賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~(旧題:追放された重装騎士、実は魔力量ゼロの賢者だった~そのゼロは無限大~)
第061話 ミラとお買い物
デミウルゴス神歴八四六年――七月一六日。
夜が明け、スマートフォンのアラーム音がけたたましく鳴り響き、コウヘイは目を覚ました。
遅くまで飲んでいたコウヘイが、寝坊しないように目覚ましをセットしておいたからなのだが、目を覚ますなりコウヘイの口から出たのは文句だった――――
「あー、結局ゆっくり眠れなかったー」
アラームを止めるために腕を伸ばすも、エルサが絡みついておりそれが中々難しかった。
「な、何事ですか!」
「あ、おはよう、ミラ。悪いけどそこの四角いやつ取ってくれないかな」
アラーム音に驚いたのか、ミラがパニック状態で杖を取り出し身構えていた。
「大丈夫だよ。魔道具の一種で、音を出して起こしてくれる物なんだ」
僕は適当に説明し、ミラからスマートフォンを受け取り、アラーム音を止めた。
「エルサっ、朝だよ。起きてー」
昨日は、エルサも大分飲んでいたし、こりゃ無理かな、と考えながらやっとの思いでベッドを抜け出し、僕は身支度を整えた。
その間にミラには、イルマたちを起こしに行ってもらった。
「あのーコウヘイさん」
「ん、どうした?」
「お二人とも起きてくれません」
戻って来たミラが半開きの扉から顔だけを出して困り顔で教えてくれた。
遅くまで飲んでたからなー、それなら仕方がない。
「そっか、それなら二人で先に朝食を済ませちゃおう。幸い今日は晴れているから、先に買い物をするのでもいいしね」
「あ、はい。急ぎ支度します」
宿屋の窓を開けると、雨上がりの翌日らしいじめじめとした湿り気のある風が部屋の中に流れ込んできた。
晴れたといってもこればかりは仕方がないよね。
僕はそう納得しながら太陽の陽の光を浴びて、「ううーん」と伸びをする。
「って、ちょっとミラ!」
「はい、なんでしょうか?」
ミラは本気で気付いていないのか、コテンと小首を傾げた。
ミラのその小さく細い指が、寝間着のボタンに掛かっており、僕が部屋にいるにも拘らず、脱ごうとしていたのである。
「ぼ、僕は先に下に行っているから、着替えたら下りてきて」
「え? ああ、私は別に構わないですよ」
ミラはそう言って、着替えを続行した。
ミラが気にしなくても、僕が気にするんだってえええー! と内心叫びながら、僕はアクセラレータを掛けたの如く猛スピードで駆け出し部屋を出た。
「はあ、エルサじゃないけど、この世界の女の子たちの貞操観念はどうなっているんだよ」
僕は頬が熱くなるのを感じながら一人カウンターに座り、ミラが来るのを待ってから朝食にした。
相変わらず、朝食は、キノコサラダ、キノコステーキとキノコスープといったキノコのフルコースだった。
ミラなんて、それを見て一瞬、顔をしかめて僕の方を見たほどだった。
僕はそれが定番だよと教えてあげたら、納得したのかわからないけど黙々と食べはじめた。
「あ、これ美味しいです」
そう、ただのキノコに見えて素材の味を生かした味付けで、これはこれでいけるのだった。
「そう言えば、買い物は私なんかとで良いんですか?」
「どうしてそう思うの?」
ふと思ったのか、ミラが突然不安そうな顔をした。
「いえ、昨晩の話ではエルサさんがコウヘイさんと洋服を買いに行くと言っていたので……」
「え、僕はそんな話聞いていないけど?」
おかしいな、隣にいたはずなのにその話に全く身に覚えがない。
これが俗にいう、酔って記憶を無くすってやつだろうか……
「みなさん相当酔ってましたからね。それで覚えていないのでしょう」
「そう言えば、ミラは大丈夫なの? ミラも大分飲んでいたと思ったけど」
「ああ、あれはふつうの果実のしぼり汁ですよ。お酒は苦手で……」
「ふーん、そうだったんだ」
メニュー表が無いから、ジュースがあることに気付いていなかった。
「まあ、覚えていないからエルサも怪しいもんだよ。それに起きてこない方が悪い」
「そ、そうでしょうか……」
僕はそう言ったけど、ミラは何か遠慮した風に言ってくる。
ミラとは昨日はじめて話をしただけで、性格を把握している訳じゃないけど、目の前のミラから大分大人しい印象を受けた。
本当にあの謁見の間の出来事は何だったんだろう。
思い出しただけでも背筋が凍るほど、あの殺気は凄まじかった。
まあ、わからないことを考えても今は仕方がない。
「それに、ミラのためでもあるんだよ」
「え、私のためですか?」
「そう、マジックポーションで魔力が回復できるか試したいと思わない?」
僕がそう言うと、満開の花のような笑顔がミラの顔に広がった。
「はい、是非!」
その元気のよい返事を聞いて、後輩ができたみたいで嬉しくなった。
「よし、さっさと朝食を済ませて買い物に行こう」
そうは言ったものの、二人ともキノコステーキとキノコスープをお替りしてしまった。
だって美味しいんだから仕方がない。
――――――
晴れているとは言え、雨が止んだばっかりの舗装がされていない道は、いたるところに水溜りがあり、馬車の轍の跡でデコボコとした道は、非常に歩き辛かった。
足元に気を配りながら、目抜き通りを歩くこと一〇分ほどが経ち、究極のセリフを僕は言った。
「そう言えば、道具屋ってどこにあるんだろう?」
何の気なしに町へ繰り出したけど、その実、道具屋の場所を知らなかった。
適当に歩いていれば見つかるかなと思ったけど、出店の殆どはちょっとした雑貨やアクセサリー類の他に軽食を売っているこぢんまりとしたものだった。
「え? コウヘイさんが知っているのだとばかり思っていましたけど」
だから僕の間抜けな質問に、ミラが少し呆れた様子を見せた。
結局、冒険者ギルドへ行き、アリエッタさんに道具屋の場所を聞いた。
念のため、素材集計の進捗状況確認も兼ねていたけど、いつ終わるのかも含めてもう少し時間が欲しいとのことだった。
残念、エヴァのパーティー登録の際にまた確認することにしよう。
「おっ、ここだね」
看板には、道具屋テッドと書かれていた。
ふつう道具屋といったら、冒険者ギルドと門を結ぶ冒険者の動線沿いにあるものとばかり思っていたけど、アリエッタさんに教えてもらった道具屋は違った。
その道具屋は、目抜き通りや冒険者ギルドから少し離れた場所にあり、どちらかと言うと、領主の館の近くで町の中心部に位置していた。
冒険者が立ち寄るにはちょっと都合の悪い立地だった。
そりゃあ見つからなかった訳だよ。
「マジックポーションはどこかなー」
店の中は、イルマの店とは大違いで整理されていた。
それでも、色々な物が所狭しと陳列されており、目当ての物を探すのに苦労した。
「お客様、何かお探しでしょうか?」
僕が棚を眺めながらカニ歩きしている様子を見かねたのか、お店の人が声を掛けてくれた。
というか、案の定、僕たち以外のお客がいなかったので暇なのかもしれない。
「あ、はい、マジックポーションを……」
僕は返事をして目当ての物を伝えようとして固まった。
「マッジクポーションですね。それなら……ん、どうなさいました?」
「あ、いえ、知人というか知っているような人に似ている気がして……」
「はい?」
あまりのことで僕が変な言葉遣いとなり、それを不思議そうにしていた。
その女性は、ライトグリーンの髪で髪型がお河童だった。
そう、サーベンの森で出会った少女の面影があったのである。
「あら、もしかしてディビーのお知り合いの方です?」
「でぃ、ディビー?」
「ええ、髪型と髪の色を見て仰っているのでなくて?」
正に僕が気になったポイントを指摘したので、間違いなかった。
それにしても自分の格好が変わっているのを自覚しているんだね、と僕は自然と口角が上がって苦笑してしまった。
「あ、はい、帝都の近くの森で、似ている方に助けられたことがありまして」
「それなら間違いなくディビーだと思いますよ。丁度今年から帝都の魔術学園に通っているのですよ」
この人は、店主であるテッドさんの奥さんで、テレーナさんというらしい。
そこで話を聞いてみると、どうやらあの謎の少女四人組は、ここテレサ出身だということがわかった。
その中の一人に、ここテレサ領主の娘であるローラ嬢もいるらしかった。
テレーナさんの説明で、
「そのゼロは無限大」
だとか、
「魔力を感じなさい。せっかく良いスキルがあるのにもったいないわよ」
などとと言った金髪碧眼の女の子が、そのローラ嬢らしい。
もしかしたら、僕のスキルのことがわかっていての発言だとしたら凄いことだ。
鑑定眼のスキル持ちかもしれないと思ったけど、聖女オフィーリアのことを思い出して頭を振った。
鑑定眼は、少なくとも相手に接触する必要があったからだ。
そう考えると、より謎が深まるばかりだ。
ローラ嬢のことはまたあとで考えることにし、更に話を聞くと、その四人は小さいころからラルフさんに稽古をつけてもらっていたという事実が判明した。
恐らくラルフさんの弟子で、無詠唱のことも知っているのだろう。
どうやら、僕が魔法の三大原則に違和感を感じる要因となった出会いの元は、ラルフさんにあったようだ。
「これは、あとでラルフさんにお礼を言わないといけないな」
それと同時に、ラルフさんがギルドマスターで大丈夫だろうかと不安がってごめんなさい、と心の中で謝るのも忘れない。
それにしても、縁という物は凄いなと思った。
こんな場所で繋がるとは思ってもみなかった。
お目当てのマジックポーション等消耗品を大量に買い込み、道具屋テッドをあとにした。
どうしてこんな立地の悪い場所に店舗を構えているのかと思ったら、冒険者ギルドや今の目抜き通りができる前からここに店舗を構えており、町の発展に伴い必然的にこの立地となったようだった。
つまりは、ここが村のときからのお店で老舗なのだろう。
この出逢いに感謝して、このお店を贔屓にすることを僕は決めた。
――――テレーナに聞いた新事実は、コウヘイを驚かせるものばかりであった。
ただ、ラルフがローラたち少女四人組の訓練を監督していたことに間違いはないのだが、その発想や彼女たちの強さの秘訣は、また別のお話。
夜が明け、スマートフォンのアラーム音がけたたましく鳴り響き、コウヘイは目を覚ました。
遅くまで飲んでいたコウヘイが、寝坊しないように目覚ましをセットしておいたからなのだが、目を覚ますなりコウヘイの口から出たのは文句だった――――
「あー、結局ゆっくり眠れなかったー」
アラームを止めるために腕を伸ばすも、エルサが絡みついておりそれが中々難しかった。
「な、何事ですか!」
「あ、おはよう、ミラ。悪いけどそこの四角いやつ取ってくれないかな」
アラーム音に驚いたのか、ミラがパニック状態で杖を取り出し身構えていた。
「大丈夫だよ。魔道具の一種で、音を出して起こしてくれる物なんだ」
僕は適当に説明し、ミラからスマートフォンを受け取り、アラーム音を止めた。
「エルサっ、朝だよ。起きてー」
昨日は、エルサも大分飲んでいたし、こりゃ無理かな、と考えながらやっとの思いでベッドを抜け出し、僕は身支度を整えた。
その間にミラには、イルマたちを起こしに行ってもらった。
「あのーコウヘイさん」
「ん、どうした?」
「お二人とも起きてくれません」
戻って来たミラが半開きの扉から顔だけを出して困り顔で教えてくれた。
遅くまで飲んでたからなー、それなら仕方がない。
「そっか、それなら二人で先に朝食を済ませちゃおう。幸い今日は晴れているから、先に買い物をするのでもいいしね」
「あ、はい。急ぎ支度します」
宿屋の窓を開けると、雨上がりの翌日らしいじめじめとした湿り気のある風が部屋の中に流れ込んできた。
晴れたといってもこればかりは仕方がないよね。
僕はそう納得しながら太陽の陽の光を浴びて、「ううーん」と伸びをする。
「って、ちょっとミラ!」
「はい、なんでしょうか?」
ミラは本気で気付いていないのか、コテンと小首を傾げた。
ミラのその小さく細い指が、寝間着のボタンに掛かっており、僕が部屋にいるにも拘らず、脱ごうとしていたのである。
「ぼ、僕は先に下に行っているから、着替えたら下りてきて」
「え? ああ、私は別に構わないですよ」
ミラはそう言って、着替えを続行した。
ミラが気にしなくても、僕が気にするんだってえええー! と内心叫びながら、僕はアクセラレータを掛けたの如く猛スピードで駆け出し部屋を出た。
「はあ、エルサじゃないけど、この世界の女の子たちの貞操観念はどうなっているんだよ」
僕は頬が熱くなるのを感じながら一人カウンターに座り、ミラが来るのを待ってから朝食にした。
相変わらず、朝食は、キノコサラダ、キノコステーキとキノコスープといったキノコのフルコースだった。
ミラなんて、それを見て一瞬、顔をしかめて僕の方を見たほどだった。
僕はそれが定番だよと教えてあげたら、納得したのかわからないけど黙々と食べはじめた。
「あ、これ美味しいです」
そう、ただのキノコに見えて素材の味を生かした味付けで、これはこれでいけるのだった。
「そう言えば、買い物は私なんかとで良いんですか?」
「どうしてそう思うの?」
ふと思ったのか、ミラが突然不安そうな顔をした。
「いえ、昨晩の話ではエルサさんがコウヘイさんと洋服を買いに行くと言っていたので……」
「え、僕はそんな話聞いていないけど?」
おかしいな、隣にいたはずなのにその話に全く身に覚えがない。
これが俗にいう、酔って記憶を無くすってやつだろうか……
「みなさん相当酔ってましたからね。それで覚えていないのでしょう」
「そう言えば、ミラは大丈夫なの? ミラも大分飲んでいたと思ったけど」
「ああ、あれはふつうの果実のしぼり汁ですよ。お酒は苦手で……」
「ふーん、そうだったんだ」
メニュー表が無いから、ジュースがあることに気付いていなかった。
「まあ、覚えていないからエルサも怪しいもんだよ。それに起きてこない方が悪い」
「そ、そうでしょうか……」
僕はそう言ったけど、ミラは何か遠慮した風に言ってくる。
ミラとは昨日はじめて話をしただけで、性格を把握している訳じゃないけど、目の前のミラから大分大人しい印象を受けた。
本当にあの謁見の間の出来事は何だったんだろう。
思い出しただけでも背筋が凍るほど、あの殺気は凄まじかった。
まあ、わからないことを考えても今は仕方がない。
「それに、ミラのためでもあるんだよ」
「え、私のためですか?」
「そう、マジックポーションで魔力が回復できるか試したいと思わない?」
僕がそう言うと、満開の花のような笑顔がミラの顔に広がった。
「はい、是非!」
その元気のよい返事を聞いて、後輩ができたみたいで嬉しくなった。
「よし、さっさと朝食を済ませて買い物に行こう」
そうは言ったものの、二人ともキノコステーキとキノコスープをお替りしてしまった。
だって美味しいんだから仕方がない。
――――――
晴れているとは言え、雨が止んだばっかりの舗装がされていない道は、いたるところに水溜りがあり、馬車の轍の跡でデコボコとした道は、非常に歩き辛かった。
足元に気を配りながら、目抜き通りを歩くこと一〇分ほどが経ち、究極のセリフを僕は言った。
「そう言えば、道具屋ってどこにあるんだろう?」
何の気なしに町へ繰り出したけど、その実、道具屋の場所を知らなかった。
適当に歩いていれば見つかるかなと思ったけど、出店の殆どはちょっとした雑貨やアクセサリー類の他に軽食を売っているこぢんまりとしたものだった。
「え? コウヘイさんが知っているのだとばかり思っていましたけど」
だから僕の間抜けな質問に、ミラが少し呆れた様子を見せた。
結局、冒険者ギルドへ行き、アリエッタさんに道具屋の場所を聞いた。
念のため、素材集計の進捗状況確認も兼ねていたけど、いつ終わるのかも含めてもう少し時間が欲しいとのことだった。
残念、エヴァのパーティー登録の際にまた確認することにしよう。
「おっ、ここだね」
看板には、道具屋テッドと書かれていた。
ふつう道具屋といったら、冒険者ギルドと門を結ぶ冒険者の動線沿いにあるものとばかり思っていたけど、アリエッタさんに教えてもらった道具屋は違った。
その道具屋は、目抜き通りや冒険者ギルドから少し離れた場所にあり、どちらかと言うと、領主の館の近くで町の中心部に位置していた。
冒険者が立ち寄るにはちょっと都合の悪い立地だった。
そりゃあ見つからなかった訳だよ。
「マジックポーションはどこかなー」
店の中は、イルマの店とは大違いで整理されていた。
それでも、色々な物が所狭しと陳列されており、目当ての物を探すのに苦労した。
「お客様、何かお探しでしょうか?」
僕が棚を眺めながらカニ歩きしている様子を見かねたのか、お店の人が声を掛けてくれた。
というか、案の定、僕たち以外のお客がいなかったので暇なのかもしれない。
「あ、はい、マジックポーションを……」
僕は返事をして目当ての物を伝えようとして固まった。
「マッジクポーションですね。それなら……ん、どうなさいました?」
「あ、いえ、知人というか知っているような人に似ている気がして……」
「はい?」
あまりのことで僕が変な言葉遣いとなり、それを不思議そうにしていた。
その女性は、ライトグリーンの髪で髪型がお河童だった。
そう、サーベンの森で出会った少女の面影があったのである。
「あら、もしかしてディビーのお知り合いの方です?」
「でぃ、ディビー?」
「ええ、髪型と髪の色を見て仰っているのでなくて?」
正に僕が気になったポイントを指摘したので、間違いなかった。
それにしても自分の格好が変わっているのを自覚しているんだね、と僕は自然と口角が上がって苦笑してしまった。
「あ、はい、帝都の近くの森で、似ている方に助けられたことがありまして」
「それなら間違いなくディビーだと思いますよ。丁度今年から帝都の魔術学園に通っているのですよ」
この人は、店主であるテッドさんの奥さんで、テレーナさんというらしい。
そこで話を聞いてみると、どうやらあの謎の少女四人組は、ここテレサ出身だということがわかった。
その中の一人に、ここテレサ領主の娘であるローラ嬢もいるらしかった。
テレーナさんの説明で、
「そのゼロは無限大」
だとか、
「魔力を感じなさい。せっかく良いスキルがあるのにもったいないわよ」
などとと言った金髪碧眼の女の子が、そのローラ嬢らしい。
もしかしたら、僕のスキルのことがわかっていての発言だとしたら凄いことだ。
鑑定眼のスキル持ちかもしれないと思ったけど、聖女オフィーリアのことを思い出して頭を振った。
鑑定眼は、少なくとも相手に接触する必要があったからだ。
そう考えると、より謎が深まるばかりだ。
ローラ嬢のことはまたあとで考えることにし、更に話を聞くと、その四人は小さいころからラルフさんに稽古をつけてもらっていたという事実が判明した。
恐らくラルフさんの弟子で、無詠唱のことも知っているのだろう。
どうやら、僕が魔法の三大原則に違和感を感じる要因となった出会いの元は、ラルフさんにあったようだ。
「これは、あとでラルフさんにお礼を言わないといけないな」
それと同時に、ラルフさんがギルドマスターで大丈夫だろうかと不安がってごめんなさい、と心の中で謝るのも忘れない。
それにしても、縁という物は凄いなと思った。
こんな場所で繋がるとは思ってもみなかった。
お目当てのマジックポーション等消耗品を大量に買い込み、道具屋テッドをあとにした。
どうしてこんな立地の悪い場所に店舗を構えているのかと思ったら、冒険者ギルドや今の目抜き通りができる前からここに店舗を構えており、町の発展に伴い必然的にこの立地となったようだった。
つまりは、ここが村のときからのお店で老舗なのだろう。
この出逢いに感謝して、このお店を贔屓にすることを僕は決めた。
――――テレーナに聞いた新事実は、コウヘイを驚かせるものばかりであった。
ただ、ラルフがローラたち少女四人組の訓練を監督していたことに間違いはないのだが、その発想や彼女たちの強さの秘訣は、また別のお話。
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