異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第185話お母さん! 偕楽と失楽の園

______ホワイトシーフ王国・城______


「シルフ! パス! サン!!!」


城に着くと外であれ程の事態が起きたというのに風のない森のように城の中は静寂に包まれていた。
給仕達の姿もなく、松明の火だけが煌々と俺の影を壁に投影させる。
俺の呼びかけに対して、誰からの反応もなく、焦りだけが募っていった。


「花島!」


「ホワイト! 見つかったか!?」


ホワイトは短い黒髪を左右に振る。
それを見た俺は頭を掻きむしり、苛立ちを隠しきれなかった。


「は、花島。だ、誰もいないぞ」


暗がりから現れたホワイトの兄もホワイトと同じ事を言った。
恐らく、ここに俺達が来ることを想定していたオッサンは何らかの手段を使って他の者を消した。
死体も血痕もないとすると、あの木のツルは使っていないのだろう。


「花島! 何か聞こえない?」


「ん? 何か?」


耳をすませると何か大きなものを引きずるような音が微かに聞こえる。
木のツルか?
またあの怪物と戦うのは御免被る。
喉から這い出るような恐怖という感情を俺はグッと飲み込み、身体を強張らせた。


______ギイッ。


エントランスホールの脇にある給仕室の扉がゆっくりと開く。
こちらに来いと何者かが招いているのか。
そこに行ってはいけないと身体中の細胞がイエローシグナルを出している。


「......あそこにみんな居るのかな?」


「さぁな」


このまま立ち止まっていてもラチが明かない。
俺は大理石彫の床に両手を着き、岩石の蛇を1匹生み出し、開いた扉の先を偵察させることにした。


「ゴーレムちゃんの能力......。どうして、花島が使えるようになったのかな?」


「俺も分からん。ただ、他人の力を使えるようになったのは実は今に始まった事じゃないんだ。俺のテレパシーの能力も借り物だ。あのマモルとかいうオッサンが魔法と異能の二つを使えるように、もしかしたら、俺も特異な力が使えるのかもしれない」


「他人の能力を借りる力......」


「そういった力を使える奴を知っているのか?」


「ごめん。聞いた事ない。ただ、能力の中でも私の力と一緒で特殊かも。そのまま、能力を蓄え続けたら、花島、すごく強くなるんじゃない?」


「あー。まぁ、そうだな。でも、能力を奪ったり、借りたりするキッカケが良く分からねえんだよな。現に使えるのはテレパシーと岩石を操る力だけだし」


しかも、二つの力を持っていた人物は二人ともこの世にいない。
もしかすると、俺が能力を使う条件として対象の死が発動条件になっているのではないだろうか。


如何せん、俺はどうしてこの世界に来たのか分からない。
漫画や小説などの異世界転生物であれば仙人とか神様が転生先の説明をしてくれるのだが一切、そういった説明もなかった。


転生ボーナスなるものがあってもどういうもの付与されているのか、どうすれば発動出来るのかも不明なまま。
同じ転生者であるオッサンに聞けば何か分かるのかもしれないが、今、オッサンは俺たちの敵である。


っうか、俺って本当に死んだのか???


「お、帰って______」


くねくねと身体動かし、岩石の蛇が給仕室から帰ってきたと思うと、岩石の蛇は余計なお土産を連れて来てしまう。


「う、うわぁ! またこいつかよ!」
「花島! 戦うよ!」


岩石の蛇の後を付いてきたのは木のツル。
大きさが違うので先程の個体とは別物だろうと推測出来るがこの閉塞空間でやり合うには嫌な相手。
ここは一旦、引いた方が......。


「ん?」


俺は木のツルの異変に気付き、目を細め。
身体の全貌が表れた木のツルの姿に息を呑んだ。


「おい......。嘘だろ......」


岩石の蛇が俺の足元をグルグルと蜷局を巻く中、給仕室から出て来たのは木のツルに寄生された給仕の姿だった。

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