異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第188話お母さん! もう一つの世界

オッサンの口から出た言葉で喉の奥が張り付く嫌な感覚を覚えた。
地球が滅びる?
どうせ、俺をそそのかそうと虚言を言っているに過ぎない。
俺は騙されてはいけないと身構えた。


「お前が異世界に向かった後、世界は新種のウイルスによって滅亡の危機を迎えた。始めは風邪のような症状で徐々に手足の先端が白くなり、最終的には全身が灰のようにくすんだ白になり死ぬ。俺がこの世界に来る前、パンデミック発生から二年で世界の総人口の20%が失われた」


淡々と悲劇を語るオッサン。
言葉の節々に重みを感じるが、オッサンの言葉を信用してはいけないと自分を律する。
ただ、オッサンが自発的に話をする事で時間を稼ぐ事は出来る。
ホワイトの足にはツララが刺さっており、ホワイトの体温で徐々に溶け始めている。
自然治癒力が高いホワイトであればツララが刺さった状態でもオッサンに一撃を加える事は可能だろう。
ホワイトに視線を送ると、ホワイトも俺の意図を汲み、意識を足に集中させていた。


「それが異世界に来た事と何の関係があるんだ?」


月は雲で覆われ、辺りは黒で包まれた。
心臓に木の芽が寄生されたシルフは瞬きもせずにこちらをジッと見やる。
オッサンはシルフの肩にソッと触れ。


「その新種のウイルスの発生原因はこの世界にあるからだ。厳密に言うと、魔王が復活したことにより、平行世界である地球に”新種のウイルスの発生”という形で影響した」


平行世界?
SF映画や漫画などのもう一つの地球という認識であっているのだろうか。
魔王というのは不可侵領域とされる二つの世界に影響を及ぼす存在というのはオッサンの話しぶりからしてみても何となくは分かる。
だが、オッサンの目的は新種のウイルスの発生を抑える事、つまり、魔王を復活させない事が目的でシルフを魔王化しようとする行動には矛盾が生じる。


「どうして、魔王を復活させようとしている? お前の話しぶりだと魔王を復活させない事が本来の目的じゃないのか?」


「そうだな。シルフを魔王にすると言ったのは間違いだ。シルフを偽の魔王に仕立て上げるというのが本来の目的だ」


「......偽の魔王?」


「そうだ。本物の魔王とは魔力の高い魔女の突然変異で数千年に一度訪れる厄災のようなもの。この世界は生き物のようなもので、数千年に一度、食事を行う。その栄養源となるのが魔王。俺達、研究チームはそれを特定し、偽の魔王を据える事でこの世界を欺く事が出来るのではと考えている」


「世界を欺く? そんな事が可能なのか?」


気づくと俺はオッサンの話を前のめりで聞いていた。


「魔王復活により強大な魔力が世界に放たれる。その力は世界でも受け止めきれないほどの容量で世界は魔力を吸収しきれず、余った魔力は俺達の世界に影響を及ぼし始める。なので、魔王が復活する前に偽の魔王を食す事で世界を腹八分目で留めておこうというのが俺達の考えだ」


オッサンは外国人のように両手を広げるジェスチャーをし、おとぎ話のような話を締めくくった。
今の話を真実とし、全てを受け入れろというような自信に満ちた顔をしているが俺は中学生のような純粋無垢な心の少年ではない。
オッサンの話の矛盾点やおかしな事だけを着目し、質問を行った。


「何点か良いか?」


「ああ。どうぞ」


オッサンは腕組みをし、俺の質問を待ち構える。


「俺が異世界に行った日時を聞いた時、『俺達が異世界に行く一年前』と言ったな。『パンデミック発生から二年間で世界の総人口20%が減った』とも言っていた。つまり、オッサンは2017年の8月には異世界に行っていたんだよな? 俺は世界に新種のウイルスが発生したのを知らない。2016年8月11日以降にパンデミックが起きたと仮定して、2017年8月にこちらの世界に来たオッサンが2018年に世界の総人口が20%減った事を何故知っているんだ?」


オッサンは考える素振りも見せず、俺の質問に即答。


「それは地球を出発して、1年間は地球との接点があったからだ。何も実際に世界の崩壊をこの目で見たとは一言も言っていない」


「接点とは何だ? 通信手段か何かがあったってのか?」


「ああ。地球を出発してから俺達は時空の狭間を一年漂っていた。エンデバー号の通信装置を使用し、地球の情報を受信していた」


恐らく、オッサンの言っている事にウソはない。
俺がレプティリアンの国で見た夢の中ではエンデバー号という乗り物がピンク色のモヤのような場所で浮遊していた。
この世界に来た当初、俺は一度、魔法少女達の力で地球に一度戻った事がある。
一瞬ではあるが、転移の際、ピンク色のモヤのような細い空間を抜けた記憶がある。
恐らく、そのピンク色のモヤの空間はオッサンの言うところの時空の狭間という認識で問題ないのだろう。


「二つ目。先程から俺達という人称を使うが仲間がいたのか?」


夢で見た際、エンデバー号の中には白人や国人、日本人らしきアジア人がいた。
オッサンが一人ではなく、複数人で来たのは納得出来るが、他の乗組員達は一体、どうなったのかが疑問に思えた。


「いた。という表現は間違っている。今も他の乗組員はすぐ近くにいる」


仲間が近くにいたのか?
そんな気配は微塵も感じないが......。
話に疑問を感じているのを察したのか、オッサンはおもむろに胸元を大きく広げ、傷のような痕を俺に見せる。
傷は赤く爛れ、まるで火傷痕のように心臓部にくっきりと残っている。
遠目からはただの傷にしか見えなかったが、一番オッサンと近い距離にいたホワイトがおもむろに口を開き。


「花島。違う。あれ、人の顔だよ」


「人の顔だと?」


ホワイトの反応を見て、オッサンは口元に微笑を浮かべた。

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