賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~(旧題:追放された重装騎士、実は魔力量ゼロの賢者だった~そのゼロは無限大~)

ぶらっくまる。

第046話 沸き立つ冒険者と調査報告

 冒険者ギルドホールの熱狂は、コウヘイたちが奥に移動したあとも治まることは無かった。

「おいおい、まさかゴブリンジェネラルがいるとは思わなかったな」

 冒険者の一人がそんなことを言うと、次々に他の冒険者がゴブリンジェネラルの死骸を見て感想を言い出す。

「そうだな。俺もはじめて見たが、あのゴブリンがこんな姿をしているのにも驚きだ」
「魔獣の進化は謎が多いからな。もしかしたら、ファビオさんたちが遭遇したオーガは、オーガナイトだったんじゃないか?」
「それはわからんが、しかし、壮絶な戦いだったんだろうな」
「ああ……」

 ゴブリンジェネラルが身に着けている鉄の鎧が、見るも無残にベコベコにへこんでおり、亀裂が入った個所から血が流れた跡が沸騰した泡のような形で固まっていた。

「これが電撃魔法の跡か?」
「そうだろうな。まさか神の力を使うとは……」
「ああ、しかも身体強化の魔法を使いながらとか言っていたな……」
「まさかのヤベー奴がこのテレサに来たもんだ」

 ファンタズム大陸に於ける魔法の三大法則――
 魔法とは、この大地に宿る神聖な力を行使するもの。
 魔法とは、詠唱をして発動するもの。
 魔法とは、詠唱を省略すると効果が弱まる。

 コウヘイは、これに則れば誰でも魔法が行使できると認識していたのだが、事実は全然違った。

 コウヘイの場合は、身近にいた魔法を使える者が、勇者だったり、エルサやイルマといった、この世界でも上級者の部類に入る魔法が得意な者たちであるため仕方がないかもしれない。

 基本属性といわれる、火魔法、水魔法、風魔法と土魔法の四属性は、呪文を正確に唱えられれば発動は可能とされている。

 どんなに多くの魔力を持っていようが、少ない者と威力の差もないとされている。
 しかし、属性によって必要魔力に差が出るのだ。

 数値でわかる訳では無いが、使用者は虚脱感の差によって得意属性を理解しており、最も多く使用できる魔法属性を得意属性とするのが常識とされている。

 勇者パーティーの山木雅浩が灼熱のマサヒロと呼ばれる所以は、彼が火魔法が好きというよりは、一番多く使えるため自然と使用頻度が増えたためである。
 事実、彼の場合は、かっこいいからという安直な理由もあった。

 その事情は、魔法を使えなかったコウヘイだからこそ気付かない部分だろう。

 冒険者たちが驚いた電撃魔法はというと、基本属性とは違い、呪文に、「神」の文字を含んでおり、必要魔力もとてつもなく多い。

 したがって、電撃魔法を使えるだけで天才魔法士と呼ばれ、魔法職の憧れの魔法の一つなのである。

 そんな魔法であるため、使い手といったら勇者、宮廷魔法士や神官といった存在に限定される。

 ギルドマスターのラルフが、電撃魔法を使ったのをイルマと勘違いしたのは、そうした理由からで、そこまで見当違いでもなかった。

 そのエルフの女王であると告白したイルマでさえ電撃魔法は使わない――
 使用後の虚脱感がもの凄く、それを嫌っているから。

 エルサが電撃魔法を得意としているのは、彼女がダークエルフの中である役割を担う氏族だからなのだが、それはまた別の話である。

「しかも、帝都で重装騎士をしていたとラルフ様は仰っていなかったかしら?」

 コウヘイを最初に、「ミスリルの魔法騎士」と呟いた女性が、そう思い返す。

「ああ、そうだ。エヴァの言う通りだ。しかも、ラルフ様はあの魔法騎士に敬語で話していたぞ」
「なるほど……」
「そうだな……」
「ということは……」
「そうに違いない!」

 テレサの町に救世主が来たと盛り上がっていた冒険者たちは、その実力と状況証拠からあることを思い立った。

 そして、

「あのお方は……」
「「「「勇者様だっ!」」」」
「金貨箱だ!」

 全員の意見が一致することはなく、エヴァだけが違う意見を言った。

「おい、エヴァっ」
「あ、勇者様だっ!」

 周りの冒険者から冷たい視線を受け、慌てて言い直すエヴァだったが、

「遅いっ」

 と、突っ込まれ、舌を出しながらエヘヘと笑って誤魔化す。

 しかし、その鋭い眼光は、新たな獲物を発見した獣のようにギラついていた。

 それを見たある冒険者が、

「さすがは、あのエヴァ様だっ」

 と、それを契機にギルドホールが笑いの渦に巻き込まれた。

 コウヘイが冒険者をやっていることから、勇者でないことは明らかだったが、そんな制限を知っている者はこんな辺境には少ない。

 それに気付いたエヴァは、限りなく少ないそんな一人であった。

 エヴァは、周りに合わせて大笑いをしているが、内心ではいきなり舞い込んできた旨い状況をものにしようと画策するのであった。


――――――


 ギルドホールが本人たち不在の中、コウヘイたちの話で盛り上がっているさなか。
 コウヘイたちは、ラルフとアリエッタに説明をするべく、打ち合わせ室のソファーに腰を下ろしていた。

 初日と同様に、アリエッタがお茶の準備をしており、それが全員に配られるのをコウヘイは、待っていた――――

「それじゃあ、早速ですが四階層までは異常と判断できるようなことはありませんでした」

 アリエッタさんが、お茶を配り終わりソファーに座ったのを確認して、僕は説明を始めた。

「五階層まではゴブリン主体だったと思いますが、魔獣の強さも変わりは無かったと?」

 ラルフさんの確認に、僕あることを思い出した。

「四階層まで強い魔獣はいませんでしたね。確か、三〇〇匹くらいのゴブリンに遭遇しましたけど、それ以外の魔獣がいませんでした。強さに変わりは無かったと思いますが、全て一撃でしたのでなんとも……」

 ラルフさんの反応を気にしながら説明したけど、今のところ口を挟んでくる様子は無かった。

「むしろ、ゴブリン以外がいなかったので、それが異常かもしれませんね」
「そうですか……」

 口を隠すように左手で覆い、顎を摩りながらラルフさんは、何やら考えている様子だった。

「何か気になる点でも?」
「あ、いえ。ゴブリンジェネラルといった指揮官魔獣がいる場合は、配下の魔獣も強化されるはずなんですよ。他の魔獣はその数のゴブリンに異常を感じて隠れていた可能性もありますので、そこまで変わったことではないと思いますよ」

 ラルフさんは、苦笑いを浮かべてそう指摘し、魔獣がゴブリンだけだとしても異常ではないことを教えてくれた。

「身体強化していれば気付かなかったと思いますが、身体強化をせずに全て一撃だったので、これは間違いないと思いますよ」
「なんと! 身体強化なしで三〇〇匹全てを一撃ですか? 信じられない……」

 ラルフさんは、そう言ってカップに手をのばしてお茶を一口、二口と飲み始めた。
 お茶を飲みながら話を聞いていたアリエッタさんは、ラルフさんとは逆にその手が止まっている。

「ああ、全て僕が倒した訳じゃないですよ。エルサにも攻撃魔法で半分近く倒してもらっていますから……」

 その途端、二人の視線が同時にエルサに向き、僕は思わず笑ってしまった。
 驚くときのタイミングや驚き方が非常に似ており、やっぱり親子だなと思った。

 薄々僕も気が付いていたけど、エルサも常人離れした能力なのだろう。
 というより、それだけ魔法を撃ち続けられる魔力量に驚いているのかもしれないけど、そればかりは僕も判断がつかない。

 そのあとの五階層での戦闘の話をしても、眉をひそめたり目を見開いたりと、終始驚きっぱなしで、言葉を挟んでくることは無かった。

 見た感じでは、言葉を挟む暇が無いほどに驚きの連続だったのだろう。
 そのおかげで僕は、気持ちよく話すことができた。

「っと、いう訳でゴブリンシャーマンの邪魔がありましたが、それを倒したあとはお互い体力勝負で、ひたすらメイスで殴り続けて倒したという訳です」

 ファイアボルトを身に受けて魔力を吸収したことと電撃魔法をエンチャントしたことは、念のため伏せたま説明を終えた。

 事前にこれは打合せしておいたことで、イルマから能力の詳細は伏せた方が良いと指摘されていた。

 何も隠す事なじゃないかと言ったけど、イルマは頭を振って説明してくれた。

 イルマ曰く、

「攻撃魔法を吸収できるなんぞの話を信じてもらえる訳がなかろうて。まあ、あのマスターのことじゃからすんなり受け入れそうじゃが、冗談だと思われるだけじゃ」

 だとか、

「身体強化のエンチャント魔法は一般的によく用いられるんじゃが、属性魔法なんぞわしかて初めて見たぞ。そんな奥の手のようなものは話さん方が身のためじゃ」

 などと、僕が常人じゃないみたいなことを言い出すしまつ。

 そんなこんなで僕が得意げに説明を終えると、ようやくラルフさんが言葉を発した。

「いやはや、ここまで驚いたのは久しぶりですな。それにしてもさすがはイルマ殿ですな。伝説級の光魔法まで使用できるとは」

 イルマが使用したフィジカルリストレインは、上級のワンランク上の伝説級の魔法に分類されるらしい。

「まあ、わしも無駄に長生きをしとらんよ。じゃが、結局、最後はレジストされて危なかったがのう」

 イルマは、お決まりの文句を言って、レジストされたことを悔しがっている。

「それにしても、それまでが一日目と仰っていますが、そのあとは、一体どうしていらしたのですか? 相当激しい戦闘だと窺い知れますが、動けなくなるほどの大けがをした訳ではないですよね?」

 アリエッタさんは、残りの四日間が気になるようで、身を乗り出していた。

「それはですね……」

 ――――コウヘイは、その疑問を待ってましたと言わんばかりに、いきなり現れた転移魔法陣によって飛ばされた精霊の樹海で起きたことを、説明し始めるのだった。

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