宿題やったか?」
「やってない」
「何でやってないんだよっ。写せないじゃないか」

 堂々と不正を公言するなよ。
 つか、そのノート持ってきてないし。

「待てお前。本音が出てるぞ」
「出してるんだよ!」
「ホントにやってないから。任意でいいって言われたし」

 大体春休みの宿題なんて翌年の担任がチェックするわけがない。
 バカ正直というかなんというか。
 これが諒の長所でもあり短所でもあったりするんだけど。

 さて、くだらない話をしているうちに俺らが通う高校に着いた。
 自転車を駐輪場に止め、大層人でごった返してる昇降口前に足を運ぶ。
 どうやら新しいクラスの表が張り出されてるようだ。

 周りからは『また同じクラスだね』とか『クラスが別でも仲良くしようね』など色々な声が聞こえてきている。
 みんな元気だな~。
 俺はそんな元気なんて朝から無い。

「行かないのか?」
「ちょっと数が減ってから行くべ」
「まぁ、そうだな」

 俺の提案に諒が頷く。
 諒も無駄に体力を消耗したくないらしい。
 正直メールでクラス発表してほしいよな。
 こんなに昇降口が混雑しては、クラス替えのない学年に迷惑だと思うんだけど……。

「須藤と一緒のクラスになったらどうする?」
「別に普通だけど」
「俺は嫌だな……」

 一体何があったんだよ……。
 下を向き、諒は肩を落としている。
 いつの日からか円芭と諒の関係がぎくしゃくしていた。

「そんなこと言ってると一緒のクラスになるぞ」
「……」

 俺の冗談を真面目にとった諒が口をつぐんだ。
 どんだけ円芭と一緒のクラスになるのが嫌なんだよ。
 まぁ、大体検討はついてるけど。
 というのも、なぜか円芭のやつ諒には酷い接し方をするのだ。
 個人的には素直になれないから強く接してしまうんだと思っているが、諒曰くまったくそんなことはあり得ないらしい。

「よっ!」

 前方から小柄な男の子が近づいてきた。
 何を隠そうもう一人の親友である。

「おー! 幾日ぶりにあったらでかくなったな」

 そう言って諒が自分の肩のところで手を止める。
 気をまぎらわせようとしたのか、諒が伊津美をいじった。

「昨日会ったばかりだろ」
「ナイス突っ込み」
「……」

 ボスッ「グハッ!」

 諒を殴ったこの男は、伊津美いづみ 陽輝はるき
 俺らの中で常識人と言えば常識人だが、最も腹黒さを持っている。
 自業自得な諒を一瞥し、伊津美は口を開いた。

「お前らと須藤は同じクラスで、俺は別クラスだったぞ」
「サンキュ」
「う、嘘だろ……」
「ドンマイ」

 ここまでショックを受けると言うことは、やっぱり何かあったのかもしれないな。
 慰める伊津美も伊津美で、ドンマイというわりには、顔が笑ってるし。
 俺の知らないところで色々あるみたいだ。

「にしても、一組か~」
「学年の模範にならなきゃ云々言われるんだよな」

「そんな法律いつ出来上がったっ」

 昇降口から二階に上がり、新しい教室へ向かう。

「どこ行くんだ?」
「……え? あっ」

 危ねぇ!
 ついいつもの流れで一年生の階に行くところだった。

「あいつらには黙っておいてやるよ」
「そうしてくれ、是非ともっ!」
「間違いは誰にもあるもんな」
「ありまくりだわっ」
「て、違う! それよりも重要なことがあるだろ!」
「声がでかい」

 どうして隣にいるのに、遠くにいるような声の大きさでしゃべる。
 耳が痛くなってしまった。

「言いたくもなるだろっ」
「気持ちは分かる。気持ちは分かるが、凄い目立ってるんだよ」
「……」

 何事かと視線を寄越した新しいクラスメイト達をガンつける。
 ガンを飛ばすなガンを!
 新学期新クラスに馴染もうって矢先やんちゃな子っていう印象を持たれるぞ。

「通れないんだけど」
「あ、すま――円芭か」

 教室の入り口に二人立ち塞がっていたので、邪魔呼ばわりされたら一目散に退こうと思っていたら、まさかの知り合いに言われるなんて。
 左サイドに結わいた髪がキュートな女の子。
 そう今朝一瞬目の合った円芭である。
 身長も150㎝あるか無いか。
 黙っていればやはり可愛い。

「“円芭か”ってどういう意味? 私が居ちゃ悪いわけ」
「別に他意はないんだが」
「あ、そ」

 短い相づちを打ち、教室に入っていった。
 あれで友達がいっぱいいるんだから凄いよな。

「やっぱり好かないわ」
「知り合いにだけツンツンなのかもな」
「めんどくさっ」

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