賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~(旧題:追放された重装騎士、実は魔力量ゼロの賢者だった~そのゼロは無限大~)

ぶらっくまる。

第059話 パーティー加入の条件

 湯浴みを終えて旅の疲れを癒したコウヘイたち五人は、白猫亭の酒場で席についていた。
 テーブルの上には、白身魚のカルパッチョ、赤身のお刺身、煮魚に焼き魚と豪勢な料理が所狭しと並べられた。

 全員腹ペコなのかその料理に目を奪われているのを見たコウヘイは、簡単な挨拶で済ませ、さっさと宴会を開始することにした――――

「それでは、ミラの加入と依頼達成を祝して、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」

 エルサの希望とは全然違い、テーブルの上の皿には、見事に魚料理一色だった。

 フーさん曰く、今朝取り立ての魚らしい。

 どう見ても川魚に見えないそれの輸送手段が気になって仕方がなかった。
 それでも、そんな疑問を抱いたのは僕だけだった。

 他のみんなは、先を競うように料理に手をつけ、魚料理に舌鼓を打っていた。

 戻ってくる道中、あんなにも肉料理の名前を言ってたエルサは、美味しければ何でも良いのか、勢いよく料理を頬張っており、まるでリスのようだった。

 そんなエルサが可笑しくて、思わず笑みが零れた。

 魚料理をあっという間に平らげ、酒が進む。

 完全に酔っぱらってしまう前にエヴァさん加入の話に移ることにした。

「あたしは、ソロでもそれなりに自信があるのよ。でも、ソロ活動が禁止という制限を設けられたら、ねえ……」

 僕たちがラルフさんと決めた通り、ダンジョン探索を行う際の制限が、エヴァさんには邪魔になり、どこかのパーティーに参加せざるを得なくなったらしい。

「それなら、別にわしらでなくてもよかろうに。ほれ、酒場にも色々と有象無象がいたではないか」

 イルマの言い様は尤もなことではあるけど、言い方がキツイ。
 どうしてイルマは、こうも憎まれ口のようにしか言えないのだろうかと、僕は嘆息をもらす。

「まあ、正直に話すと、あなたたちが強いと思ったからよ。イーちゃんが言う通り、あそこにはまともな冒険者はいないからね」
「い、イーちゃん!」

 エヴァさんは、イルマの言い様を気にも留めず、あっさり同意してみせた。
 謎の愛称と共に……

 上ずった声で驚いているイルマを他所にエヴァさんは、尚も話を続けた。

「あとは、あなたたちの構成かしらね」
「構成?」
「そうよ。ほらっ、あたしってこんななりじゃない? 男たちからの視線が鬱陶しくて」

 そう言いながら豊満な胸の下で両腕を組み、それを持ち上げたせいで大胆に開いた胸元からその果実がこぼれ落ちそうだった。
 風呂上がりだからか、綿でできたゆったりとしたローブ姿なため無防備だった。

「あたっ、いてっ」

 左側にいたイルマから背中を叩かれ、右側にいたエルサから腕をつねられた。
 
 何故かミラが自分の胸に両手を持っていき、確かめるような仕草をしている。
 いや、きみは十分大きいぞ、と心の中で言ってやる。

「それだったらそんな恰好を止めたらどうですか?」

 恐らく僕以外が女性のため安心できるとでも言いたいのだろう。
 軽装鎧のときでさえ胸元が開いていたのに、普段着なのかローブの下に着ている水色のドレスのようなそれは、より胸元が開いているのだ。

「それは嫌よ。これはあたしのポリシーなんだから」

 何のポリシーなんだか……

「それに、そこの二人からも愛されているようで相当すごいんでしょ? 受付の女の子も言っていたし」

 何故そこで舌舐めずりをする!

「いや、あれはスーさんのおふざけで、僕たちはそんな関係ではないですって!」
「うふ、冗談よ」

 何かエヴァさんと話をしているとペースを乱される。
 本当に僕たちのパーティーに入りたいのだろうかと疑問に思う。

「本当のところは役に立てると思ったからよ。見た感じそこの三人は魔法職でしょ? あなたも魔法を使えるようだけど、あんな大層な鎧を着ているということは、一人で前衛をこなすのは大変だと思ったからなの」

 どうやら、構成と言ったのは、戦闘でのロールのことも指していたようだ。

「それは、エヴァさんも前衛職で僕の負担を減らしてくれる、と?」
「そういうことよ。あたしは双剣使いなの。当然身体強化魔法も全て使えるわよ」

 なるほど、だから二振りも剣を腰に吊っていたのか。
 双剣ということは剣士としてアタッカーをやってくれるということだろう。

 ミラも近接戦闘が得意だと言っていたけど、魔力の制限がある今ではそれもままならないかもしれない。

 暫くはダンジョン探索を続けるつもりだし、万が一に備えて後方の憂いを断ちたい。
 そう考えると、ダンジョン内で挟撃された際や、五階層のように開けた場所でも防衛線を広く張れる。

 現状、僕、エルサとイルマの三人で苦労することは無かったけど、この先どんな魔獣が出てくるかもわからない。

 確か、一五階層まで行くとリトルドラゴンが出るとも言っていたし……良いんじゃないか?

 そうして僕が結論を出し、他のみんなの意見を聞くことにした。

「僕は、今後のことも含めてエヴァさんの加入は有りだと思うけど、みんなはどうかな?」

 それと同時に、先程考察した内容も付け加えた。

「ちょっと待って、もしかして最奥まで進むつもりなのかしら?」

 リトルドラゴンの話を聞いたエヴァさんが待ったを掛けた。

「そうじゃよ。わしらの目標はパーティー名の通り魔王討伐だからの」
「「えー!!」」

 イルマの説明に、エヴァさんだけではなく、ミラも驚きの声をあげた。
 すっかりその説明をミラにするのを忘れていた。

 となると、僕が元勇者パーティーにいたことを説明しない訳にはいかなかった。
 当然、勇者の紋章が無いことや無力だったことは伏せ、単純に仲たがいしたことにした。

「そんなに大物だとは思わなかったわよ」

 そりゃあ勇者だの、魔王討伐だの言われれば驚くよね。
 これは断られるかなと思ったら、そうはならなかった。

「ふふ、いいじゃない。あたしはその話乗ったわ。実は、両親を魔獣に殺されているの。その復讐の意味もあって冒険者をやっているのだけど、その親玉を殺れるとなったら凄いじゃない!」
「あ、わ、私も微力ながら頑張ります!」 

 まさかとは思ったけど、豪胆な性格をしているようだった。
 ミラもそんなエヴァさんに負けじと、頑張ると言ってくれた。

 ふつうだったら、魔王討伐って言われたら引くと思うけど、「勇者」がよっぽど信頼されているだろうか。
 あるいは、平和な日本で生きてきた僕と魔獣の脅威に晒されながら生きているこの世界の人々とでは、根本的に考え方が違うのかもしれない。

「それならいいじゃろう。わしはその覚悟があるなら加入に賛成じゃよ」
「わたしも問題ないかなー。コウヘイの負担が減るのはやっぱり嬉しいしね」
「私は、そもそもどうこう言える立場ではないのでお任せします」

 みんなもエヴァさんの加入に異論は無いということで、正式に決まった。

 本当は一時的に行動を共にするための提案だったらしい。
 それでも、エヴァさんは本気で魔王討伐に乗り気のようで、できればずっと一緒に行動を共にしたいと言ってくれた。

「一応念のために言っておくと、魔王討伐はかなり険しい道のりだよ。僕が死の砂漠谷で中級魔族と戦ったときは、僕の他に勇者が四人いたし、帝国の精鋭とマルーン王国の部隊と合同で一個旅団規模での戦闘だったんだから」
「そんなのあたしだってわかっているわよ。ただ、名を上げれば国が動くわよ。そのためにも名を上げる必要があるし、あたしがその手伝いをしてあげるって訳よ」

 エヴァさんの返答を聞いて僕は安心した。
 魔王討伐と言ってもこの人数でできる訳がない。

 僕たちは、個々の地力を上げるのは当然のこと、仲間を集めなければならない。

 これで、ミラとエヴァさんを加えて五人のパーティーとなる。
 まだまだ少ないけど、一気に二人の加入が決まり、僕は心底嬉しくて堪らない。

「まあ、そういうことだから、あたしのことは呼び捨てでいいわよ。あなたたちのことも好きに呼ばせてもらうから宜しくね。コウヘイ、エルちゃん、イーちゃん、ミラちゃん」

 何故か僕だけ呼び捨てで他の三人のことは、「ちゃん」付けだった。
 きっと、イルマのことを年下だと思ってそう言っているのだと思うけど、本当の年齢を知ったらきっと腰を抜かすだろうな、と僕は思いながらも黙っていることにした。
 同じ部屋だから、そこら辺の話も話題に出るだろうしね。

 ――――そのあとの五人は、今までの戦闘スタイルを説明して、ミラとエヴァを含めた場合の隊列などの打合せを簡単に行った。

 そして、改めてエヴァ加入の乾杯をして遅くまで飲み明かしたのだった。
 
 明日の予定をエヴァのパーティー登録だけとし、基本は自由行動とした。
 ポーション系を全て切らしていた上、ダンジョン探索の段取りをすることの他に試したいことがコウヘイにはあった。

 それは、マジックポーションでミラの魔力が回復するかどうか――
 ミラは、コウヘイとは違い、元から魔力があったため結構期待できるだろう。

 部屋に戻ったコウヘイは、そんな期待を胸にぐっすりと眠ることにした。

 が、

 当然エルサが潜り込んできたせいで、ぐっすりといかなかったのは言うまでもない。

 何のための四人部屋なのかわからなくなったのは、ここだけのお話。

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