賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~(旧題:追放された重装騎士、実は魔力量ゼロの賢者だった~そのゼロは無限大~)
第058話 綺麗なお姉さんは好きですか?
勇者一行がパルジャ襲撃犯である魔獣の討伐戦の準備で忙しなく駆けずり回っているころ。
テレサの冒険者ギルドは、ダンジョン探索解禁の決定を受け、ギルド内に併設されている酒場から乾杯の掛け声が幾度となく聞こえ、盛り上がりを見せていた。
コウヘイたちは、ミラの歓迎会とクエスト達成のお疲れ会をするために白猫亭に戻ろうと、ギルドを出ようとしていた――――
「ねえねえ、そこのミスリルの魔法騎士様、ちょっと、お話していかない?」
と、女性の声が聞こえてきた。
一瞬、誰のことだろうと思ったけど、
「ねー、そこのミスリルのプレートアーマーの大きなお兄さん!」
と、言われてようやくそれが僕のことだと理解できた。
未だ慣れない、「ミスリルの魔法騎士」と呼ばれ、くすぐったく感じたけど、妙に心地よかった。
その声に僕が振り向くと、綺麗なお姉さんがそこにいた。
胸元が大胆に開いている革の軽装鎧といった風貌で、サーデン帝国では珍しい髪の色をしていた。
紫色のミディアムショートの髪に、落ち着いたグレーの瞳。
そして、しゅっと整えられた眉と、その鋭い眼光から勝気な印象を受けた。
「僕のことでしょうか?」
思わず胸元に視線が行きそうになるのを堪え、僕は相手の目を見てそう尋ねた。
「そうよ。確かコウヘイと言ったかしら?」
「あ、はい。それであなたは?」
ミラが僕の後ろに隠れるようにしがみつき、エルサが少し寄ってきた。
「何よもー、そんなに警戒しなくったっていいじゃない」
キリっとした目をしているけど、その女性から敵意は感じられなかった。
だけど、エルサの表情からは、少し焦っているような感じを受けた。
何故だろう?
「あたしはエヴァ。シルバーランク冒険者よ。もしよかったらあなたのパーティーに入れてほしいんだけど」
まさかの申し出に僕は、すかさず答えた。
「え、良いんですか!」
「あら、むしろ良いの? あたしは断られるのを覚悟で声を掛けたんだけどな」
「そうじゃよ、コウヘイ。名前とシルバーランク冒険者だということしかわかっておらんじゃろう」
「あ、そっか」
奴隷を増やす以外で仲間を増やす方法は無いと諦めていた僕は、冒険者から仲間になりたいと言われてすっかり舞い上がってしまった。
イルマの言うことも一理ある。
僕たちは、色々とふつうの冒険者と違い秘密が多いため、仲間になる相手を慎重に選ぶ必要がある。
僕たちは魔王討伐を目指しているし、特殊なスキルを持っている。
魔力を吸収させてくれと言ったら逃げ出すかもしれないし、それは色々と変な噂が立ちそうで、それだけは避けたい。
魔力を吸収するかどうかは、エヴァさんの魔力量にもよるだろうけど、長く一緒に行動を共にするなら、スキルの秘密を隠し通すのは難しい。
ただ、剣を二振り腰に吊っていることから、彼女は前衛職で間違いないだろう。
今のパーティー構成から考えると、是非とも仲間になってほしい。
「それじゃあ、色々と話を聞かせてもらって良いですか? 僕たちのことも話しますので、それでお互い問題なければパーティーを組みましょう」
「ええ、それでいいわ。あたしは、そもそもそのつもりだったしね」
苦笑いのエヴァさんを見て、僕が世間知らず過ぎたようで、僕は恥ずかしくなった。
そうと決まれば、腰を落ち着かせて話しでもとギルド内を見渡したけど、どこもかしこも宴会が始まっており、落ち着いて話せそうな場所は無かった。
「うーん、ここじゃ難しそうですね。エヴァさんが問題なければ、僕たちが泊っている宿屋の酒場でいいですか?」
「それは遠いのかしら?」
「いえ、白猫亭というところで数分で着くと思いますよ」
「あら、白猫亭? なかなかセンスがいいじゃない。あたしも向こうでは足繁く通ったものよ」
「向こう?」
エヴァさんは白猫亭を知っているようだったけど、僕は、「向こう」という言葉が気になった。
「ええ、あたしはバステウス連邦王国の出身なのよ。白猫亭は、王国で有名なお店でね。しかも、いくつもの店を王国中に展開するほどなのよ」
まさかのチェーン店だった。
それを聞いて増々白猫亭の存在が気になってきたのと共に、早くフーエイさんと話がしてみたいとも思った。
「へー、それは知らなかったです。それにしても、よくサーデン帝国まで来れましたね。あ、まだ降ってる」
バステウス連邦王国は、サーデン帝国にとって仇敵で、現在は不可侵を締結しており、自由に行き来ができない。
当初は、帝国からの追手がテレサまでくれば、隣のバステウス連邦王国に逃げればいいやと思っていたけど、その事実に僕たちは諦めることにしていた。
そのことを聞きながらギルドの扉を開けたら、未だ雨が降っていた。
「ちょっと待っておれ」
そう言って、イルマが魔法袋を漁りはじめた。
恐らく魔導馬車でも出してくれるのだろう。
歩いて数分とは言え、足元はぬかるんでいるし、濡れぬのも勘弁してほしい。
「ほれ、これを被れ」
しかし、イルマが取り出したのは、黒色のふつうのローブのようだった。
「ああ、あたしは自分のがあるから大丈夫よ」
エヴァさんは、魔法袋から茶色いローブを取り出しそれを羽織った。
その魔法袋を見た僕は、一瞬、ギョッとしたけど、恐らく似ているだけだろう。
「わ、私はこのままで大丈夫です」
ミラは、元々着ている黒色のローブのフードを被り、首元の紐を締めた。
その真っ黒なローブのフードから、真っ白な顔だけが出ていて何とも可愛らしかった。
しかも、そのフードは赤く縁取られており、ミラの深紅の瞳ともマッチしていた。
「ありがとう」
「うむ」
僕は怪訝に思いながらも、イルマなりの考えがあるのだろうことを察し、素直にイルマからそのローブを受け取った。
恐らく、魔導馬車と同様に、身隠しのローブの存在を隠したいのだろう。
確か、あれは暗殺者が好んで使用すると言っていたしね。
「えっと、どうやってサーデン帝国に来たか、だっけ?」
「あ、はい」
雨が降りしきる中、白猫亭へ向かう道中も話を続けた。
エヴァさんの話はこうだった。
商人は当然のこと、冒険者もまた然り、自由に行き来はできないらしい。
それではどうやってエヴァさんがサーデン帝国に来れたかというと、バステウス連邦王国の使者の護衛として入国したらしい。
しかし、無事帝都に着いて、使者が入城して一週間が経っても誰一人として戻ってこないことから、帝都を離れることにしたらしい。
それで、とりあえず国境まで戻って来たけど、案の定通行できなかったため、テレサの町まで引き返して来たらしい。
「そ、それって……」
「そうね、使者は恐らく処刑でもされたんじゃないかしら」
エヴァさんは、いとも簡単に言ったけど、僕はその話を聞いて怖くなった。
確かにあのアイトル陛下は厳しい一面もあるけど、賢帝と知られており、無駄に戦火を広げるようなことはしないと思っていた。
ただ、そればっかりは僕なんかが皇帝の考えをはかり知ることなどできる訳が無かった。
「はい、到着です」
そんな話をしていたら白猫亭に到着した。
まだまだ聞きたいことはあったけど、他国への使者の護衛をするくらいだから、エヴァさんのことは、信用が置けそうだった。
先ずは、ミラが増えたため部屋の手続きをしてから続きを話すことにした。
夕食の時間に丁度良いころ合いだったけど、雨のせいか店内はガラガラだった。
「こんばんはー、えっとスーさんでいいんですよね?」
カウンターには、青色のカチューシャを付けエルフ耳の少女がいたことからそう声を掛けた。
フーさんと見た目が全く一緒なため、カチューシャの色でしか判断ができない。
「正解。ここ数日姿を見せないと思ったら女漁りでもしていらしたのですね」
スーさんは、ミラとエヴァさんを見てそんなことを言う。
スーさんの僕に対する評価が相変わらず変だった。
「そんな訳――」
「あら、コウヘイさん。てっきり死んじゃったのかと思いましたよ」
そんな訳ないでしょ、と言おうとしたら今度は、赤色のカチューシャを付けたフーさんがカウンターにやって来て、そんな失礼なことを言う。
「いや、ダンジョンにこもっていたら帰りが遅くなっただけですよ」
「そうですか。でも、これからは長期の外出の際は事前に教えてくださいよ」
「あれ、もしかして心配してくれていたんですか?」
「ばっ、ち、違うわよ! 食事の仕込みとかがあるだけだしー。別にあなたたちがどうなろうと知ったこっちゃないだから!」
おっと、まさかのツンデレ属性か?
耳と頬を真っ赤に染めたフーさんを見て、何とも可愛らしいと思った。
「そうでしたか。それは失礼しました」
僕がニヤニヤしながらそう反したけど、「本当なんだから!」とぷりぷりした様子だった。
「まあ、それは今後気を付けます。実は部屋を追加したいんですけど、空いていますか?」
本来の目的を果たすべく、空き部屋状況を確認する。
「ああ、それなら、がらっがらだから大丈夫ですよ」
「うん、問題ない……キングベッドで楽しめるよ」
スーさんの戯言を完全にスルーして部屋割りを決めることにした。
フーさん曰く、ダンジョン探索の規制のせいで、冒険者の数が大分減ったらしく、部屋が余っているとのことだった。
――――雨が原因で酒場が空いている訳ではなく、ダンジョン探索規制のせいで冒険者が激減したことに起因していた。
ラルフが早くダンジョン規制を解除したがったのも納得できる。
たった数日の規制でこんなにも冒険者が減れば、このままダンジョン探索規制が続くことが、テレサの経済破綻に繋がるというのはあながち間違いではなかった。
大部屋を取ろうかという意見も出たが、エヴァとパーティーを組むことが本決まりではないため、残り一日ある二人部屋をそのままとし、新しく四人部屋を取ることとなった。
部屋割りは、四人部屋にコウヘイ、エルサとミラの三人。
既に取ってあった二人部屋にイルマとエヴァという組み合わせとなった。
テレサの冒険者ギルドは、ダンジョン探索解禁の決定を受け、ギルド内に併設されている酒場から乾杯の掛け声が幾度となく聞こえ、盛り上がりを見せていた。
コウヘイたちは、ミラの歓迎会とクエスト達成のお疲れ会をするために白猫亭に戻ろうと、ギルドを出ようとしていた――――
「ねえねえ、そこのミスリルの魔法騎士様、ちょっと、お話していかない?」
と、女性の声が聞こえてきた。
一瞬、誰のことだろうと思ったけど、
「ねー、そこのミスリルのプレートアーマーの大きなお兄さん!」
と、言われてようやくそれが僕のことだと理解できた。
未だ慣れない、「ミスリルの魔法騎士」と呼ばれ、くすぐったく感じたけど、妙に心地よかった。
その声に僕が振り向くと、綺麗なお姉さんがそこにいた。
胸元が大胆に開いている革の軽装鎧といった風貌で、サーデン帝国では珍しい髪の色をしていた。
紫色のミディアムショートの髪に、落ち着いたグレーの瞳。
そして、しゅっと整えられた眉と、その鋭い眼光から勝気な印象を受けた。
「僕のことでしょうか?」
思わず胸元に視線が行きそうになるのを堪え、僕は相手の目を見てそう尋ねた。
「そうよ。確かコウヘイと言ったかしら?」
「あ、はい。それであなたは?」
ミラが僕の後ろに隠れるようにしがみつき、エルサが少し寄ってきた。
「何よもー、そんなに警戒しなくったっていいじゃない」
キリっとした目をしているけど、その女性から敵意は感じられなかった。
だけど、エルサの表情からは、少し焦っているような感じを受けた。
何故だろう?
「あたしはエヴァ。シルバーランク冒険者よ。もしよかったらあなたのパーティーに入れてほしいんだけど」
まさかの申し出に僕は、すかさず答えた。
「え、良いんですか!」
「あら、むしろ良いの? あたしは断られるのを覚悟で声を掛けたんだけどな」
「そうじゃよ、コウヘイ。名前とシルバーランク冒険者だということしかわかっておらんじゃろう」
「あ、そっか」
奴隷を増やす以外で仲間を増やす方法は無いと諦めていた僕は、冒険者から仲間になりたいと言われてすっかり舞い上がってしまった。
イルマの言うことも一理ある。
僕たちは、色々とふつうの冒険者と違い秘密が多いため、仲間になる相手を慎重に選ぶ必要がある。
僕たちは魔王討伐を目指しているし、特殊なスキルを持っている。
魔力を吸収させてくれと言ったら逃げ出すかもしれないし、それは色々と変な噂が立ちそうで、それだけは避けたい。
魔力を吸収するかどうかは、エヴァさんの魔力量にもよるだろうけど、長く一緒に行動を共にするなら、スキルの秘密を隠し通すのは難しい。
ただ、剣を二振り腰に吊っていることから、彼女は前衛職で間違いないだろう。
今のパーティー構成から考えると、是非とも仲間になってほしい。
「それじゃあ、色々と話を聞かせてもらって良いですか? 僕たちのことも話しますので、それでお互い問題なければパーティーを組みましょう」
「ええ、それでいいわ。あたしは、そもそもそのつもりだったしね」
苦笑いのエヴァさんを見て、僕が世間知らず過ぎたようで、僕は恥ずかしくなった。
そうと決まれば、腰を落ち着かせて話しでもとギルド内を見渡したけど、どこもかしこも宴会が始まっており、落ち着いて話せそうな場所は無かった。
「うーん、ここじゃ難しそうですね。エヴァさんが問題なければ、僕たちが泊っている宿屋の酒場でいいですか?」
「それは遠いのかしら?」
「いえ、白猫亭というところで数分で着くと思いますよ」
「あら、白猫亭? なかなかセンスがいいじゃない。あたしも向こうでは足繁く通ったものよ」
「向こう?」
エヴァさんは白猫亭を知っているようだったけど、僕は、「向こう」という言葉が気になった。
「ええ、あたしはバステウス連邦王国の出身なのよ。白猫亭は、王国で有名なお店でね。しかも、いくつもの店を王国中に展開するほどなのよ」
まさかのチェーン店だった。
それを聞いて増々白猫亭の存在が気になってきたのと共に、早くフーエイさんと話がしてみたいとも思った。
「へー、それは知らなかったです。それにしても、よくサーデン帝国まで来れましたね。あ、まだ降ってる」
バステウス連邦王国は、サーデン帝国にとって仇敵で、現在は不可侵を締結しており、自由に行き来ができない。
当初は、帝国からの追手がテレサまでくれば、隣のバステウス連邦王国に逃げればいいやと思っていたけど、その事実に僕たちは諦めることにしていた。
そのことを聞きながらギルドの扉を開けたら、未だ雨が降っていた。
「ちょっと待っておれ」
そう言って、イルマが魔法袋を漁りはじめた。
恐らく魔導馬車でも出してくれるのだろう。
歩いて数分とは言え、足元はぬかるんでいるし、濡れぬのも勘弁してほしい。
「ほれ、これを被れ」
しかし、イルマが取り出したのは、黒色のふつうのローブのようだった。
「ああ、あたしは自分のがあるから大丈夫よ」
エヴァさんは、魔法袋から茶色いローブを取り出しそれを羽織った。
その魔法袋を見た僕は、一瞬、ギョッとしたけど、恐らく似ているだけだろう。
「わ、私はこのままで大丈夫です」
ミラは、元々着ている黒色のローブのフードを被り、首元の紐を締めた。
その真っ黒なローブのフードから、真っ白な顔だけが出ていて何とも可愛らしかった。
しかも、そのフードは赤く縁取られており、ミラの深紅の瞳ともマッチしていた。
「ありがとう」
「うむ」
僕は怪訝に思いながらも、イルマなりの考えがあるのだろうことを察し、素直にイルマからそのローブを受け取った。
恐らく、魔導馬車と同様に、身隠しのローブの存在を隠したいのだろう。
確か、あれは暗殺者が好んで使用すると言っていたしね。
「えっと、どうやってサーデン帝国に来たか、だっけ?」
「あ、はい」
雨が降りしきる中、白猫亭へ向かう道中も話を続けた。
エヴァさんの話はこうだった。
商人は当然のこと、冒険者もまた然り、自由に行き来はできないらしい。
それではどうやってエヴァさんがサーデン帝国に来れたかというと、バステウス連邦王国の使者の護衛として入国したらしい。
しかし、無事帝都に着いて、使者が入城して一週間が経っても誰一人として戻ってこないことから、帝都を離れることにしたらしい。
それで、とりあえず国境まで戻って来たけど、案の定通行できなかったため、テレサの町まで引き返して来たらしい。
「そ、それって……」
「そうね、使者は恐らく処刑でもされたんじゃないかしら」
エヴァさんは、いとも簡単に言ったけど、僕はその話を聞いて怖くなった。
確かにあのアイトル陛下は厳しい一面もあるけど、賢帝と知られており、無駄に戦火を広げるようなことはしないと思っていた。
ただ、そればっかりは僕なんかが皇帝の考えをはかり知ることなどできる訳が無かった。
「はい、到着です」
そんな話をしていたら白猫亭に到着した。
まだまだ聞きたいことはあったけど、他国への使者の護衛をするくらいだから、エヴァさんのことは、信用が置けそうだった。
先ずは、ミラが増えたため部屋の手続きをしてから続きを話すことにした。
夕食の時間に丁度良いころ合いだったけど、雨のせいか店内はガラガラだった。
「こんばんはー、えっとスーさんでいいんですよね?」
カウンターには、青色のカチューシャを付けエルフ耳の少女がいたことからそう声を掛けた。
フーさんと見た目が全く一緒なため、カチューシャの色でしか判断ができない。
「正解。ここ数日姿を見せないと思ったら女漁りでもしていらしたのですね」
スーさんは、ミラとエヴァさんを見てそんなことを言う。
スーさんの僕に対する評価が相変わらず変だった。
「そんな訳――」
「あら、コウヘイさん。てっきり死んじゃったのかと思いましたよ」
そんな訳ないでしょ、と言おうとしたら今度は、赤色のカチューシャを付けたフーさんがカウンターにやって来て、そんな失礼なことを言う。
「いや、ダンジョンにこもっていたら帰りが遅くなっただけですよ」
「そうですか。でも、これからは長期の外出の際は事前に教えてくださいよ」
「あれ、もしかして心配してくれていたんですか?」
「ばっ、ち、違うわよ! 食事の仕込みとかがあるだけだしー。別にあなたたちがどうなろうと知ったこっちゃないだから!」
おっと、まさかのツンデレ属性か?
耳と頬を真っ赤に染めたフーさんを見て、何とも可愛らしいと思った。
「そうでしたか。それは失礼しました」
僕がニヤニヤしながらそう反したけど、「本当なんだから!」とぷりぷりした様子だった。
「まあ、それは今後気を付けます。実は部屋を追加したいんですけど、空いていますか?」
本来の目的を果たすべく、空き部屋状況を確認する。
「ああ、それなら、がらっがらだから大丈夫ですよ」
「うん、問題ない……キングベッドで楽しめるよ」
スーさんの戯言を完全にスルーして部屋割りを決めることにした。
フーさん曰く、ダンジョン探索の規制のせいで、冒険者の数が大分減ったらしく、部屋が余っているとのことだった。
――――雨が原因で酒場が空いている訳ではなく、ダンジョン探索規制のせいで冒険者が激減したことに起因していた。
ラルフが早くダンジョン規制を解除したがったのも納得できる。
たった数日の規制でこんなにも冒険者が減れば、このままダンジョン探索規制が続くことが、テレサの経済破綻に繋がるというのはあながち間違いではなかった。
大部屋を取ろうかという意見も出たが、エヴァとパーティーを組むことが本決まりではないため、残り一日ある二人部屋をそのままとし、新しく四人部屋を取ることとなった。
部屋割りは、四人部屋にコウヘイ、エルサとミラの三人。
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