異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第196話 魔王になる事

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今思えば、私は出来の悪い子だったかもしれない。
お父様やお母様もこんな出来の悪い子を生んで後悔しただろう。


”私は本当は産まれてくるはずではなかった”


偶然の産物であり、この世界に災いをもたらすだけの存在。
私は価値のない生き物である。


「魔王になることも出来ないあんたは出来損ない。私達の方が絶対に上手くやれたはずなのに、何故、あなたなの?」


”知らない。知りたくもない”


「私達は魔王になる為だけに作られたのよ。それなのに、あなたは運命を受け入れようとしない。どれだけの兄弟姉妹が死んでいったと思う?」


”知らない。私はずっと一人よ”


「いいえ。一人じゃない。あなたの腕はグノームのもの、あなたの目はフランチェスカのもの、あなたの鼻は______」


”止めて!!! 私は私よ!!!”


深い深い水の中で叫んでいるように聞いたことのない声がいくつも重なりながら私を罵る。
彼女たちは自身を肯定したい。
存在したという事実を誰かに認めて貰いたいのだ。


私は魔王になるために作られた。
しかし、魔王になる事は出来なかった。
それは私が魔王になる事を望まなかったからだ。


彼女たちは私が私である事を辞めるように浜辺に押し寄せる波のように延々と言う。


私は負けてはいけない。
諦めてはいけない。
この時間が永遠だとしても、私を助けてくれる人が______。


「そんな人いないわ。誰も助けに来ない」


”嘘よ。あいつは来る。絶対に”


「あいつって誰?」


”あいつは。あいつよ”


「名前は? その人の名前は?」


”あいつの名前は......。あれ?”


記憶の中で黒い塊が滲んでいる。
デカイ鼻、だらしない体型。
出掛かっているのに言葉が出ない。
彼の名は何と言った?
そもそも、私の名前は?


「いいのよ。何も思い出さなくて。あなたはこれから個である事から脱却する。あなたは私であり、私はあなたなの」


”嫌だ。そんなの絶対に認めない”


「認めなくてもいづれそうなる」


”ならない。私は私”


「まあ、いいわ。時間の問題ね」


木々が揺れ、ざわつく葉音のように耳を覆いたくなるほどの笑い声が私に向けられる。
低い声、高い声、半音ずれた気味の悪い声。
小鳥が息絶えるのをジッと見る獣のように彼等は手を下さない。
私の後ろは断崖絶壁。
怖いならそのまま後ろに倒れ込めば良い。
彼等もそれを望んでいる。
だが、諦めたくない。
彼が______名前も知らないあいつが必ず助けに来てくれる。


不安で身体を小刻み震わせながら、私は膝を抱えて眠りについた。


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